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CODE-D  作者: ryu8
3章 帝都動乱
33/67

3-1.内部への不審

「ふわぁ…眠ぃ……」

 とても眠い。早く寝たい。話を終わらせて早く寝たい。

 神原礼二は特殊部隊棟の1階ミーティング室内にあるテーブルの1つに、頬杖を立てて欠伸(あくび)をする。自然と横目に入った正面のホワイトボード横にあるテレビには、帝国軍基地の前でマイク片手に語る女性アナウンサーが映っていた。

「こちら、日本帝国軍基地前。特別訓練で危険生物が出現した事件について確認を行いたいのですが、全く関係者が姿を現しません。上層部から外出禁止令が出ているのでしょうか?」

 まるで立て篭もり事件の中継をイメージするような報道だ。

 画面左上には「訓練に危険生物が介入の真実は?」とテロップで表示されており、あたかも日本帝国軍に隠されている何かを探ろうとしているように見える。

 いつまでこの話を探り続けるつもりだろう……

 礼二は報道スタッフが未だ、あの事件を調べていることについて鬱陶しく感じながら見ていた。


「民衆は上層部のコメントにまだ納得をしていない様子だな」

 後ろから平坦な声が聞こえる。聞き覚えのある声を放つ主の顔を見ようと後ろを振り向くと、背後に立っていたのは遠藤俊介だった。

 いつの間に立っていた彼の存在に礼二は一瞬驚いたが、「いつものことか」と考えて冷静さを取り戻す。

「それもそうじゃないですかね…」

 現在、日本帝国軍が陥っている状況は、3週間前の特別訓練中に起きた魔獣(ビースト)襲撃の様子が各報道局を通じて国全体に知り渡ったことから始まる。

 軍は安全であるはずの訓練に、なぜ魔獣が襲撃したかの原因を帝国民から求められ、上層部のお偉いさん方は「近くに魔獣が出現していたことに気付かなかった」とコメントしたのも今の状況が悪化した1つの原因とも言える。


 この回答に激怒した帝国民は多く、軍隊に対する疑心が生まれ、帝国民が抱いていた信用は急激に低下していったのだ。

 軍の不祥事に伴って設けられた特別番組では、専門家たちは「何か裏があるのではないか」とコメントしている。インターネットや世論でも同様のことを考えている者もいるらしく、軍の上層部からのコメントに対しても裏があると噂が流れていた。

 このような状況になることを上層部は想像していたらしく、専門家たちのコメントやインターネットに流れている噂などは放置する方針で対応を考えているという。

 「魔力を持たない人間たちに復讐心を抱いた訓練生による犯行である」と真実を語るより、かなりマシな状況になると踏んでいるため、噂の規制などの大きな行動に出られないからだ。

 帝国軍はどう言っても信用が低下するように転ぶ四方八方な状態に気が滅入っていた。


 次に帝国民から見て衝撃があったのは、銃弾を数発与えても倒れない生物。

 軍や世界全体で機密事項としていた『魔獣』の存在も確認され、テレビを初めとした各メディアで正体についての特集が設けられた。

 一部では新種の生物として見られたり、地球外生命体として見られたりで魔獣の存在は帝国民の心に恐れを抱かせるほどとなった。

 それら2点が同時に発覚し、帝国民たちは軍に対しての評価は(から)い。


 ■国民の声

 ①訓練中の襲撃事件について

 ・「訓練中に襲撃とか警備がザルじゃね?」

 ・「訓練で襲撃されるのは何たることか…絶対に息子を軍隊に入れるのは反対だ!」

 ・「国を守る組織がこんな簡単にやられちゃっていいんですかね」


 ②新種の生物の存在について

 ・「軍は知ってたんじゃないの?」

 ・「怖い」

 ・「軍が信用できない以上、生きているのが怖いです」

 ・「何でこんな危険生物を野放しにしているのか。早く殲滅しろ」


 実際にそのような声がインターネット上に上げられ、帝国軍の公式ホームページのお問い合わせフォームには上記の2点についてのお問い合わせで一杯になる日々が続いている。そして現在に至る。


 あんな発表では誰も納得しないだろう。俺も同じ立ち位置なら、インターネット上の関連スレ内にレスを入れまくっているかもしれない。

 上層部の発表により日本帝国軍は信用度的に危ない立ち位置にあったが、それについては誰も攻めようとはしなかった。恐らく、誰もこの事態を収拾することはできないから。例え出来たにしても、何らかの犠牲は必須だろう。

