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美少女の死体に受肉したけど、嫌われ者だったので正体隠して暗躍する  作者: 中上二等
学園編

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33:大聖堂を荒らそう

 突然だが、おさらいだ。 

 皇都の中心には、大聖堂と学園が隣り合って建っており、その両方を障壁が丸ごと(おお)っている。外界(がいかい)との行き来を完全に遮断する、古代の魔法具「遺物」による障壁(オルトゥム)だ。


 これがもう本当に、訳がわからないくらいに強固な障壁である。とにかく(かた)い。めちゃくちゃ堅い。非常に堅牢(けんろう)な防壁が、大聖堂および学園を守っている。


 俺はいつか「今の俺の神聖力なら皇都数十個は更地(さらち)にできる」なんて言ったが、もしこれが皇都全域に()られていたなら、その数は皇都数個にまで激減するだろう。おそらく、俺が全力で張る結界より(かた)い。そのレベルの障壁なのだ。


 別に根拠もなく敵の保有する遺物(いぶつ)の性能を絶賛(ぜっさん)しているわけではない。実際に砲弾を撃ちこんだからこそ分かるのだ。

 

 二年くらい前、カアウラス神教会の中枢・大聖堂を偵察(ていさつ)するために、仮面をかぶり外套を着こんで個人を特定する要素を徹底的に隠蔽(いんぺい)したラグナを突入させたことがある。


 どこまで奥へ行けるだろうか。ラシェルより力は(おと)るが、多少向こうを引っかき回して、何かしら情報を持ち帰ろう。そんな腹づもりでの偵察だったが、結果はお察しのとおり。

 ありえないくらい分厚い魔力の障壁(しょうへき)突破に手こずり、侵入計画は頓挫(とんざ)したのである。


 ちなみに皇城には簡単に侵入できた。《魔撃銃(まげきじゅう)》を構えた《総局》員と攻撃魔法を躊躇(ちゅうちょ)なく乱射する《皇帝の天盾セレスティアル・ガード》に追いかけ回されてすぐに撤退(てったい)したけれども。皇帝陛下のおわす居城より侵入が困難な教会と学園とは、これいかに……。


 とにかく、それから時を経て、俺は学園へ入学した。障壁の入口から堂々と、その内側へ足を踏み入れることが許されたのである。


 となれば、まずやることはひとつ。

 ラグナを大聖堂に突撃させる。


 明確な目的はない。

 大聖堂内部の構造の把握、高位神官の殺害による教会の戦力低下、混乱に乗じて情報収集。そのあたりの目標をかかげながら取りあえず突っこもうというわけだ。

  百聞は一見にしかず。エメリーヌに聞くより、自分の目で見ることで分かることもある。そもそも持ち出し禁止の書物・資料も多いらしいしな。


 入学式の今日、俺はエメリーヌ邸から馬車で学園の敷地(しきち)内まで送迎してもらった。そのときにラグナの体も障壁内に持ちこんだ。麻袋(あさぶくろ)にくるまったラグナを座席の下に転がしておいたのだ。入口での簡単な検査は難なくスルー。


 式は終わって新入生たちは自由解散。

 学園の施設を見学する者も多い。それにまぎれて、制服を着させたラグナを便所へ。そして夜まで待機だ。


 暴れたあとは障壁を外側(ラシェル)内側(ラグナ)から同時に神聖力で撃ち抜き、脱出する。


 当然リスクはあるが、実行犯はあくまでラグナであるため、危険性はかなり軽減される。枢機卿の中でも飛び抜けた戦闘力を(ほこ)る【征圧(せいあつ)】のヴァルデが不在であることはエメリーヌを通して確認済み。

 

 侵入すれば今後、警備は強化されることになるはずだが、その程度はたかが知れている。見回りが増え、障壁入口での検問が厳しくなるくらいがせいぜいだろう。


 懸念(けねん)点は、日が沈むまで便所に待たせるラグナの体臭くらいのものだ。

 

