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CODE-D  作者: ryu8
1章 終わりの始まり
16/67

1-15.獣人化計画(前編)

 『怪奇殺人事件』の犯人・朝倉宗治朗は拠点の奥へと進み行く。

 特殊部隊の4人はそれを追いかけようとするが、目の前には2匹の魔獣が立ちはだかっていた。

 それは普通の魔獣ではなく、彼が調整を施した改造魔獣だという。

 1匹は赤色の肌をした両腕が一回り太くなった魔獣。もう1匹は青色の肌に、背中には何かが付いている。

 2匹は体の中に溜まっている熱を吐きながら突撃の瞬間を窺っていた。

「グオオオォォォ!!!」

「来るぞ!!」

 魔獣達が特殊部隊の面々に突撃する気配を感じた遠藤は、全体に注意勧告をする。

 2匹は両サイドから攻めるようにレイチェルとアイラに襲い掛かる。

「!?」

 特殊部隊の面々はその場から散会し、敵の初撃をやり過ごす。

 レイチェルの方へと向かっていた青色の魔獣の背中に付いていた何かが動き出す。

 それは鳥が羽を広げるように動き、魔獣は地面を蹴って飛び始める。

「なっ…!?」


 今までの魔獣に無い行動を見て驚く特殊部隊の面々。

 赤の魔獣は宙に舞い上がり、口から赤い炎を吐き出した。

「おい! 魔獣の口から火が出やがったぞ!?」

 アイラは魔獣の予想外な行動に叫んでしまう。

 普通ならば炎は吐かないはずなのだが、宗治朗はそういう風に設定しているらしい。

 吐かれた大きな炎は勢いよく地面へ着弾する。周囲は一瞬にして炎の海となった。

 部隊の4人が着地した瞬間、青色の魔獣が炎の海から飛び出した。

 敵はアイラの元へと飛び込み、彼女の体当たりを仕掛ける。

「ぐっ!?」

 彼女は直撃の前に魔防壁を張って衝撃を和らげようとするも、耐え切れずに弾き飛ばされてしまう。

「フォース3!?」

 遠藤は彼女を心配そうに叫びながら向かおうとすると―――

「立ち止まれ!」

 アイラの叫び声が聞こえた。彼女が飛ばされた方向に立ち込めている煙が晴れると、彼女らしき人影と青の魔獣の背中が見えた。

 よく見るとアイラは青の魔獣の突撃を、2本の剣で抑えているようだ。

「こん…の…!」

 彼女は気合を入れて敵を押しのけて距離を空けた。

 それを確認した遠藤は、杖の先を魔獣に向けて言葉を紡ぎ始める。

「氷塊の粒子よ…一点に凝縮されし線となれ…凍結線(フリーズ・ライン)!」

 呪文名まで声に出されると、杖の先から青白い光線が照射される。

 光線は青の魔獣の背中に当たると、そこを中心として体が凍り付いていく。


「よし! これでデカイ一撃を……」

 アイラは両手の剣に魔力を注ぎ込むと、そこから青色の波動が纏った。

 しかし、魔獣は自身の体を震わせて纏わり付いた氷は砕いていく。

 動きを制限していた氷が解かれ、敵は唐突に動き出す。

「う、うそっ!?」

 アイラは攻撃を仕掛けようと、魔獣との距離を詰めていた。

 敵の急激な変化に嫌な予感を感じ、彼女は突進の勢いを落とそうとするも、落としきれずにそのまま魔獣の元へと向かい続ける。

 魔獣は彼女に体を向けたまま口を大きく開け、威嚇をし始めた。

「ちっ…!」

 あのままいけば彼女はあの口へとダストシュートされるだろう。

 礼二は両手で剣を構え、赤の魔獣の元へと走り出す。

 体の中の魔力を剣に込め、切れ味を増大させる。

「くらええ!!」

 剣で敵の脇を切るように振り上げる。

 甲高い金属音が鳴り響き、魔獣の体は剣を弾いた。

「なっ…!」

 魔獣の体はこんなに硬かっただろうか。

 今のように刃物に魔力を通すだけで簡単に斬れるはずだ。

 しかし、目の前にいる青の魔獣の体は傷1つ付いていない。

「こいつまさか……皮膚が硬くなっているの…?」

 レイチェルは自身の予想を呟く。