 礼二はそう思いながらため息をついた。

「今回のは仕方ないだろう。裏切り事件の真実を話すよりマシだろ」

 遠藤はテレビを見ながら言った。上層部のコメントはあまり気にしていないように見える。

 実際に今の状況を快く思わない者は多いとは思うが、代替案なんてあまり思いつかないものである。今、礼二の目の前にいる遠藤俊介もその者たちと同じような状態にあるように思えた。

「でも、どっちにしても状況は最悪だよねぇ…」

 チャラけた声の聞こえた方向に顔を向けると、机の上に体の上半身を預けたミハエル・ロンドがいた。

 彼は疲れてダルそうな顔をしながら、片手でスマートフォンを弄って画面に集中している。

「そうなんですけどね……」

 礼二は苦笑いをしながら言った。確かにミハエルの言う通り悪い状況ではあるが、最悪な状況から避けられているのは確かだ。

 どちらにせよ、どう足掻いても悪い状況になっていたことに変わりはない。

 ふと時計を見てみると、時刻はやがて朝の9時になる頃だった。9時数秒前というところで、ドアがガラガラと立てる音が聞こえた。


「みんな、おはよう」

 ミーティング室のホワイトボード側の扉から、爽やかな声と共に特殊部隊部隊長のクロード・アズベイルが入ってくる。

 彼の左手元にはノートPCがあり、それをホワイトボード左にあるテーブルの上に置いた。手馴れた動作で何らかのケーブルをPCに繋ぎ始める。コード類を一通り繋ぎ終えると、自身の部下が座っているテーブルに向かって顔を向けた。

「さて、ミーティングを始めるぞ」

「すみません大佐、フラッド一等兵が見当たりません」

 クロードがミーティングを始めようとしていると、彼の前にいたチェイン・ハンがレイチェル・フラッドの不在を伝える。同時に近くからドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。

 このドタバタくる足音…まさか……

 礼二はこの後の展開が読めていた。

 集まりに時間通りに来れず、ドタバタと走る遅刻魔が今やってくるのだ。

「すみませーん、遅れましたー」

「フラッド一等兵! 時間には余裕を持って行動しろとあれほど!」


 レイチェルがミーティング室の扉を強く開いて入ってくる。彼女の慌しさと時間管理の悪さをチェインは大声で注意した。顔を般若のような怖い顔になって怒る彼に対して、あまり悪気を感じられない彼女。どれだけ言っても変わらなかった様子から馬の耳に念仏を唱えているような様だった。

