【30】番外編:イーサン過去物語 「いくつか」について話す新人捜査官。〜S.A.G.E.が凍りついた初日〜
若くして少佐だったイーサン・クロフォード。
しかし、軍を離れて捜査機関、S.A.G.E.に引き抜かれた。
しかも、イーサンは――
見た目は強面イケメンで、姿勢は崩れない。
動かない。
喋らない。
だが、眼だけは全部を見ている。
初日からS.A.G.E.の捜査官たちを、ざわつかせる存在だった。
捜査官の一人が「あの若さで少佐まで上り詰めて、なぜS.A.G.E.に……?」と言えば、他の捜査官たちも――
「軍で成功できたよな……?」
「動かない……」
「ピクリとも動かない……」
「でも、今たぶん部屋の全員の利き手と、武器の位置を見たぞ……」
「怖っ……」
と、なっていた。
しかし、イーサン本人は、初日だから緊張しているわけでも、威圧しているわけでもなく、
施設の構造確認
人員配置確認
出入口確認
情報共有の流れ確認
指揮系統確認
を、静かにやっているだけだ。
だが、周囲から見ると「元軍人の少佐が、無言でS.A.G.E.を査定している」にしか見えない鋭さ。
そして、一人の捜査官が勇気を出してイーサンに訊く。
「クロフォードさん、何か気になる点でも?」
イーサンは一言答える。
「いくつか」
捜査官たちは、(あるんだ……!!)と凍りついた。
しかも、その「いくつか」が、普通の新人捜査官の感想ではない。
出入口の位置。
非常導線。
証拠保管室までの動線。
監視カメラの死角。
通信遮断時の代替手段。
職員の配置と反応速度。
ラボと現場指揮の連携遅延。
そういう、建物と組織の根幹に突き刺さる案件。
引き抜いた上層部も、(……ビルごと建て直した方が早いのでは……?)と頭を抱える始末だ。
そして、イーサンは文句を言ってるつもりではない。
ただ、
問題点を見つけた。
改善すれば効率が上がる。
訊かれたから言った。
以上。
それだけ。
上層部の一人が、恐る恐る口を開く。
「クロフォード、他には?」
イーサンは一言答える。
「まだあります」
上層部の全員が、心の中で悲鳴を上げる。
(まだ!? まだあるの!?)
S.A.G.E.初日から、新人捜査官ではなく、施設監査官兼戦略設計者みたいな男。
それが、イーサン。
そして、イーサンは正直だから、聞かれたら本当に全部言ってしまう。
上層部が握り拳を震わせながら、訊く。
「では、全部言ってくれ」
この時点では、上層部も覚悟はしている。
予算を取る。
設備を直す。
元少佐の視点を活かす。
S.A.G.E.を強くする。
しかし、イーサンが「では……」と始めた瞬間から、空気が変わる。
しかも、座らない。
水も飲まない。
資料も見ない。
微動だにせず、低音で淡々と、
建物の構造的欠陥
動線の遅さ
証拠保管の脆弱性
通信遮断時の致命的問題
非常口の配置
人員配置の無駄
指揮命令系統の曖昧さ
ラボとの連携速度
現場投入までの遅延
を、一時間くらい説明する。
上層部の人間たちも、心の中で再び悲鳴を上げることになる。
(俺の馬鹿……!!)
(全部と言ったのは俺だ……!!)
(“いくつか”の時点で止めるべきだった……!!)
(これは改善案じゃない……施設解体計画だ……!!)
しかも、イーサンは最後に静かに「以上です」と言う。
上層部の人間たちは、一瞬安堵する。
(以上……!?)
(今ので序章じゃなくて良かった……!!)
そして、またも頭を抱えることになるのだ。
(いや、でも予算が……!!)
そして、その話を引退した知り合いの元上層部から聞いたチャールズは――
(……もうイヤ!! ここまで完全体の人類っている!?)
そう絶望しかけて、残念なイケメン恋愛脳がスパークする。
(もしかして♪ ハイ! もしかして♪
チーフがこのビルの設計に携わっているのなら……隠し部屋とかあるんじゃ……!?
分かりますよ、チーフ❤️ チーフレベルのイケメンがS.A.G.E.に来たら、違う意味でもザワつきますよネ❤️
もう、鬱陶しい! だ・か・ら! 隠し部屋も増築した!
俺が探し出して、見守りますから❤️ ご存分に!)
そうしてチャールズは、地球上に存在しない幻の部屋を見つけることに、全力を注ぐのだった――
〜fin〜
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