↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メリーさん家の三姉妹  作者: 玉名 くじら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
99/104

99 あれ、アンジュちゃん


 別に俺は断れないタイプではないと思うんだ。

 でも、気がつけば、バイトしているんだよな。

 おかしいな。バイトしなくてもいいはずなんだけどな。


 今日は休日。エレナが今日は家で勉強を頑張るからと、アンジュを任せてきた。

 なぜなら、この喫茶愛花夢。休日は人が並ぶのだ。


 俺はここでウ(・)エ(・)イ(・)ト(・)レ(・)ス(・)をしている。

 ウエイターじゃない。ウエイトレスなんだ。


 当初は娘さんがもう着ないと言っていた巡音ルカの千本桜の衣装だったのに、やるならもっと突き詰めた方がいいよねってことで、オーナーと奥さんが衣装を用意してくれた。


 今の俺は紫色の矢絣の二尺袖と紺色の袴を履いている。

 それをたすき掛けして、フリフリのエプロンをつけている。

 下は黒いストッキングと黒いブーツだ。

 ウィッグまで渡され、黒いロングストレートの髪に赤いリボンをつけている。


 おかしい。俺は言ったんだよ。『男ですよ』って。

 でも、『人手が足りない』『形だけでもいいから』と押し切られた結果、誰も違和感を感じることなくこうして給仕をしている。


 自称鬼の末裔と言い張るオーナーの朝霞慎之介さんと奥さんの理花子さんに押し切られる形で今に至る。


 奥さんは有名な同人作家から商業作家になった人で、知る人ぞ知る人らしい。


 娘の愛花さんもそんな母親に憧れて薄い本を書いている。

 どこに鬼の要素があるのかわからないが、カラフルなヘアピンを使って髪の毛を角にしている。オシャレだ。


 そして、どっちも題材を俺にしたいと言い出した。

 昨日今日会ったような人物を題材にするのはやめてほしい。


 ちなみに、息子の愛之介くんはVtuberをやっているらしい。


 全員が、『一生うちで働いて欲しい』なんて言うが、もう一つのバイトもあるのでそれは難しい。


 オーナーが、髪の毛伸ばしてきて欲しいと言ったが、さすがになぁ……。

 あっちでも同じこと言われたんだよな。


 閑話休題。


 休日の喫茶店なんてそんなに忙しいわけがない。

 そう思っていた。


 でもここは、自称エルフの人が卸しているフルーツを使ったパフェやスイーツが有名で、テレビでも紹介されるらしい。


 そして、休日限定のメガ盛りパフェを目当てに開店の三時間前から並ぶ異常事態。


 ケーキ、タルト、シュークリームと他にも種類があり、午後に入ると売り切れが続出する。

 

 逆に飲み物は潔く、コーヒーとカフェオレのみ。普通の豆とデカフェの二種類。


 そんな感じで働いていくが、本当に大変だ。

 このパフェ、俺も食べたが、量も多く重い。

 俺でも片手では運べない。


 他の二人のバイトは、俺と同じ大学生で、松村朝陽さんと真島千絃さんだ。

 俺と一緒に頑張る美少女だ。

 二人とも何を着ても似合うが、着物も良く似合う。


 そんな二人も俺が男だと思っていない。

 何回説明しても信じてくれない。おかしい……。

 むしろ、場違い感が半端ないと思うのだが……。


 ある程度人がはけ、少し余裕が出てきた。

 襟を正しながら、お客様を案内し、スイーツを運んで、会計する。


 そんな時、とんでもない人物がいた。

 冬室礼奈。エレナの友人でどこかお嬢様感漂う人物だ。

 今日はレースの入ったワンピースを着ている。なかなかにいい趣味だ。


 しかし、ここでバレてはいけないが、俺には絶対の自信がある。

 そう、ウィッグを被っていることだ。少しメイクもしている。バレる要素はない。


 「すいませーん」

 呼ばれてしまった。松村さんはパフェを運んでいて、真島さんは会計をしている。

 俺しかいない……か。


 「はーい、少々お待ちくださーい」

 そうして、心臓バックバクの状態で礼奈の前へ行き、震える手で伝票クリップを持つ。もう片方のペンを持つ手も震える。

 首筋に汗が一筋流れる感触がある。


 「あ、このナガノパープルとシャインマスカットの………………」

 「あ、はい。ナガノパープルとシャインマスカットのパフェですね。お飲み物はどうしますか?」

 伝票から目線を上げると不思議な顔をしていた。


 「亨さん……ですよね?」

 「はい? とお……る?」


 分からないフリして、首を傾げる。

 大丈夫。今の俺はどこからどう見ても可憐な美少女。元の面影なんてない。


 何回も何回も、首を傾げる練習したんだ。

 今回こそは成功させるんだ。


 礼奈はなぜか俺の頭頂部を見て、肩に着きそうなほど首を傾げた。

 (ウィッグかな? でも似合いすぎてるし。でもいつものアホ毛がない。膨らんでないし、別人?)


 「あ、じゃあカフェオレで」

 「かしこまりました。ご注文復唱いたしますね─────」

 なんとか危なげなく、注文を取り、厨房へ行こうとしたその時──


 「あれ、アンジュちゃん」

 「え?」


 アンジュの名前が出たら条件反射してしまう。

 思わず振り向いてしまったら、礼奈がニマニマした顔をしていた。


 「やっぱり亨さんじゃないですかー」

 「ちょ!」

 慌てて戻るが、もう遅い。スマホで写真を撮られた。


 「撮影はおやめください」

 「撮影オッケーって書いてありますよ」

 「それは、パフェの方です」

 「あー」「おー」

 もう一人、声のする方を見たら、アンジュもいた。


 「え、うそ……。冗談で言ったのに……」

 最近ここのパフェがお気に入りらしいからな。

 また来ちゃったんだな。

 これは、エレナ怒ってるぞ。


 「え、え? なんで?」

 「なぁ、パフェ奢るからアンジュのこと見ててもらっていい?」

 「あ、はい」

 「あと二時間で終わるから、頼むな」


 そうして、今日のバイト代が全部飛ぶくらいの金額を奢り、待ってもらった。

 ちなみに、今日のアンジュは和梨のパフェだった。


 お店が終わり、礼奈のところに行く。

 「ウィッグ外したら分かりました。あんまり変わりませんけど、なんで女装してるんです?」

 「成り行きで」

 「ふーん」

 やたらと含みのある返事をした礼奈。


 「ちなみに、なんでこんなところにいるの?」

 「あ、中野ブロードウェイに用があって」

 どうやら、秋葉原には行きづらいらしく、中野や池袋によく行くらしい。迂闊だった。


 「ところでアンジュちゃん最初からいました?」

 「うゆ?」

 「まぁ、うん……」


 すごく疑っているけど、そのうち礼奈にもバレるんだろうなぁ。

 そう思うと、いつも以上にどっと疲れたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。