 他の面子は「またか…」と言わんばかりに呆れ顔をしている。

 「またか…」と思われるのも無理はない。

 レイチェルは軍隊に入ってから遅刻が多い。元より時間や行動にルーズさがあるせいか、このような集まり事で時間通りに来たことがあまり無いからだ。

 1人1人やんわりと彼女に注意したが、あまり改善にいたらず誰も注意しなくなったのだ。目の前にいる坊主頭の日系人を除いては。

「ハン三等兵は静かに。フラッド一等兵は適当に座ってくれ」

「はい…」

 話を始められないことと2人の様子を見兼ねたクロードはレイチェルとチェインを指摘する。彼に注意されたチェインは悲しそうにしながらしょんぼりと頷いた。

 確かにうるさかったが、一緒に怒られてしまうのは何だか可哀想に思えてくる。

 礼二はチェインの状況に同情した。

「さて、全員集まったことだし、ミーティングを始めようか」

 一悶着(ひともんちゃく)から落ち着きを取り戻した場を確認したクロードは口を開いた。

 9月初旬、朝の9時。

 特殊部隊の隊員全員が集まり、クロードを中心としたミーティングが始まった。


 ◇ ◇


「裏切り事件の調査で遅くまで仕事漬けなのに、朝早くにミーティングを設定してすまない。各自、業務に入る前に聞いてほしいことがある」

 クロードは目の前にいる隊員たちに申し訳無さそうにしながら話し始める。同時に少しだけカタカタと音が聞こえており、PCで何らかの操作を行っている様子だった。

 これから話すことに必要な情報を出そうとしているのだろうか。

 響いていたキーボードを叩く音とマウスを動かす音が唐突に消えた。彼は手元にあったリモコンを取り、それをホワイトボードに向けてボタンを押した。

 すると、ホワイトボードの前に白地の薄いスクリーンが出現する。ホワイトボードの出現を確認したクロードは部屋の電気を消した。

 ぼんやりと見えていたスクリーンが、やがて全体を表示するようになり、動画サイトのページが映し出された。

「まずはこれを見て欲しい」


 クロードに言われて動画サイトに集中すると、彼はマウスポインタを再生ボタンの上に移動した。

 現在表示されている動画のタイトルには『日本帝国軍の不祥事』と記載されていて、再生された動画は特別訓練で魔獣の襲撃があった様子が流れていた。

 唐突な魔獣の襲撃に反応できず、無様にも魔獣の餌へと変貌していく人たち。

 本物であればとても残酷で見せられないものであったが、映っている映像のあちこちは黒で規制がかかっていた。

 特殊部隊の面々は冷静にその様を見届けていて、礼二とレイチェルは戦闘の様子を思い出していた。

「これは皆も知っている通り、全国で流された特別訓練中の魔獣襲撃の映像だ。本当はこの事件の扱いとして軍内部で処理する予定だったのだが、何者かによって各報道局へと流されている。これは知っているな?」

 映像を見せながらクロードは目の前にいる隊員たちに問いかけた。

 彼の言葉に答えるように皆は頷く。


「この事件の存在を知られると帝国軍の信用がガタ下がりになることを知っていて、なおこの状況を映像化したものが各報道局に流れている…この意味が分かるか?」

 クロードは今の状況から推測できる帝国軍の現状を隊員たちに再度問いかけた。彼の問いに対し、隊員たち全員は戸惑いながら発言をしようかを迷っている様子だ。

 礼二は彼の言いたいことはなんとなく理解していた。

 それは帝国軍基地内では口に出さないほうが良い推測。間違えば自身の立ち居地も危うくなってしまう。

 リスクに気付いているであろうクロードは重い口を開き始める。


「軍内部には、まだ裏切り者がいる」


 彼の言葉に部隊の面々は少し騒ぎ始めたが、あまり驚いている様子は無かった。

 皆も同様に心のどこかで「まだ裏切り者がいる」と感じていたからだろう。しかし、1人だけ納得の行かない様子の隊員がいた。

「待ってください大佐! 軍内部に裏切りがいるとは思えません!」

 特殊部隊の訓練隊長にあたるバトラ・クライン少尉は目の前の机を強く叩き、彼の考えを批判した。

 出来るだけ協調の望む彼にとっては、クロードの一言が信じられないようだ。

 バトラはクロードを敵視するような目で彼を見つめる。

「いや、それはあまり信用できないな。ヤバイ情報があると分かっていて外部に情報を流す奴といえば、裏切り者しか考えられないだろ」

 ミハエルは両手を頭の後ろにしながら冷徹に言い放つ。

 彼の意見も確かだ。軍を裏切る意志が無かったらデメリットになるような情報を外に流すことはしないはず。現状、流している人間がいるからこそ裏切り者がいると疑うのも無理はない。


「内部に裏切り者ね……リディ・マッケンジーって奴以外にいるってことですか?」

 クロードのいる位置から見て左斜め前の席に座っているアイラ・シューは嘲笑うような声色で言った。夢物語を語るバトラを見てなのか、呆れたような顔をしている。

「そうだ。裏切り事件の現場に丁度居合わせた神原の話では、リディ・マッケンジーの背後に組織の影があるように感じる。これも含めて今回の流出だ。内部に軍への裏切り意志を持つ者がいると考えるのは当然だと思うのだが」

 クロードは自身が抱いている考えに至るまでの経緯を彼女に話す。彼の言葉を聞いた周囲の人たちは納得するように頷く。

 数秒間の沈黙が続くと、アイラは口を開く

「そういうことですか…理解しました」

 彼女の心境を確認したクロードは再び口を開き始める。

「さて、皆思っているだろうが、なぜ私が今ここでこの話をしているのかと言えば、軍内部に裏切り者がいる…すなわち、私達が調査している裏切り事件について探っている者もいるかも知れないのだ。分かっていると思うが、調査内容は機密事項扱いだ。他の部隊の者に聞かれたりしても何も話さないように」

