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CODE-D  作者: ryu8
2章 現実を知る者
22/67

2-3.特別訓練初日

 時刻は13時30分を回る。

 12時に昼食を済ませた礼二含めた訓練生たちは食事スペースに集合する。

 礼二とレイチェルは、お昼に出されたメニューについての感想を話し合っていた。

「お昼ご飯は美味しかったわね~」

「さすがは食堂の料理人が作っているだけあるな。あんな美味さは初めてだ」

 お昼のメニューとして出されたのは、烏賊や海老などの海鮮類を含んだ海鮮カレーだ。

 食堂の料理人が作ったと言われるカレーであるからか、具材として放り込まれている海鮮類の旨味がカレーに包まれているコクのあるカレーだった。

 それは他の訓練生にも同じように感じていたみたいで、周囲はこの話題で盛り上がっている様子だ。

「お前らー、集まっているかー!?」

 食事スペースの調理場側の扉から野太い声を発しながら、ガトーが入ってくる。

 彼の存在に気付いた訓練生たちは、カレーの話題で盛り上がっていたムードをすぐに取り消して静かになった。

 周囲が沈黙したのを確認したガトーは口を開き始める。

「よし、全員集まったな。たった今、修練の島に到着したぞ」

 確か13時30分に到着予定だっけか。

 礼二は頭の中で1日の予定を思い出す。乗船までに少し時間が遅れて予定通りに進まないかと思ったのだが、船のスピードを上げてどうにかしたのだろうと自己完結した。

「各自、自分の荷物を持って船から下りて整列していてくれ。では解散!」

 ガトーは簡単に指示を出すと食事スペースから出て行った。訓練生たちも彼の指示に従って、荷物を取ろうと部屋から出て行く。

 ようやく島に着いたか……

 礼二はその後どうなるかに嫌な予感を感じながら部屋から出て行こうとする訓練生たちの行列が無くなるのを遠めで見ていた。


 ◇ ◇


「よし、お前ら揃ったな? 宿泊施設までは徒歩で行くからちゃんと着いて来いよ?」

「はっ!」

 修練の島まで運んでくれた船・建御雷神(たけみかづち)から下船し、礼二たちは寝泊りするための宿泊施設まで歩くことになった。

 宿泊施設か…どこら辺にあるんだろう……

 今いる位置は島の端にあたる砂浜らしい。そこから島の中心らしき方向を見ると、草木に覆われていて奥が見えない。本当にこんなところに施設はあるのかと思わせるほどに自然の多さを感じるぐらいだ。

 冷房の通っていた船内から暑い太陽の真下へと移動して急激な体温変動が起きたことによって、頭がボーっとしている。ましてや紫外線の強さは基地の訓練スペースよりも強く感じる。

「礼二、何してるの? 早く行くわよ」

「え、あ…うん」

 レイチェルに移動を促される。いつの間にか先頭の集団が少し離れていることに気付くことが出来なかった。礼二は少し急ぎ足で集団のところまで走り始めた。


「暑いな……」

「えぇ……」

 歩いてから何分経ったのだろうか。

 行く先々に草木が生い茂り、辺りはまるでジャングルを想像するような光景が広がっていた。

 そして空は曇が1つもない晴天晴れ。太陽は容赦なく下にいる人たちに暑い紫外線を浴びせていく。

 周りに囲まれている草木のお陰で直接当たることが少なくて良いのだが、熱だけはガード仕切れていない。そのためか、礼二の前にいる訓練生たちの顔から汗が滴る様がよく見えた。

