2-5.ピクニック訓練
特別訓練2日目。
いつも過ごしている部屋とは違った匂いを感じながら礼二は目を覚ました。
今は何時だろうか……
部屋の照明は消えている状態で、カーテンは光を遮っているせいで外の様子をあまり確認できない。
時間を定かにしようとベッド横にある時計に顔を向けようとすると、体に痛みが走った。
痛い…体が思うように動かない……
先日の長距離ランニングで体全身に疲労が行き渡っている。
そのせいか礼二の全身に筋肉痛が響き渡り、動こうにも痛みで動けない状態にあった。
あぁ…どうやって動こう……
筋肉痛は走っているが、体を動かすだけの体力は全快しているようだ。どれだけ自分の体が貧弱であったのかが思い知らされた。
数分後、体の痛みに慣れてきてようやく動くことができた。
最初に腕を動かして上半身を起こす。顔を左に向けて時計の時間を確かめてみると、朝の5時30分になっていることに気付いた。
「お、今日は早いな」
まだ体が目覚めていないせいか、ぼーっと時計を見つめていると1つの声が聞こえてきた。
礼二はそれに対して答える。
「あぁ…リディさん、体が痛くて目覚めたみたいです」
「なんで他人事なんだよ」
訓練期間の間だけ相部屋となったパートナー、リディは笑いながら言った。
「そりゃそうじゃないですか。人の体って自分が動きたい時に動かせない時あるじゃないですか。これって、自分の体と意志は別のようなものじゃないですか」
「どっちでもいい」
礼二の理論に対してリディは軽くあしらった。
自分の中では割と良い理論だとは思ったのだが、全く関心の意を見せてくれなかったことに彼は落胆した。
「それはともかく、さっさと準備しろよ? 昨日みたいに朝食後に走るとか勘弁してほしいから」
「はい……」
礼二はリディにそう言われ、体を起こして出かける準備をした。
◇ ◇
朝食を済ませた後、訓練初日と同様に屋外訓練スペースで集合することになった。
昨日の訓練メニューを終えた後に倒れた礼二には知らない訓練が行われていたからか、周りの人たちからはまだ疲れが残っているように感じる。
何をしてきたんだろう……
考えるだけでもぞっとする。訓練後に倒れてごめんなさいと内心思う礼二だった。
朝の7時を回ると、訓練生の集団の前にガトーが現れる。
「貴様ら、今日も良い訓練日和ではないか。さぁ、最初はウォームアップでここを5週回ってもらう」
ウォームアップで5週なのか……
目の前にいる訓練教官の一言に全員同じ考えを抱いたのか、訓練生全員の顔の血の気が引いた。
「おいおい、そんな顔するなよ。昨日はあんなに走っただろう。これぐらいなら軽い運動になるって」
それを察したガトーは皆をなだめるように優しめの声で言った。訓練生全員は仕方ないと言わんばかりの表情で動き始める。
「よし、この意気だ。ウォームアップを終えた者は日陰で休んでいていいぞ」
この言葉を聞きながら、礼二たちは走り始めた。
1時間が経過。ウォームアップをし終えた訓練生たちは日陰で休んでいた。
訓練スペースの内周を5週だけでも体が堪えたのか、ほとんどの人間が地面に向けて顔を俯けていた。
「お、お前ら、ウォームアップを済ませたようだな」
あまり終わっていることを悟られたく無かったのか、顔を俯けていた人はビクッと体が反応していた。
次の訓練に移るのが嫌だったんだろうなぁ……
礼二はガックリとしている訓練生たちの心情を察するように苦笑いをした。
「今日やってもらうメニューについて発表する。耳をかっぽじって聞いとれい!」
ウォームアップに耐えた彼らに対して、ガトーは喜びながら目の前へと大きな声を発した。
「今日は貴様らにピクニックに行ってもらう」
威厳の満ちた声色から予想外な言葉が飛び出してきた。
「ピクニック……?」
礼二は彼の言葉を聞いて呆気に取られた。
まさか訓練メニューとしてピクニックが選ばれると誰が思うだろうか。山の中でも探検するとでも言うのか。
「そういえばここら辺は結構足場厳しいらしいから良い訓練にはなるんじゃないのかな」
複雑な心境でいると、隣にいたリディが礼二の耳元で囁いた。
確かに、あの訓練中毒な教官が何の意味も無く遊びに出かけようと言うとは思えない。
ガトーの発言に何か裏が無いのか、礼二は内心彼を疑いながらも話を聞くことにする。
「あの、少佐殿。ピクニックとおっしゃられていますが、荷物はどうするのでしょうか?」
1人の訓練生は気付いたかのようにガトーに質問をした。
弁当や水筒などが無い状態でピクニックに行くなど意味が分からない。
無精髭の大柄な男は訓練生の問いを予想していたかのようににやりと微笑む。