「「了解」」

 クロードは全体に対して内容の取り扱い注意を周知すると、同意した隊員たちは声に出して同意する。

 その後に彼はスクリーンに映し出された動画ページから、PC内のエクスプローラー画面を開いた。

 表示されたマウスポインタを「裏切り事件」と書かれたフォルダの上へと移動され、クリック音が2回鳴った。エクスプローラーの画面はフォルダの中のデータへと切り替わり、画像データが多く表示された。


「皆に私の考えを伝えたところで、次は裏切り事件の調査の状況についてだ」

 クロードはPCを触りながら話し始める。マウスポインタを画像のサムネイルへと移動、クリックして画像を拡大させた。

「現在の証拠としては、事件当時にリディ・マッケンジーが付けていた『調教支配(ダミネイキング)』と、特別訓練の際に持っていた荷物にあった手記だけだ」

「あぁ…それについて1つ質問があった。大佐、なんで3週間経っても奴の部屋を調査させてくれないんですか? 部屋なら証拠がバンバン出てきそうな感じなんだけど」

 アイラは思い出すようにクロードに尋ねる。

 彼女の意見は他の者も同意していたらしく、不思議とクロードはそれについて何も言わなかったことに他の者は疑問を抱いていた様子だった。

「それか…実を言えば、彼の部屋はこれまで軍の本部で調査を行っていたらしくてね。終わるまでの間は入らないで欲しいと釘を刺されていたんだ」

 予想外な真実に部隊の面々は動揺した。

 え…本部が調査を行っていて「手を出すな」と言われるのはどういうことだろう。

 全く意味が分からない。なぜ協力して解決に導こうとは考えなかったのだろうか。

 礼二は本部が何故そのような命令を出したのか全く理解が出来なかった。

「大佐、私達が調査依頼を受けているはずなのに、なぜ調査対象に手を出すなと言われるのでしょうか?」

 礼二は何も知らない素振りを見せながらクロードに尋ねる。すると、数秒間だけ沈黙が走った。

 あれ? 何か変なことを言ったのかな……

 唐突に訪れた静けさに礼二は戸惑う。

 戸惑う彼に気付いたクロードは、礼二に気を遣わせまいと口を開く。

「それは…だな…恐らくなのだが、私達に事件を任せたくない(やから)がいるのだろう。この大事件を解決して手柄にしようと急ぐ者達がな」

「バカみたいですね」

 彼の説明を聞いて、礼二は脊髄反射で感想を言っていた。

 自分たちが組する組織が危ない状況下で、内部で争うのは愚かだ。こういう時こそ協力して状況打開に努めた方が良い。

 数秒ほどの沈黙が訪れた頃、周囲がしんと静まり帰っている状況を見た礼二は、自身の発言が失言であったことに気付いた。

「ははは…言うねぇ、神原」

 アイラは礼二を見ながら笑顔で彼を褒める。

 先程の失言に気付いた瞬間、彼の顔は青ざめていたが彼女の発言によって安堵の表情へと変わった。

 何となくではあるが、日本帝国軍内部の勢力図が見えてきたような気がしてきた。

「まぁ…そんなところだろう。それはともかくとして、今日から私達が調査を行うことが可能になった。早速だが、このミーティングが終わり次第、調査にあたって欲しい」

「「了解!」」

 隊員全員の声がミーティング室内に響き渡る。 

 特殊部隊の状況。本部への対抗心を一致させたところが垣間見えた。

 全員の結束力が高まったところでミーティングは終了し、各自割り当てられた仕事をしようと動き始める。ミーティングに使われた時間は約20分。クロードは隊員たちに苛立ちを抱かせないために出来るだけ早く終わらせるように話していたが、チェイン1人だけは何故か拳を握り締めていた。