 ということで、さぁいざ()かん、大聖堂へ。


 


 □□□□


「第六門、異常なし」


「おし、交代の時間だ。おつかれ」


 不壊(ふえ)(うた)われる堅固な金属の(かたまり)

 (いな)──それは壁であり、門である。大聖堂の外郭(がいかく)と第一層の(さかい)、地下第二層との境、第三層との境……と大聖堂内部を物理的にへだてる。


 地下第六層の第一門から地上に近づくにつれて隔壁(かくへき)は重く、頑丈になっていく。逆にいえば、第六門さえ突破できればあとは門は薄くなる一方。


 背教者(はいきょうしゃ)は一歩たりとも聖域へ踏みこむことあたわず。

 

 それは建国時より伝わる教えだった。


「で、その先に地底深くへ続く洞窟(どうくつ)の迷宮があるわけだ」


 今日はそこまでは行けないだろうが。


「……今、人の声しなかったか?」


「男の声だよな? おい、そこに誰かいるのか?」


 神官の声。


「交代の時間をとちったお間抜けじゃないか?」


「はは、見逃してやるから早く来い。オレも今来たところだからよ」


 大聖堂の建物、地上第一層の入口を守っているのは神官四人。大陸を牛耳(ぎゅうじ)る世界宗教の本拠地にしては少なすぎる。


 それだけ障壁(オルトゥム)を信頼しているのだろう。


「お、きたきた……ガハッ」


「え? うグッ」


 光線が彼らを(つらぬ)いた。

 低出力のため可視化(かしか)していない……目に見えぬ攻撃である。威力は低いが生身の人間の殺害には事足(ことた)りる。


 暗がりから(ラグナ)は進み出て、開け放たれた門をくぐった。



 


「……でよ、そしたらシェヌ家の息子がだな……」


「皇女の(ふところ)に入りこむって話だろ? お偉いさんもえげつないことするよな……」


 通路を神官が歩いてきたので、ふわりと宙へ舞い上がってやり過ごす。聖堂だけあって天井が高い。


 しばらく進むと書庫らしき部屋を発見した。

 通路は壁に設置された照明魔法具の明かりで照らされているが、書庫は消灯されていた。


 試しに本棚の陰へ行き、神聖力を光に変えて適当な本を開く。


遺物(いぶつ)を読み解く:魔法具の稼働(かどう)を一時的に停止させる《魔封茶(まふうちゃ)》に関する実証的研究』


 神官向けの学術(がくじゅつ)書だ。


算術盤(さんじゅつばん)の書』

『魂は蘇生されるか 回復魔法入門』

『《魔撃銃(まげきじゅう)》独占の歴史』

『魔物の核・魔石:魔力生命体はどこから来たのか』


「…………」


 もっと挿絵(さしえ)だらけの聖典や、布教のための例話集(れいわしゅう)なんかが置かれていると思ったのだが、よく考えたら大聖堂は聖域ということで一般信徒の立ち入りを禁じている。神官の勉強用に、実用的な書物が保管されているのだろう。これでは日中ちらっと(のぞ)いた学園図書館の蔵書(ぞうしょ)と大差ない。パスだな。


 本を棚に戻し、書庫を出た。


 そして次、第二層。

 ここから地下だ。大きな階段をくだった先に、隔壁(かくへき)・第五門がそびえていた。


 警備は神官が六人。みな腰に長剣をさげている。

 見ただけでは魔法も扱える魔法剣士なのか、俺が目指す予定の剣技一本で戦う神官剣士なのかは分からない。分からないし、分かる必要もない。

 

