2-7.運命の日
礼二とレイチェルが特別訓練に参加して7日が経過した。
明日にはこの修練の島から出て各所属部隊に戻るとのことなので、今日は実質的に訓練最終日だ。
礼二とリディは朝食を取り、屋外訓練スペースに向かっていた。
今日で最後か……
一週間とはいえ、林間学校に行っているような気分だった。
施設内の廊下、訓練スペースまでの道などを見ていると、明日帰るのが少し寂しく感じてしまう。
「礼二どうした? 悲しい顔してるけど」
「いや…悲しいってわけじゃないんですけど、明日帰るんだなーって考えると少し寂しくなりましてね」
礼二は尋ねてくるリディに顔は向けずに答えた。
根性の別れというわけでも無いのに、こんな寂しく感じるとは思ってもみなかった。ましてや、最初は嫌々行っていたはずなのに今はそれを全く感じていない。
それだけこの訓練は楽しかったということだろうか。
自身の心情の変化に礼二は驚いた。
「そうか…そういえば今日で終わりなんだよな……中学生の軍人と出会うわ、そいつと今やこうして仲良くなったりするとは私も思わなかったよ。ありがとう…礼二くん」
唐突にリディが礼二に感謝をし始めた。
「い、いや…俺もマッケンジーさんがいて楽しかったですよ!
こちらこそありがとうございます」
「そっか……」
不意を付かれた礼二は慌てながら照れ隠しをした。
咄嗟に答えた礼二の言葉を感傷に浸りながら、リディは穏やかな表情をした。
「私はトイレに行ってから訓練スペースに向かうよ。先に行っててくれ」
「あ、あー…はい」
予想外な彼の反応に疑問を抱いていると、リディは1人だけトイレに向かっていった。
なんだったんだろう…さっきの表情。
少しだけそう考えたが、礼二はあまり気にしないことにした。
◇ ◇
午前8時50分、屋外訓練スペース。
礼二を含めた訓練生たちは続々と集まってきた。全員は綺麗な隊列を組んでいたが、あちこちからは話し声などが聞こえてくる。
最初の頃は全員の統一は取れていたが、和気藹々とした雰囲気は無かった。
この1週間で大きく変わったようだ。
指定された集合時間までは残り10分。それまでの間はしばらく騒がしくなりそうだ。
「おはよう礼二」
礼二が今の状況を感慨深く感じていると、レイチェルが後ろから声を掛けてきた。
「おはよう」
振り向くと、レイチェルの隣にはチェルシーがいた。2人は先ほど来たようだ。
「あれ、マッケンジーさんは?」
「あぁ…彼なら……」
[緊急事態発生。緊急事態発生。島内に侵入者を確認いたしました。隊員は皆、戦闘準備を行ってください]
チェルシーにリディの居場所を尋ねられて答えようとすると、訓練生寮からスピーカーでアナウンスが流れてきた。
抑揚も無く決められた言葉を発するだけの機械的な音声。自動アラートのようなものだろうか。
突然流れたアナウンスに周囲の訓練生たちは戸惑い始める。
「え、侵入者って何!?」
周りに同調するかのようにチェルシーは肩を震わせながら辺りを見渡したが、何かが近づいていることは分からなかった。
「おーい貴様ら、緊急事態だ! 私についてこい!」
宿泊施設側の出入り口からガトーが出てきて叫んだ。彼の声に答えて訓練生たちは出入り口へと向かった。
「やっぱり緊急事態のようね」
「そうみたいだね」
礼二とレイチェルはこの事態に嫌な胸騒ぎをしていた。
◇ ◇
訓練生たちがガトーの後ろを歩いていると武器庫に辿り着いた。彼が手馴れた動きで扉の施錠を解き、訓練生たちを招き入れる。
「君らには言っておこう。先ほどのアナウンスで、この島内部に侵入者がいることは知っているな?