 ◇ ◇


 リディ・マッケンジー。

 西暦1993年12月3日生まれ。今年で20歳になる男性。

 軍が記録している個人情報の載せられた資料には、アメリカの大学を中退して今年の3月から入った新人隊員だと記載されている。

 正直なところ、この情報はあんまり信用が無い。軍隊を裏切る前提で入隊している訳だから、自身の正しい情報を敵地に残した状態にするとは思えないからだ。

 軍に入る前の経歴は、資料に記載されているものとは全く異なっている物だと思われる。

 それを証明するために礼二たち特殊部隊の面々は、彼の部屋の前に来ていた。

「ほぉ…あの事件の後からすると、嘘っぽい経歴だなぁ…」

 礼二が資料を見ている後ろから、資料を覗き込もうと体の重さを彼に預けるミハエルがいた。

 左肩に顔を乗せて資料を見続ける。

「嘘なんじゃないんですか? 多分、彼自身は何かの組織で訓練してここまで来ていると思いますし」

 礼二はそんな彼に顔を合わせず返答する。

 あの戦闘で刃を交わったから分かる。

 あれは何の訓練も無しに出来上がる太刀筋ではない。礼二のように数ヶ月で出来るような戦闘技能のようには見えなかった。恐らく組織で鍛えてここまで強くなれたのだろう。

「それは調査で分かるもんでしょ」

 アイラは部屋のドアノブに手を掛ける。ギギギと立て付けが悪いと思わせる音を鳴らしながら扉を開いた。中から見える部屋からは異変らしきものを何も感じられない。

「さぁ、入りましょうか」

 アイラにそう促され、礼二とレイチェル、ミハエルと遠藤はリディの部屋へと入っていった。


「狭いなぁ」

「いや、私達が住んでいるところと変わらないからな」

 ミハエルがリディの部屋に対していちゃもんをつけていると、遠藤が対して変わらないことを言った。 兵舎内の部屋の広さと構造は全員同じらしく、違っているところとすれば、部屋の場所によって台所が右か左にあるかの違いらしい。

 玄関を入ったところから左手にガスコンロや流し台が設置されていて、右手には洗面台やトイレが設置されている。

 奥には4畳半ほどのスペースがあり、壁際にはベッドが設置されていた。

「へぇ…片付いてるねぇ」

 アイラは部屋の周辺を見渡しながら言った。

 彼女の言う通り、部屋に入ってから見かけた玄関前、キッチン、ベッドのある空間までの廊下等には、足元にゴミや私物らしきものは無く、綺麗に片付いている。

 この様から見てリディは、キッチリした性格であることを改めて認識した。


「ねぇ礼二、ちょっと」

 唐突にレイチェルから呼び出しを受ける。礼二はミハエルと遠藤の横をすり抜けるように移動して彼女の元へと向かった。彼は面倒くさそうにしながらレイチェルの顔に近付いた。

「どうしたんだよ。何か気付いたの?」

「えぇ…ここは1つの結界よ」

「結界だぁ? 何でこんな部屋に…というか、レイチェルは気付かなかったの?」

 礼二は何故レイチェルが気が付かなかったのかを疑問に思いながら尋ねる。彼女は思い出そうと口元の歪めていたが、数秒後に元通りになった。

「分からなかったわ…何というか…部屋の中に入らないと分からないレベルの物よ、これ」

 彼女は「何故こうなっているのかが分からない」と戸惑いながらも礼二に言った。レイチェルは考え込むようにしながら続けて話す。

「この結界の感じは…入った人がいた時に術者へ知らせるための物かしら」

「じゃあ、今俺らが入ったことはリディさんに知られてるんだね」

 周囲に展開されている結界術。

 術の効果によって部屋への侵入を通知されていることに気付いた礼二は、内心リディに対して申し訳なくなっていた。

 しかし、部屋に入っている状況をリディが知っているにしても、未だ病院に入院している彼は動くことはできない。むしろ今は状況を話せば調査に協力してくれるだろう。


「結界ねぇ…中々小細工なことをするわね。あの男」

 アイラは礼二とレイチェルの間を割って入り込んでくる。唐突に割り込んできた彼女に対し、礼二は幽霊を見たかのような大げさなリアクションを取った。

 リアクション芸人のような反応をする彼を見たアイラは、微笑みながら部屋の周囲を確認した。

「フラッドの言っていることが正しければ、こいつは熟練した魔術師の可能性があるな。これは調べがいがあるぞ…よし、調査開始だ」

「シュー軍曹…なぜ君が仕切っている……」

 遠藤はいつの間にか彼女が仕切っている状況に不満を抱いた。しかし、誰も彼の不満は気に留めず、裏切り事件の実行人、リディ・マッケンジーの家宅捜索は始まりを告げた。

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