1-17.エピローグ ~終わりの始まり~
『怪奇殺人事件』の犯人・朝倉宗治朗は拠点奥にある研究室で特殊部隊の面々によって逮捕された。
部隊の被害状況は、神原礼二とレイチェル・フラッドの2人が軽傷しただけで、他の面々は無傷だったという。なんて化け物揃いなところなんだろう―――そう思いつつもほっとする自分がいる。
そして、宗治朗の身柄はすぐさま基地へと輸送されて事情聴取が行われている。
だが、彼は何も答えず聴取は難航。調査責任者であるエリゼ・ラインは頭を悩ませているらしい。
大変そうだなぁと思いつつも、軽傷を負った礼二とレイチェルは一通りの医療検査を受けて、1日だけ軍専用の病院に入院することになった。1日ということもあってすぐに退院し、今は軍の兵舎でいつも通りの生活を送っている。
そして……朝倉宗治朗の拠点制圧から数日が経過した。
帝都東京の郊外にある海に近い墓場にて、礼二とレイチェルは彼の両親の墓まで足を運んでいた。
墓石には『神原家ノ墓』と刻まれており、礼二の家系に属する者の墓のようだ。
彼は合掌をしながら目を閉じる。
「やったよ…あなたたちの仇を取ったよ……」
諭すように礼二は墓に祭られているであろう両親に事後報告を行っていた。
声色は穏やかな感じはするが少し震えている。
両親のことを思い出すと今にでも泣き出しそうだ―――そう感じた礼二は両親のことを考えることを止め、別のことを考えようとする。
「泣きたい時は泣いていいんじゃない?」
水の入った桶と柄杓を墓の前まで持ってきたレイチェルは、彼を慰める。
だが、少年は目頭に溜まっていたであろう涙を堪えるように顔を上に向け深呼吸をして言った。
「いや、大丈夫だ。あの時に思い切り泣いたから……」
あの時というのは、礼二の両親が死んで翌日のことである。
軍の兵舎に住み始めた初日のこと。礼二は1度起きてから両親が死んでしまったことを現実と知り、思い切り泣いたのだ。その時、偶然部屋に訪れたレイチェルは彼を包み込むように抱きしめてくれた。
礼二はそれ以降、『泣かない』と決断した。
決断はあくまで彼の中でしたものであり、誰かに公言した訳ではない。礼二の中では、また1度泣いてしまえば、また弱い自分に戻ると感じたからだ。
レイチェルは柄杓で桶の中にある水を汲み取り、それを墓の上から垂らし始める。
「私もお祈りしてもいいかしら?」
「あぁ」
唯一残った家系の人間から許しをもらった彼女は、墓の前にしゃがみ込んで合掌をする。
「おや、君らも来ていたのか」
日本帝国軍の特殊部隊長であるクロード・アズベイルと補佐官のエリゼ・ラインが現れた。
「あら、大佐たち? どうしましたか?」
2人の気配に気付いたレイチェルは横目で見ながら尋ねる。
横に立つのは仕事場での上司に当たるはず人物であるなのに、目を合わせようとはしない。
「あの…フラッドさん…? せめて大佐に目を合わせるぐらいは……」
「中尉…構わないさ。今は仕事から離れていいじゃないか」
レイチェルの無礼な態度に対してエリゼは怒りを覚えたが、クロードはあまり気にしていない様子だった。
エリゼは口を尖がらせながら、手に持っていた花束を墓の前に添えた。
「あの、大佐。もしかしてここに来たのは私の両親の墓参りをするためですか?」
補佐官である彼女が花束を墓の前に添えるということは、クロードにその意志があるということだ。
なぜ彼が?―――そう感じた礼二はいつの間にか尋ねていた。
「今や君は、私の養子のような関係にあたる。子供の本当の親が墓で眠っているのなら弔うのが普通じゃないか? ついでにちょっとした挨拶だな」
クロードは残された子供の親になることに対しての挨拶をしに来たようだ。
彼とエリゼはレイチェルを挟むように墓の前にしゃがみ、合掌をし始める。
礼二は3人を背にして遠くにある海を眺めた。十数秒後、3人は合掌を終えて立ち上がる。
クロードは1度深呼吸をし、礼二に話し始める。
「さて神原、君はこれからどうするつもりだ?」
「えっ!?」
唐突な彼の問いに礼二は戸惑う。
『これから』とはどういうことを言っているのだろうか。
「特殊部隊の隊員として軍に残るのかと聞いているのだ」
「どういうこと?」
礼二は彼の言っていることがよく分からなかった。
なぜなら今、クロードが礼二の保護者になっているのは、軍に入ることを条件にしていたからだ。
その契約が生きているならば、そのまま部隊の隊員として働かせるだろう。
それなのになぜ……
疑問に思った礼二が首を傾げていると、クロードは困ったように答えた。
「あの作戦を指揮していて理解した。君はまだ残酷な世界を知らない方が良い無いのではないか、とな」
悔やむように彼は言った。
クロードの言いたいことは分からなくも無い。
いつでも死を隣り合わせにしている大人な軍人達に囲まれ、危険な任務を共に遂行していく。
いろんな人生を経験してきた大人たちならば良いが、人生についてまだまだ知らないことが多い中学生の少年にとってはあまりにも厳しい現実を突きつけることになる。
つまり、世界を知るのが早すぎると言いたいのだろうか。
少年の保護者となり、そして彼を動かす指揮官にいたクロードに何らかの変化があったように思えた。
冷徹な仮面に少し悲哀さを感じるような表情をしたクロードが見つめる中、礼二は彼に視線を向けて答える。
「いえ、軍を退役するつもりはございません。残酷な世界なんて、両親が死んでいるところを確認してから見ているようなものですし、そういうのは気にするところでは無いと思うんです。それに―――」
少年は、心を落ち着かせるように深呼吸をする。
ふぅ、と一息つくと、決意に満ちた目をしながらクロードに話した。
「俺は自分みたいな境遇の人を作りたくない。だから…俺自身の力で街の人たちを守る」
理想だらけな少年の宣言に、この場にいた他3人は呆気に取られる。
あり得ない―――頭の中で分かっていても、礼二の真剣な表情を見てクロードは少し微笑みながら―――
「よし、分かった。神原礼二一等兵、コードネーム『ダーク』、改めてよろしく頼む」
頭を下げながら礼二の入隊を承認した。
その様を見ていたレイチェルは少年に続き―――
「それじゃあ、私もこの部隊に居続けることにするわ。よろしくね、隊長さん」
「ありがとう、フラッド一等兵」
そのままレイチェルも部隊に居続けることが決定した。
礼二は体を墓に向け、下で眠る両親に対して新しい報告をした。
「父さん、母さん……俺は皆を守るために軍人になるよ」
決意に満ち溢れ、優しい声音で報告する少年を見て、周りにいた他3人の大人たちは見守っていた。
海の沖からやってくる波はとても緩やかで、一時の平和を感じさせる。
一難去ってまた一難と、軍人になった礼二の元に新たな問題が立ちはだかるだろう。
そんな困難な状況に立ち合わせても彼は戦い続ける。
背負うことになってしまった運命を未だ知らずに。
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この更新で1章分は完結となります。
次の更新からは第2章のお話です。
まだ続きます。




