【29】番外編:イーサン過去物語〜最年少少佐の「次」に、人類の処理速度が追いつかない件〜
イーサン・クロフォードは軍人だった頃、最年少で少佐になった。
自分より年上の軍人たちを束ねてきた人物だからこそ、
「年齢」より「能力」
「気分」より「任務」
「疲労」より「遂行」
「言い訳」より「次の手」
で動く癖が、完全に染みついている。
だから、S.A.G.E.に来てもそのままなのだ。
イーサン本人は、普通に「民間寄りの組織だから、少し柔らかくしている」くらいのつもりだが、周囲から見ると、十分すぎるほど軍の名残がある。
「次」の圧が強い。
「よろしい」が査定。
「君のボスは誰だ?」が命令系統確認。
だが、そんなイーサンも軍人時代には、部下よりも年下ゆえ、就任当時は舐められていた。
年上の軍人たちが思うことは、殆ど同じだ。
(若い少佐か……。 まあ、どれほどのものか見せてもらおう)
その程度。
しかし、作戦説明が始まった瞬間――
イーサンが淡々と話し出す。
「侵入口は三つ。 第一班は東側、第二班は通信遮断。 第三班は後方を封鎖。 敵の逃走経路は二分以内に潰す。 次」
年上の軍人たちが、心の中で悲鳴を上げる。
(待って待って待って!!)
(速い!!)
(今、三手先まで行った!?)
(まだ地図の東側を探してるんだが!?)
(年下とか言ってごめん!!)
(だから、人類の速度で話して!!)
しかも、イーサンは怒っていない。
焦ってもいない。
普通に、最短で必要事項を渡しているだけ。
だが、そこが怖い。
年上の軍人たちも、最初は「若い少佐」として見ていたのに、数分後には「この人についていかないと死ぬ」に変わっている。
そして、ベックだけが横で、今と変わらずワハハと笑っていた。
「クロフォード少佐、速いな! だが、分かりゃ強いぞ!」
年上の軍人たちが、今度は別角度の悲鳴を心の中で上げる。
(ベック、お前はなぜ笑っていられる!?)
(こっちは脳が置いていかれてるんだが!?)
そこに、イーサンの鋭い一言が落ちる。
「質問は?」
年上の軍人たちは、一斉に思う。
(質問の前に、今の説明をもう一度ください!!)
しかし、口では「ありません、少佐!」と答えるしかなかった。
ちなみに、イーサンとベックの出会いは――
既に最年少で少佐になったイーサンに、ベックが話しかけたことから始まる。
ベックはニッコニコの笑顔で言った。
「よう! 初めましてだな! 噂のクロフォード少佐!」
イーサンが一言答える。
「どうも」
ベックは「それより、この携帯食マズいよなー!」と言いながら、バクバク食べていた。
イーサンが、またも一言言った。
「特には」
ベックが笑う。
「ハッハッハ! 無欲なやつだな!」
静かな戦車と、陽気な装甲車みたいな相性の二人である。
そのうち、イーサンがただ地図や情報を見て、「成る程。アラスカか……」と言っただけで――
年上の軍人たちは一斉に、心の中で叫ぶようになった。
(アラスカ!?)
(アラスカの基地!?)
(誰が飛ばされる!?)
(俺たち!?)
(今の作戦のどこが悪かった!?)
(それとも敵の逃走先!?)
(補給線!? 気象条件!?)
(少佐、主語を!! 主語をください!!)
しかも、イーサンはその沈黙の間に、もう三手先まで考えている。
そして、イーサンが再び呟く。
「……いや、違うな」
年上の軍人たちが、再び心の中で絶叫する。
(何が!?!?)
(アラスカじゃない!?)
(飛ばされない!?)
(いや、違うって何が違う!?)
さらに混乱。
ベックだけは横で、ワハハと笑って言う。
「クロフォード少佐、言葉が少ねぇぞ!」
イーサンは静かに答える。
「必要な情報は伝えた」
年上の軍人たち、またも心の中で絶叫。
(伝わってないです!!)
(“アラスカ”しか来てないです!!)
軍人時代のイーサン・クロフォードは――
言葉数は少ない。
しかし、判断は速い。
声は低い。
しかも、表情は変わらない。
そして、結果は出す。
だから周囲が余計に、そうして勝手に震える存在だったのだ。
そして、その話をベックから聞いたチャールズも……。
(チーフ……!! なんてことしてたんですか!!
可哀想! 当時の部下の人たちに完全に同情する!!
ていうか、変わる余地がないじゃないですか……!!)
そう、軍人時代のイーサンの部下たちのように震えていた。
〜fin〜
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