 彼女の言う通り、青の魔獣の皮膚は甲羅のようにごつく、半端な攻撃では弾かれてしまうほど頑丈なようだ。

 剣による攻撃を弾かれた礼二は手に痺れを覚え、1度剣を落とした。

「痛ってぇええええ!!」

 彼は痛みに耐え切れず叫んでしまう。

「ダーク! 1度退け!」

 遠藤の叫びによって正気に戻った礼二は、青の魔獣の元から身を退いた。

 彼が引いた先には、赤の魔獣が宙からのダイブの着弾点だった。

「ダーク!!!」

 礼二が危険な状況にあることに気付いたレイチェルは、彼の元へと走り始める。

「くっそ!」

 礼二は咄嗟に腕を赤の魔獣の方向へ差し出し、魔防壁を張る。

 その時、遠藤が横から魔弾を赤の魔獣目掛けて放っていた。

 弾は命中し、赤の魔獣は礼二の元から離れるように吹き飛ばされた。


「フォース3、一旦こっちに来い! 体制を立て直す!」

 アイラは遠藤の指示に従って、他の部隊の面々の元へと走り出した。

「よし、全員揃ったな? あの特殊個体の魔獣をどう倒すかについて考えようじゃないか」

 遠藤は他の3人が自分の元に集まったことを確認すると、ひそひそと作戦会議をし始める。

「状況として今、目の前に赤と青の魔獣がいる。赤は空を飛べて炎も吐ける。青はとても硬いところが特徴だ」

 遠藤は先程までの戦闘を省みて、敵の特徴についてあげる。

「どっちも厄介だな……」

 アイラは嫌そうな表情をしながら口元を歪める。

「そうかしら? 赤は炎吐いている間は完全に無防備よ」

「それは本当か?」

 驚く遠藤に対し、レイチェルは理由を説明し始めた。

「本当よ。炎吐く時に羽元から熱気らしきものが出ていたわ。体の中に熱が溜まるから放出しているように見えるわ」

「うそっ…!?」

 アイラは驚くように赤の魔獣を見つめる。しかし、レイチェルの言っていたところに何か変わっているところは見当たらない。

「仮にリリスの言っていることが正しいにしても、空にいる奴をどう捕らえるかだ。その算段は付いているのか?」

 遠藤は彼女に対抗策を求めるように言った。その言葉を予想していたのか、レイチェルは話を続けた。

「私かあなたで高火力の魔術をアレにぶつけるのよ」

 彼女はそう言いながら遠藤に指を差した。それを見たアイラは―――

「おいテメェ、上官に指差したり、あなたとか言ってじゃねぇよ!」

 レイチェルが行った先程の行動を指摘し始めた。


 確かに軍隊などの組織において、階級が上や下というのは存在する。

 本来であれば、レイチェルの態度はアウトであり、彼女は何らかの罰を受けているはずなのだ。

 その可能性を感じ取ったアイラは先に指摘を行ったのだ。

 しかし、今はそんな状況では無い。

「構わん、緊急事態だ。それで…私は何をすればいい?」

「炎を吐いている間に同時に遠距離魔術を仕掛ければいいわ」

 レイチェルは赤の魔獣を見ながら言った。

 彼女の考えに対し、礼二は一つ気づいたことがあった。

「二人で同時に仕掛けるのは分かったけど、青い奴はどうするんですか?」

「それはあなた達で抑えなさい」

 礼二の問いに対し、レイチェルは即答する。

 アイラは礼二を見ながら彼女に再確認を行う。

「私とこの新人が、あの青い魔獣を抑えろっていうの?」

「そうよ」

 レイチェルは平然とアイラに対して返答する。

 彼女の意見に賛同したのか、遠藤はアイラに指示を出す。

「フォース3、ダークと共に青の魔獣を抑えてくれ」

「…隊長が言うなら…了解。行くぞ、ダーク!」

 アイラは不機嫌そうに礼二の手を取った。 

「あ、ああ…ちょっと…!」

 礼二はアイラに連れられ、レイチェルと遠藤の前に出る。

 彼女は両手に持っている剣を構え、戦闘態勢に移る。

「おい、新人! 武器を構えろ!」

「は、はい!」

 礼二はアイラに尻を敷かれておどけてしまう。

