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CODE-D  作者: ryu8
1章 終わりの始まり
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1-10.迫り来る恨み

「もう少し…もう少しなのに……」

 大きめなカプセルと研究資材が散らかる暗い部屋の中で、研究の進みに苦難している1人の科学者がいた。

 彼の名前は朝倉宗治朗。10年前に世界の裏にあるといわれる魔術の教育機関・魔術協会を主席で卒業したエリート魔術師である。彼は在学中に異世界に存在する魔獣の生命力に着目し、研究のテーマとして扱った。全ては自分自身に魔獣の力を取り込み、不死の肉体を得るために。


 現在、彼が進行している研究プロジェクト『獣人化計画』。

 魔獣の力を人間に取り込むための研究である。必要な物は人の血肉を喰らった魔獣。

 なぜ人の血肉を食べた後でなければならないかといえば、魔獣の血を人間に慣らすためである。

 実験初期、近くにいた人間を誘拐して人体実験を行ったものの、素体となった人間は魔獣へと変貌してしまった。変身後は観察のために生かし、言語などの意志伝達は可能かどうかを調べてみるものの、獣人となった瞬間には理性が消失してしまったことを確認した。

 初回の人体実験はこれで幕を閉じる。今は2回目の人体実験を行うために街の各所に魔獣を放ち、人肉を食べさせて回収している。回収した魔獣は研究所で殺害し、得られた血液を専用のカプセルへと移す。

 そうやって集められた血液を丁寧にブレンドしていき、次の人体実験の準備を進めている……はずだった。

 あの女が現れるまでは。


 実験の材料採取現場として選んでいた『高坂町』にて、魔獣を狩る魔術師が現れた。

 彼女の名はレイチェル・フラッド。この世界に魔獣が初めて現れたと言われている100年前から存在している金髪の魔術師だ。なぜ彼女がここにいるかは不明。

 しかし、あの女が材料集めのために放っている魔獣を狩り続けるのはとても厄介だ。

 さらに厄介なことに、彼女に次いで新たな魔術師が現れる。

 彼の名は神原礼二。魔術師としては無名らしく、最近になって魔術師としての才能を覚醒したようだ。現場に派遣した助手からもらった映像を見ると、近くにある中学校の学生らしい。普通の生活からこの世界へと手を伸ばした半端者か。

 彼もレイチェル同様に、街中にいた魔獣を狩りつくしている様子だ。

 このままでは魔界に手を伸ばして手に入れた魔獣共の肉体を生かせずに徹底的に駆られてしまう。

 この現実を知った宗治朗は憤怒する。


 なぜ崇高な研究を邪魔するのか。

 私は魔術協会を主席で卒業したエリートなんだ。途中から魔術の世界に入ってきた半端者に邪魔されるなどとても腹立たしい。むしろ研究の肥やしとなれ。

 協会で成績トップにあり続けた彼にとっては、魔術に目覚めたばかりの少年に研究の邪魔をされるのは我慢ならなかった。

 宗治朗の恨みは、対象をこの地で狩り始めたレイチェルから魔術に目覚めた礼二へと移っていく。


 この世界に入るということの意味を教えてやろう。

 宗治朗は少年が戦っている様を映した映像を見ながら不気味に微笑む。

 少年に注目しながら彼は呟いた。

「今の私の苦しみを君にも味わってもらうよ…神原礼二くん……」


 ◇ ◇


 特殊部隊隊長クロード・アズベイルから入隊の誘いを受けて2日が経過した。

 時刻は夜の8時。礼二は魔獣狩りを終えて、家路につきながら入隊をするか否かについて考えていた。


 部隊への入隊の返事はすぐに出してくれなくても問題は無い。自分の人生を決めるものだからな。ただ、1週間で答えを出して欲しい。


 隊長にはそう言われ、礼二は答えを決めかねている。

 まさか軍隊に誘われてしまうとは……

 それ以前に軍隊に魔術師がいることに驚きだ。自分が魔術師でなかったら、この部隊があるということにも気付かなかった。

 魔術は表立ってはいけない、とレイチェルが話していたことからすると、恐らくあの部隊の存在は秘匿情報なのだろう。彼らが礼二に存在を知らせるということは、どうしても入隊させたい意志が見えてくる。

