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4:勘違いしてくれるのなら都合がいい

 ――――目が覚めると、見知らぬ少女の顔が目の前にあった。


「あ、起きた?」


「〜〜っ!」


 飛び起きて、距離を取る。

 誰だ、敵か?


「あはは……その反応はちょ〜っと傷つくなぁ……」


 陽の射し込む木戸、古びたベッド、椅子に座ったまま片膝に頬杖をつく少女。木造住宅の一室のようだ。


 懐かしの真っ赤な超越空間、ではない──下界だ。一命をとりとめたか腹ペコ孤児。

 取りあえず、大天使の土下座を(おが)むのはまだ先のこととなったようだ。


「――すまん。俺を介抱(かいほう)してくれたのか」


「うん。あなた、ぎりぎりだったんだよ? 星が降ってきて、近くにいた神官さまたちは死んじゃったの。もう少しズレてたら、あなたも一緒に……。そのときのこと、覚えてない?」


 ――何やら、勘違いをしてくれているらしい。

 あの爆発は隕石ということで処理された……ってことか? そりゃまぁ、こんな栄養失調貧弱孤児が人間二人粉々に吹っ飛ばしましたなんて結論に至ることなんてないか。


「……悪いが何も覚えてない」


「何も? あなた名前は?」


「ラグナエル」


 素で答えてから後悔する。この世界に――あるいはこの国に――何か名付けの法則があるかもしれないということを考えもせずに、真名を名乗ってどうする。


「ん、わたしはユノ。よろしくラグナエル」


 しかし少女に――ユノに特に気にした様子はなかった。目に見えぬ地雷を踏み抜かなかったことに安堵する。


 訊きたいことを訊く前に追い出されちゃもったいないからな。


 まず、俺の討つべき「偽神」にあたる神について。

 

 ここはどこなのか。国はあるのか。統治体制は。宗教は。文明の発達度合いや科学と魔法の偏り具合も知っておきたい。


「ユノ、初対面で悪いが、少し質問しても――」


 先ほど驚いて飛びのいたベッド越しに身を乗り出し、少女と目線を合わせる。がしかし、そのとき再び、聞き覚えのある音が狭い部屋に響いた。「ぐぅ〜〜……」という間の抜けた腹の虫の鳴く音だ。


「その前に、さ。お食事にしない?」

 

 


 □■□■□


 ここで驚きのお知らせだ。


 なんと、それから一ヶ月が経過した。 

 神官どもをミスって吹っ飛ばして一ヶ月。少女(ユノ)に救われて一ヶ月。下界に降臨してから一ヶ月である。


 その間何をしていたかというと、特に何もしていない。


 わかったことは、こんな小汚くてどこの馬の骨とも知らない孤児の少年を介抱して甲斐甲斐(かいがい)しく気にかけてくれるユノが、とてもよくできた少女だということだった。


 歳は十二。活発だが落ち着きもあって、利発的な顔立ちをしている。眉をわずかに覆うだけの水平な前髪と、前髪の端から顎まで落ちる二本の髪の帯が、頬をゆるやかに縁取(ふちど)っている。


 俺の(見かけ上の)年齢が十歳前後だから、少し歳上か同い年くらいだろう。


 ここはユノの家の物置部屋で、たまたま古いベッドがひとつ余っていたらしい。俺が降臨したこの村の規模感からして、多分この家が一番裕福で余裕があるのだろう。父親の反対を押しきって、気絶していた俺を拾ってきたそうだ。


 隕石落下とかいう珍事に巻き込まれた不幸な子どもを保護するまではわかるが、そこから追い出しもせずにまるひと月も家におくその圧倒的な善性に、俺は驚いていた。


 思い返せば、ひ弱な孤児を大人二人がかりでなぶり殺すような聖職者がいる世界だ。人道的悪がいれば、道徳的善もいる。それだけの話か。


『ここ? エイリトニア皇国だよ? うんうん、なんでも訊いて?』


『神さまのこと知りたいなんて、信心深いね。……そっか。今まで大変だったんだね』


 親のいない孤児の身だ、常識を知らない流れ者ということで同情を買いつつ、やりとりを重ね日々情報収集を進めた。


 大陸一の世界宗教として根づいているのが「カアウラス神教」。宗派によって解釈はわかれるものの、神の存在に関しては「カアウラス神」が唯一神として信仰されている。



 ──『カアウラス』。



 倒すべき偽神とやらはこいつで間違いないだろう。相手取る敵が明確になった。大進歩だ。


 ……とはいえこの一ヶ月、何もしていなかったのは事実だ。

 いや情報収集はしていたのだが、それはクソ上司(ヘルゴエル)端折(はしょ)った前提知識を今さら学んだぞというだけであって、あくまでやっとスタートラインに立ったところ。