この侵入者というのは、魔界から来たと言われる『魔獣』と呼ばれる生物だ」
侵入者の正体を知った礼二とレイチェルは驚く。 魔獣の発生ならば、朝倉宗治朗が行っていた『獣人化計画』の拠点を破壊したことによって食い止められたはずなのだが、それとは別で魔獣が出現しているのはおかしい。
「奴らはこの世界に済む生物とは違って生命力が非常に強く、人を狩る能力が高い…
本来であれば特殊な訓練を受けている者達が戦う相手ではあるのだが、こちらに来ている以上、自分の身は自分で守る必要がある。そのために貴様らには武器を与えよう」
剣幕な表情で状況の説明をするガトーを真剣に見つめる訓練生たち。今がとても危険な状況であり戦う時であることを知り戸惑い始める。
「うろたえるなああああ!!!」
彼らの戸惑いを見てガトーは怒鳴った。目は怒りに満ちているように見えるが、不思議と怖くは感じない。「なんだろう」と訓練生たちは再び戸惑い始めた。
「貴様らは少しぐらい落ち着かんか……
武器を与えるから防衛しようと言っているのだが……」
訓練生たちは唐突に命懸けの戦いに出されると感じてうろたえているように見えた。
無理もないだろう。入隊したての軍人で実戦経験の無い新人が最初から危険生物との戦闘だ。誰だって怯えるはずだ。
「待ってくださいよ! あんな化け物どもに勝てるわけが……本部に連絡して増援を待ちましょう」
「それは無理だ。私が貴様らのところへ向かっている最中に本部への連絡はシェパード少尉に頼んでいたのだが、通信機材が破壊されているようで連絡は不可能らしい」
「嘘だろ……もう俺たちは終わりだぁ……」
弱気になる訓練生たちを見たガトーは怒りを込めて声を放つ。
「貴様らは何のためにこれまでの訓練に耐えてきたのだ。それでも帝国軍人か!」
ガトーの目は本気だった。彼の声を聞いた訓練生たちは、冷静になるかのように騒ぎが止まる。
一瞬空気が沈黙に包まれたが、ガトーは気にせず話し続ける。
「貴様らは何のために自身を鍛え、何のために帝国軍人となったのだ!
国民を守るためではないのか?」
俯きかけた訓練生たちの目が正面を見つめるようになる。そして彼の言葉に全員耳を傾け始めた。
「我らは帝国軍人だ。帝国軍人たるもの、帝国の平和を乱すものは排除しなければならない。今や我らの前に立ちはだかろうとしている魔獣を野放しにしておけば、いずれ国民のいる元へと向かうだろう……
そのような危険因子を残すわけにはいかない。そうは思わぬか!?」
まるで選挙演説を聴いているような気分に陥る。
敵に襲撃された。どうしよう……それくらいでうろたえていて軍人としての意識は無いのか…と。
「そう…だよな……これでうろたえていたら帝国軍人は失格だよな」
「あぁ…私はなんて大切なことに気付かなかったのだろう…私達の使命は帝国民を守ることじゃないか…怖いけどやるしかないな」
ガトーの訴えが心に響いたのか、訓練生たちはやる気に満ちてざわつき始める。彼は自身の思惑通りに事が進んで微笑む。
「貴様ら落ち着かんか。これから武器を支給する。渡された武器と我らのコンビネーションで魔獣を撃退するぞ」
「おぉーー!!!」
やけに盛り上がる周囲とは正反対に、礼二とレイチェル、チェルシーは嫌な予感を感じながら武器庫の中へと入っていった。
◇ ◇
訓練生たちが武器庫から武器を受け取り、訓練施設の前で門を見張っていた。
訓練施設を含めた施設の敷地周りは塀に覆われていて、門を見ていれば問題ないと判断したからだろう。礼二とレイチェルは自身の得物を手に取り、襲撃してくる魔獣の進撃を待っていた。
「ねぇねぇ…大丈夫なのかな……」
チェルシーは怯えながらレイチェルの左腕にしがみついている。
「少しは冷静になりなさい。魔術師じゃない人たちは銃で足元撃って動けなくすればいいんだから」
レイチェルは気だるそうに彼女に対して言った。
魔術を扱える者は前線に立って魔獣を狩り取れ。扱えない者は銃を使って足止めをする。