「安心しろ。荷物ならこちらで用意している」
すると、どこから用意してきたのか、大き目のリュックサックが屋外訓練スペースに運ばれてくる。
「いつからこれだけの量を用意してきたんだろ……」
礼二は口を半開きにしながら、支給される荷物が周りに行き渡っていく様を見つめていた。
ついには自分の番になり、訓練生全員の手元に荷物が行き渡る。
両手に伝わるリュックサックの重み。何が入っているのだろうと中身を覗こうとする。
「今はリュックの中身を開かないように。指定されたエリアに進んでから中を確認しても大丈夫だぞ」
そう言われた礼二は、リュックの中に手を伸ばすのを止めた。
今開かないでってどういうことだろう……
彼の言葉に疑問を抱いたが、何か意味があると見た礼二は従うことにした。
「次は4人一組の班を作ってもらう。好きな奴らと組んでいいぞ」
訓練生全員に荷物が渡っていることを確認したガトーは、新たな指示を下した。
4人一組のチームか……どうしよう。
周りはあまり気の知れない人ばかり。あいにく礼二は人見知りなところが強く、気の知れない人と話すことはとてもできない。
「よし、神原君。僕と組もうか」
どうしようかと悩んでいる内にリディから声を掛けてきた。
こちらから声をかける手間が省けたと思いながら、彼に内心感謝する。
「お、いいですね。後は2人なんだけども……」
「ねぇねぇ」
礼二が辺りを見渡そうとすると、誰かが声を掛けてくる。声のした方向に顔を向けると、そこにはレイチェルと笑顔を向けるチェルシーがいた。
「神原くんとマッケンジーさんに班を組んで欲しいと思うんだけど…どうかな?」
チェルシーは愛嬌のある可愛らしい声で礼二とリディに声を掛けた。
その瞬間、周りから殺気を感じた。
今、この集団の男性間でアイドル扱いされているレイチェルとチェルシー。班を組む時間のような時にしか彼女らと関わることが無い彼らにとっては、これがチャンスタイムなのだ。
それを潰した礼二とリディは、嫉妬にまみれた数々の視線を集めた。
「なんだろうね…この嫌な雰囲気……」
「綺麗な人の近くにいるといつでもこんな気分を味わえますよ」
リディが自身の心境を伝えると、礼二は達観したかのように答えた。
礼二にとっては軍隊に所属する前から受け続けていた嫉妬の視線であり、今のも大した問題ではない。
「おいおい…あぁ…そういうことか。君はフラッドさんと一緒にいることが多かったようだね」
リディは、礼二がなぜ嫉妬の視線に慣れているかを察したようだ。
「私達を班に入れるか決まった?」
チェルシーは2人が自分達を班に入れるかどうかを相談しているように見えたのか、入隊していいのかを尋ねた。
礼二としては見知ったメンバーだけで班を組むのはとてもありがたい。あとはリディに確認を取ってオーケーを貰えば2人を班に入れることができる。
「あ、あぁ…いいですよ。マッケンジーさんも大丈夫ですよね?」
「大丈夫だ。ちょうど後2人どうしようか相談していたし」
レイチェルとチェルシーの話をしていた、と言うわけにもいかず、2人は班に入隊するかどうかを相談していたことにした。
「そうなんだ! 良かったぁ~」
チェルシーはほっと胸を撫で下ろす。
彼女からは、何かから解き放たれるかのように普段とは違う表情が見えた気がした。
◇ ◇
ピクニックで行動を共にする班決めを終えた後、訓練生たちは施設の門前に集まっていた。
他の人たちは全て誰かと班を組んでおり、互いに雑談をしている様子だった。
「もうそろそろですね」
「そうだね」
周りの人たちは予想外なイベントに最初は動揺していたが、慣れてきたのか次第に表情の硬さが無くなってきている。
「よし、班決めも終わって森に入る準備は出来たか? 1班1班指定した時間を置いて出発してくれい」
訓練生たちで構成された班はガトーの指示に従って森の中へと入っていく。
これから礼二たちが行おうとしているのは、修練の島の奥地にあるといわれる『勾玉』と呼ばれる物の回収作業だ。しかし、『勾玉』のある場所についてのヒントを聞くことは断固拒否されており、何も手がかりが無い状態でのスタートとなる。
森の中へと入っていく人たちが多くなっていき、やがて礼二たちの番になった。
「行きましょうか」
「は~い」
礼二たち班の班長になったのか、リディが全員を引率する。
礼二は淡白に、チェルシーは楽しむように、レイチェルは少しやる気の無いような感じであったりと、個人のテンションに違いのある班だ。
こうしてピクニック訓練は始まりを告げた。
修練の島、森の中にて。
