表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美少女の死体に受肉したけど、嫌われ者だったので正体隠して暗躍する  作者: 中上二等
学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/96

37:無才の剣技(後編)

「次⋯⋯いえ、最後の方、名前をどうぞ」


 そしてスタニックの直後に俺の番か⋯⋯。


「ラシェルです」


 俺は剣を手に取った。スタニックの使った剣は柄が()け、刃は変形していたので別の剣だ。ずっしりとした無機質な鉄の重みが、手のひらを通じて腕へと伝わってくる。刃の潰れた、何の変哲(へんてつ)もない量産品。


「やっとお前の番だな、ラシェル。不正を認めるなら今のうちだぜ? そんななまっちょろい細腕(ほそうで)で何ができる?」


 ベンチに深く腰かけたゲルトが、品性のない笑みを浮かべてこちらを指さした。


「腰が引けてるぜ。まさか、そのまま適当に振り下ろすだけじゃないだろうなぁ?」


 彼の言葉に、周囲に残っていた数十人の生徒たちから、くすくすと忍び笑いが漏れる。貴族の女子生徒たちは扇を口元に当て、平民の男子生徒たちは腕を組んで、値踏(ねぶ)みするような冷たい目を向けていた。


 俺はゲルトの挑発を完全に黙殺し、柄を両手で握りしめた。


 右足を一歩引き、剣を頭上へと持ち上げる。洗練された型も、流麗(りゅうれい)な足さばきもない。ただ真上から真下へと振り下ろすだけの、基礎的な構えだ。


 (わき)が開き、重心が浮き上がった、およそ実戦的ではない素人の大上段。

 周囲の人間には、少女がただ剣を持ち上げ、そのまま硬直しているようにしか見えない。彼らには感知できない領域で、俺は体内の神聖力を操作し始めていた。


「⋯⋯⋯⋯」


 下腹部(かふくぶ)の奥底に沈殿(ちんでん)する神聖力を引き絞り、脊髄(せきずい)を伝って一本の細い熱線へと凝縮(ぎょうしゅく)する。熱は肩を通り、上腕の筋肉を内側から焼き焦がすような感覚をともないながら、手のひらへと収束していく。俺はそれを、鉄剣の内部構造へと流しこんだ。


 普段行っている物体操作のように、その周囲を神聖力で包みこむのではない。


 内側に力をそそぎ、ただの金属の棒を、一撃のためだけの特異な「器」へと変質させていく。血管を熱い血液が逆流するような感覚。呼吸を止め、心臓の鼓動に合わせて、さらに神聖力を剣へと圧入した。


「なんで固まってんの?」「緊張してるんじゃない」「いつまで待たせる気だよ」


「謝罪するなら早くしろ。ギャラリーが飽きはじめてるぞ」


 ゲルトの嘲笑がさらに一段高くなった。


 鉄剣は炎をまとうことも、雷光を放つこともない。ただ、刃の周囲の空間が、極度の熱に(さら)されたかのようにぐにゃりと(ゆが)んでいた。鉄剣そのものが、膨大な神聖力の圧力に耐えかねて、ミシミシと悲鳴を上げはじめる。


「三、二、一でカウントダウンでもしてやろうか! そこまでして無様(ぶざま)(さら)したいのか!」


 記録係の生徒も、(あき)れたように時計を確認しはじめていた。


「⋯⋯⋯⋯」


 鉄剣の内部が、神聖力で飽和(ほうわ)状態に達する。これ以上の充填(じゅうてん)は、剣そのものが自壊(じかい)する限界点。

 

 俺は正面の《アルカンゲルム》を見据えた。


 ⋯⋯いくか。


「はっ⋯⋯!」


 短く呼気(こき)を吐き出し、俺は鉄剣を真っ直ぐに振り下ろした。


 閃光も、爆風もない。


 速くもなく、鋭くもない、平凡な一撃。


 ただ、鉄剣の刃先が、ゴーレムを囲む魔力障壁の領域に届く瞬間──ためこんでいた神聖力を放出した。


 インパクトと同時に撃ち出される不可視(ふかし)のエネルギー。


 鼓膜を突き刺すような、結晶の(くだ)ける硬質な音が連続して鳴り響く。


「は?」


 ゲルトが間の抜けた声を上げたときには、刃は《アルカンゲルム》の外装(がいそう)に到達していた。


 ぐぐ、とゴーレムは後退する。


 そして、俺の握っていた鉄剣は、神聖力の負荷に耐えきれず、(つば)の根元から粉々に爆散した。


「⋯⋯は?」


 手元に残ったのは、ただのひしゃげた革張りの柄だけだった。


「⋯⋯」


 記録係の生徒が、手に持っていた羊皮紙のバインダーを取り落とした。板がむなしく落ちる音が、訓練場に不自然なほど大きく響く。


 《アルカンゲルム》の首元。何十本と垂れ下がっていた魔法具のネックレスは、一本残らず光を失っていた。


「障壁、にじゅ⋯⋯二十枚、全、全損⋯⋯ッ!?」


 記録係の悲鳴のような絶叫が、静まり返った場にこだました。


「二十枚って、おい、全部か⋯⋯!?」

「そんな馬鹿な! 魔法使えないんだろ? 今の剣一筋で⋯⋯」


 平民の生徒たちは騒然(そうぜん)と色めき立った。

 貴族の生徒たちも、信じられないものを見た衝撃から立ちなおり、お互いに(ささや)きあいはじめる。


 歓声はない。


 ベンチに座っていたゲルトは、立ち上がることもせず、ただ口を半端(はんぱ)に開けたまま硬直していた。先ほどまでの傲慢(ごうまん)な笑みは、綺麗さっぱり消し飛んでいる。


 俺はひしゃげた剣の柄を、武器置き場のバケツへと丁寧に差し戻した。


「これで終わりですね。記録、よろしくお願いします」


 呆然と立ち尽くす生徒たちの間を、俺は音もなく通り抜ける。背中に突き刺さる、混乱と畏怖の入り混じった無数の視線を置き去りにして、訓練場を後にした。






 午後の筆記試験。これに苦戦する要素はない。

 昼食をとるため食堂に向かう。


 その途中で第二皇子スタニックに話しかけられた。きみの剣に感銘を受けた、凄まじい境地だ、ぜひ機会があれば僕と手合わせを──。


 流れで一緒に食事をとったが、なかなか(さわ)やかな人柄をしている。ラシェルを(さげす)むのが標準の貴族社会にあって、それをしない稀有(けう)な少年だ。


「明日は同じチームになれるといいね」


 彼はそう言って握手を求めた。

 別邸のメイドなどは、「呪いが伝染(うつ)る」と俺に触れることをもっとも嫌っていたというのに、面白い。



 そう、明日は団体演習試験である。

 場所は皇都の外。城壁から少し離れた小さな森で行われる。


「⋯⋯野外ですか」


 筆記試験より、次に起こすべき行動の思案に頭を切り替える。


 試験には【断罪】の枢機卿サリナスが同行する。彼の神通力の程度はもう知れた。


 野外──つまり学園・大聖堂の中のように障壁はない。

 隙を見て捕らえ、拷問し、殺す。


 エメリーヌの【教化】を借り、徹底的に情報を吐かせたい。【教化】のデメリットはほかの人間に「コイツ洗脳されてないか」とすぐ勘づかれてしまう点にある。


 逆にいえば、殺してしまうのならどんな洗脳を(ほどこ)したって構わない。


 いまだに遅々(ちち)として情報が集まらない偽神カアウラスについて、知っていることを洗いざらい喋ってもらおうじゃないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