 入隊することになれば手厚い歓迎を受けるだろう。

 もとより魔術師の絶対数は少ないらしく、軍隊に力を授ける人自体もさらに少ないらしい。

 確かに仕事で使うよりはプライベートで使った方がいろいろと動きやすそうだ。

 入隊しないと決めた場合は、魔術をとてもくだらないことに使いそうだ。

 例えば体全体に魔力を覆わせて透過率を変化させて透明人間になるとか。

 その後の行動がとても犯罪的な匂いがして怖い気もする。

 礼二は入隊しない時の魔術の使い方について妄想する。

 次に入隊した時の魔術の使い方についてイメージし始めた。

 まずは体力を増やすことからかな……

 軍隊に入りたての頃は、訓練漬けの毎日になるとどこかのテレビで見たような覚えがある。

 これを中学生の俺が耐えられるのだろうか。


 仮に軍隊に入った時を想定し、自分がやっていけるかどうかを礼二は考えていた。

 そうしている内に街の大通りを抜け、自宅周辺の脇道に入り出すと、辺りが騒がしいことに気づいく。

 パトカーのサイレンが周りに響き渡っている様子。礼二は音源の元を辿るように、道を歩いていく。

 家近くのところで赤い光が闇夜の空で主張しているのを見つけた。

 家近く…まさか……!

 頭の中で最悪な展開が想像される。現実になっていないことを祈りながら、礼二は赤い光の元へと急ぐように走った。

 憎たらしい親を心配に思い、息を切らせながら走り続ける。

 家へと繋がる一直線の通りに辿り着くと、自宅近くにパトカーや救急車、人が群がっているのが見えた。

 辺りの人達は彼の家の向こうを野次馬のように観察し続けている。

 礼二の脳内に想像し難い映像が浮かんだ。

「あの、何かあったんですか?」

 近所に住んでいるおじさんを見かけ、声をかけてみる。

「あ、礼二くん!」

 おじさんは深刻そうな表情をしながら礼二の問いに返答した。

 彼は悲しげな表情を浮かべ、視線は少年へと向けようとはしなかった。

 まさかと思った礼二は野次馬に囲まれている自宅へと再び走り出した。

 一度目の前にいた警官に家の中に入るのを食い止められそうになったが、魔獣狩りで培ってきた反射神経で上手く掻い潜る。

 何も考えずにドアの元へと辿り着くと、すぐさま扉を開けた。

 家の中に潜り込んだ先は、荒らされた自宅の通路だった。


 何があったんだろう……

 家の玄関にいる礼二の目の前には、赤い血を垂らしながら何かを引きずったような後があった。

 これ以上前に進むべきでは無い―――本能が頭に訴えてくるが、礼二はそれを無碍(むげ)にした。

 心臓がドクドクと鼓動を早くしている中、礼二は赤い血が示している位置へと移動する。

 血の跡が続いていた先はリビング。目の前にはリビングと通路を隔てる1つの扉があった。

 礼二はそれを開けるのを1度ためらった。

 恐らく扉の先は血の海と化しているだろう―――そう考えながら、現実はそうであって欲しくないと思い始めた。

 彼は不安定になっていく精神を抑えながら扉を開けた。

「………!」

 予想していた通りの惨劇を目の当たりにし、礼二は息を呑みながらテーブルの前へと歩く。

 食卓の周りは血の海と化し、人らしき肉塊が散らばっている。

 残骸は見た目で判別できないほどに砕け散っていたが、彼はそれを直感で両親であると確信した。

「なんで……?」

 呟きは部屋の中に響き渡り、誰も返事はしない。

 礼二は散らばっている肉塊に再び目を向けると、急に胃の中の物が逆流するような感覚に襲われた。

 1度耐えようと手で口を押さえようとするが、耐え切れずに嘔吐してしまう。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 体内に蓄えてあった酸素も一緒に吐き出してしまったせいか、一時的な酸欠に陥る。

 息を整えている間に礼二は家の中に、誰かが入ってくるのを感じ取った。


 こんなところまで…誰だ…?