 あと何分歩き続けるんだろう……

 恐らくまだジャングルのような光景を見続けるだろう。

 変わりもしない光景に礼二は苛立ちが募るばかりだった。しかし、苛立ちを募らせてもぶつけるところは無いので無言で歩き続けることにする。

「いつまで歩くの……」

 隣にいたレイチェルはやや苛立ち気味に呟いた。

 これ聞かれたらガトーはどう思うだろうか……

 礼二はそれについて心配をしたのだが、運が良いことに辺りは島に生息する動物などの鳴き声に満たされているため、彼女の声は目立たなかった。

「おいレイチェル、あまりそういうことは言わない方がいいと思うぞ」

「え、そうなの?」

 礼二は念のためにレイチェルに一言言っておく。

 万が一聞こえていたとなると、ガトーのような熱い熱血漢みたいな性格の人なら面倒なことになると考えたからだ。


「そうですよ。アンドルフ少佐は熱血漢として有名な方ですから、あまりこういうことは言わない方が良いと思いますよ」

 礼二以外にもレイチェルに注意をするような声が聞こえた。

 2人は声のした方向に顔を向けると、そこには金色短髪の白い肌を持つ好青年がいた。

「忠告ありがとうございます。あの…どちら様…?」

 礼二は唐突に声を掛けた青年に尋ねる。

「おっと失礼。僕はリディ・マッケンジー二等兵。君達と同じ特別訓練の訓練生だ。よろしく」

 リディと名乗った男は笑顔で答えた。

 サラサラな短髪と白い肌を持っていて、彼はどこかの雑誌モデルのように見えた。

「あ、よろしくお願いします。私は特殊部隊所属の神原礼二一等兵です」

「同じくレイチェル・フラッド一等兵よ」

 質問に答えてくれたリディに向けて、自身の名を名乗る礼二とレイチェル。リディは2人を交互に見て名前を覚えるように呟いた。

「へぇ、特殊部隊の新人さんですか…となると、2人は魔術師なんですか?」

「はい、そうですけど」

 リディは2人が特殊部隊の隊員だと知り、礼二とレイチェルに質問を投げかけた。

 周りが歩くことに集中している中、2人は話し続けていいのだろうかと疑問を抱いた。

 自分で話しておいてお喋りしていていいのだろうかと。

「すごいですね! じゃあ、魔術で犯罪とか特殊な事例の案件とかを触っているんですか!?」

 礼二が答えた内容に反応したリディは、好奇心を抑えきれずに更なる質問を投げかけた。

 心の距離を急に接近させてきたものだからか、礼二はうろたえた。

「ぐいぐい来ますね…今はまだ訓練中の身です。ですので、そういった案件の解決はあまり……」

 彼は少し戸惑い気味に答えた。

 同じ軍隊の人間とは言え、別部隊の人間だ。特殊部隊の扱う案件は基本的に同じ軍隊にいる者であろうと守秘義務が働いている。

 そのため、礼二はその質問にちゃんと答えることが出来ない。

 というよりは、今の礼二は訓練と勉強尽くしの生活を送っているため事件の解決は『怪奇殺人』の時だけだ。

「そうなんですね。さすがに訓練の必要な方に、案件の解決とか時間を割けないですしね」

 彼の心情を察したのか、リディは自分から持ちかけた話が終わらせてくれた。

「とりあえず今は黙って森の中を歩きましょうか」

 リディのペースに乗せられた2人は戸惑いながら彼の言うことに従うことにした。これまでの会話をガトーが聞けば「訓練はもう始まっているぞ!」とか言いそうだし。

「ってなわけでだ。レイチェル、今だけ我慢して」

「そんなぁ~」

 レイチェルは駄々っ子がおもちゃを取り上げられたような調子で声を上げた。

 それは森の中に響き渡る鳥や虫の鳴き声にかき消され、彼女の嘆きは周囲に行き渡らなかった。


 森の中を歩いて10分が経過。訓練生たちは長い森の中から脱出した。

 先ほどまでずっと同じ光景を見ていたからか、礼二は久しぶりに外の世界に出たような気分に浸っていた。

「ようやく出られたわね……」

「あぁ…でも、目の前が平地で広がってるね」

 礼二たち一行は森の中を出たのは間違いないのだが、次に広がったのは平地だった。

 また長い距離を歩くのかと落胆していると、ガトーは自身の後ろにいる訓練生に向けて言った。

「あと少しで宿泊施設に着くぞ。もう少し歩くからダルい奴はもう少しの辛抱だ」

 この奥に宿泊施設があるのか……

 礼二はそう思いながら平地の奥を見つめていると、小さく建っている建物らしき点を見つけた。

