1-14.突入
夜の7時10分前。
礼二とレイチェルが遠藤からの隊列レクチャーが終わり、作戦決行の時間になった。
特殊部隊の実行隊は、軍の駐車場にて突入に必要な装備を持って集合していた。
「やっとこの時がきたか……」
礼二は夜闇を照らす月を眺めながら呟く。
親を魔獣に殺されて数週間。
軍に入ってからスケジュールぱんぱんの訓練メニューをこなし、魔獣をこの地域に放った犯人を捕まえることだけを考えてきた。
『怪奇殺人事件』の犯人を捕まえられることを思うと心がざわめく。
「あなたが望んでいた状況よ。どう? 今の心境は」
「とてもワクワクするね」
部隊全体から少し離れた位置にいた礼二の元へとレイチェルが近づいてきた。
彼女は彼の元で話を続ける。
「ねぇ、礼二。私はあなたに魔術の世界へと誘ってしまったことを後悔しているんだけど、礼二はどう感じてる?」
「え…今はなんとも思っていないけど……」
「そんなの嘘……今のあなたは復讐に取り付かれて何も感じていないだけ……いつも必死な表情で訓練しているけど、時々悲しそうな表情をする」
隣にいたレイチェルは、礼二の着ている軍服の裾を掴みながら悲しそうな表情をする。
彼女は自分自身の手で、力の無かった少年を魔術師に変えてしまったことを後悔しているように見えた。
しかし、礼二の考えは違っていた。
「確かに俺は魔術師になって良かったのかって考える時はあるよ。でも、魔術を扱えるようになってから毎日が楽しいんだ。冗談でもなんでもなく」
「なんでそう感じるの?」
「なんだろ……毎日が辛くて現実逃避に使っていた妄想の設定が現実になったことかな……俺は英雄に憧れていたんだ」
自身の考えをレイチェルに伝える。
彼女は悲しげな表情からふんわりと穏やかな表情へと変えていった。
「おーい! 新人2人共、早くこっちにこーい!」
チャラけたような大声を響かせるミハエルが新人の2人を呼んでいた。
「そろそろ行くか」
「えぇ」
礼二とレイチェルは肩を並べて、先輩隊員の元へと向かっていった。
夜の7時。作戦決行の時間だ。
特殊部隊による『怪奇殺人事件』の犯人・朝倉宗治朗の本拠地へと潜入を行うことになる。
今は軍の駐車場にある装甲車にて、作戦の最終確認が行われていた。
「まずは部隊の編成についての確認だ」
黒髪の軍人・遠藤俊介は隊員の輪の中心になって、確認を行っていた。
彼は左腕に巻かれた腕時計のような形をした情報端末から、部隊の編成情報を表した。
「あの…部隊の装備でって渡された奴あるんですけど、これって何ですか?」
礼二は遠藤がスムーズに操作していた情報端末に疑問を抱いた。
この疑問には左隣にいたミハエルが回答してくれた。
「これは『PDAバンド』と言って、リストバンド型の携帯情報端末なんだよ」
ミハエルは『PDAバンド』についての説明を続ける。
主な使用目的は任務中の作戦についての情報を見直したり、仲間や司令室に連絡を取るための端末だという。
ミハエルから大まかな説明を受けた礼二は、実際に操作をしてみて感嘆の声を上げる。
「おぉ……」
リストバンドに取り付けられた画面に触れていろいろ試してみる礼二。それを見た遠藤は礼二とレイチェルに対してイヤホンマイクを差し出した。
「これは…?」
「これは司令室との通信を行うためのものだ。報告を行うときはイヤホンのボタンを押しながら。マイクに向けて声を入れると司令室に繋がる」
遠藤は実際に操作を行い、2人に使い方を見せる。
「あー、あー、マイクテス、マイクテス」
<フォース1の声は聞こえるぞ。マイクテスト終了>
イヤホンの奥から、聞きなれた上司の声が聞こえてきた。
<神原一等兵とフラッド一等兵、2人もマイクテストを行ってくれ>
司令室にいるらしい特殊部隊の部隊長・クロードは、新人隊員2人に対してマイクテストの指示をする。
礼二とレイチェルがイヤホンマイクの動作確認を一通り終えたのを見た遠藤は、2人に対して新たな動作確認をするように指示をした。
「イヤホンマイクのテストは終わったな?