「これを部隊の行動方針として動け」とガトーに命じられた。
魔術を扱えないチェルシーは必然と足止め班になっていた。部隊に人がいっぱいいるとはいえ、相手は得体の知れない生物。彼女から見て畏怖の対象になるには十分だった。
「ねぇ…私たちは生きて帰れるんだよね…」
チェルシーは不安げに言った。
言い方はまるでこれから死地へと赴こうとしているように聞こえる。
彼女からすれば、初の実戦で危険な生物を相手にするのだ。ここまで怯えるのは仕方の無いことだろう。
「ロンドさん、生きるか死ぬかじゃない。戦わなければ生き残れないんです。私達は生きる為に戦うんですよ。今あなたが手に持っている物は何ですか?」
礼二は怯えるチェルシーが手に持っている物を指差した。
M4A1アサルトライフル。日本帝国軍が主に使用する歩兵用の自動小銃だ。
彼女はそれに目を向けたまま答えようとはしない。
「武器でしょ? 敵を倒すための武器ですよね? それで戦うしか生きる選択肢は無いんです!」
チェルシーの目を合わせるように礼二は訴える。彼女は自分がこれから行おうとしていることに少しだけ畏れを抱いた。数秒後、彼女は大切なことを1つ気付いた。
「ごめんなさい神原くん。そういえば神原くんやレイチェルみたいな魔術を扱える人が前衛に立って魔獣を倒していくんだよね…そっちの方が危ないのに私は後ろにいてもまだ怯えているみたいで……」
魔術の扱える者は前衛に立つ。
これはガトーが隊の動きとして前提に挙げていた命令である。最初から話を聞いていたならば、命を失うリスクは魔術を扱う者が高いことが分かるはずだ。
しかし、チェルシーはこれからやってくる魔獣に対する恐れと動揺により忘れてしまっていたようだ。
「いや、あまり気にしないでください。俺らが的確に狩っている内に、魔獣に対して集中砲火を浴びせて進軍を止めるだけでも状況は変わると思います。それができるだけでも生存率は上がると思います」
先ほどの発言で傷つけたかと思った礼二は、慰めているのかが分からない言葉を彼女に言っていた。
口に出している途中で自分自身も何を言っているのかが分からなくなり、彼の顔はほんのりと赤くなった。
礼二の変な様子にチェルシーは呆然と見上げ、それを可笑しく感じたのか微笑み始めた。
「ふふふっ……ありがとう神原くん。私、頑張るね!」
「はい頑張ってー」
彼女の変な気遣いを察した礼二は流すように言葉を返すと、くるりと門の方向へと歩き始めた。
「どうしたの? 顔赤いよ」
「何でもない」
殺伐としていたはずだった空気が和らいだ気がした。
◇ ◇
訓練生たちが宿泊施設前に陣を構えて数分が経過した。
侵入者が来たことを知らせる警報が鳴り始めて10分ほど経過しているが、未だ魔獣らしき存在は確認していない。
「来ねぇな……」
施設近くで門に向けて銃を構える訓練生たち。
警報が鳴っていたにも関わらず、全く魔獣が来る気配が無い様子にしびれを切らしていた。
「緊張感を持て。敵はいつ来るか分からないんだぞ」
「分かってるけど……」
堅物顔の男は、しびれを切らした男に向けて言い放った瞬間、一発の銃声が放たれた。
「うわああああ!!」
施設の屋根上で狙撃銃を構えていた訓練生の一人が、羽の生えた魔獣の手に掴まれていた。
目の前で殺されかけている仲間を助けようと隣にいたもう1人が狙撃銃を撃っていたようだ。
「なんだあの魔獣は!」
「空から来るとか聞いたことねぇよ!」
想定外なところから敵がやってきたのを見た訓練生たちは、怒りと恐怖に畏れた声で嘆いた。
魔獣による奇襲によって隊列が乱れ、ほとんどの人たちが混乱する。
「レイチェル、あれって確か…」
「えぇ…あの研究所にいた奴と同種に見えるけど…」
礼二とレイチェルは羽の生えた魔獣の姿を、『怪奇殺人事件』の犯人・朝倉宗治朗がいた研究所内で見た覚えがあった。
しかし、あれは宗治朗が調整した魔獣であったはずだが、複製された個体なのだろうか。
