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メリーさん家の三姉妹  作者: 玉名 くじら


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97/103

97 飛ぶぞ


 それは、アンジュを迎えに行った時だ。


 アンジュがいるであろう場所へ向かっている時、突然声を掛けられた。

 こんな場所で知り合いに会うなんてと、振り返ったら全然知らない人だった。


 きっちりと、青寄りの緑色の髪の毛をアップで纏めていて、オーバル型の細めの青いフレームのメガネをかけていた。


 スーツはグレーのストライプで、下はタイトスカートだ。そして、40デニールくらいの黒いストッキングを履いていて、靴も黒いハイヒールだ。


 こんな素敵な知り合いに心当たりはない。


 「亨さんですよね?」

 「あ、はい」

 どうやら向こうは俺を知っているらしい。

 しかし、俺は知らない。


 つまり何らかの手段によって得た情報で、俺に近づいてきているのだろう。

 そうなると、この素敵な見た目の人の可能性としては……。


 美人局の可能性だが、だったらこんな格好はしないだろう。もう少し普段着っぽいのでやるはずだ。

 この人ならカーディガンとキャミソール風のボディコンドレスを着ていても違和感はない。


 ……俺もよく覚えたなぁ。


 次に、新興宗教の勧誘だ。だが、生憎と巫女さんやってるんでな。他の宗教に片足突っ込む訳にはいかない。それに、安っぽいツボを買うつもりはない。

 それに集団で安っぽいセリフを言う趣味もない。


 あとは、セミナーの勧誘だろうか。

 喫茶店で話していると、男二人が入ってきて逃げられなくなるやつ。

 辺りを見回すが、それっぽいサラリーマンがたくさん歩いているが、こっちを見もしないからその線は薄いだろう。


 あとは利殖詐欺かな?

 でも別にそこまでのお金は必要としていないし、株にも興味はない。常にグラフの上がり下がりだけを気にする人生なんてまっぴらごめんだね。

 アンジュを迎えに行くので忙しいから、投資の話には釣られないんだ。


 そんなことを考えていたら、キャラが崩壊するような笑い方をした。


 「がっはっは! なんや、わしのこと忘れたんか?」

 急な関西弁に驚く。


 「わしやわし。結子の横におったやろ」

 結子って、橋姫の結子さんか。

 横って言ったって、そんなに会った訳じゃないし。


 あ、いたわ、いた。

 赤羽でビール大ジョッキで15杯とグラスでウイスキー3杯飲んだ髪の毛ボサボサのおねーさんいたわ。


 改めて見ると、全然違う。

 俺の幻想が壊れたんだが……。

 見た目はホント素敵なんだよ。


 「お、思い出した顔やな。わしや。スミレちゃんや」

 カラカラと笑うこの人、確か日高清麗さんだったかな。


 スーツ姿で中野区で何やってるんだろうか。

 コスプレするにしても違う場所でやるだろうし、キャバクラの出勤なら、こんな格好じゃないし、場所も違う。


 「あ、なんやその目は」

 俺の視線が気になったらしい。

 丁寧にバッグから名刺入れを取り出して渡してきた。


 かなり丁寧だ。言動と一致しない。

 きっと、かなり所作が染み付いているんだろう。

 渡された名刺を見て驚いた。


 『司法書士法人 芳澤司法書士事務所 司法書士 日高清麗』

 ……司法書士。嘘だろ? この人が?

 司法書士の先生のお世話になる側じゃなかったんだ。


 「まーだ疑っとるな?」

 「すいません。第一印象が濃すぎて」

 「じゃあ、しゃーないな」

 この人、かなりサバサバしてるなぁ。


 アンジュを迎えに行かないといけないのに、どうしても気になってしまう。

 そうしたら、清麗さんから切り出してくれた。


 「で、亨はんはこないなとこで何しとるんや」

 「あー、アンジュを迎えに」

 「おー、あのちっこい子な。そんなら急がなあかんな」


 そうして歩きながら話すことにした。

 というか、着いてくるんだな。


 「清麗さんはどうしてここに?」

 「そんなの決まっとるやろ。仕事や」


 なんでも、中野区あたりに住んでるエルフがやっかいな土地がらみの恐喝にあったとかないとか。

 地面師みたいな案件があったらしいけど、聞いても俺にはよく分からない。


 ただまぁ、無事に解決出来たらしい。取るに足らない相手だったそうだが、肝心なところはぼかしてあるので詳細は分からない。


 待った。

 え、今なんて?


 「……エルフって言った?」

 「おお、言ったで。中野区近辺にはエルフがようけ住んどるんや」


 トラックの話じゃないよな?