次はPDAバンドだ。メニュー画面の『リンク』ボタンを押してくれ。あと君もな」
礼二と『君』といわれたレイチェルは、遠藤の指示通りに端末の操作を行った。
ボタンを押すと、隊員全員の顔写真が出てきた。
「ここに私達の顔写真と名前があると思うのだが、その中から私を選んでくれ。その後は『相手の画面共有』を押して欲しい」
そのまま指示通りに画面にタッチする。
「今君の端末に移っている画面は私の画面だ。そのまま部隊の人員確認をするぞ」
遠藤は全員が自分の端末と画面共有が出来ているかどうかを確認後、部隊の人員確認を行った。
「私にロンド軍曹、ハン三等兵、シュー軍曹、後は新人の2人だな」
聞き覚えの無い名前が2人見つけた。
恐らくまだ紹介されていない2人であろうと考えた礼二は遠藤に聞いてみることにした。
「すみません遠藤さん。ハンさんとシューさんってどなたですか?」
遠藤は少し考えると、思い出したように答える。
「そうか…君らは隊員全員の名前を把握していなかったな。作戦前に紹介しておこう」
彼の言葉を聞いて、他の隊員は礼二とレイチェルの方へと視線を向けた。
状況を察したのか、ミハエルは先導して自己紹介をし始める。
「そんじゃ、俺からいこうか。俺はミハエル・ロンド軍曹でコードネームは『フォース2』だ。よろしく!」
ミハエルはロンゲの茶髪をかきあげながら爽やかに自身を演出する。
次に前に出たのは坊主頭の日系人。
「僕はチェイン・ハン三等兵です。コードネームは『フォース4』です。よろしくお願いします」
最後に出たのは栗色短髪の北米女性。
「私はアリア・シュー軍曹よ。コードネームは『フォース3』よろしく」
ミハエルを除いた2人は質素な自己紹介だった。
「あの…すいません、コードネームって何ですか……?」
礼二は隊員が最後に話していた『コードネーム』に疑問を持っていた。
それに答えるべく遠藤は口を挟む。
「それはこれから君達にも教える予定だったんだよ。すまない、説明不足だった」
「い、いえ…あまりお気になさらず……」
申し訳無さそうにする遠藤を見て礼二は気をつかう。
黒髪の日系軍人は気を取り直して、コードネームについての説明を始める。
「コードネームとは作戦中に使う名前のことだ。我々、特殊部隊の人間の本名で呼んでいたら、身元が判明してしまい、身内に危険が及ぶ可能性がある。その問題を失くすため、一人一人にコードネームを与えている」
遠藤はPDAバンドを1度確認して、説明を続けた。
「ちなみにコードネームは大佐殿が考案してくださる。君らに与えられているコードネームを今ここで発表しよう。まずはレイチェル・フラッド一等兵」
「はい」
遠藤に呼ばれたレイチェルはやる気の無さそうな返事をした。
「君には『リリス』と名付けられた。作戦中はそう呼ぶから覚えておくように」
「分かりました」
彼女が無機質な返事をすると、黒髪の日系軍人は礼二に目を向けた。
「次に神原礼二一等兵」
「はい!」
礼二は気合の入れた声で返事をする。
先程の彼女との違いに感心した遠藤は微笑みながら彼に与えられたコードネームを伝えた。
「君には『ダーク』と名付けられた。よろしく」
「えっ…?」
礼二に与えられたコードネームを聞いて、レイチェルは一瞬だけ彼に顔を向けた。
彼女は驚愕の表情を浮かべたまま、彼を見つめる。
なぜその名前がコードネームになったのかと言わんばかりの目で礼二に訴えているように見える。
しかし、それは礼二自身にも分からない。