 その様をレイチェルは、少し苦笑いで見つめていた。

「先程話した通りに動こう。全員、よろしく頼む」


 隊員全員の立ち位置を確認後、遠藤は作戦開始を告げる。

 部隊の前衛に位置する礼二とアイラは武器を構えて青の魔獣を待っていると、赤の魔獣からの火炎攻撃が飛んできた。

 前にいた2人はそれを左右に避けると、青の魔獣が礼二の元へと突進を仕掛ける。

 先程の突進よりも速度が速かったのか、彼は反応しきれずに剣だけで防御することになった。

「よし、青は2人のところに行った。私たちは赤を仕留めるぞ」

 遠藤は冷静に状況を判断し、戦力分断の指示を行う。

 一瞬だけレイチェルは礼二の方を見たが、すぐに彼の元へと顔を向けた。

「ダーク!」

 反対側にいたアイラは心配そうに叫びながら、彼の元へと向かう。

 礼二が青の魔獣の下敷きになっているような状態だった。

「ぐっ…!?」

 体を魔力で覆い固めていたからか、魔獣の重さで潰れることを避けることはできた。

 しかし、魔獣の口は礼二の顔にとても近い位置にあり、今にでも噛み千切られそうな勢いである。

「そこから…離れろおおお!!!」

 アイラは両手に持つ2本の剣でなぎ払うように、礼二の前にいた青の魔獣を力で押しどかした。

 魔獣は数メートルほど距離を開けるように飛ばされていく。

「おい、生きてるか!」

「はい、ありがとうございます」

 礼二は少しぐったりとしていたが、彼女に渇を入れられてシャキッとする。

 2人は吹き飛んだ青の魔獣を目の前にして体勢を立て直した。


 一方、レイチェルと遠藤は赤の魔獣が炎を吐き出した後の硬直を狙うように、移動しながら呪文詠唱を行っていた。

「「内に宿りし魔力よ…一点に収束し対象を破壊せよ」」

 互いに高火力魔術を発動しようと、術のイメージを固めながら立ち回る。

 赤の魔獣は少し辺りを飛び回ると、再び炎を下に向けて放ち始めた。

 その瞬間、羽元から熱が放出されて動きが止まる。

「今よ! 圧縮魔導砲ブラスティングバスター!」

圧縮魔導砲ブラスティングバスター!」

 レイチェルが持つ槍の刃先を中心と遠藤の持つ杖のから大きな魔力の塊が出現する。

 塊から赤の魔獣目掛けて濃度が圧縮された魔力砲が発射される。

「グギャアアアア!!!」

 2人が放った魔力砲が赤の魔獣に直撃する。

 空にいた赤の魔獣は、煙を上げながらふらりと自由落下していく。

 だがしかし、そのまま地面に落ちるかと思えば、踏ん張って落下を止めた。

 その瞬間を見たレイチェルは好機として捉え―――

「はあああぁ!!」

 手に持っていた槍を赤の魔獣の頭に突き刺した。

 不死と言われるほどの生命力の高さを誇る異界の魔獣。

 頭を突き刺してもなお騒ぎ立てるものかと思ったのだが、赤の魔獣はぐったりと活動を停止した。

「これで一匹目」

 レイチェルは確認したように呟く。

 赤の魔獣が完全に死亡したことを確認すると、頭から突き刺した槍を引き抜く。

「こちらはこれで終わりだな。後はあの2人の加勢をしよう」

 一通りの流れを見ていた遠藤は次の行動を指示する。

 指示の確認をしたレイチェルは青の魔獣を相手にしている2人を見つめた。

 礼二とアイラが交互に攻撃を仕掛けて、魔獣の動きを封じていた。

「分かったわ」

 レイチェルと遠藤は2人の元へと向かおうとすると、地響きを感じた。

「なんだ!」


<現場周辺に強大な魔力反応を感じられた。何があった!?>

 地響きに対して遠藤は驚くと同時に、イヤホン越しからクロードの声が聞こえてくる。

「分かりません。ですが、朝倉が何かを起こした可能性があります」

<ちっ…これ以上時間をかけるのは奴の思うつぼだな……>

 遠藤が予想を話すと、それを元に部隊長は次の行動を思案し始める。

 数秒すると、彼は次の行動を話し始めた。

