2-9.叛逆
まさか彼がこの事態を引き起こした張本人ではないだろうか。
そんな疑問が生まれた。
証拠や確証があるわけではないが、リディがトイレに行ってから誰も見かけてはいない。
そして今ここに彼がいるとは言えども、トイレから戻ろうとしたら施設が魔獣に襲われている様を見かけてここまで逃げてきたのかもしれない。
礼二は自ら抱いた疑問を打ち消そうと、あらゆる可能性を考えた。
「リディさん生きてたんだ! 良かったぁ…トイレから戻ってくる様子が無いから心配してたんですよ」
抱いている疑問が間違いであって欲しい。そう思った。
疑問が正しい可能性から現実逃避をすべく、リディには疑っていない様子を演じた。
「ん、何が心配だったんだい?」
「何がって…ほら、施設が魔獣に襲撃されちゃって、すんごい大変だったんですよ。あの中、リディさんは大丈夫だったのかが気になりまして」
「あぁ…作戦は成功したようだな」
礼二がリディに心配したことを告げると、彼から予想外な言葉を突きつけられた。
作戦…どういうことだ…?
あまりにも唐突過ぎて、礼二は話が見えていなかった。
「作戦は成功って…どういうことですか…?」
最後の願いを込めて再度尋ねる。
自身が抱いている疑問が間違いであることを信じながら。
「おいおいさすがに気付いてくれよ…君なら予想ついているんだろう。この僕があの騒ぎの首謀者であることを」
疑問が真実へと確定づける一言だった。
そして、本当であって欲しくないと願う礼二の考えを打ち砕く一言でもあった。
「…リディさん、本当にあなたがこの騒ぎを起こした張本人と言うんですか…? なんであなたがこんなことを……」
呆気に取られながら懇願するように礼二は言った。リディは呆れたのか右手で前髪を掻き揚げる。
彼は普段見せないような細めで礼二を見つめる。
「いい加減、現実を見たらどうだい礼二。見れないというなら、これを見ても信じきれないと言うのかな?」
リディは礼二を嘲笑うかのように言いながら右手を上に上げて指を鳴らした。すると、一瞬にして魔獣が彼の周囲に出現した。
「何だよそれ…どうやってこんな数の魔獣を呼び出した!」
魔獣の出現マジックに礼二は驚愕の表情を浮かべながら彼に尋ねる。リディはニヤりと微笑みながら右腕を構えた。
最後に別れた時とは違って、腕には紫色の光を放つ機械的なブレスレットがあった。
「この支配調教と呼ばれる魔具のお陰だよ。
これは周囲にいる動物などを支配するものでね。こいつを使えば、人を喰うことしか能のないこいつらを意のままに操ることもできるのさ」
魔術師が扱える道具・魔具の存在は知っていたが、武器だけでなく動物を操る装飾品もあったことに驚いた。
しかし、この魔具があれば魔獣を操って施設の襲撃も可能であることが判明した分、リディが確信犯であることは間違いなかった。
「なぜあなたは魔獣を使ってまでも施設を襲撃した!? なんで帝国軍人のあんたが仲間を殺そうとするんだ!」
理由が分からない。こんな大きな力を持っていて、なぜ訓練生たちを殺すような真似をしたのか。なぜ帝国軍を裏切ったのか。
疑問が増え続けて頭の中がいっぱいになった。
「それは…この世界にいるただの人間どもに僕たちの力を知らしめるステップの1つだからさ」
熱くなる礼二に対してリディは冷静に答えた。
言葉の一つ一つがとても重く、今を楽しんでいるような口ぶりだった。
「ステップの1つ?」
「そうだ、まずは憎きただの人間どもを守る軍人の卵たちを殺して新人を消すことだよ。そうすれば、現存している隊員でどうにかしなくてはならない状況になり、連続の出撃で疲労させて的確に殺していく。僕たちにとっては君ら帝国軍人は邪魔な存在だからね」