「君らは何見つめあっている。話はまだ終わっていないぞ」
遠藤にそう言われたレイチェルは我に戻った。
辺りを見渡すと、他の隊員はあまり礼二とレイチェルを見ないようにしていたが、ミハエルだけはがっつりと目に焼き付けていた。
「へぇ……お前らそういう関係……?」
「違う!」
「違うわ!」
息をピッタリ合わせて2人は否定する。
その様を見てミハエルはにやりと口角を上げる。
「やっぱりお前ら……痛でっ!?」
そのままからかい続ける予定だったらしいミハエルの行動は遠藤の脳天チョップにより遮られる。
「無駄口を叩くな。話を進めるぞ」
「失礼しましたー…曹長どのー…」
悪びれた様子が見られないミハエルに呆れて何も言えない遠藤。
考えを切り替えた彼は話を進める。
「一応言っておくが私は『フォース1《Force1》』だ。覚えておいてくれ」
紹介とコードネームについての説明が一通り終えたことを確認した遠藤は、作戦の確認を行う。
「神原とフラッドは隊員の名前を把握したところで、作戦の確認を行おう。まずこれを見てくれ」
PDAバンドに表示されたのは高坂市の海沿いにある港周辺の地図。
ミーティング室で見たような流れで一部分が縮小される。
「今回、我々が潜入を試みるのがここだ」
縮小率が拡大された地図に赤くマークされる場所が矢印で示される。
遠藤は続けて説明する。
「港にある廃工場の一つらしい。調査員によれば、他の出入り口と窓などは全て封鎖されてしまっているため、正面からの突入となる」
なんだろうか…作戦というよりは正面突破をすることへの確認にしか聞こえない。
礼二がそう感じた瞬間―――
「おい待て…正面突破する気かよ…!?」
他の隊員が感じているであろう疑問をミハエルは先導して伺った。
遠藤はそれに答える。
「仕方ないではないか。本拠地の廃工場は正面以外は封鎖されているそうだぞ。無理にこじ開けるとなれば隠密に潜入などできない」
ミハエルは顔を崩しながら呆れる。
作戦と言われると少し変わった潜入をするのかと思ったのだが、そうでも無い様子だ。
「作戦の確認は以上だ。隊列については装甲車の中で話し合おう」
遠藤は作戦の再確認を終え、隊員全員が装甲車の中に入り込んだ。
◇ ◇
軍敷地の駐車場から出発して30分が経過した。
礼二とレイチェルの新人を含めた特殊部隊は、朝倉宗治朗がいると報告されている拠点の前に辿り着いた。
全員は装甲車から出て自身の得物を準備する。
「よし、これより怪奇殺人事件の犯人・朝倉宗治朗の身柄確保作戦に移る。全員出撃準備はいいな?」
遠藤は特殊部隊の隊員全員の前に立って鼓舞をし始める。
その様を隊員全員は見守っていた。
「作戦の重要項目は犯人の身柄確保にあるが、全員生きて帰ることを優先して作戦遂行にあたってくれ。特に新人の2人は深追いはしないように」
彼のスピーチを聞いて隊員1人1人の顔が少し微笑んだように見えた。
全員微笑みながら無言で頷く。
「総員、突撃する!」
あまり周囲に響かないように声は小さく、低い声で号令を掛けた。
時刻は夜の7時30分。特殊部隊の制圧隊による身柄確保作戦の幕開けだった。
港近くの廃工場前。
闇夜に包まれながら月明かりに照らされている廃工場は、心霊スポットのような雰囲気を醸し出していた。辺りはとても静かで、聞こえるのは波止場に当たる波の音だけ。
特殊部隊の面々は拠点の10メートル前に辿り着いていた。
「うーん…出入り口は見張りらしき奴は置いていないんだな……」