 空から降り注ぐ紫外線の熱が強いからか、建物らしき点はゆらゆらと動いているように見える。

「後3キロってところかな。レイチェル、もう少しだよ」

「そう…もう少し頑張るわ……」

 礼二の隣にいるレイチェルは、彼の肩を借りて歩くほど暑さにやられている様子。

 今の彼女の横顔を見ると、とても気ダルそうで疲れが表に出ている。

 スタミナ不足の問題は礼二よりレイチェルが深刻かもしれない。

「ははっ! フラッドさんもう少しですよ」

 問題の再認識をしていると、レイチェルを見て笑いながらエールを送るリディがいた。彼はまるで二人三脚で歩いている2人を微笑ましく見守っているようだった。見守るぐらいならもう片方を支えて欲しい。ただでさえ体力が無いのにさらに体力が奪われてしまう。


 森を抜けて平地を歩き続けること5分。宿泊施設の門前に辿り着く。門から見える建物は、3箇所あるように見えた。

「よくぞここまで付いてきてくれた。ここは君らが1週間住む訓練生寮だ。これから各施設に入って詳細を説明する。だが、その前に部屋を割り当てているから部屋に荷物を置いていった方がいいだろう。部屋まで案内するから着いて来い」

 訓練生寮に辿り着くと、ガトーの指示に従って訓練生たちは並んだ。彼にそう言われ、訓練生たちは目の前の建物の中に入っていく。

 訓練生寮は男子寮と女子寮の2つに分けられていた。

 男子寮の案内はガトーが、女子寮の案内は施設の入り口で待機していた女性職員が行うことになった。

 礼二はレイチェルと一旦別れて、荷物を起き次第に施設の入り口前で落ち合うことにした。


 ガトーから男子寮の使い方について説明を受けた後、訓練生の中から2人ずつ呼び出されて指定された部屋に案内された。

「神原とマッケンジー、部屋を案内するから着いて来い」

 ついに礼二が呼び出される出番となり、彼とリディは一緒にガトーの元へと歩き出す。

 彼に連れられて着いたのが、1階の最奥にあると言われている部屋らしい。

「君らはこの部屋だ。2週間のルームメイトになるから仲良く過ごすんだぞ」

 そう言いながら部屋の鍵を開けたガトーは、2人を中に入れて残りの訓練生の元へと向かった。

 「2週間のルームメイトになるから仲良く過すんだぞ」


 部屋の中には礼二とリディが残った状態となった。

「あっさりした案内でしたね…」

「仕方ありませんよ。少佐1人であの人数を案内するわけですから、1人1人にあまり時間をかけていられないんでしょう」

 リディは冷静にガトーの置かれている状況を推測する。

「うーん…そうなりますかね…」

 彼の推測に対して礼二は納得する。

 確かにあれだけの訓練生を持っていると、1人1人にかける時間も少なくなるだろう。

 礼二とリディは、まず2人部屋内で自分のスペースを線引きした。

 部屋の中はホテルの2人部屋を見ているような2つのベッドに、共有のテーブルや洗面所などがあった。

 互いの居場所を作った後で荷物を置いて、礼二はぐったりと背中からベッドに倒れ込んだ。

「つっかれたぁ……」

「あれぐらいの距離で音を上げるって…大丈夫かい?」

 上半身だけで十を描くように寝転がる彼を見てリディは言った。同じ距離を歩いても彼は息一つ上がっていない。訓練生でもこんなに違いがあるのかと礼二は落胆した。


「あの、マッケンジーさんって、何で特別訓練に参加したんですか? 体力あるから必要ないかなって思ったんですけど」

 いつの間にか質問を投げかけていた。そう聞かれたリディは、少し困ったように答える。

「いやぁ…僕は技能が足りないと言われまして…」

「技能?」

「戦闘技能のことですよ。接近戦とか射撃とか。私は射撃が苦手ですが」

「そういう理由で参加してるんですか。私は体力不足で強制参加になっちゃいました」

「体力不足って…君は軍人だろう」

 リディは呆れるように礼二を見つめたが、相手はまだ子供であることに気付いて溜息をついた。

 彼の態度を不思議そうに礼二は見つめている。

「どうしたんですか?」

 彼の態度が気になった礼二がリディに尋ねてみると、彼は穏やかな表情へと変えた。

「そういえば君はまだ13なんだよなぁ…」

 金色短髪の好青年が呟くと、理解に苦しんだのか、礼二は首を傾ける。

 あれ? 俺はマッケンジーさんに年齢のこと言ったっけ?