<ダークとリリスは朝倉を追え。フォース1とフォース3は目の前にいる魔獣から片付けろ>

「待ってください! 新人2人にそんな役目は荷が重すぎます!」

 遠藤はクロードの考えを非難するように言った。

 それは当たり前だ。初めての出撃で最初から犯人を単独で追う役割を背負うのだ。

 そんな早くから大きい役割を与えていいものだろうか。

 遠藤がそう考えている内に、クロードは反論する。

<確かに犯人を追うことは初出撃の2人にとって荷が重いのかもしれないが、目の前の魔獣を任せっきりにするのも中々危険だとは思わないか?>

「…!?」

 言葉失った遠藤は少しだけ考える。

 意を決したように隊員たちに指示を出し始めた。


「フォース3は私とこの魔獣を抑える。ダークとリリスは朝倉を追え!」

 青の魔獣を相手にしていた礼二とアイラは一瞬だけ遠藤を見た。

「ダーク、青の魔獣の相手は私が代わろう」

 遠藤はそう言いながら2人の元へと近づいていく。

「よし、ダーク! 私の合図に合わせて交代するぞ」

 青の魔獣を抑えている礼二に対しアイラは次の指示を与えた。

 一方の礼二は敵の注意を引きつけていた。

「了解!」

 次の指示を確認した礼二は、戦線から離脱しようと機会を窺う。

 しかし、青の魔獣は彼から目を離さず、間合いを離そうとしてくれない。

 すると横から敵に対して魔弾が飛んでくる。

「ほらほら、相手は俺だ」

 遠藤が青の魔獣に気を引かせようと魔弾を発射しているようだ。

 1発、2発とガンガン撃たれて敵の視線は彼に向けるようになってきた。

「こっちは引き付けるから早く朝倉のところに行ってこい!」

「はい、ありがとうございます!」

 遠藤は礼二を戦線から離脱させるように誘導した。

 新人の1人が離脱したのを確認すると、彼はそのまま前に出た。

 魔獣は彼に襲い掛かろうとするが、それはアイラによって塞がれる。

「フォース3は前衛を頼む。私が支援しよう」

 礼二は完全に魔獣の相手が代わったことを確認すると、この場を後にした。


 ◇ ◇


「いよいよ…ね」

「あぁ……」

 礼二とレイチェルは拠点の奥まで来ていた。

 恐らく奥の扉を通ると、その先には朝倉宗治朗がいることだろう。

 礼二は目の前にあった扉に手を掛ける。

「開けるよ?」

 礼二は隣にいたレイチェルに問いかける。

 彼女は問いに対して笑顔で答えた。

「いつでもいいわ」

 了承を得た彼は目の前の扉を開いた。


 扉を開いた先には、先程いた部屋にあったカプセルと似た容器があった。

 中には魔獣らしき生物が入っていて、気泡が下から上がっていくのが分かる。空気が定期的に供給されているようだ。

 何かの研究をしているのだろうか。

 礼二はそう感じながら周りを見渡すと、周囲には研究機材らしきものも見つかった。

「…気味が悪いわね……」

 レイチェルは気味悪そうな表情を浮かべながら言った。

 彼女が気味悪がるのも無理は無いだろう。よく見れば、研究機材以外にも魔獣の腕や足などの四肢が辺りに飾られている。

「狂ってやがる……」

「狂っているとは心外だなぁ……」

 礼二が部屋の中を見ての感想を漏らすと、重く低い声が聞こえてきた。

 部屋の奥から朝倉宗治朗が現れる。

 彼は自身の研究を見て気味悪がっている特殊部隊新人の2人を見て溜息をつき始める。

「君らは僕の研究の良さを全く分かっちゃいない……」

「こんな気味の悪い研究に何の良さを感じればいいんだよ」

 自身の行動に自惚れているように見える。

 礼二の呆れた一言に宗治朗は答える。

「君らはさ、不死になりたいとは思わないのかい?」

 唐突な問いに礼二は戸惑う。

 その戸惑いを察したのか、彼は諭すように話し始めた。


「不死。

 それはこの世界に生き続ける権利!

 この世界に生きる生物の階層(ヒエラルキー)の頂点にある存在だ!