 この人のことだ。シラフに見えて、もうかなり飲んできてる可能性あるからな。

 ほら、そこを走ってったトラックもエルフだぞ。


 そんなことを話しながら歩いていく。

 「そういえば、結子から聞いたんやけど、アイリさんの妹さんなんやな、アンジュちゃんて」

 「アイリさん知ってるんですか?」

 「知ってるもなにも、先輩や。一個下やでわし」

 そうなんだ。としか言いようがない。


 「しかし、あのアイリさんの妹さんなら納得やわ」

 「何がです?」

 「今、アンジュちゃんのお迎え係は亨はんなんやろ?」

 「ええ、そうですね」

 まさか、そこまで知ってるとは。


 「楽しいやろ」

 「ええ」


 いろんなところ行けるし、何よりアンジュが楽しそうだからな。最初はどうなるかわからなかったが、まあ俺もそれなりに楽しんでいる。


 「アイリさんも、勉強優秀やったけど、めっちゃ楽しそうに学校抜け出したったわ。わしも何回かご一緒させてもろてな。豚丼とかカツ丼とか奢ってもらったなぁ」


 今と変わらないんだな。

 というか、やっぱり行った先で食べるんだな。

 そんな話をしていたら、目的地についた。


 喫茶愛花夢(あいかむ)──

 パフェで有名なお店だ。


 「ここが、さっき言ってたエルフはんが卸してるフルーツを使ったパフェ出してるんや」

 また、エルフだ。そりゃあトラックで配送してるだろうよ。


 そうしてお店に入ると、一番奥の席でパフェを平らげ、お腹をさすっているアンジュがいた。


 「大物やなぁ」

 俺もそう思う。


 『あの子の連れです』と言って、席へ着くと、アンジュは上体を起こすと、清麗さんを指差した。


 「きよひめしゃん」

 「はっはっは。参ったなぁ。もう正体バレてもうたかー」

 この人清姫だったのか。


 「あ、ゆうても末裔やで、末裔。子孫もたくさんおるしな」

 まぁ、うち(メリーさん)もそうだから、別に驚きはしない。


 一番驚いているのは、普段と仕事モードで違うことくらいだろうか。

 俺の幻想を返してくれ。


 「ほら、ここのパフェはうまいぞ? 左党のわしでもペロリといけちゃうからな」


 なるほど。

 そう言われ、メニューを渡されたので、開いてメニューを見ると、高い。


 いや、インスタとかで出てるお店よりは安いんだ。ただ、これを自分で出すとなると……。

 よく、アンジュは出せたなぁ。


 なぜかアンジュは俺の顔を見て、何か言いたそうにしていた。

 しかし、清麗さんが先に素敵な提案をしてくれた。


 「そんな遠慮するなって、奢ってやるよ。アイリさんにはいっぱいお世話になったしな」

 そう言われたら、お言葉に甘えよう。

 なぜかアンジュが「うおー」と喜んでいる。

 お腹いっぱいなんじゃないのか?


 「じゃあ、このシャインマスカットのにしようかな」

 「アンジュちゃんはどうする? まだ食えるかー?」

 「ちいさいのなら、いける!」


 まだ食べるんだ。ゲップしながら選んだのは松の実タルトだ。渋い。

 ちなみにパフェは栗と芋のパフェだったらしい。四歳児ってもっとメロンとかいちごとか選ぶと思ってたよ。


 そうして、届いたパフェはすごかった。

 逆写真詐欺とはこういうことを言うんだと思った。


 でかいのだ。アンジュの身長の半分くらいあるんじゃないだろうか。


 そんなパフェの上半分に所狭しと半分に切られたシャインマスカットが敷き詰められている。

 よくアンジュはこれを食べきったな。


 持ってきた女の人の腕、プルプルしてたもん。


 清麗さんは、チョコレートケーキを食べながらコーヒーを飲んでいる。

 そして、「ほら、食ってみい。飛ぶぞ」と言った。怖い。

 恐る恐る食べる。


 「うっま!」

 シャインマスカットの甘みを邪魔しない、甘すぎない生クリーム。

 真ん中にはバニラアイスがあるが、これもしつこくない。

 器に入ってるカスタードクリームがシャインマスカットを引き立てる。

 そして、下の方に入っている、シャインマスカットのジュレとソース。

 パフやコーンフレークなど、食感のアクセントもあり、飽きずに食べ進めていくことができる。


 これを作るだけでもう相当だぞ。

 気がつけば空になっていた。

 名残惜しい……。

 器の端のクリームを取るが、ほとんど取れないのでそこで諦めた。


 「よう食べたなー」

 「ええ、俺もびっくりです」

 「でもいけたやろ」

 「ええ」


 そうして、清麗さんは、それ以上話すことなく、伝票をひょいと持ち上げると、さっさと支払いを済ませて帰っていった。


 「なんの用事だったんだろうな」

 もらった名刺の裏側を見るが、特に何も書いていない。あぶり出しだろうか。


 そうして、俺とアンジュはお腹をさすりながら家路についた。

 なぜか、帰りにバイト募集の紙をチラッと見たら、シフトの紙を渡された。

 

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