 ちょっとした疑問が頭によぎったが、レイチェルとの約束を思い出して気にしないことにした。

「そうだ。私はちょっと用がありますから出て行きますね」

「おや、さっきの彼女のことかな?」

 リディは少しからかい気味に微笑んだ。気に障ったのか、礼二は少し溜息を付きながら言った。

「いやいや、彼女とはそういう関係では無いですから」

「そうなんだねぇ…船での移動の時に君らが親しそうに話しているのを見たけど」

「…!? 見てたんですか……」

 船での移動の時と言うと、自由時間の時だろうか。

 確かにあの時はレイチェルといろいろと話していたが、傍から見ればそういう風に見えたのだろう。

「偶然見かけちゃってね。本当は付き合ってるんじゃないの?」

「付き合ってません!!」

 しつこく問いただすリディをうっとおしく感じた礼二は、会話は無理矢理終わらせるように反論しながら部屋を飛び出して行った。


 ◇ ◇


 時刻は午後2時を回る。訓練生寮の敷地前の門でレイチェルは礼二を待っていた。

「遅いわねぇ……」

 彼女の額から汗が滴り落ちる。門の周辺に屋根らしきものはなく、真上には曇による遮りのない日光が降り注ぐ。今日の朝でさえとても暑い状態なのに一番太陽の上がる時間帯であるからか更に暑く感じる。

「ゴメン、遅くなった」

 そう言いながら礼二がやってきた。彼は急いできたからか、髪型がとても荒れている。

「遅いわよ」

 レイチェルは苛立ちながら礼二を罵る。

 朝の待ち合わせに遅れた人が何を言うか……

 一瞬そう思ってしまったが、あまり気にしないことにした。

「仕方ないだろ。予想以上に長く時間かかっちゃたんだから」

 彼女が待ち合わせを予定したのは午後2時。部屋に案内されたのは午後1時50分頃。部屋から門に辿り着くまで歩いて10分ぐらいの距離だ。

 リディと少し話し込んだことも含めると、1時55分頃に部屋を出て全力疾走。それでは遅れてしまうのも無理はない。

「まぁ、いいわ。今日の朝は結構待たせちゃったし」

「なんだよ偉そうに…んで、用って何さ?」

 なぜレイチェルに呼ばれたのかが理解できない。

 どうしたのだろうか。

「実はね…ここ、何か違和感を感じるのよ」

「違和感ってどういうこと? いつから感じてた?」

「船に乗る前からよ」

 彼女の言う違和感とは魔力の持つ者が他にいるということか。

 しかし、この心配事は入隊当初からあった訳で、礼二も彼女がこういうことを言うだろうと予測はついていた。

「入隊時と同じようにこの中に魔術師がいるとかじゃないの? 俺ら以外にも魔術師がいるかもだし」

「うーん…なんかそれとは違う感じなのよね。禍々しい感じというか…」

「禍々しい感じ? どういうこと?」


 レイチェルが言っていることが理解できない礼二は、目を細めて首を傾げる。

 彼に尋ねられたレイチェルは悩むように考え始めた。

「ごめんなさい。説明のしようが無いわ。あくまで私の直感で感じているものだから」

「そんな不確定なことを……」

 礼二は彼女の気分屋のような言動に呆れていた。

 しかし、彼女の直感というのは割と当たるから怖い。頭の片隅に置いておくことにする。

「とりあえずレイチェルが言っていることは信じておくことにするよ」

「そう…ありがとう」

 先ほどまで礼二の疑っている態度を見ての険しい表情から、レイチェルは微笑みの表情へと変わった。

「けど、これは頭の片隅に置いておくぐらいにしておこう。変に騒ぎだてるのも難だし」

「そうね」

 変に騒ぎ立てても―――これは礼二にとって彼女の言っていることがただの予感であって欲しい事を示している。ただの魔力では無く、他に何らかの力が動こうとするのであれば近いうち問題が発生するはずだ。これは軍隊が管理している特別訓練なのだ。訓練中に何らかのトラブルが発生することは有り得ない。