 全世界に存在する愚者どもを支配し、全てを掌握することができる……

 魅力的な研究なのに、なぜ誰も賛同しないのだ……」

 演説の如く話していた宗治朗は、自身の理想が他者に反対されていることに嘆く。

「あー…ダメね、この人は」

 レイチェルは演説のような話を聞いて、気の抜けたように呆れた顔をしている。

 それを横に礼二は彼の研究の問題点について話し始めた。

「あなたの研究が非難されているのは、研究方法についてだと思いますよ」

「ん、それはどういうことだい? それになぜ君は研究の詳細について知っているんだい?」

「あなたが以前、魔術協会に出した論文を1度目を通しているからですよ」

 礼二の言う論文とは、作戦確認の際にクロードが話していた『獣人化計画』のことである。

 部隊長からこの資料を渡され、特殊部隊の隊員は全員、論文の内容を知っている。

 礼二たちが見た論文には、研究の目的、研究内容、研究方法について書かれていた。

 彼が問題だと話している研究方法にはこう書かれている。


 ◼︎研究方法

 『魔界にいるとされる魔獣の体液を人体に投入されると、魔獣の力を得る』

 とある文献にはそう書かれてあった。


 この研究を始めるにあたって、まずは文献に書かれていることを試さなければならない。

 最初は人体に魔獣の血を与えて、どんな影響が出るかの確認を行う。

 その後は魔獣か人体に何らかの調整を加えていく。


 要は人体実験を行うといったところか。

 これを確認した魔術協会の人たちは宗治朗が非道的なことを行おうと考えていることに気付き、彼を協会から削除することを決意したのだろう。

「ほう…そこまで知っているのなら話が早い。君らはこの研究の素晴らしさが分からないのか?

 研究が上手くいけば不死身になれるんだぞ?

 この世界を掌握できるチャンスができるんだぞ? それを手放すバカはどこにいる」

 再び演説し始める宗治朗を見て、礼二は1つ疑問を感じた。

「あんたは結局、何がしたいんだ?」

「ん、それはどういうことだ?」

 礼二の呟きを聞き取った宗治朗は、彼の言っていることを理解できずに尋ねていた。

 苛立ちと侮辱を受けたような目で見つめる宗治朗に対し、礼二は冷たい声色で答える。

「あんたは研究を完成させたいのか、世界を掌握したいのか、どっちなんだって聞いてるんだよ」

 時間が掛かるかもしれないが、問題であった研究方法さえ変えれば誰にも邪魔をされず、誰にも批判されなかったのかもしれない。

 だがしかし、宗次朗はあえてそうしなかった。

 礼二の目から見れば、今すぐにでも研究を完成させたい理由があるように思えたのだ。


 少年の言葉を聞いて、目の前のマッドサイエンティストは目を見開いた。

 顔を震わせ、歯を噛み締めて苛立ちを我慢しているように見える。

「………」

 数十秒経ってもマッドサイエンティストは答えない。

 彼の態度を見兼ねたレイチェルは煽るように言った。

「あら、彼の言った事は図星かしら。まさか……本当の目的も分からずにこんな非道な研究を続けていたの?」

 彼女の容赦の無い追い討ちを受けてもなお、宗治朗は答えようとはしなかった。

 周囲に沈黙が走り始めて、さらに数十秒経過した。

<ダークとリリス。こいつに構わず研究材料を破壊しろ。時間の無駄だ>

 礼二とレイチェルの付けていた片耳のイヤホンからクロードの声が聞こえてきた。

「了解です。周囲の研究材料を破壊します」

 礼二はクロードに対してそう答え、レイチェルと共に辺りにあった研究材料の破壊活動に移ろうとした。

「や…ろ…」

 礼二は剣を、レイチェルは槍で横に薙ぎ払おうとした瞬間―――

「やめろやめろやめろやめろ」

 狂ったかのように宗治朗は体を震わせながら呟いていた。

 両手を両二の腕にクロスさせるように掴み、自身の身を周囲から守るように思えた。

「ああ……あああぁぁぁぁぁ!!!!」

 宗治朗は頭を両手で抱え、髪を激しく掻いた。

 両手の動きはどんどん激しくなり、辺りには刺激に耐えられなかった毛髪が下に落ちていった。

「そうだよ! 私がこの研究に手を出したのだって、周りのクソ共を殺し尽くすためだよ!」

 彼は豹変したかのように雰囲気と性格が変わった。

 先程とは違った余裕の無い態度を見て、礼二とレイチェルは彼に視線がいってしまっていた。

 宗治朗は体を左右に揺らしながら不気味な微笑を浮かべながら、白衣のポケットから注射器を取り出す。

「…ヒヒッ……ヒヒヒヒヒ……これで終わりなら、最後の実験を始めよう…」

 マッドサイエンティストは手に持っていた注射器を首筋に当て、ピストンを押した。

「あんた、今何を打ったんだ…?」

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