「邪魔って…」
リディの放つ言葉に礼二は苛立ちを感じた。
まさか、帝国を守る軍人として共に訓練に立ち向かった一人が帝国の人間達を殺すと言っているからだ。
自分と同じ境遇の人を作りたくない。
その一心で軍隊に入隊した礼二にとって、リディのやろうとしていることはとても許せないことだった。
礼二は右手に持っていた長剣を両手に持ち替えて前に構えた。
「そうですか…あなたは自分のやろうとしていることは辞める気は無いのですね……」
「あぁ…例え君に止められようと勝つ自身はあるさ」
彼の殺気を感じたのか、リディは2本の剣を取り出して構え始める。
崖際にいるからなのか風は少し強く、吹くたびに音を立てながら流れていく。
戦闘の始まりはリディの呟きから始まった。
「やれ」
リディの右腕にある調教支配が発光し、魔獣が一斉に動き始める。
数は6匹。右側と左側に3匹ずつ壁になるように並んでいた。
「がらぁあああああああ」
一斉に襲い掛かる魔獣の突進を礼二は後ろへ退いて距離を取ることで回避する。
だが、後ろへ退いた瞬間に一匹の魔獣がさらに突進を仕掛けてくる。
「ちっ!」
振り下ろされる鋭い爪は避け、首に向けて剣を振るった。
礼二は一匹目を仕留めたと思ったが、そうはいかなかった。彼の一閃はリディが持つ2本の剣によって防がれたからだ。
予想外な防御手段に驚いた礼二は再度距離を取り始める。
「簡単に僕のペットたちを殺させはしないさ」
まさか魔獣を操りながら戦う気かよ!
魔獣6匹だけであれば何とか無傷で仕留めることは可能であるが、そこに人間がいるだけでも大きな違いが生まれてしまう。相手が取り巻きを操りながら戦うとなればとても面倒だ。
どうしよっかな……
どのようにして敵の陣形を崩すかを考える。本来ならば、広範囲に攻撃が行き渡る魔術を使用して攻め口を見つけ出すのだが、残念ながら礼二は大きな魔術は使えない。
ならば、攻め方を変えればいい。
礼二はこれから行う戦い方について頭の中でシミュレートを行った。
こちらの武器は長剣一本だけではない。魔力さえあれば何でもできる。
リディと彼が率いる取り巻きは隊列を元に戻した後、再び礼二に襲い掛かかる。
魔獣は周囲に散り、多方向から攻撃を仕掛けようとした。礼二は右へと走り出し、近づいてくる敵を迎え撃つことにした。
互いの距離は数メートル。すれ違った瞬間、魔獣の腕が斬り落された。
「ぐぎゃああああああ」
そして礼二が首へと追撃をしようと後ろへ振り向こうとすると案の定、リディが前に立ちはだかった。
「ペットに気を向けている場合か!?」
「!?」
体を捻り始めてからか咄嗟に反応ができない。
しかし、リディの攻撃は正面から受け止める必要は無い。
「ちっ…やるね」
礼二は体の後ろに魔防壁を展開して彼の攻撃を受け止めた。そしてそれを足蹴にして腕を失っている魔獣の元へと飛び出した。
「取った!」
通り魔のように的確に首を刈り取ることに成功した。
礼二はそのまま近くにいた魔獣に襲い掛かり、手馴れた動作で腕や足などを切断していく。
動きを封じ、首を刈り取っていって取り巻きの数は6匹から2匹へと減少した。
もう2匹に対して止めを刺そうとすると、何か近づく気配を感じた。
「おいおい…僕のペットを結構減らしてくれたねぇ」
「ペットとして扱うなら、ちゃんと躾けてくださいよ」
リディは2本の剣を用いた猛攻を仕掛ける。
強い気迫に剣が2本あるお陰で手数に差が出ていて、礼二は押されていた。
「うおおおおお!!!」
上段中段下段のあちこちから様々な攻めを繰り返す。圧倒的な手数と攻撃力に手も足も出ない状態になっていた。
そして、大きく振りかぶって左手に持つ剣から繰り出される横払い。
