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美少女の死体に受肉したけど、嫌われ者だったので正体隠して暗躍する  作者: 中上二等
冒険者編

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53:なんと、招待を無視する天使

「サバ……キヨ……」


 人語を操る魔物を見たのは初めてではなかった。人型であろうと人型でなかろうと、言葉を話すヤツはいる。もっとも、知性があるとかではなく、たいてい同じ語を繰り返すだけなのだが。


「サバ……キヨ……ツ、ヨイ」


 その大型魔物も、例によって聞き取りにくい、よく分からん言葉を吐いた。


 まぁいい。

 国境付近に位置する自治都市は交通の要衝(ようしょう)である。王国と皇都を結ぶ太い街道が通っており、商隊は皇国と王国、そして近隣諸国へと交易を広げる。乗り合い馬車や馬に乗った武芸者やら冒険者の行き来も盛んだ。


 皇都にはいられなくなったエメリーヌ。サリナスの発言により彼女は裏切り者、そしてそのうえでヴァルデにより殺されたことになっている。追っ手がないというのは逃亡者にとって好条件であるが、皇都にとどまって目撃情報があがろうものならその前提も崩れる。みずから出頭して無実を主張するならともかく、皇都にはいられないのだ。


 ……エメリーヌがそう考えてくれているものと信じて、俺は魔物を三日三晩狩っている。よそ者がいるとすぐに目立つ辺境には行かず、人の多い皇都近郊の大きな都市に潜んでいるはずだ。ならば、天使の情報もすぐに伝わるだろう。人に紛れて乗り合い馬車でここまで直行できるはず。

 あとは待つのみだ。合流のお膳立ては完了である。


 何もない山脈であるし、山肌にも人里はない。ふもとに点々とわびしい村があるだけ。魔物退治など山の樹林ごとすべて吹き飛ばせば即解決なのだが、時間稼ぎをする必要がある。一度に殺しすぎず、ゆっくりと魔物を消していく。一体一体丁寧(ていねい)に、()さばらしだ。


 どうやら地上にアリカとニルスが来ていて、もう三日も野宿しながら俺を見張っているのには驚いたが、エメリーヌとの合流に支障(ししょう)はない。大声が届くほど距離が近づけば、アレが使える。

 

『ラシェルさま。エメリーヌさまとともに参りました。ラシェルさま直下の影におります』


 胸元の携帯型通信魔法具が震えた。


「よく来てくれました」


 『天使』活動用にあつらえた白いドレスに、花飾りが結わえてあった。魔法具本体はボタン型をしており、ラシェル姿(スタイル)のときはそのまま(えり)の裏などにひっつけているが、ドレスに黒ボタンは目立つので『天使』のときは花飾りである。貴重な通信魔法具なので面倒だが、毎回付け替えている。


 ……とそれはともかく、やっとだ。

 退屈な時間が長かった。終わりにしよう。

 魔技武会(まぎぶかい)には、長いこと表舞台に姿を現していない、カアウラス神教会「教皇」が招待されている。開催の時期はちょうど、スタニックとのデートの翌々日だな。間に合ってよかった。


 今浮かしている魔物残党の前に、光の柱をおっ立ててやる。


「サバ……キヨ……」


 もう近隣の地上に魔物は一匹たりとも残っていないはずだ。三日もあれば、山ひとつ分くらいの面積から魔力生命体を根絶やしにするなどお茶の子さいさいである。最後の魔物たちを、まとめて光の中に放りこんでやった。

 次々と蒸発していく魔物。多様な断末魔(だんまつま)が入り乱れた。


「クサバ……キヨハ……ツモヨイ……」


 …………?


「クサバト……ツキヨハ……」


 なんだ。数体が同じ言葉を繰り返していた。


「月夜ハ……イつモ……ヨイ……ラシィ、出会イノ日ジャ、ナぃカ」


 意味のない言葉だ。聞き覚えもない。しかし既視感がある。消える瞬間の(たたず)まい、口調、どこかで──。


 考えるうちに、すべての魔物が神聖力の中に消えた。


「…………」


 ……合流が先だ。


「壊滅している近くの村に待機してください。一度雲の上に姿を消したあと、向かいます」


『は。御意に』


 エメリーヌは目を覚ましただろうか。俺を(かば)ってヴァルデの攻撃に焼かれ、一度は死んだ身。肉体の蘇生はたしかに成功し彼女は息を吹き返したが、意識を取り戻せたかどうかは、確認できていない。


「────使』殿!」


 目覚めてもらわなければ、【教化】も使えない。

 ……いや、使えるのか。神通力の正体は古代の魔法具だった。エメリーヌが死んだままだとしても、銀の腕輪さえあれば神通力を使えるかもしれない。もしかすると、俺にも扱えるか?

 

 いや、だが魔法具の中でも「遺物」は特殊な訓練を積む必要があると聞く。エメリーヌに目覚めてもらうに越したことはない……。


「──『天使』殿!」


 意識を現実へ引き戻す呼び声。


「少しお話、よろしいか! 地上で待ってる!」


「……っ」


 ここは上空だぞ。ヴァルデ以外にも空を飛べる者がいたのか。驚きと警戒を胸に目を向けた先にいたのは、紺色髪の不健康そうな少年。ニルスだ。


 見たときには、彼はすでに重力に引かれて落下を始めていた。ニルスは片手に持った本からあふれる緑の光にのまれて、消える。教皇派シェヌ家の有する遺物・《魔転書(まてんしょ)》だ。


 さて、どうする。

 ご招待に応じるか。


「…………まぁ、無視でいいか」


 ラシェルを知るヤツには近づきたくない。招待主は皇女アリカだろう。なんだかいろいろ、面倒くさそうだ。


 聞こえなかったフリをして大げさに首をかしげ、地上に手を振り、治癒をばらまいて、俺は雲の上へ舞い上がった。

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