 警察の人間だろうか。家の中に入ってきてから現場の調査をしているわけでもなく、事件後そのまま放置されているように思えた。

「今回もなかなかひどいな」

 渋い声と共にリビングに入ってきたのは長身で金髪の男性。軍の特殊部隊・部隊長にあたるクロード・アズベイルだ。

 部屋の中に入ってきたのは1人らしく、連れの人間はいなかった。

「ほう…ここが君の住んでいた家か…いいところじゃないか」

 生活環境のことを言っているのか、クロードは礼二に対して呟いた。

「なんでここが俺の住んでいる家だって分かったんですか…?」

「言ったじゃないか。君の事は一通り調べている、と」

 個人情報は全て特定しているのか―――落胆しながら礼二は俯きながら微笑む。

 でなければ、部下に偽名を使わせてまで接近はしなかっただろう。

「そして、今ここに倒れているのが君の両親だということも知っている」

 クロードは周りに転がっている肉塊のもとを冷徹に礼二に伝えた。

 信じたくない現実を叩きつけられ、礼二の体は震え上がる。 

「それで、君はどうするつもりだ?」

 精神的に追い詰められる少年を、クロードはさらに追い討ちをかける。

 冷徹な軍人の追い討ちに礼二は―――

「…うぅわああああああぁぁぁ!!!!!!」

 溜まっていた苛立ちを全て吐き出すように叫びだした。

 そんな彼を見てもクロードは顔色を何一つ変えない。

「なんで…なんで…! なんで助けられなかったんだ…!? あんたら魔術師の軍隊なんだろ! なんで奴らを野放しにしてんだよ!」

 礼二はクロードの着ている軍服の上着の襟を掴みながら叫び始める。

 前に出会ったときの印象とは全く違う感情の出し方に、軍人は少し戸惑っていた。

 表に出た戸惑いは一瞬で、すぐさま冷徹な仮面を被り始める。

「帝国軍ってのは、俺らのような国民を守るための軍隊じゃねぇのかよ! 働けよ!」

 礼二は思っていたことを全て吐いていた。

 こんなことになったのは全てを知っていながらも状況を見過ごしていた軍隊のせいであると。

 人を守らずして何が軍隊だと。

 ぶつかるべき相手は彼では無いと思うのだが、礼二は溜まっていた苛立ちのほとんどをクロードにぶつけていた。

 それを見兼ねたのか、この叫びに回答するようにクロードは呟く。

「…なら…君はどうなんだ…?」

「は……?」


 唐突に自分のことを言われ、戸惑い始める礼二。クロードは問いかけるように彼に言った。

「君は大きな力を持っておきながら、なぜ家族を守れなかった?」

 自分なら守れるかもしれない、と可能性を考えようとはしなかった礼二に言葉の刃が突き刺さる。放心状態にある彼を他所にクロードは話を続ける。

「私は言ったはずだ。前まで魔獣の存在を探知することは簡単だったが、今は『何者かによって出来なくなっている』と……それでありながら君は私達だけを頼ろうとする」

「それはあんた達が国民を守るために作られた組織だからだろ! 俺はまだ子供で…好きで戦ってる訳じゃ―――」

 感情的になった礼二は感じていたことを叫ぶ。

 しかし、強い感情が込められた言葉は容赦なく途切られ―――

「戦う力を持つ者は大人子供などの関係は無い。昔の日本だってそうだったじゃないか。戦争中には君のような年の子供も徴兵されていたぞ」

 まるで自分のせいとも言われているような感じがして言い返すも、容赦なく現実を叩きつけられる。

 礼二はムキになってクロードに言い返し続ける。

「それは昔の話で今は違うだろ!?」

「この世には少年兵というのが居てだな…彼らは今も戦っているぞ」

 言っては返され言っては返されで埒があかない状況だった。それを不毛に思った軍人は話を戻す。

「話が逸れたから戻すとしようか。君は魔術師が世界でどれだけ確認されていると思う?」

 唐突に質問をされ、礼二は口を閉じる。

「分からん」

「そうか、よく聞いておけ。世界に確認されている魔術師は数万人だと言われている。恐らく隠れている者もいるのかも知れないが、全世界の人口の割合で言うととても少ない。そして、私が設立した特殊部隊には5名ものの魔術師が存在する」

 話を戻すと言いながら脱線してしまったような気がするが、クロードは全世界に存在する魔術師の話をし始めた。礼二は話に耳を傾け続ける。

「最近起き始めた怪奇事件は、この区域で頻繁に発生していて人が足りないのだ。同時刻に発生現場が人数を上回ってしまうと、上回った分だけ人は死ぬだろう」


 あの魔獣がこの区域外にも発生していたのか…

 礼二は初めて知る現実に驚いている間、クロードの話は終盤を迎える。

「だからこそ君とレイチェルには入隊してもらって、魔術関係の事件解決に協力してもらいたい」

 特殊部隊の部隊長は真剣な眼差しで礼二に問う。

「この返事はまだ先で良いのではありませんでしたっけ?」

「君には悪いが、良い転機では無いのか? 住む場所も無い、お金も無い。このまま行けば災害孤児のような扱いをされるだけだぞ。入隊するならば、私が身元引き受け人になっても良い」

 生活に不自由したくなきゃ入隊しろ―――交換条件を持ちかけられているような気分に陥る。

 礼二が少し考えていると、クロードは新たな利点を話始める。

「君の両親や守りきれなかった人たちの仇討ちが最前線で出来るぞ」

 仇討ち。すなわち憎しみを魔獣に直接ぶつけることができるのだ。

 最近から感じ取っていた苛立ちが心を動かし、礼二の人生選択を決断へと歩ませた。

「…あなたの特殊部隊に入隊させてください……魔獣どもを狩り付くし、みんなを守るために……」

 少年は憎悪と決意に満ちた目をしていた。

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