頭の中で思考を凝らしていると、新たな悲鳴が上がり始めた。
「うわあああああああ!!!!」
羽の生えた魔獣は、自身の手で捕まえた訓練生を大きな口で喰らおうとする。思考を巡らせたせいで行動が遅れてしまった礼二は急いで魔弾を精製する。
早く仕留めないと……
魔弾が完成して魔獣へと放とうとした瞬間、訓練生を掴んでいた片腕が切断された。次いで胴体が2つに切断され、地上へと落下していく。
捕らえられていた訓練生も共に落下されていったが、急に宙で止まった。再び動揺する周囲に呼応するように、それは姿を現す。
「はぁ~…左手にいるのが女の子だったら良かったのに……」
ケイン・シェパードだ。右手には大きめなダガーナイフを手にしている。彼は自分自身が得意としている迷彩を利用して近づき、魔獣を切りつけたようだ。
「ケインさん凄ぇ! マジ凄ぇ!」
「惚れちゃうわ~」
ケインによる間一髪の救出劇に訓練生たちは見惚れていた。彼にとっては褒められっぱなしの状況で調子に乗るかと思われていたが、実際は違った。
「ありがとう~…でも、敵はもう来てますよ」
刹那、魔獣が一斉に門や前面の塀を飛び越えて出現した。
「地上前面より魔獣を7体、空より3体確認!」
「数が多すぎる!」
地上と空から進軍する魔獣に対し、銃撃による足止めと魔術師たちによる殲滅が行われる。
状況は最悪だった。
ケインの手によって訓練生たちの魔獣への不安はやわらいだかと思えたのだが、そうはならなかったようだ。最初に奇襲を仕掛けた羽の生えた魔獣の新種が、またいつ襲ってくるのかが分からなく混乱している状態にあった。
「嫌だ嫌だ…死にたくない……」
魔術師の攻撃から逃れ、一匹の魔獣が後列の訓練生たちの下へと舞い降りた。目の前で怯え続けている1人の青年を見つけ、飛びかかろうとする。
「ぎゃあああやめてええええ!!!!」
盾にもならない両腕を自分自身を守るように構えると、飛び掛ってきた魔獣の体が左右に両断された。
予想外な展開に驚く青年は正面を見つめると1人の子供が目の前に立っていることに気がついた。
「生きてますか?」
彼は青年に振り返って一言言い放った。右手に片手持ちの長剣を持つ神原礼二がそこにいた。
礼二は周囲を警戒しながら戦っていたらしく、後衛に回ってきた魔獣の存在に気付き急いで駆けつけたらしい。
「おぉ…ありがとう少年……」
「ゆっくり感謝している暇はありませんよ。次々とやってくるみたいなので」
最初は10体ぐらいであったが、一匹一匹狩りつくしていく内に、新たな敵が続々と出現してくる。
門や塀を見てみると次々と魔獣が敷地内に侵入していくのが見えていた。
現在、礼二たちがいる修練の島は魔獣の生息地では無かったはずなのだが、なぜこんなにも敵が沸いてくるのだろう。
礼二は何か特殊な事態が発生しているのではないかと、この島全体を疑った。
「クソッ数が多すぎる! うわあああ!!」
前衛で魔獣を狩り続けていた魔術師の訓練生の一人が1体の魔獣に気を取られている内に、もう1体の魔獣の手によって背中から不意打ちを受けた。
1対1であれば的確に狩れたはずなのだが、2対1となれば話は別だ。
次々と増えている魔獣側は人海戦術をしてくるかのようにどんどん訓練生たちに向かっていく。
背中に大きな切り傷を負った青年は地面に倒れ、魔獣が彼の上にのしかかる。
「お、おい…やめろよ…こんなところで死ぬわけには……」
大きな口を開けて涎を垂らし始める獣は、下にいる青年を喰らおうとした。
「させるか!」
顔の側面から槍の一突き。
上にいた魔獣をどかすようにそのまま突き飛ばし、青年を解放する。
「あ、ありがとうございます」
青年が感謝の意を示した方向には、金色の長髪をなびかせながら槍を振り回すレイチェルがいた。
彼女は彼の怪我の状況を一目見て判断し、後衛の訓練生に指示をする。
「ねぇちょっとそこの君。この人、重症だからあなたたちのところへ運んであげられないかしら?
