40:綺麗だ
ドゥドゥが移動し終えたかというころを見計らって、俺は姿をさらした。
「やぁ、ラシェル嬢。ひとりかな?」
「ええ。ほかの三人はゲルトさんと戦っています。なんとか私だけ逃げおおせたのです」
スタニックはすでに炎をまとった剣を構えていた。
「こんなにも早く、きみと戦える日がくるなんて嬉しいよ」
筋骨たくましい金髪の少年が微笑んだ。
「私もです」
剣をゆっくりと鞘から抜き、剣身を軽く振った。日光を反射してチカチカと光ったはずだ。
そして俺は何の前触れもなく──地を蹴った。スタニックに向けて全力で走る。
「僕も剣技で応えたいところだけど……近づかせないよ。後ろに仲間がいるんだろう?」
スタニックは剣を地へ突き刺した。
ぶわっと炎の壁が立ち上がる。
走る俺の前を、高く長い火炎が塞いだ。
期待通りだスタニック。
ドゥドゥと違って頭が回る。
壁が視界を遮った瞬間に、俺は神聖力で自分の肉体を包みこむ。地から少しだけ浮かせて、爆発的に加速させる。超速度で駆ける。
そして炎を突き破った。
「っ!?」
驚愕するスタニックの喉元。
彼の身体に展開された障壁に、俺の刃が触れる寸前。
俺はピタリと停止し、剣を止めた。
「……え?」
障壁を割らなければ倒したことにはならない。寸止めに意味はない。皇子が混乱したように俺の顔を見た。
「────綺麗だ」
彼がなにか呟いた直後、俺の首元から教師の声が響いた。
『ラシェル、失格。すみやかに離……脱して……い。これ以……の戦……違反と……』
途切れ途切れの指示は、途中で聞こえなくなった。三つのペンダント型魔法具は障壁としての使命をまっとうし尽くし、炎によって炭化していた。俺は念のため、それを引きちぎり、魔法具内部を神聖力で破壊した。
「……綺麗だ」
スタニックはまた呟き、今度は聞き取れた。
「きれい?」
彼は俺の目をまっすぐ見てそう言った。
そう、まっすぐ──。
「しまった、ヴェールが……」
手を頬に当てると、顔が完全にあらわになっている。加速時にめくれてしまったようだった。
俺はすぐに下を向き、顔隠しを元に戻した。端は焦げているが、無事である。
よし。
ガッツリと顔を見られた気がするが、気にしないことにした。
「あ」
俺はあえて声を出し、皇子の背後に目線を向ける。
そこではドゥドゥが平民生四人と戦っていた。剣、盾、弓を持った三人をユノが後方から魔法で支援している。
一対四。
にもかかわらずドゥドゥが優勢である。読み通り、彼らは戦闘が得意ではないらしかった。
「っ……《衍直焼夷》」
スタニックは魔力を練って詠唱し、炎の矢を撃ち出した。
炎は正確にドゥドゥを吹き飛ばす。
障壁は軽々と砕け散っていることだろう。
三人以上の脱落。
第十四班、俺たちの負けだ。
「ドゥドゥさん!」
吹っ飛んで倒れた不良少年に駆け寄る。
「うぅ……」
ドゥドゥはうめいた。
なんだか起き上がってきそうな気配だったので、神聖力で彼の体を包み、締めつけて失神させる。血流が滞った結果の気絶である。
「怪我人が出たときは教員を呼んで待機、でしたね。私が呼んできます」
「僕が呼んでくるよ」
「いえ、ここに来る途中で試験官を見かけたんです。その場所をあたってきます」
嘘だがな。
「なら一緒に──」
「殿下は彼の容体の確認をお願いします」
「あ、あぁ……」
「あ、わたしも診てみる。回復魔法使えるから……」
名乗り出たのはユノだ。
「ではすぐ戻りますから、よろしくお願いします」
「………………うん」
ユノに微笑みかけたが、彼女は俺と目を合わせずにぎこちなく頷いた。なんだろうか。彼女も『呪いの令嬢』もとい『呪いの少女』を嫌っているのかもしれない。
まぁそれはそれとしてだ。
「…………さて」
俺はひとりで森へ入る。少し進むと、小道へ出た。
【断罪】のサリナスが木々を切り倒して作った、切り株の小道だ。
さっさと目的を達成してしまおう。