 礼二はそう思うことで不安を解消することにした。


 ◇ ◇


 午後3時。訓練生たちはガトーから各施設の道案内を受けていた。

 案内の役割を担うからかガトーは先頭に立ち、訓練生たちを先導していく。

「お前ら、何だらだら動いている」

 ガトーと訓練生の集団との距離が空いているせいか、彼に指摘された。礼二を含め、他の人たちの顔からは疲れの色が見えている。

 荷物を置くついでに備え付けのベッドに寝転がっていたのか、眠そうに欠伸をする者もいた。

「まさか、ここまでの道のりで疲れたとは言わないよな?」

 ガトーの野太くて低い声が周囲に響き渡る。この一言で正気に戻った訓練生たちは、すぐさま彼の近くに移動しようとする。

 うわ…怖ぇぇぇぇ………

 まるで脅すかのような声のトーンだった。ガトー自体がたいの良い体格をしているからか、より一層に恐ろしさを感じる。

 訓練生たちは同じような気持ちを抱きつつ、ガトーの後ろへと付いていく。


 最初に案内されたのは、大きい倉庫のような場所だった。

「まずはここ。武器庫だ」

 彼は大雑把に説明をして持っていた武器庫の鍵を開ける。手馴れた手つきで鍵を鍵穴に差し込み、刺さっている鍵をぐるりと回す。施錠音が聞こえた後にガトーは扉を開けた。

「お前らも入れ」

 ガトーにそう言われ、礼二たちは従うままに倉庫内に入り込んだ。

「すげぇええええ!!!」

 先に入り込んだ訓練生たちの声が響き渡る。

 礼二は何を見たのかと倉庫内を見渡そうと中に入ると―――

「え、何これ!?」

 辺りはアサルトライフルやショットガン、ハンドガンなどを初めとした様々な銃器が並んでいた。内装としては『M4A1』などの種類別に専用のロッカーに置かれていて、それが数種類と壁に接して並んでいる。そしてロッカーの中に入っている銃器に合わせて弾薬も入っているようだ。