礼二はそれをガードするも遠心力を含めた大振りの力に耐え切れず、長剣ごと体が右に流される。
リディはさらに右手に持つ剣で上段から振り下ろそうとしている。
長剣を弾かれて体勢が崩れた礼二は、長剣を左手に任せて右手を彼に掲げる。
すると、右手から棒状の魔力の塊が精製される。
リディの右手に持つ剣による一閃はそれによって阻まれた。連続攻撃に失敗したことに気付いた彼は距離を取るように後ろへと退いた。
「へぇ…まさか、この一撃を精製で防いでくるとは……」
精製。それは出力した魔力の形を自由自在に変える魔術である。
長剣は力任せに弾かれて一時的に無力化されたところを補う為に、礼二は咄嗟に剣をイメージして精製を行い、代用品でリディによる一撃を防いだのだ。
「反応良し、発想良し、センス良し。殺すのが惜しいな。礼二、君もこっちに来て人間どもを狩りに行かないか? 君がその気なら、僕から話をつけよう」
何やら礼二の戦い方を気に入っている様子だった。
嬉しいといえば嬉しいのだが、魔術の使い方が気に食わなかった。
「いえ、残念ながら私は魔術をリディさんたちのような使い方はしたくなくてですね。丁寧にお断りします」
「そうか」
礼二の返答を予想していたのか、一瞬の構えからリディは姿を消した。
辺りを見渡すが、彼らしき人影は見えない。だが、下を見ると大きな影が見えた。
まさかと思った礼二は空を見上げると―――
「遅い!」
高く飛び上がったリディが礼二に斬りかかる。すかさず長剣で2本の剣を防御した。
思い切りの良いジャンプから剣を強く振り下ろされているからか、彼には強い力がかかっていた。
「くそっ……」
礼二は力の重さに抵抗する。ついには彼を伝わって地面に大きな窪みができた。
重い……
このまま力を受け続けると一方的にこちらが不利になる。
礼二はタイミングを見計らって、上からの攻撃を受け流してリディと距離を取り始める。
「やりますね……」
「そういう君こそ、ここまでやるとは思わなかったよ」
リディは自分と渡り合える実力を持った礼二に対して褒めながら次の攻撃へと移ろうとしていた。
左手に持つ剣を逆手持ちに変え、何らかの構えをとり始める。
足を大きく開いて、礼二との距離を一気に詰め始めた。
「へああああぁ!!!!」
強い気迫でリディが迫り来る。
一瞬にして距離が数十センチメートルへと差し掛かったところで、礼二は長剣を前に構えて彼の攻撃に備えた。
再び襲い掛かる2本の剣による猛攻。
リディの激しい攻めに礼二は防戦を強いられる状態となっていた。
何か状況の打開策は……
互いの能力差はリディの方が戦闘と魔術の経験が上のようだ。
単純な力任せで打開できる状況とは思えない。
礼二は彼の攻撃を受けながら思考を巡らせた。
すると、リディは礼二の硬い防御に苛立ったのか、2本の剣を大きく横に振るおうと両腕を体の後ろへと退いた。
反撃のチャンスだ。
そう思いながら礼二は剣を下から上へと振り上げ、大振りの攻撃に合わせて弾いた。
再び互いに距離を取り、状況を伺い始める。
距離が空いたことで遠距離攻撃が行いやすい。
礼二は周囲に魔弾を顕現させ、リディへと放った。
前面を覆う魔弾による弾幕。彼はそれに向かって走りだし、剣で弾きながら前に進み続ける。
「!?」
初めて行った攻撃が無残に潰されていく様を見ると、抵抗する気を失せてしまう。
まるで、格闘ゲームなどで決死の思いで出した大技をガードされたような気分に陥る。
しかし、落ち込んでいる暇は無く、敵はもう近くにいる。
リディは礼二との距離を着々と詰め、一定の距離から離れないように立ち回っているようだ。
……うっとおしい!
