100 そのてがあった
今日もアンジュはテレビにかじりつくように見ていた。
きっと、映る全てが新鮮なんだろう。
そんなアンジュを見ながら家事をこなしていく。
アイリさんは疲れたのか、まだ寝ている。
エレナは友達と遊びに行っている。
受験生とは……。
そんな時、スマホに通知があった。
誰からだろうか。環かティナか。
どっちも先にメッセージなど送らずに勝手に来るから違うだろう。
一番可能性があるのは汀だ。
いまだにLINEのラリーが長いのが汀だ。
他愛ない会話しかしていないのにな。
しかし、その誰でもなくアンジュからだった。
『メロンパン→』
「嘘だろおい」
そう思ってテレビの方を見ると、アンジュはまだいた。
「なんだ……。心配させて」
いつもなら俺のところへくるのに、一体どうしたのだろうか。
「おにーちゃ、これ!」
テレビには、都内のデパートへ有名メロンパン屋さんが出店すると朝のトーク番組でやっていた。
アンジュはテレビに触れるか触れないかの位置にいる。
そんな近づきすぎると、テレビの中に入ってしまうぞ?
そしたら俺も入らないといけないし、向こうでペルソ○を使わないといけない。
まぁ、そんなことは起きないんだけどな。
しかし、こんなに目をキラキラと輝かせて見ているってことは、もしかして……。
「アンジュはメロンパン好きなのか?」
「だっいしゅきー!」
両手を上げて飛び跳ねている。
相当好きらしい。
【アンジュの好きなもの】
メロンパン ← new!
ハンバーグ
小夜子さんお手製のお漬物
酢昆布
お刺身
爆盛りパフェ
今までいくらでも買うタイミングはあったと思うんだけどな。
「じゃあ、買いに行くか?」
「おー?」
なぜかアンジュは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「どうした?」
「そのてがあった」
できれば今後もそうしてくれると嬉しい。
「しんはっけん!」
両手を上げてはしゃいでいる。
そうだな。新しい発見だよな。
俺もそう思う。
しかし、こうしてアンジュと一緒に出かけるというのは新鮮かもしれない。
アンジュも嬉しいのか、俺と手を繋いで歩く。
歌を歌いながら駅へ向かい、電車に乗った。
休日のパパの気持ちがよく分かった。
電車内では俺と同じような人たちが何組かいた。
やはり自分の子供がかわいいらしい。目で勝負を挑んでくる。
俺も負けはしない。
そうして新宿に着く頃には全部の勝負に勝った。
少し目が乾いて痛い。
「だいじょーぶ?」
「大丈夫だ。問題ない」
「それ、ちゅかうとこちがう」
アンジュにつっこまれてしまった。だが、そんなのは問題ではない。
転移せずにこうしてお出かけしたのだから。
そうして、デパートの地下へ向かう。
向かうと、かなりの行列だった。
アンジュの顔が少し曇った気がした。
「大丈夫だぞー、こういうのはちゃんと数を用意してるんだからな」
「うん!」
元気に返事をするアンジュ。
だが、まだ列の先の方が見えないのに、『本日の分完売いたしましたー』とアナウンスが流れた。
アンジュは目を大きく見開いて固まっている。
「ま?」
「ま」
それしか言うことが出来なかった。
そして、一瞬目を離した瞬間にアンジュは転移してしまった。
アンジュー──────────
颯爽と消えてしまったアンジュ。
俺はその場に四つん這いになってしまった。
「あらあら、残念ねぇ」「ちょ、そんなに気落ちしないでも」「さっきの子は迷子センターかしら?」「相当ショックだったのね」「かわいそう」
ご婦人方が慰めてくれるが、今は気落ちしている場合ではない。
俺は無言で立ち上がると、総武線で秋葉原へ向かった。
その最中にアンジュから、『先にメロンパンゲット→』と連絡が来た。
そこからつくばエクスプレスで守谷へ。
そしてレンタカーを借りて、道の駅常総へ向かった。
メロンパンが有名なところは数あれど、いつか行きたいとアンジュが言っていた場所の一つだ。
鉾田や海老名だったらまだなんとか耐えられた。
熊本や佐賀、呉なんかだったら、泣いていたかもしれない。
道の駅へ着いたはいいが、ホントいつ来ても駐車場パンパンだよ。温泉施設の方へ停めて歩いていくと、ハート型の銅像の前でポーズを取るアンジュがいた。
「アンジュ……」
「どうちてもたべたくて!」
「なら仕方ないな」
「おにーちゃのぶん!」
アンジュが俺にメロンパンを差し出してくれた。
そのメロンパンはとってもしょっぱかった。
おかしいな。なんで泣いてるんだろうな俺。
そして、アンジュに引かれるまま、再度並んでメロンパンを買った。
アンジュの大好きなメロンパンだ。
バカみたいにでかいメロンパンも買った。エレナ用だ。
しかし、意外だな。
いつもはそんなに目移りしないアンジュがプリン、芋けんぴ、壷焼きの焼き芋、おにぎりといろいろせがんだ。もちろん全部買った。
二人でソフトクリーム食べたり、試食しまくったりした。
そうして家に帰り、テーブルの上に大量のメロンパンの入った袋を置いておいたら、エレナが動揺した。
「え、うそ……。こんなに……。わたしまだ誕生日前よ」
うっとりした顔で大きなメロンパンを手にとって齧った。
もう晩御飯だというのにな。
アンジュは満足げにソファに深く座ってプリンを食べていた。
そこはメロンパンじゃないのかよと、突っ込んでしまった。
その声に、エレナの目の前にあった袋からメロンパンを取り出そうとしたアイリさんが、手に取ったメロンパンを袋の中に落としてしまった。
それに気がついたエレナが、全部わたしのだと言わんばかりに抱えて部屋へ行ってしまった。
そしたら、アンジュがどこかに隠し持っていたメロンパンをアイリさんにあげていた。
「あげりゅ」
「アンジュ、ありがとう!」
「どういたちまちて」
まぁ、アンジュ、帰ってくるまでに三個食べたもんな。
そんなに好きならメロンパン屋さん始めようか。そう真剣に考えたのだった。