森の中を歩いて5分が経過した。辺りは木々が生い茂り、緑色一色となっている。
そこには枝木で散らばっている足場に木を配りながら歩く4人の男女がいた。
「なんて暑さなの…」
金色の長髪をポニーテールに束ねている女性、レイチェル・フラッドは虚ろげに言った。
本日の気温は約35度を記録しているらしい。
木々に囲まれて太陽からの紫外線が抑えられるかと思ったのだが、あまり遮られていない様子だった。
「暑い…」
レイチェルは再び呟く。
「それぐらいは我慢してくれ。仮にも軍人なら耐えて見せろ」
彼女の呟きを耳にしたリディは、呆れたように言った。
やっぱ耐えなきゃいかんのか…
彼の言うことはもっともではあるが、礼二もレイチェルと同じことを考えていた。
暑い…蒸し風呂の中にいる気分だ…
頭皮の毛穴から流れ出したのか、額を通って汗が流れてくる。
「暑いものは暑いんだから仕方ないじゃない。言わずに我慢できないわ」
「子供かよ…」
リディの言葉は受け止めず、レイチェルは感じていることを包み隠さず言い続ける。
最後に彼が一言彼女に対して文句を言ったように聞こえたが、レイチェルはそれを聞いていなかったように振る舞った。
しかし、彼女がどれだけ嘆こうが今日の暑さに変わりはしない。
「でも、レイチェルの言う通りよ。今日は最近と比べてとても暑いわ」
レイチェルの発言に同意するように、チェルシーは汗で濡れている額を手の甲で拭い去った。
暑さで苦しんでいるはずなのに彼女は未だ笑顔のままだ。
「チェルシー…」
自身の感情が共感されたことにレイチェルは感激する。
「まぁ…そう言っても暑いのは確かだな……そう言われても僕には暑さをどうにかする手段なんて持ち合わせてはいないよ」
リディは諦めたように本音を打ち明ける。彼は厳しいことは言っていたものの、実際は皆と同じようなことを考えていたようだ。
「どこかで涼しい場所で休みませんか?」
礼二は1つ提案する。
恐らくレイチェルが暑いと言っているのは「休みたい」という本音を含んでいるところもあると思われる。これ以上、彼女のやる気が削がれるとついには「歩きたくない」と言い出しかねないからだ。
「早過ぎないか? 出発して5分ぐらいしか経ってないぞ」
「いいんじゃない? ちょうど休むにはいいところがあるみたいだし」
そう言いながらチェルシーは目の前に見える河原を指差した。
「あ、良いわねぇ! そこで休みましょう!」
彼女が指差した方向へと、レイチェルは走って行った。
喜びながら走りゆくレイチェルを見て、礼二は子供を見ているように思えた。
「自由だなぁ……」
「彼女は初めて会った時からああいう感じなんですよね……」
リディはレイチェルを見ながら、呆れを通り越して感心したように言った。
さすがに庇いきれなかったのか、チェルシーも同じ方向を見ながら苦笑いをした。
「涼しいぃぃぃぃ!!!」
レイチェルは自身が感じている気持ち良さを大声にして叫び始める。
礼二たち一行は森から少し外れた河原で体を休めていた。木陰の入る場所に椅子として機能しそうな石を見つけてゆっくりとしている。
川の上流にあたる方向が崖に挟まれているからか、やや強めな風が吹き渡っていた。
チェルシーは自身に吹き渡る風を感じ取り、感慨に浸っていた。
「吹いてくる風が気持ちいいわね。そのままここにいたい気分ね」
「そういう訳には行かないだろう。夜までには勾玉を取りにいかなきゃならないのに」
リディは現実逃避をしようとしているチェルシーを現実に引き戻そうとする。
実際、それを持って彼の元に行かなければ施設内に入れることはできないという鬼畜仕様で、見つからず寮に戻れない事態となれば野宿確定だ。
「でも、どうやって探せばいいんですかね。こんな広い森の中をあちこち歩き回っていたら時間が無いし」
「確かにな…出発する時に何のヒントも与えられていないし……」
「教官は何を考えているのかしら」
課題をどのようにしてクリアするかをレイチェル以外の3人は考えていた。
数分考えていると、礼二はハッと閃いたように口を開いた。
「鞄の中を見てみませんか?」
彼の一言にキョトンとするリディとチェルシー。
2人の反応に違和感を感じ、理由を尋ねてみる。
「何でそんな顔をしているんです?」
「いや、もう昼を食べたいのかと思ってね……」
現在の時刻はまだ朝の10時。礼二が「開けよう」と提案した鞄の中にはガトー曰く昼食が入っているそうだ。
恐らくリディは、礼二が昼食にしようと提案しているように聞こえたように思える。
「いやいや違いますよ。あの鞄の中に何か入っていないのかなと思いまして」