あまりに貼り付いてくるものだから苛立ってくる。
怒りに任せて力づくで追い払いたい気分になってしまうのだが、それをしてしまうのは相手の思う壺だ。
考えろ。接近戦では相手の実力と経験差で圧倒的不利。
そうなれば必然的に接近戦を避けることにはなるが、相手がゴリゴリと距離を詰めて来るのだから回避は困難。
ならばどうするべきだろうか。
攻撃を防御しながら考えているせいか、あまり考えがまとまらない。
リディは接近して猛攻、一旦退いて再度猛攻などタイミングや攻撃の位置を変えながら、ヒット&ウェイの戦法をとっていた。
このおかげでリディは礼二との戦闘の主導権を握っている状態にあった。
彼が近づけば攻撃のチャンスは消え、彼が退いても同じように攻撃のチャンスは消えてしまう。
行ったり来たり行ったり来たりでとてもやりづらい……
戦い方に苛立つところではあるが、これは殺し合いだ。
一瞬の隙が命取りであり、互いに隙を見せまいと立ち回りに気を配っている状態となる。
ん…行ったり来たり……そうか! これなら……
リディによる激しい剣撃の中、礼二は足払いをしようと足を動かしてみる。
だが彼はそれを読んでいたのか、小さくジャンプして避けた。そして更なる追撃があると考えて礼二との距離を開けた。
今だ!
礼二は距離が開いた瞬間に周囲に魔弾を展開する。
数はどんどん増えて8つまで増加した。
「発射!」
合図と共に魔弾が後ろへ退いたリディに向かって発射される。迫り来る魔弾に対し、リディは体に当たりそうなものだけを剣で弾いた。
遠距離攻撃をさせないように再度距離を詰め始める。
「無駄だよ」
静かな一言と共に礼二に斬りかかる。
彼の前に立ちはだかろうとした瞬間、小さな魔防壁が目の前に出現した。
「同じような手ばかり通用すると思わないでください」
素早い突進も壁によって止めることができ、礼二はリディから距離を取る。
それを逃がさまいと、リディは壁を切り裂いて前に進み始めた。
すると目の前には、周囲に魔弾を漂わせる礼二の姿があった。
「物分かりが悪いみたいだね」
彼の言葉も聞かず、礼二は漂わせていた魔弾をリディに放ち始めた。
数は10以上あり、先ほど放っていたものと同様にあちこち散らばせて発射している。
「同じ手は通用しないのは僕もだよ!」
リディは再び向かってくる魔弾を剣で弾き返す。礼二の前まで来ると、また彼の前に防壁が立ちはだかる。
「これも…読めてんだよ!!」
右手の剣を大きく振りかざし、魔力を剣に集中させて壁を一閃した。
壁としての機能を失くして魔力の塊が崩れていくところで礼二は距離を詰め始めた。
「そこだあああ!!」
魔力の篭った長剣による横斬り。
リディは左手に持っていた剣で防御を図ろうとするが、力負けして剣を弾かれる。
体勢が崩れた瞬間、礼二は長剣を構え直して下から上へと振り上げた。
「…させるか!」
唐突に目の前で防壁が展開される。
礼二による渾身の一閃は防壁に吸収され、リディの元へと刃は届かなかった。
リディは体勢を立て直すべく礼二との距離を取った。
「良いカウンターだ。でも、君が魔防壁を作れるように僕も同じことはできるんだよ」
彼は戦い方を評価するように話しながら距離を詰める体勢を取る。
「詰めが甘いんだよ!」
再び近づこうと上半身を傾けながら突進しようとした。だがしかし、リディは全く動く様子がなかった。
「な、なんだ!? …なんで動けない。バインドもかかっていないのに!」
リディはがむしゃらに動くが、現在いる位置からは全く動けない様子だった。
彼の言う『バインド』とは術者が空間をイメージし、狙い定めた位置にいた相手を魔力の糸で捕縛するものである。
そのため、動き続けている相手に対してバインドを掛けるのはとても困難だ。
しかし、そんな相手にも魔力の糸で捕縛を行うことができる魔術の存在をリディは知らなかった。
「捕縛陣」
「バインド…? 何だそれは…?」
リディを縛り付ける魔術の名を礼二は言った。
その瞬間、彼を縛り付けている魔力の糸が姿を現す。
「これは一体……」
「本来であれば決めた位置に陣を描いて使う術だけど、書く暇が無かったからさっきまでばら撒いていた魔弾を使わせていただきました」
