【9】善意のバターコーヒー、飲むか、脱落か。〜誰もそんな話はしていない〜
ある日の午後。
データを提出し終えたチャールズの元に、スッとコーヒーが置かれる。
イーサンが静かに言った。
「どうぞ」
チャールズが慌てて答える。
「あっ……ありがとうございます……!」
しかし、チャールズは内心、困惑していた。
(……え? 俺だけ? ……え? このコーヒー……油浮いてる……! 凄く浮いてる……!! 何でコーヒーに……!?)
イーサンが淡々と告げる。
「ご苦労。海軍コーヒーでも飲め」
「か、海軍コーヒー!?」
人生で初めて聞いたコーヒーの名称に、驚きの声を上げるチャールズ。
しかし、そんなチャールズを微塵も気にかける様子もなく、ベックがドーナツを食べながら、ワハハと笑って言った。
「知らないのか!? コーヒーにバターを入れるんだよ! 疲労回復にいいぞ! 栄養補給にもなる! 軍では良く飲んだ!」
カリスタは紅茶を優雅に飲みながら、微笑む。
「バターを選ぶ時は、乳牛の種類選びさえ気を付ければ飲みやすいわよ」
ヴィヴィアンはスポーツ飲料を片手に、前のめりになって言う。
「冷えちゃうと余計マズいから、熱い内に飲んだら?」
そこに、一言。
「で?」
イーサンの低い声。
それは、飲めるのか、飲めないのか。
飲まないなら別の手を考える。
ベックに回すのでもいいくらいしか考えていない「で?」だ。
しかし、チャールズにとって、それは困惑から混乱への始まり――
(「で?」とは……!? 俺……試されてる……!? ここで飲まなかったら、何て思われる!? みんな経験者なの!? 俺だけ脱落したら!? チーフの善意を拒否した扱い確定……!?)
次の瞬間――
チャールズが勢い良く宣言する。
「いただっ……頂きますッ!!」
(これはコーヒー! これはチーフの善意! これは疲労回復の為だ……!!)
死ぬ気で飲んだコーヒーの味は――
分からない。
〜fin〜
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