「弁当以外の物が入っているかもってこと?」
礼二が言わんとしていることを何となく理解したチェルシーは彼に確認を求めた。
すると、彼は首を縦に振った。
「なぜそんな考えに至ったんだい?」
「それはですね…あの教官が言ったことを思い出したからなんですよ」
「教官が言ったこと?」
リディの質問に対して答えた礼二であったが、彼は未だ理解している様子では無かった。1つ1つ説明していく為に礼二は再び口を開く。
「まず、あの教官はこれを私達に渡した時、何ていったか覚えてますか?」
「この敷地内から出るまで荷物は空けるな、って感じじゃなかったっけ」
チェルシーは礼二の質問に対して思い出しながら答えた。
「その通り。そう言って好奇心で荷物の封を空けようとした私達の動きを止めたじゃないですか。それが少し怪しく感じまして」
「どういうことだよ」
「あっちとしては、敷地内で開かれるのがまずかったのでは無いでしょうか。そうでなきゃ、わざわざ釘を刺すことも無いし」
さらに推論を展開していく。そして、礼二は結論を2人に話した。
「そこで思ったんですけど…今日の課題のヒントはこの中にあるのでは無いのかと」
「えっ…!?」
予想外な結論にリディとチェルシーは驚きに満ちた顔へと変わった。
まさか自分たちが持っていた荷物に課題のヒントが隠されているとは誰が思うだろうか。
「ま、待て…仮にそうだったとしても、なぜそんなところにあるんだ? 理由も無くそんなところに置くわけ無いだろう?」
リディは戸惑うように礼二に答えを求めた。すると、礼二はニヤりと冷めたような声色で答える。
「考えてみてくださいよ。こんな森の奥地で急にピクニックして来いとかそんな訓練があるとは思えません。恐らくあの教官は、私達を試していると思うんですよ。作戦時の行動であったりとか」
「作戦時の行動…? まさか……」
「そのまさかです。私達がどれだけ現状の把握が出来るのかってことです」
礼二はそう言いながら自分が持っていた荷物の封を開け、中身をあさぐり始める。
手に感じるのは、長方形状の物と円柱状の物。それが弁当と水筒と思われたが、その下には紙らしき物を感じ取った。
「これは……」
礼二は紙を鞄の中から取り出し、リディとチェルシーに見せ付けた。
「本当に何かあったね……」
チェルシーは関心しながら礼二と彼が手に持っている紙を交互に見つめる。
しかし、リディは疑るように再度彼に問う。
「でも、これが何かのヒントになるという確証はあるのかい?」
「それをこれから見るんですよ」
礼二は持っていた封筒の封を切り、中にある物を取り出した。
中からは2つに折りたたまれた紙が出てきた。それを開いて内容を確認してみる。
「やっぱりね……」
「何が書かれていたんだよ」
リディにそう言われた礼二は、彼とチェルシーに対して紙に書かれている内容を見せた。
「勾玉はここにある、って…完全に答えを書いているじゃねぇか…!」
「まさか私もここまで丁寧に書いてくれているとは思いませんでした」
課題の品を手に入れるためのヒントがこんな手近にある状況から、灯台下暗しと言ったところだろうか。
こんな近くにあるのだから、ガトーはちゃんと自分の装備を把握しているのかを見ているのかもしれない。
頭の中で推論を展開していると、レイチェルが会話の輪に入ってくる。
「場所が分かったなら、早速行きましょう」
「うぇ!?」
唐突に入ってきた彼女の存在に対して、礼二は驚きの表情へと変化させながら声を上げた。
レイチェルは3人に対して一言言うと、すぐさま森の中に入ろうとする。
「あ、ちょっと…レイチェル…!」
「自由だな……」
単独行動を取ろうとする彼女に対し、チェルシーは急いで止めようとする。その様を見ていたリディは呆れながら呟いた。
平常運転だなぁ……
礼二は温かい目で3人の姿を見ていた。
◇ ◇
課題の品へのヒントを見つけて2時間が経過した。
河原での休憩も終え、礼二たちは再び森の中を進んでいた。
「本当にここで当たってるんですかぁ……」
歩き疲れたのか、チェルシーはダルそうな声で嘆き始める。
声を聞いた礼二は後ろを確認してみると、ダルそうなのは彼女だけでなくレイチェルも同様の状態にあることに気付いた。
「もう少し待ってくれ。そろそろ場所に辿り着くと思うから」
「歩き始めて2時間経ってるのよ!? さすがに時間かかりすぎじゃないの!?」
リディはチェルシーに強く言われて動揺する。
それもそうだ。ほんわかした子が急にここまで豹変したかのように強気になられると誰でも驚く。
あれ? まさか、これが彼女の本性?