「あの時の魔弾が何故…」
そう言いながらリディは自身を縛り付ける糸の出ている先に目を向けると、そこには魔力の糸を生やした球体が見えた。
「まさか君…あの時の魔弾は牽制じゃなくて、この状況を作る為に放ったのか…!」
「えぇ、魔力での身体強化を含めたリディさんはとても速くて目で追うのが難しい。遠距離攻撃で仕留めることなんて出来る気がありませんでした。ですので罠を張らせていただきました」
礼二がリディを捕縛するために使用した術・『捕縛陣』。
あらかじめ決めた位置に踏み入れた者にバインドを行う罠のような魔術である。
礼二がリディに放っていた魔弾の数々は『捕縛陣』を有効に使用するための準備であり、相手に遠距離で戦おうとしていると思わせるための偽装だ。
少年の思惑に気付いたリディは苛立ち、魔力を周囲に展開し始める。
「バインドで捕らえられたとはいえ、力や魔力量で勝っていれば抵抗はできる。君の実力でこんなものは……」
バインドの糸はガラスにヒビが入るような音を上げ、ついにはガラスが割れたような音を上げながら崩れ去った。
「無意味なんだよ!」
礼二に対して苛立ちを持ちながら言い放つと、彼の背中から何かが光りだす。
リディは光源へと顔を向けると、そこには今にでも爆発しそうな魔弾が明度を上げながら輝いていた。
「嘘だろ」
彼の周囲にあった魔弾は大きな音を上げながら爆発した。
1個が爆発してさらに他の魔弾にまで影響して連鎖爆発を起こしていく。巨大な爆発が連続して続き、やがて島全体に小さな揺れが発生した。
「バインドの弱点ぐらいは知ってましたよ。それを破られた時の保険だってこうして掛けていた訳だし」
礼二は冷たい目でリディの居た位置を見つめていた。
◇ ◇
複数の爆発が収まり、爆破地点は砂埃が立ち込めている状態にあった。魔弾のあった場所は大きなクレーターとなって地形を歪ませていた。
「さすがにやりすぎたかな……」
大きな爆発だったせいか、爆破時の砂埃が多くて状況が見えない。
相手が前面に魔防壁を張って防御している可能性を踏まえて、そのまま待つことしか出来なかった。
風がゆるやかに煙を飛ばしていき、ついには全ての煙が追い払われた。
そこにいたのは1本の剣を地面に突き刺している瀕死状態のリディだった。
「よく生きてましたね」
「僕が魔術師じゃなかったら、ここら一帯は今頃血の海だよ」
恐らく魔弾が一斉爆破する際に、体の周囲を覆うように魔防壁を展開したのだろう。
それであれば即死から免れることは可能なはずだ。
しかし、その手段を取ってしまうと防壁の生成に必要な魔力が膨大なものとなり、後の戦闘は困難になるだろう。
礼二はリディがそうして生き残って魔力が尽きかけていることを見越して勝利を確信した。
「これでリディさんの負けです。防壁の展開で魔力を使い果たしたでしょう? おとなしく投降してください」
彼に近づいて手を差し伸べようとする。だが、そう簡単にはいかなかった。
「これで終わりだと思うなよ」
リディから感じられる強大な魔力に体から漏れている魔力の波動。
嫌な予感がした礼二は一旦、彼から距離を取った。
「何をする気ですか…?」
「僕はここで終わるわけには行かない」
リディは上着の胸ポケットから1つの小さなケースを取り出した。
ケースの中から一個錠剤を取り出し、それを口の中に放った。
ガリッと鳴り響く錠剤を歯で砕く音。すると、彼の体から膨大な量の魔力が溢れ出した。
「これは…!」
空っぽだったはずの魔力が復活していることに、礼二は驚きの表情を浮かべた。
きっかけはケースの中に入っていた錠剤。
恐らくあれは無理矢理、体の中で魔力を生成するように仕向けている薬品だろう。
実際にそういう物を使用しているとなれば、彼の体が危ない。
「リディさん、何があなたをそこまでして人間たちへの復讐をするんだ!? これではあなたの体が持たない!」
「君に話して何になる。それに薬を使ったのだって、早く人間たちに復習して死にたいだけさ。けど、君には話してやる」
リディは真剣な表情をしながら自身の昔話をし始めた。