 いつでもドンパチできるな……

 こんなに銃器があるのは、ここが訓練施設だからだろうと自分に言い聞かせ、礼二は倉庫内の準備の良さに驚いた。

「がははははっ! 驚いたろう。ここでは実弾を使った訓練もあるからな。これぐらい無いと銃器が足りないのだよ」

 ガトーは自慢げにこの倉庫にある銃器の多さを語った。ここまで銃器が揃っていると、不気味さを超えて壮観である。

「物騒ねー」

「物騒って…俺らは物騒なことで解決する人たちじゃないのか……」

 怪奇殺人事件のことを思い出しながら、レイチェルの発言にツッコミを入れる。

 荒事無しで解決できるなら兵士は要らない。交渉人(ネゴシエーター)だけで十分だ。

「ほんとすごいね、ここは」

「!?」

 横からリディが言葉を入れてきた。

 礼二は彼が近くにいたことに気付かず、驚いたような表情と一緒に声が漏れる。

「驚きすぎだよ。さすがに心外だなぁ…」

「仕方ないじゃないですか。マッケンジーさんが急に声かけるから」

 礼二はリディを細目で見つめた。そういう彼を見て、金色短髪の青年は微笑んだ。

 今のように誰かから急に離しかけられるのは苦手だ。

「何かどっかで見たような光景ね……」

 2人のやりとりを見ていたレイチェルは、礼二と邂逅した時のことを思い出しながら呟いた。


 次に案内されたのは武器庫の隣にある建物だった。

「ここは射撃訓練場となる。武器庫で武器を装備して、ここで射撃訓練をやることになるぞ」

 ガトーが大雑把に説明すると、訓練生たちは辺りを見渡す。奥行きのあるスペースに、1人1人のスペースが割り当てられていた。

 1人用スペースの横には何らかの操作ボタンも見えた。

「詳しい操作については訓練の際に説明する。あちこち触らないように」

 ガトーは訓練生たちに注意すると、施設内のボタンに触れようとした人たちの動きが止まる。

 間違って押したりでもしたら何が起きていたんだろうな……

 そうなってしまった時の展開に礼二はぞっとした。

「射撃訓練場か…楽しみだなぁ……」

「そういえばマッケンジーさんて、射撃が苦手なんでしたっけ」

「そうなんだよ。命中率が悪くてね。神原くんは射撃とか大丈夫なの?」

「一応大丈夫ですね。ゲーセンとかでガンシューティングやったことあるんで、それをやっている時のイメージで」

「それで出来てしまうのか……」

 子供には出来ているのになぜ自分は出来ないんだろう、リディは目の前にいる少年の射撃能力について疑問を抱きながら溜息をついた。

「いやほら、人には向き不向きもあると思いますし」

「人の可能性を勝手に閉ざさないでくれ」

 彼を励まそうと礼二は言葉を掛けたが、リディは苛立ちを隠すように手で顔を引きつりながら笑っている。

 あぁ…これは言う言葉を間違ったかな……

 自分の言ったことに対しての反応を見ると、あまり良い印象では無いようだ。

「無自覚って怖いわね」

 レイチェルは礼二の言動に対してちょっとした恐れを抱きながら呟いた。


 射撃訓練用の施設から離れて、屋外と屋内の訓練スペースに案内される。

 説明することが無いせいか、ガトーは道案内をするだけで施設についての説明は訓練でよく使用するとしか言っていなかった。

 一通りの訓練施設の案内を終えた後、ガトーは訓練生たちを食堂まで呼び出した。

「これで案内は一通り終了だ。これから夕食に入るが、食事後は各自部屋に戻って就寝するように」

 彼がそう言った後に夕食が訓練生たちの目の前に運ばれ、全員は食事を始めた。


 ◇ ◇


 夕食後、礼二とリディは就寝するべく部屋へと移動する。扉を開けて、礼二はベッドへと倒れるように寝転んだ。

「おいおい…風呂は入らなくていいのかい?」

「待って、すんごい疲れてるから風呂はいるのは後にしてー……」

 礼二は気だるそうに駄々をこねる。

「まぁ、仕方ないか…移動しっぱなしだったしな」

 朝の集合で遅れそうになっての猛ダッシュ、慣れない船での移動、炎天下のジャングル移動。

 体力に難のある礼二にとっては疲れることの連続である。

 歩きつかれたのか、足の筋肉はパンパンだ。

「大丈夫かよ。よくこれで軍人として居られましたね」

「そうですねぇ…というか、私は魔術師として入った身ですからそんな実感は沸きませんね……」

「えっ、魔術師なの!? 神原君」

 リディは予想外だったと言わんばかりの顔で礼二に訴えた。そんな彼を見て礼二は微笑みながら答える。

「いやぁ…魔術なんて最近目覚めたばっかりで言うほど扱い切れてないんですよ。じゃなきゃ、私みたいな子供が軍人にはなれてないし」

 礼二のような中学校も卒業していない子供が軍人になるようなケースは異例である。

 ましては子供の教育関係にうるさい日本帝国ならばなおさらだ。

 そこを言いくるめてまでも彼を軍隊に入れ込んだ特殊部隊は、常時人手不足な状態なのだろうか。

 今、時間がある時は義務教育として必要な勉強をしているが、それが無くなればこき使われているだろう。


「魔術師か……」

 リディは視線を下に向けながら懐かしそうに言った。

 傍から見る彼の姿はまるで、以前に魔術師と出会ったような雰囲気に思えた。

「あれ、まさか…知っている人が魔術師とかだったりします?」

「そうではないんだけどね…すまない、この話は無しにしてくれないか?」

「はい、そうですか…」

 リディから申し訳なさそうにこの話題をやめるように提案され、礼二は仕方なく話をやめた。

 何か過去にあったのかな…

 彼の過去が少し気になったところであったが、プライベートに関する話は辞めようと考え始めてついには何も考えなくなった。

 話題が無くなり2人の間に沈黙が走る。

「寝ますか……」

「そうですね……」

 リディが2人のベッド間にある照明のスイッチに手を掛けると、部屋の明かりが消えて周囲が真っ暗となった。

「おやすみなさい」

「はーい、おやすみなさい」

 そのまま2人は眠りに就き、特別訓練の初日は終わりを告げた。

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