近くにあった大きなコンテナの陰に隠れながら、ミハエルは出入り口前の状況を探っていた。
彼らのいる地点と拠点の10メートル区間は見渡す限り何もいない。
「…何もいないのか……」
ミハエルの横で疑いながら呟く遠藤の姿があった。
2人は何をしているんだろう―――疑問に感じた礼二は質問する。
「あの…今は何をやっているのでしょうか?」
「あぁ…これは遠目で見ていて、敵の姿がないかの確認だよ。今は居ないのだが、我々が近づいたら何らかの罠が作動する可能性もある」
遠藤は礼二の質問に答えた。
要は安全確認というところか―――礼二はそう感じながら納得する。
遠藤は少し考えると、近くにいた隊員全員に告げた。
「皆、今ミハエルと拠点を遠めで見てみると、見張りらしき者はいない。だが、何らかの罠が仕掛けられている可能性もある。そのまま脇から突入するから罠に気を付けながら進んでくれ」
彼は拠点を正面に体を向けると、後ろの隊員に向けて『進め』のハンドサインを送る。隊員はコンテナの壁を這うように脇から進み始めた。
右から遠藤とチェインと礼二、左からミハエルとアイラとレイチェル。
左右に3対3で別れて出入り口に向かう。
少しずつ進んでいくも何も起こらないところから、遠藤の悪い予想は当たらなかったと誰もが思った。
だがしかし、こんな都合の良いことは無かった。
出入り口まで残り3メートル。
[侵入者を感知。迎撃プログラムに移ります]
どこからか機械音声が聞こえてきた。
音声が聞こえた瞬間、隊員全員は体をビクリと反応させる。
「ちっ…やはりトラップはあったか……!」
遠藤は吐き捨てるように言った。続けて彼はPDAバンドを使用して隊員全員に指示を出す。
[全員、合流するぞ。1度中央に集まれ!]
装着している片耳のイヤホンから遠藤の指示が聞こえる。
礼二は、先導する遠藤の後ろに付いていくように道の中央へと向かった。
ほとんど同着で反対側にいたメンバーとの合流に成功する。
「ちっ……何が起きるんだ…」
ミハエルは吐き捨てるように言った。隊員は皆、緊迫した顔で周囲を警戒する。
すると、罠が正式に作動した。
部隊を囲むように周囲から魔獣が下から現れる。
「グォォォォ!!!」
魔獣は威嚇するように特殊部隊に鳴き声を上げる。
数は…2…4…6…10……
レイチェルとの魔獣狩りで10匹近くと戦ったことならあるが、それを軽く超えるくらいの数がいた。
礼二を含めた全員は自身の得物を構えて、魔獣の動きを探る。
「こちらの魔獣、動きます!」
チェインは叫びながら全体に魔獣の動きを周知した。
「こっちもよ!」
アイラも同様に叫ぶ。
魔獣共は何やら互いにコミュニケーションをとっているらしく、飛び出すタイミングを計っているように思えた。
「こっちは飛び出してくるぞ!」
ミハエルが見ていた方向にいた魔獣は周りの空気を読まずに飛び出していった。
部隊の全員は慌てず冷静に対処する。
「全員、散開!」
遠藤の指示に従って礼二達は単独行動に出る。
この瞬間を狙っていたかのように、周りの魔獣達は一斉に襲い掛かってきた。
「グォオオオオオ!!!」
単独で動くことになった礼二も同様に襲われる。
前までの彼ならば怯えていたところであったが、今の彼は違う。
礼二は虚空から現れた軍装備である『魔導剣』を手にして両手に携え、魔獣が動くのを待つ。
右、左、正面に動くのか…魔獣と礼二との間には緊迫な空気が漂っていた。
緊張から溢れてくる汗が額から滴る。礼二の頬から垂れた雫が地面に落ちた瞬間、魔獣は動き出す。
