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美少女の死体に受肉したけど、嫌われ者だったので正体隠して暗躍する  作者: 中上二等
冒険者編

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58:スタニックは語る(前編)

「秘密も、機密も、何もかも。あなたのすべてを、さらけ出してください」


 うるんだ瞳に見つめられると、脳のどこかが熱くしびれた。


 スタニックは目の前の美しい少女のために、すべてを話し始めた。



 五年前。


「アルバン先生……これが子どもに頼むことなんですか?」


「悪いね。ガス爆発と崩落の可能性を考えると魔法でどうこうというわけにもいかなくてね。これも勉強の一環だと思って頼むよ、殿下」


「体を動かすのは僕も嫌いじゃないけれども……」


 それは学園、西方校舎の裏庭。

 茂みの奥に古木がそびえている。その根には人が通れるほどのうろがあり、ある日アルバンはその奥に洞窟を見つけた。穴は細く長く地底へと続いている。しかし数歩進んだところで、洞窟(どうくつ)は地上からのびる木の根にふさがれていた。


 アルバンは、十歳にしてすでに小柄な成年並みの体格を得ていた教え子・スタニックに助けを求めた。研究費のおりない地質学などという学問の、しがない学者のなりそこないであった《総局》副局長補佐アルバンは、個人的な志のために、洞窟(どうくつ)を調査しようとした。


 彼らは穴に潜った。


 天然の障害物をしりぞけ進む。最初の木の根さえ取り払えば、あとは順調だった。急傾斜の坂道をずんずんとくだり、その先に見たのは──壁画。

 地上から遠く離れた穴の深部には古代の文字が躍っていた。


〈皇国貴族は罪人である〉

 

〈皇国貴族は(ゆる)されない大罪を犯した〉


〈皇国貴族は世界の万人(ばんにん)から魔力を奪った〉


〈皇国貴族は大罪をつくり、我が身だけを惜しみ、世界を捨てた〉


〈後世の同胞(どうほう)よ。先祖を(ゆる)してはならぬ。罪を忘れてはならぬ。罪人は罪を(つぐな)わなければならぬ〉


〈さもなくば世界すべての無辜(むこ)の民は報いを受ける〉


〈責任を果たさなければ、その先に待つのは()()()()()である〉


〈破滅を避けたくば──カアウラスに祈りを捧げよ〉


 仰々(ぎょうぎょう)しい散文をアルバンは読み解いた。


 皇国貴族は世界の万人から魔力を「奪った」。 

 古代、大陸の人間はみな誰もが魔力を持ち、魔法を行使していたというのか。それを皇国貴族はなんらかの手段で世界中の人間から魔力を奪い、独占した……?

 

 それによっていつか、世界は破滅する……。


 信じがたい内容だった。 


 壁画に刻まれた文字はかすれていた。文字は確かに建国初期に用いられたもので、岩石の年代は約千年前と一致する。壁画の状態に不審な点はない。今まで掘り起こされることなく眠ってきた遺跡そのものだ。警告文の横には、地にひざまずき、天を(あお)ぎながら苦しむ人間たちの絵が描かれている。これがいずれ訪れる終末だというのか。


 皇国貴族とは、魔力によって民を守った(とうと)い者たちではなかった。利己(りこ)に走った権力者だった。──それが歴史の「真実」なのかもしれない。


 アルバンはすぐ、この壁画を公表すべきだと言った。


 古代の皇国貴族が罪を(おか)したというのが事実か事実でないかは関係がない。今となっては知りようのないことであるからだ。専政(せんせい)の欠点はここにある。為政者(いせいしゃ)に都合の悪いことは歴史から抹消してしまえるのだ。文書などの形で残っているはずがない。


 ならば、「壁画があった」という事実を、ただ事実として示すだけ。古代人の言葉といっても、酒に酔って書いたバカバカしい落書きかもしれないし、終末思想に支配された狂人の戯言(ざれごと)かもしれない。判断は受け取り手に(ゆだ)ねられるものであり、そこになんらの恣意(しい)介在(かいざい)しない。


 それこそが正しい姿勢だとアルバンは信じていた。

 知の前に人は平等であり、誰もが知る権利を持っている。


 特に、これは警告であるのだ。早急に発表すべきだ。現在の皇国貴族によって、これが体面のために隠匿(いんとく)されでもしたらそれは果たして、世界のためになるのか。


 ──しかしスタニックは公表に反対した。


 真実のもたらす混乱より、虚飾によって作り上げられた平和と安寧(あんねい)を選んだのだ。皇国は世界にも(まれ)な平和の国だ。建国から千年、大きな内乱や民の流血はなく、強大な武力を保持しながら他国を侵略しない。


 この安定が、一枚の壁画によって壊されるかもしれない。


 アルバンはスタニックの主張が、皇子としての私情や保身にもとづくものではないことは当然知っていた。

 スタニックは民を第一に考えている。国を混乱に(おとしい)れることなく、破滅から逃れる手だてを探すべきだ。

 

 ふたりはともに民と世界を思いながら、しかし意見は真っ向から対立したのだ……。

 

 その日は仕方なく地上へと引き返した。

 なかなか、議論に決着はつかなかった。

 三日、十日、二十日と時は経ち、そしてある日。


 洞窟(どうくつ)は跡形もなく、崩れていた。

 

 壁画は永遠に失われてしまった。


「なんてことだ……」


 アルバンは崩れ落ちた。


 証拠が消えたことで、議論そのものが意味をなくし、アルバンとスタニックの間には気まずい軋轢(あつれき)だけが残されたかと見えた。

 

 


 そんなときに、スタニックの目の前にある人物が現れた。


「スタニック君。ゴホッゴホッ、君、もしかしてアルバン君と地底でなにか()()のかね?」


 風が吹いたら飛びそうな、枯れ枝のような老人。

 スタニックが今まで出会った誰よりも年老いて、やせ細っているように見えた。


「なぜそのことを……という顔をしているね。洞窟(どうくつ)(つぶ)させたのは私だからね。ヴァルデ君の【征圧】はとことん便利だよ……さて」


 その老人──カアウラス神教会()()は、鷹揚(おうよう)に手を広げた。


「教皇派にきなさい。我々教会の上層部と、皇帝はあの『警告』を知っている」

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