【20】オラクル初のチームワーク研修。〜レジャーが一秒で訓練に変わります〜
オラクル初のチームワーク研修が始まった。
ただ、セシルとエレノアは長官の仕事の関係で、来られるか微妙なところだ。
チャールズは、もう到着した瞬間から浮かれていた。
(ワクワクしちゃうな! ホテルは目立たないホテルだけど、施設は充実! しかも、ビーチが目の前❤️)
そんなるんるん気分のチャールズに、イーサンからメッセージが届く。
「10分後にビーチに集合」
スマホの画面を見たチャールズは思う。
(んもー!! だったらホテルに着いた時に、10時にビーチに集合って言って下さいよ! チーフ!!
ま、いっか♪ 水着に着替えるだけだし♪)
そして、ビーチに向かうと――
長袖ラッシュガードで完全防備しているカリスタが、にっこり微笑んでチャールズに言った。
「あら、チャーリー、素敵な水着ね!」
ノースリーブのロンTにショートパンツ姿のヴィヴィアンも、楽しそうに言う。
「じゃあ、恒例のやっちゃってから、ビーチバレーしない?」
チャールズもニコニコして答える。
「ありがとう、カリスタ❤️
……ん? ……ヴィヴィアン……恒例のって、なに?」
そこに現れる、イーサンとベック。
ネイビーシールズの水中任務のような出で立ちのイーサンが、全員を見渡して告げる。
「揃ったな。ではハーパー、波打ち際に座れ」
チャールズの声が、思わず上ずる。
「なっ……波打ち際……!?
アッ……アイアイサー!!」
だが、チャールズの内心は忙しい。
(チーフ! 普通にビーチで、その真っ黒な水着は怖いですよ……!!
普通、ビーチってもっと浮かれる場所ですよね!?
何でチーフだけ、今から極秘水中任務に入る特殊部隊みたいなんですか!?
しかも似合ってる!!
似合いすぎて誰もツッコめない!!)
すると、ベックの声がした。
「ほら! チャーリー! 早く来いよ!」
ラッシュガードを着て、既にザブザブ波が来ているところに座っている無邪気な巨人。
チャールズは「う、うん……!」と答えつつも――
内心はまだ、忙しい。
(何で!? 何でベックまでラッシュガードなの!?
ビーチで水着を着ない理由を、まず教えて!!)
そして、波打ち際にチャーリーが座ると、ヴィヴィアンがストップウォッチ片手に言った。
「じゃあ! 恒例の波打ち際での腹筋30分コース開始!」
そこには、何の躊躇いもない。
カリスタはカウンターを手に、微笑んで言う。
「頑張って! みんなの回数はちゃんと数えるわ」
優雅に逃げ場は塞がれた。
チャールズの心は、忙しいどころではなくなった。
それは、叫び。
(嘘! 嘘! 嘘!
波打ち際で、なぜ腹筋!?
それって本当にネイビーシールズの訓練じゃない!?
……え!? ベックも腹筋やってる……!!
しかも……ベック楽しそう!!
波を避けつつ……レジャーだよ……!!
チーフ!!
波を鋭く裂くように腹筋しないで下さいよ!!
ここはビーチ!!
ほら、子供が見てますよ!!)
すると、イーサンの低い声がした。
「……ハーパー……」
しかも、波打ち際で腹筋しているとは思えないくらい、普通に。
チャールズは即座に答える。
「アッ……アイアイサー……!!」
そして、選択肢が無いのなら――
(やるしかない!
やるしかないんだ……俺は……!!)
そう決意し、ガブガブしながら、溺れそうになりながらも腹筋を続けた。
しかし、頭の中では現実と疑問が渦巻いていた。
(海水しょっぱい!!
目が痛い!!
腹筋どころじゃない!!
でもチーフは、彫像みたいに動いてる!!
何で!?
何でビーチでも任務仕様なんですか!?)
30分後――
身も心もヘトヘトのチャールズの前では、波打ち際の腹筋に全く堪えていないどころか、楽しんでいるベックがワハハと笑っていた。
「やっぱりビーチに来たら、最初はこれなんだよな!」
チャールズの頭に浮かんだのは、一言。
(……なぜ……?)
そして、イーサンがチャールズを真っ直ぐに見て言った。
「君の腹筋は改善の余地がある。夕食前にビーチへ」
しかし、イーサンはいつもと変わらない。
波打ち際で腹筋していたとは思えない程、いつも通りだった。
しかも、髪の毛一本、呼吸一つ乱れていない。
チャールズが心の中で絶叫する。
(……だから……!!
自分を基準にするのを止めて下さいよ、チーフ!!
全人類の男は、チーフと同じじゃないんですよ、チーフ!!
何でそこまで完璧なんですか……!?
夕食前に、まさか……また波打ち際で腹筋……!?
せめて、陸で!
ホテルのスポーツジムで!)
チャールズの絶望と切実な願い。
そこに――
ヴィヴィアンが、ソフトクリーム片手に現れた。
「終わったねー! じゃあ、ビーチバレーのチーム決めない?」
チャールズが、またも心の中で叫ぶ。
(ヴィヴィアン!!
君、今まで何してたの!?
俺が波に飲まれながら腹筋してる間に、ソフトクリーム買ってたの!?
その余裕は何!?
元FBIって、みんなそうなの!?)
カリスタは、レモンが浮いているアイスダージリンティーを一口飲むと、美しく微笑んだ。
「チャーリー、回数に優劣はないのよ。安心して!」
チャールズは、すぐさま思った。
(ある!!
優劣は絶対ある!!
だからカリスタは“優劣はない”って言ってる!!
それに、その優雅な飲み物は何!?
こっちは海水飲んだんですけど!?)
その時、イーサンが静かに言った。
「ビーチバレーは、反応速度と視野の訓練になる」
チャールズは、膝から崩れ落ちそうになった。
(遊びを遊びとして扱ってくれる人がいない……!
このチーム、レジャーを全部訓練に変換する……!!)
チームワーク研修は、まだ始まったばかり――
〜fin〜
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