「……?」


 神官の剣が突然、(さや)から引き抜かれた。


「は? お、おい!!」


「オレの剣が──」


 六本の長剣は()()()()()宙へ浮かび、そして所有者だった人間をそれぞれ刺し殺した。叫びを上げる暇もなく、六人の体は床に崩れ落ちた。


 離れた場所にある物体操作もお手のものだ。

 また、悠々(ゆうゆう)と門をくぐり抜けた。


 第二層は食堂、査問(さもん)室、主教(しゅきょう)級集会所、謁見(えっけん)室、女神官の控室(ひかえしつ)、礼拝堂で構成されていた。


 そこで俺は地図を見つける。


「……資料室は第三層か」

 


 そのとき、背後から悲鳴と怒号(どごう)が聞こえた。


「第五門、閉扉(へいひ)せよ!! 第六門の守衛が何者かに──なっ、これは!?」


「し、死んでる! じ、自分の剣に(つらぬ)かれて……? まさか心中(しんじゅう)……」


「バカ言え、侵入者だ! すでにここまで入りこんで……」


 俺は先を急ぐ。

 廊下を高速で進み、横に広い石の階段を飛び降りる。


「早く()めろ!」


 第三層第四門はすでに閉じかけていた。

 通路の左右からふたつの金属壁が横方向へすべり出ている。両引き戸……両引き隔壁(かくへき)だ。


 飛翔を加速させて、細くなった扉の隙間に飛びこんだ。


「なに!? 仮面……?!」


「全員構えろ、侵入者だ!」


 (さわ)ぐ神官を光線で一掃(いっそう)する。俺の背後で、分厚い門が地響(じひび)きを立てて閉まった。


 さてと。

 引きちぎってきた大聖堂の地図を見る。


「資料室は……ここか」


 木戸を蹴破(けやぶ)って侵入。

 中には誰もいなかった。


 あるのは、書類の山、手紙の束、書物の壁。かなり散らかっている。どれが俺にとって有益か、じっくり品定めウィンドウショッピングする時間はない。

 

 山勘(やまかん)で適当に持ってくか。

 


□□□ 


「動くな!」


 【断罪】の枢機卿(すうききょう)アレクシス・ル・サリナスは、上階層から通信が入ってすぐに、現場に急行した。


 場所は資料室。

 外套(がいとう)で全身を(おお)い隠した人物が、紙を(あさ)っている。


「貴様を拘束する! 拷問(ごうもん)のためだ! 抵抗するようなら、なぶり殺す! 両手を頭の後ろに回して(ひざまず)け! 吾輩(わがはい)は【断罪】の枢機卿、サリナスである!!」


「…………」


 外套(がいとう)の人物は気にも留めない様子で書類の山をひっくり返し続けていた。


「そうか分かった。では、なぶり殺す!!」


 サリナスは剣を構えた。柄頭と(つば)に赤い宝石の輝く細身剣。一見すると刺突剣(レイピア)のようだが、近づけばそれは限りなく細い両刃の剣であることが分かる。


(ぞく)め、不遜(ふそん)にも聖域を血で汚したのだ! 楽に死ねると思うな!」


 剣が振るわれた。

 細く軽く、そして目で追えないほど素早い剣。


 それは侵入者のはるか手前で空を斬った。


 空振(からぶ)り。

 そのように見えて、斬撃が宙を飛んでいた。


 書物の山を割りながら青い光が敵にせまった。


「ハハハ、【断罪】だ!!」


 鈍い音が響いた。


「ハハハ…………は?」


 侵入者は相変わらず書類や地図、神官名簿などを懐にしまったり、破り捨てたりしていた。


「な……【断罪】が効かない!? なんだ、魔法障壁か!? 吾輩(わがはい)の神通力をも退(しりぞ)けるとはなかなかやるようではないか!! だが……いつまで保つかな?」