運びきるまで護衛するから」
「りょ、了解です!」
同じ立場の人間から急に指示を受けた男子訓練生であったが満更でも無い様子だった。
これが軍隊内のマドンナと称される女のカリスマと言ったところなのだろうか。それとも彼女からの指示に何らかの強制力を感じたのかは定かではないが、どちらにしてもそこが彼女の凄いところの1つだろう。
「うおおおおおりゃあああああ!!!!」
凄まじい気迫と共に魔獣を派手に狩り続けるガトーがいた。
彼は自身の身の丈ほどある大剣を片手で振り回し、近づく魔獣を跡形もなく肉塊へと変えていった。
迫り来る魔獣の大半がこの大男の元へと行くが、中には彼を素通りする魔獣もいたりする。
「すまぬ! 一匹逃してしまった!」
彼の脇を素通りした魔獣は、仲間と戦っている魔術師を1人選んで襲い掛かる。
魔術師は後ろから迫り来る敵の存在には未だ気付いていない。
残り距離数十センチメートルの位置になったところで、礼二は魔獣の前に飛び込み、体を4分割に斬り裂いた。
後ろから飛んでくる敵の肉片に気付いた魔術師は驚き、後ろを振り返る。
「き、来てたのか…ありがとう」
「ありがとうございます。でも…前見てくださいね!」
礼二は彼の横から魔獣の前に出て、そのまま切り裂いた。
「うぉあ!」
「ほら、まだ敵は来てるんですから戦ってください」
呆けている魔術師の背中を叩きながら鼓舞をする。
礼二は周囲の状況を見渡した。
今見えている敵の数は8体。門や塀からやってくるのは2体ぐらいだろうか。4体はアンドルフ少佐が受け入れ、残りは訓練生全員が受け入れているようだ。
30人近くいる訓練生とはいえ、中身は戦闘経験が皆無な者たちばかりである。魔獣を相手にするのに1体あたり10人ぐらい総出でかかっているように見える。
これならばなんとかなるだろう。
礼二はそう見ていたが、現実は甘くなかった。
「おいおい……さっきよりも来る数が多くないか……?」
「気のせい…じゃないよな……マジで多くなってるぞ」
後衛にいる訓練生たちが呟いた。気になった礼二は塀辺りを見てみると、先ほどまで登ってきている魔獣の数が倍近く増えているように見えた。
彼らの言っていることは本当のようだ。
魔獣は2体ずつ敷地内に入って来ていたが、気付けば4体ずつ侵入してきている。
敵の数が増えてきた分、一体あたりにかける人員が減り、一人一人にかかる負担も増えてくる。
ただでさえ魔獣一体に対して10人の訓練生が相手していたのが、さらに減らされて厳しい戦いを強いられる。
「ぐわあああああ」
後衛のいる方向から断末魔の叫びが聞こえた。礼二とレイチェルは声のした方向へと振り向くと、そこには魔獣によって肩を食い千切られる訓練生がいた。
「た、助けてくれええ!!!」
彼の叫ぶ声は空しく、周囲にいた訓練生たちはたちまちと離れていく。ついには魔獣が彼1人に集中して集まるようになった。一気に集まった魔獣たちを見た後衛の訓練生たちは、単独で1人1人離れていく。
これは命取りだった。
魔獣は狙い定めたかのように1人1人へと襲い掛かる。魔術を持たない訓練生は逃げる者、喰われる者の2種類に分かれてしまった。
隊列は完全に乱れ、魔獣は後衛にいる人間をほとんど片付けたら前衛にいる魔術師たちを複数で攻めるだろう。
礼二は後の展開を予想し、今この時が最悪な状況であることを悟った。




