【28】悪夢の中で最強捜査官の椅子に座った男、モノマネに逃げる。〜部下になってもチーフはチーフでした〜
ピクニックと言う名の行軍で、疲れ果てたチャールズにやって来る悪夢。
チャールズがデスクから顔を上げると、開け放たれたドアをノックするベックがいた――
ベックが、いつもの調子で勢い良く言う。
「よう! チャーリー! 今、いいか?」
チャールズもいつもの調子で「なに?」と言って気づく。
(って、待って! 待って! 待って!
ここ、俺のオフィスじゃない!!
このシンプルで無駄のなさ過ぎるオフィス……!!
チーフのオフィスだ!
嘘! 嘘! 嘘!
俺、チーフのデスクについてる!!)
ベックがチャールズのデスクの前に、ドカッと座って言った。
「このプロファイルなんだかな……。
プロファイルでは、コイツが犯人で間違いはない!
だが、証拠は目撃者。
しかも、たった一人だ!
起訴に持ち込めるか?」
チャールズが心の中で叫ぶ。
(だからーーー!!
待ってよ、ベック!
俺はチャーリー!
チーフじゃないの!
そして!
俺はテクニカルアナリスト!!
プロファイルの訓練も受けてないし、起訴に持ち込めるなんて、そんなこととは無縁に生きて来てたんだ!
知らないよ!!)
その時、再びノックの音が――
「失礼」
その低音ボイスを聞いて、希望を見出すチャールズ。
(やったー!!
チーフが戻ってきたー!!
さては! これはベックのジョークだな!?)
ところが、イーサンはスタスタとチャールズの前に来ると、ピタッと止まり、立ったまま淡々と話し出す。
「ベックからも話があったかと思いますが、是非、チーフの判断を仰ぎたいと思いまして。
この容疑者は確かにプロファイル通り。
犯人で、確定でしょう。
目撃者もいる。
だが、これだけでは起訴には持ち込めない可能性が高い。
そこで――
チーフは、我々が次にどう動くべきだとお考えですか?」
チャールズは心の中で絶叫。
(ギャーー!!
チーフに俺が指示するの!?
プロファイルも知らない俺が!?
……あ!
パソコン……パソコンはあるッ!!)
チャールズは何とか口を開いた。
「わ……分かりました!
少々お待ちを!……」
無邪気な巨人ベックは、感心した面持ちで言った。
「流石、チャーリーだな!」
イーサンは立ったまま、低音ボイスで一言。
「ああ」
とだけ。
チャールズは心の中で叫び続ける。
(もー、チーフ!
俺の部下になったなら、座って下さいよ!!
圧が凄くて検索が出来ない!!
……あ!
これかな?
よっしゃー!!
パソコンで掘るぞ!!
……え!?
掘れない!?
進めない!!
どうして!?
『権限がありません』!?
なんで!?
ギャーー!!
そうか!
俺は今、テクニカルアナリストじゃない!
権限が変わってる……!
どうすればいいのーーー!?)
その瞬間――
イーサンのアイスブルーの瞳がギラリと光った。
そして、鋭い声が響く。
「チーフ、何か?」
チャールズは、頭を抱えたいのを必死で堪える。
(俺はね!!
事件の概要もまだ理解してないんですよ!!
チーフ!!
チーフは部下になっても「何か?」って言うんですネ……!!
って……そこじゃない!!
この「何か?」に答えないと……!!)
その時、ベックがスマホを見て言った。
「お!
カリスタが何か掴んだらしい!
俺は現場に行く!
イーサンはどうする!?」
チャールズはベックに、心から感謝する。
(……ベック……!!
ありがとう……ベック!!)
ところが――
イーサンが静かに言った。
「俺はチーフの意見を聞いてから向かう」
現場一筋のやさしい巨人は、アッサリ立ち上がる。
「おう!
じゃあまた後で!」
イーサンが、チャールズを見たまま一言答える。
「では、後ほど」
ベックが消えたチーフ・チャールズのオフィスに、静寂が落ちる。
その刹那――
チャールズは閃いた。
そう、イーサンのモノマネだ。
チャールズは心の中でホッとして呟く。
(俺ってモノマネは得意なんですよ!
チーフ♪)
そして一拍置くと、チャールズは言った。
「クロフォード、この案件は深く考える必要があると思わないか?」
イーサンが小さく頷く。
「確かに」
チャールズはモノマネが通じた嬉しさを隠しながら、またイーサンになり切って答える。
「では、少しだけ時間をくれ」
チャールズが心の中で、歓喜の雄叫びを上げる。
(決まったーーー!!
これでチーフは現場に……っと♪)
だが、イーサンは部下になっても、イーサンだった。
「チーフなら5分も掛からないでしょう。
このまま待ちます」
チャールズが心の中で絶叫する。
(終わった……。
俺は終わったよ!!
みんなー!!)
チャールズが目覚めると――
まだピクニック中。
ベックがビールとフライドチキンを両手に持ち、チャールズの顔を覗き込むと、ワハハと笑う。
「良く寝てたな!
分かるぞ!
空気が違うもんな!」
チャールズはベックをキッと睨むと、心の中で思わず毒づいた。
(……俺は違った空気を味わったけどね……!!)
カリスタは、優雅に読書中だ。
ダージリンティーの香りが、芳しく漂っている。
ヴィヴィアンは、散歩しながら撮影に夢中。
そして、イーサンは――
双眼鏡で周囲を監視中だった。
チャールズは、そんなみんなとイーサンを見ながら、安堵の息を吐いた。
(チーフがチーフだ……!!
俺は、テクニカルアナリストのチャーリーに戻れたんだ……!!
ベック!
いっぱい食べて飲んで!
カリスタ、好きなだけ読書しなよ!
紅茶淹れようか!?
ヴィヴィアン!
君は止まると死んじゃうサメなの!?
でも、ヴィヴィアンらしいね!
素敵だよ!)
ニヤニヤしながら周囲を見回しているチャールズを、イーサンが横目で見ていることに、チャールズは気づかない。
〜fin〜
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