39:試験中
「いい? 作戦変更よ。あなたたちにも戦ってもらう」
『あなたたちは何もしなくていいわよ。私が勝たせてあげる』という前言を翻す第一皇女アリカ。
「ゲルトは岩石系統、スタニックは剣術と炎系統を使ってくる⋯⋯実力者。悔しいけれど、ひとりならまだしも、このふたりを同時に相手取り、倒すことは私には不可能でしょうね」
ここはすでに森の中。第一班とそれなりに距離をとり、身を隠して試合開始の合図を待っているところだ。
「でも、戦闘には勝てなくても、試合には勝てる」
言わんとしていることが読めた。
「『チームの人数にかかわらず、三人以上が死亡判定を受けたら敗北』。それがこの団体演習のルール。殿下とニルスさんが貴族生ふたりを足止めしている間に、私とドゥドゥさんで平民生の四人を攻撃しろ⋯⋯ということですね」
「妥当な作戦だな」
ニルスが同意した。
「ん? ってことはオレらは四対二で平民生を相手しなきゃいけねぇってことか?」
チームごとのパワーバランスを教師が真面目に考えていれば、ゲルトとスタニックという最高戦力が偏っている以上、その平民四人は戦闘が不得手であると見たいところではあるが。
「そう。そこが問題よね⋯⋯そこの不良はそれなりに喧嘩ができそうだけど、そっちの呪いの元令嬢さんは、はっきり言って戦力にならなさそうだし」
「誰が不良だよ。⋯⋯てか、皇女サマよ」
アリカが真剣に思い悩むようにため息をつくのを見て、ドゥドゥは尋ねた。
「皇女サマは昨日のアレ、見てねぇのか?」
「アレってなによ」
そういえば、アリカは自分の直後にゲルトが記録を超えたのを見て訓練場をさっさと立ち去っていた。
ドゥドゥは愉快そうに告げる。
「コイツな、攻撃力測定で障壁二十枚割ったんだぜ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?」
皇女の時が止まる。
口を開けたまま、ニルスを見た。
「オレも噂は耳にした。ゲルト坊は『不正があった』と主張しているらしいが、事実として、剣の一振りで障壁を全割りしたと」
ゲルトも懲りないものだ。また不正呼ばわりか。
「⋯⋯悪いけど、それは私も不正を疑うわ。常識的に考えて魔力なしで、そんなことができるわけがない。魔法具でも持ちこんでいたのではなくて?」
「疑うのは自由ですが、もう試合開始まで幾ばくもない。私とドゥドゥさんで敵の平民生を倒さなければならないことには変わりないでしょう」
「⋯⋯そうね。私とニルスで平民生を速攻できたら最善だけれど、間違いなくあのふたりは彼らを庇って陣取っているはず。どうにかして引き離したいところね」
「持ちこみ有りの試験なら一瞬でカタがつくんだがな」
ニルスのよく分からない呟きに、アリカが投げやりに返した。
「《魔転書》なんて、それこそ不正でしょ」
なんの話だか知らないが、ふたりで通じ合っている。昔からの付き合いというのは事実のようだ。
「準備時間が経過しました! 所定の位置についたと判断します! 障壁は身につけてもらっていますが、もし万が一怪我人が出た場合は誰かひとりに教師を呼びにいかせ、それ以外の者はその場に待機してください! 神官がすぐに向かいます」
拡声された教師の声が森に響く。
「それでは──第一班対第十四班の団体演習試験を開始します!!」
「おいヤベェよ、始まっちまったよ。ど、どうする?」
不良っぽいガタイの良さに似合わず慌てだすドゥドゥ。
「落ち着きなさい。向こうは足手まといの数が多い。動きは速くないはず──」
そう言ったのと同時に、俺たちの視界に影が落ちる。
「──見つけたぜ。ラシェル」
「な……!? 上!?」
ゲルトは伸び続ける岩の上に立っていた。木々の上に橋をかけ、やってきたらしい。
「死にな! 《冗散延石》」
細い石槍が数十本、放たれる。
「《空螺渦拡》!!」
皇女アリカが上昇気流を巻き起こしたが、最初の数本は風の壁を貫通する。
「ぐっ……!」
防御が間に合わなかったニルスは、腹に槍を食らう。障壁が起動し、そして割れる音がした。
『ニルス・ド・シェヌ、失格。すみやかに離脱してください。これ以降の戦闘行為は違反となります』
ニルスのネックレスから教師の声がした。
「ちっ、たったひとりか」
魔法で作られた石橋のうえに立つゲルトが舌打ちする。
「不良! 不正! 行きなさい! 私じゃあなたたちまで守っていられない!」
なんて呼び名だ。
ボケっとしているドゥドゥの手を引き、俺は駆け出した。
「お、おい! いいのかよ、ニルスのヤツ脱落しちまったぜ!? 皇女サマひとりでゲルトとかいうのを相手に──」
「大丈夫です。それより、周囲に気を配ってください。こう木々が密集していると、いつ接敵するか分かりません」
ゲルトは開始早々、大規模な石橋を建てて急襲してきた。素の状態でも魔力量はアリカに分があるのだ。魔法の技量ではゲルトが勝っていても、魔力量にはそれなりに開きができている。互角にやり合ってくれるはずだ。
「あ、あといい加減に手を離してくれ! ひとりで走れる……おい不正、見ろ!」
ドゥドゥは恥ずかしそうに手を振りはらったかと思うと、前方を指さした。皇都に向かって森の右舷側が、ほかよりも少し明るかった。
速度を落として慎重に近づくと、開けた空き地だった。その中心に、ユノたち平民生とスタニックがいるのが見えた。
「クソ、あんな堂々と……余裕綽々じゃねぇか」
「殿下は剣士ですから、森の中に潜んでいるより戦いやすいのでしょう」
「剣士で、しかも魔法も使えるんだろ。どうするよ。皇女サマがゲルトを倒して追いついてくるまで待つか?」
悪手も悪手、悠長な賭けだ。
「いえ……ドゥドゥさんは十分に遠回りしながら背後へ回りこんでください。私は正面から突っこみます。スタニック殿下が私に気を取られている隙に平民生たちを倒してください」
「お前、意外と頭いいのな。それ、勝算あるぜ。結構イケそうな作戦じゃねぇか」
スタニックは当然、この程度の小細工は想定しているだろうがな。
それでいい。
いや、それがいいのだ。