それはともかく、彼女の言う通り2時間歩き続けて何も無いのはおかしい。
目的地に向かう際に島の見取り図を一通り確認したのだが、確認した位置とヒントが差している位置との距離は2時間もかかるような距離では無かったはずだ。
また、ヒントが差している場所は等高線上では高い位置にあるはずなのに1度も段差や坂にたどり着いては居ない。
礼二はなぜこのような現状に至ったのかを考えると、1つの可能性に気付いた。
「あの…マッケンジーさん。まさか、方向間違えていたりしてません?」
「方向? この僕が? 間違える訳が無い」
リディは1つの可能性を容赦なく潰した。
彼を疑うわけでは無いが、実際の原因として有り得るのがコレしか無いのだ。礼二はどうした方が良いか、再び考え始める。
「じゃあ、現在地を確かめてみましょうか?」
不意にレイチェルが口を挟む。
その言葉を聞いたチェルシーとリディは彼女を見ながら驚く。
「えっ、できるの!?」
チェルシーは目を見開きながらレイチェルを見つめる。彼女から見れば、この金髪美女は冗談を言ったに違いないと思ったからだろう。
一方のリディは、レイチェルを見入るように見つめた。
レイチェルはそれを気にせずに目を閉じ、右手の手の平に魔力を集中させる。すると、彼女の手の平から玉の形をした魔力の塊が顕現し始めた。
「何これすごい……」
チェルシーは目の前に広がる非日常的な光景を見て感動する。そんな彼女を他所に、レイチェルは手の平に溜めた魔力を空へと放ち、空中に停滞させた。
「視点共有」
そう呟くと、レイチェルは静かに目を閉じてその場で立ち尽くした。
数秒後、彼女は目を見開いて、チェルシーが持っていた地図を手に取って広げ始めた。
「場所が分かったわ」
「えっ!?」
リディとチェルシーは位置確認のあまりの速さに驚いた。レイチェルはそれを気にせずに地図全体を見渡して一箇所に指差した。
「今私達がいるのはココよ」
彼女が指差しているのは、島に一箇所だけある山のふもと付近。
次に山から少し離れた位置を差した。
「あと…多分そこに私達が探しているものは見つかるわ」
「そこまで分かるのか…どうやって確認したんだ?」
仕組みが気になったリディは、レイチェルに質問をする。それに対して彼女は当然のように答えた。
「今さっき飛ばした魔力の塊と私の意識を共有したのよ」
チェルシーは意味が分からなかったのか、目を泳がせながら首を傾げる。それはリディも同じようで、口を開けてだんまりとしていた。
魔術に通じている礼二でもあまり分からなかったが、こういう魔術の使い方もあるのかと思いながら頭の片隅に置いておくことにした。
30分後、レイチェルの指示通りに森の中を進んでいると目的の物が見つかった。
あっさり課題が終わってしまったことと、レイチェルの魔術が本物であったことを知った礼二たちは呆気に取られたまま訓練施設へと戻っていった。
◇ ◇
2時間後、時刻はまだ12時を回っていない頃に礼二たち一行は修練の島・訓練施設に辿りついた。
強い紫外線と長時間の移動により、全員の体力は疲労しきっている状態にあった。
「ほー、早いな君達は」
礼二たちが帰ってきていることに気付いたガトーは、彼らを褒め称えた。
「はは…運が良かっただけですよ……これ、課題の物です」
「魔術を使って手っ取り早く見つけた」と言う訳にもいかず、リディは運のお陰と言いながらガトーに課題の物を手渡した。
勾玉が本物であるかを確認しているのか、ガトーは数分間課題の品を見つめ続ける。
すると納得したように頷きながら礼二たちに告げる。
「よしオーケー、今日のノルマは終わりだ。後は自由に自分自身の鍛錬に励んでくれ」
教官にそう言われた礼二たちはその場を去り、各個人で訓練に励むことになった。