 俺の気持ち的には、さっさと偽神カアウラスのところまで歩いていき、あの外道神官たちにかましたような砲撃を撃ち込んで超越空間へ帰りたい。のだが、そうもいかない理由がある。


 どうやら「カアウラス神」は「現世に存在しない」らしい。


 つまり、そこら辺の王族やら支配者やらが「朕は神なり。崇め(たてまつ)(たま)え民たちよ」などと抜かして神を名乗っているわけではなく、どうやらカアウラスは聖典の中に登場する古代神でしかない。

 

 この話だけを聞けば、数多の世界を創り出し管理する創造神を知っている天使の身としては、「じゃあその神は人間が作り出した幻影だね」となるのだが。実際、天使による世界の更新(リセット)に抗っている何者かがいるから俺が下界にまで出張ってきたわけで。


 次元の壁を超えられるほどの、それなりに強大な力を持った何者かは確実にこの世界のどこかに存在している。


 で、俺はこいつがどこにいるのか探すところから始めなければならないのだ。嘆息が止まらない。


 問題はもうひとつある。


 孤児の肉体。

 これがあまりにもハンディキャップとして重すぎる。


 毎日ユノからまともな食事を食べさせてもらってなお改善しない骨と皮だけの身体と健康状態。筋力、基礎体力の欠如。なにより、神聖力の「器」としての性能の低さ。


 あれから俺は夜になるとこっそり村を抜け出し、近くにある草原や大森林にて神聖力の塊を撃ち出す訓練をしているが、これがまた、すぐ枯渇するのだ。

 威力のコントロールや命中精度、軌道の制御など技術面では上達しても、そもそもの問題として神聖力の絶対量が少なすぎてお話にならない。


 カアウラス神教会に何人の神官がいるのか知らないが、これじゃまた二・三人を肉片に変えるのがせいぜいだ。せめて数百連射、絨毯爆撃や高威力爆破くらいはできるようにしたい。


 考えごとをしていると、物置の扉が軽快にノックされた。


「ラグナエル、ちょっといい? わたし、猊下げいかのいる街まで出かけてくるから」


「夜には戻るんだったか? 気をつけてな」


「うん。今日も薪割りよろしくね。お父さん、またお酒飲んでるみたいだから⋯⋯」


「あぁ。分かった」

 

 ユノとの関係は良好だ。


 助けてもらったこと、現在進行形で助けてもらっていることに礼を述べつつ、村での暮らしに貢献することで程よい距離間を保てている。


 ただまぁ……時折彼女から変な目線を向けられることがある。その原因はおそらく俺に対する不審(ふしん)だろう。孤児らしからぬ振る舞いや失言をしてしまったという心当たりが結構ある。端的にいえば、怪しまれているのだ。


 当初は一食か二食恵んでもらってすぐ追い出されるものと思っていたから、取り(つくろ)い方が少し杜撰(ずさん)だったかもしれないな……。いや、そもそもこの世界の十代の少年少女の普通の言動というものを知らないのだから、どうしようもない話ではあったが。


 今後は演技力も(みが)いていかなければ。

 



 ただそれでもかなり好意的に接してくれるユノとは対照的に、彼女の父親は俺を嫌っているようである。直接何かしてくるわけではないが、俺に向ける(けが)らわしいものを見る目は相当に露骨だ。


 何度か居候(いそうろう)させてもらっていることへの感謝を伝えようとしたが、そのたびにシッシッと手で追い払われた。会話したら孤児が伝染(うつ)るとでも思い込んでいる感じだ。


 実際、この家に永遠に居座るわけにもいかないのでそろそろ行動を起こしたいところ。


 何をするにつけても、この孤児という状態は不利がすぎる。偽神討伐という今後を考えても、やはりこのままではいられない。

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