 サリナスは続けて軽々と剣を振るった。

 斬撃が幾筋(いくすじ)も走り、敵の障壁にぶつかる。


「ほほう、なかなかの手練れだな貴様!!」


 二十、五十、九十、百……。


 いったい何度斬撃が飛ばされただろうか。


 後ろから神官魔法師が援護にやってきて、攻撃魔法を撃ち出しても、侵入者は平然と資料をかき回していた。


「はぁ……はぁ……な……なんだ貴様……なんだ貴様は!! どんな魔力をしている!? これだけの攻撃をしのぐなど──」


「サリナス猊下(げいか)(ぞく)を守っているのは魔法とは限りません。もしかすると」


 部下が耳打ちする。


「あぁ、なるほど! そうか、その障壁(しょうへき)、さては魔法ではないな。魔法具……いやこのレベルとなれば古代の遺物か!!」


 疲労のにじんだ額に流れる汗を、鬱陶(うっとう)しげに彼はぬぐった。


「どこの手の者だ。皇帝派か! 独断専行(どくだんせんこう)下仕(しもづか)えか! それとも隣国の間諜(かんちょう)か!」


 返答はない。

 こちらの攻撃がまったく通じず、向こうが会話に応じる様子もない。状況は膠着(こうちゃく)していた。


 サリナスはついに剣を振るのをやめた。

 乱れる息を、部下の前だからと苦労して(しず)める。今まで、この軽い剣をこんなにも多く振るう機会などそうありはしなかった。


 剣から斬撃を飛ばし、敵を()つ神通力【断罪(だんざい)】。

 一対一の戦闘においては相手が魔法師、剣士、格闘家、何であろうと無類(むるい)の強さを誇る。それゆえに肉体の鍛錬を(おこた)っていたのである。


「はぁ……はぁ……貴様……いつまでそうしているつもりだ!! 隔壁(かくへき)はもう閉じた、逃げ道はないのだぞ! おとなしく投降(とうこう)しろ!!」


「…………」


 ようやく、侵入者は顔を上げた。

 長い戦闘……一方的な攻撃のすえ、初めてこちらを向く。深くかぶったフードの奥に、ちらりと黒い仮面が見えた。


「……っ」


 コツコツと足音を鳴らして、侵入者は歩き出した。


「そ、そこで止まれ!!」


 制止(せいし)を聞き入れる様子はなかった。

 まっすぐ向かってくる外套(がいとう)の人物に、思わずサリナスは後ずさる。


「貴様、止まれと言っている!!」


 侵入者は立ち止まった。


「……よ、よし。それでいい。まずは、ゆっくりと両手を上げろ」


「…………」


 しかし侵入者はサリナスの方を見てはおらず、手元に視線を向けていた。


「何をしてる、もたもたするな。早く両手を上げるんだ」


 侵入者は片腕を上げた。


「よし。もう片方の手もだ」


 反対の手には、ちぎられた紙──大聖堂の地図が握られていた。侵入者はそれを見つめている。


「おい、貴様、耳が遠いのか! もたもたするなと──」



 刹那(せつな)


 赫々(かっかく)たる──強い光が目を焼いた。


 

 大聖堂の地下に、真夏の白昼(はくちゅう)を超える輝きがあふれる。そして激しい崩落音とともに床が大きく揺れた。


「ぐぁあああッ!?!?」


「うわぁあああっ!!」


 サリナスもその部下も、視覚を(いちじる)しく傷つける閃光にもだえた。揺れる地面に立っていられず、膝を折る。


「な、なんだ! 何が起こった──」


 サリナスは上から落ちてきた重い何かに後頭部を打ちつけて、気を失った。





 次に目を覚ましたときには、病室のベッドの上だった。(あき)れ顔の老紳士がそばに立っていた。


「……ファルマン。(ぞく)はどうなった」


「天井を魔法でぶち抜いて逃げていったそうだよ。いや〜〜、()しいものを見逃した。第三層から地上まで吹き抜け。結構(けっこう)いい改修だよ。地下にいながら星空がきれいに見える」


 枢機卿サリナスは(くや)しげに口を(ゆが)めた。


「あの無頼(ぶらい)()……次会ったときには必ず、この吾輩(わがはい)がなぶり殺してやる」

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