「ギシャアアアア!!!」
3匹同時に左右と正面から向かってくる。礼二は左手を正面に出し、魔力を広範囲に広げて魔防壁を精製する。
思い切り壁にぶつかった魔獣3体は一瞬倒れるが、すぐに立ち上がって目の前の壁を攻撃し続ける。
「魔獣がこちらに3体来ています!」
全員に位置情報を共有すべく、大声で周知する。
周りに目配せをすると、他の面子も礼二と同じように魔防壁で魔獣の侵攻食い止めていた。
「さて…そろそろいいかな」
遠藤はいつの間にか手にしていた魔導杖を両手で掲げ―――
「雷よ…我が祈りに応じて暴虐せよ…」
自己暗示の如く、周囲へと言霊を響き渡らせる。
大気中にパチッと微量の電撃が走る。
「電撃大気!」
彼の叫びと共に大気中に電撃が走る。
周囲にいた魔獣達に電撃が走り、体を焦がしていく。
「グォオオオオオ!!!!」
断末魔の叫び声と共に体が焼けていき、煙が立っていく。
遠藤を中心に立てられた魔防壁の外側にいる魔獣達の体の色は次第に黒ずんでいった。防壁を攻撃していた魔獣も抵抗する力が無くなって倒れていく。
遠藤は周囲の敵が戦闘不能になったことを確認すると―――
「総員、防壁解除!」
部隊全員へと指示を出すと、再度警戒する。
初めて精製や変化以外の魔術で魔獣を撃退した瞬間を見た礼二は、感嘆の声を上げる。
「凄い破壊力だ……」
遠藤が発した魔術の破壊力を見て驚く新人に気付いたミハエルは、彼に説明をした。
「フォース1の魔術の破壊力は、部隊内でも一番秀でているからな」
周囲の魔獣を一瞬にして仕留める様を見て、礼二は納得した。
「次行くぞ」
声と共に部隊を先導して足を進める遠藤。
彼はそのまま出入り口を塞ぐ扉に手をかけた瞬間―――
「ぬ…これは…」
驚いたような声を挙げるチェイン。声のした方向へと視線を向けると、そこには新たな魔獣が下から出現していた。
「えっ!? 嘘…」
それを見た礼二は驚き、遠藤は全体に指示を行う。
「全体、急いで入り口に入り込め!」
彼が隊員を誘導するように動き始めると、ミハエルは提案を行う。
「いや、ここは俺とチェインで引き受ける! 他のみんなは先に行け!」
ミハエルは隣にいたチェインを引き込むように入り口から離す。
チェインがその場に留まりたくないと訴えるように手を伸ばそうとした瞬間―――
「分かった、ありがとう。私たちは先に行くぞ」
遠藤はミハエルとチェインにこの場を任せて、他の隊員を拠点内に入るように誘導した。
◇ ◇
特殊部隊の4人は拠点内へと侵入する。
内部は一方通行の巨大通路で端には魔獣らしき生物が格納されたカプセルがあった。
「こちらフォース1から司令部へ。犯人の拠点内に辿り着きました」
<そうか、隊員の状況はどうだ?>
片耳に付けているイヤホンから大佐の声が聞こえてくる。
遠藤は隊員の人数を確認するように見回し、口元にあったマイクに向けて答えた。
「現在、私以外ではフォース3、ダークとリリスが拠点内にいます」
彼はマイク越しにいる大佐に対して現状の報告を行った。
<了解した。回線はそのままオンにしていてくれ>
状況を把握するためなのか、司令部との通信をオンにするよう指示を受ける。
部隊の面子は周囲を警戒しながら敷地の奥へと進んでいく。
辺りは真っ暗で青白く光っているカプセル内の光がほんのりと照らされている。
数分ほど奥へと進んでいくと、カツンと何者かの足音が聞こえた。
音に反応した特殊部隊の4人は、自身の武器を構えなおす。
