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美少女の死体に受肉したけど、嫌われ者だったので正体隠して暗躍する  作者: 中上二等
降臨編

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1:上位存在

 どこまでも続く赤い空間。

 そこに俺は立っていた。


「っと、ここも『更新リセット』か」

 

 目の前に無数に浮かぶ球体の一つに手をかざすと、それはまばゆく光り、球の内部に存在するあらゆる文明と生命はリセットされる。


 そこに、一欠片の感情の揺らぎも生まれることはない。


 淡々とこなす、ただの作業。


 偉大なる創造神は桃源郷(とうげんきょう)を求め、天使の手によって無数の世界は「更新」され続ける――。

 


 □■□■□

 


下界(げかい)で神を名乗る偽神(ぎしん)を殺せ」


「は?」


 清らかな衣服に身を包んだ美女はそう言い放った。天使の証である輝く純白の髪が、静かに揺れる。


 彼女は創造神のひとつ下、俺のひとつ上の立場にいる大天使、ヘルゴエルだ。


 数万年ぶりに呼び出されたと思えば、一言目がこれである。


「まったくもって状況が分からないんだが、もう少し詳しく説明してくれないか」


「……ある世界で、神を名乗る不届き者が、世界の『更新』に抗っている。偉大なる創造神の存在も、己が一世界のちっぽけな塵芥に過ぎぬことも知らずにな。邪魔だから、下界に降りて排除してこい」


 表情を動かすことなく事務的に告げる大天使。

 言いたいことは理解したが、情報量はあまり増えていない。


「……分かった。取りあえず、その世界の物理法則と生命体、文明、偽神とやらの情報を見せてくれ」


「そんなものが必要か? もう下界への降臨術を発動してしまったぞ?」


「は?」


 本日二度目の聞き返しだ。

 天使という非実体の身でありながら、自身の難聴を疑う。今なんと言ったこいつは?


「言語理解能力は付与しておくから安心しろ。人間種がはびこる平均的な世界だ、お前も最低限の知識は持っているだろう。そこで、身の程知らずの偽神に格の違いを思い知らせてやれ」


 俺の周囲を光が廻り出す。天使が扱える、創造神から賜りし高純度の神聖力だ。


「……」


 ここ超越空間で世界を管理すること幾億年。無数に存在する下界のうちのひとつへ降りるなんて初めての経験である。万全を尽くすべき。準備してしかるべきだ。しかるべきなのだが、このクソ上司ときたら……。


 光が俺を完全に包み込む。

 展開が速すぎてついていけない。


《降臨 許可》


 創造神の声。

 もう後には引けないということを否が応でも理解する。偽神をちゃっちゃと倒して戻ってきたら、大天使の顔に往復ビンタをかまさなければ気が済まなさそうだ。


 俺を転送する神聖力は一層その密度を増し、一際強い輝きを放つ。


「失敗は許されんぞ、上位天使ラグナエル。その世界の『更新』ができないというのは、桃源郷へと至る可能性を、たとえ億分の一であろうと下げることになるのだから」


「分か……って……い…………」


「ああそう、受肉するよりしろは適当に選んでおいたぞ。魂の消えた新鮮な死体だ。それから、これは別件なんだがな。なんというか、下界から戻って来たら……その、私と…………し、して……」


 大天使の声が遠のき、途切れがちになる。


「了……解…………」


 曖昧に返答をするが、それ以上は意識を保っていられなかった。


 浮遊感に身を委ねながら、俺は超越空間から消失していく。光に包まれたまま世界の境界を跨ぎ、目的の世界へと侵入する。


 そうして俺の視界が暗転する最中……。


 ぬめりと、何かに触れた気がした。




 

 □■□■□■□

 

 


―――――――――――――――眩しい。


――――――――――――光だ。


―――――――あたたかな、光。



 何か、声がする。


「――っ!」


「――のくせに、――かよ」

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