「ようこそ、日本帝国の異端な犬達」
冷たい声が敷地の奥から響き、こちらに向かってくるのを感じた。
現れたのは白衣を纏う飄々とした体型の男性だった。
「貴様が朝倉宗治朗だな? 『怪奇殺人事件』の容疑者として同行を願いたい」
目の前に現れた男に対して遠藤は告げる。
「はは…ふはははははっ……! 来いと言われて来るバカがどこにいますかね」
男は腹を抱えながら笑い始める。
少しの間笑い始めると、微笑みながら部隊の面々を見つめる宗治朗がいた。
「はぁ…君らは本当に愚かだよ」
「何を言いたい?」
人を見下すような態度をする宗治朗を見て、苛立ちを隠せないでいる遠藤がいた。
彼の苛立っている様を楽しむように容疑者は答える。
「今日は記念日だ…君たちみたいな何も分からない愚者に邪魔をされながらも、2年費やした僕の崇高な研究は完成を迎えた……」
宗治朗は両腕を大仰に広げながら天井を見上げる。
顔は下半分からしか見えなかったが、肩を震わせながら笑っていることに気付いた。
「もう邪魔なんて関係ない…終わったんだ…後は実験するだけ……」
高まる興奮を抑えながら冷静に言葉を紡ごうとするマッドサイエンティストがここにいた。
彼の感情に呼応するように周囲に魔獣が発生する。
「光栄に思いたまえ。君らは実験体として僕の手ほどきを受けた魔獣と戦ってもらう」
「魔獣を調整だと…! そんなことありえん!」
遠藤は声を張り上げる。
彼をあざ笑うかのように宗治朗は話を続ける。
「できるんだよ…それが。こいつらは僕の魔術の虜になっていてね。今や僕の操り人形なのさ……」
マッドサイエンティストは魔術で魔獣達を動かしているという。
この男の言っていることが本当ならば、魔獣の出現頻度、位置をコントロールすることは容易いだろう。
そんなことは可能なのか―――礼二がそう考えている内に、2匹の魔獣は全身を表した。
一匹は青色の肌をした両腕が一回り太くなった魔獣。もう一匹は赤色の肌に、後ろには何かが付いている。2匹とも普通の魔獣とは違った形をしていた。
「ようやくベールを脱ぐことができたねぇ…ご飯の時間だよ」
宗治朗は特殊部隊の4人に向けて不気味な微笑みを送った。
彼の言葉に答えるように、2匹の魔獣は部隊の4人に目を向ける。
「グルルゥ……」
体の中は暑いのか、2匹の吐息からは煙が出ている。
「何があるっていうんだよ……」
状況に困惑を示しているのはアイラだ。彼女は声を少し震わせながら怯え始める。
新たな魔獣の存在に恐れを抱いているのだろうか。
「新しい魔獣を生み出す人がいるなんて飛んだ狂人ね」
レイチェルは少し引いたような口ぶりでマッドサイエンティストに対して呟いた。
隊員の一人一人が違った反応をする中、宗治朗が調整した改造魔獣が動き出す。
「総員、来るぞ!」
遠藤は魔獣が接近する気配を感じ取り、全員に対して通達する。
改造魔獣に襲われようとしている特殊部隊の面々を背に向けながら宗治朗は言った。
「さてと…完成したにしても、まだ調整が残っていてね…先に行かせてもらうよ」
彼は1人、施設の奥へと進んでいく。
「っ…!? 待ちやがれ!?」
礼二はただ1人、犯人を追いかけたいという気持ちが強すぎて、いつの間にか体が動き出そうとしていた。遠藤は早まった行動をしようとする新人の肩に手をあてて進行を止めた。
「待てダーク! 今の状況で深追いは危険すぎる!」
「っ…!?」
自身に蠢く憎悪と危険な状況の対処に天秤をかけ、対応が揺らぐ礼二がいた。




