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メリーさん家の三姉妹  作者: 玉名 くじら


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95/99

95 彼がね、大学を卒業したら籍を入れようって言ってくれたの


 あたしの名前は小柴麦。

 ファーストライフ生命で営業をしている。

 敬愛する海道営業部長代理の部下だ。

 あの人はすごい。

 本当にすごい。

 あの人がいなかったら辞めていたまである。


 自分がやらないことは指示しない。


 仕事してるフリもしない。


 ちゃんと自分もやって、マニュアルを作ったり、ノウハウを蓄積したりして、フィードバックしている。


 仕事が終わらない人がいれば手伝うし、すぐに終わらせる。


 誰かがミスをしたら、一緒に謝りに行ってくれるし、フォローも完璧だ。


 自分の手柄をみんなの手柄だと分け与えてくれる。


 悩んでたら、親身になって聞いてくれるし、対応してくれる。


 かつての上司が今は部下になっているが、みんな嫉妬せずにいるのは本当に人望がすごい。

 それでいて、上からのウケもいい。


 本当に完璧超人なのではないかと。ここが天職なのではないかと思う。

 あの若さであの地位に上り詰めるのも納得だ。


 ただ、一点ぽっちゃりしているところを除けば……。


 元アイドルで、今は名バイプレーヤーとして活躍しているあの女優さんに似て、すごく親しみやすく雰囲気も明るく接しやすい。強いて言えば野○佳代さんだろうか。


 だから、見た目を気にしない男性社員はよく告白してやんわりと断られていた。

 もちろん、女性からのウケもいいのは確かだ。


 あたしだって、許されるならペットとして飼ってほしいくらいだ。


 自分の一人称を『あたし』にしたほどだ。

 みんな『あたし』を使うから、勝ち抜いたくらいだ。


 そんな海道営業部長代理。いや、アイリ様はこの半月ほどで見違えるほど変わった。


 ……痩せたのだ。


 いや、痩せたのと、美しさを兼ね備えていた。


 前から、痩せればきっと美人なんだろうなと、みんなで言い合っていた。


 それがどうしたことだろうか。

 目の前には女神がいた。


 東洋と西洋両方の雰囲気を兼ね備えているから、余計にそう見える。

 歩けば、光の粒子が見え、いい匂いがする。頭がくらくらする。


 みんな目で追ってしまう。あんなに美人だったなんて、と。


 さっそく婚姻届を持って、うちの男性社員が列をなしたが、ことごとく撃沈していった。


 当たり前だ。もっと早くにするべきだった。

 それでも、ダメだっただろうけど。


 しかし、アイリ様の断る時の言葉が気になった。


 『彼がね、大学を卒業したら籍を入れようって言ってくれたの。だから、ごめんね』


 なんて? 彼? 大学生? 籍? 籍を入れるということは結婚!? マジで!?


 そうして、我が営業部は仕事にならなくなった。


 早速あたしは、同僚二人とランチに出かけて打ち合わせた。

 同じ営業部の鴻戯望瑚(こうぎ もこ)と秋田心愛(ここあ)。


 スパゲティの跳ねを気にしながら食べていく。

 「あんなに綺麗になるってことは、その彼氏のお陰だよね」

 「お弁当作ってもらってたもんね」

 「それにしたって、変わりすぎ。別人だよ」

 「課長が言ってた。入社した時はああだったって」

 「あ、係長も言ってたね」

 「通りかかった人事部長が懐かしいって涙してた」

 アイリの変化に会社全体を巻き込むほどの事件になっていた。


 そして、あたしは言った。

 「アイリ様の恋の行く末を見てみたい」

 「わたしも」

 「うちも」

 そうと決まれば早かった。


 伸びないよう、なるべく急いで食べて、デザートと食後のコーヒーを堪能し、メイクを直してから会社に戻った。


 そして、そのことをみんなにteamsで共有した結果、会議をしようということになった。


 「でも、仕事は時間内に終わっちゃうし、下手に残って会議できない」

 「残ってたら変に思われるし、どこかを借りるとお金かかるしね」

 「あ、待って。水曜日、部長代理福島に出張になってるよ」

 「あ、ホントだ。直行直帰になってるね」

 「これは一日中会議できるね」


 そうして話はまとまった。来たる週末に向けて、部下一同『アイリの恋の行く末を確認する会』を結成したのだった。


           *      


 水曜日当日──

 俺はアイリさんを乗せて東北道をひた走っていた。こんな朝早くに。


 この前、アイリさんが『デートしよう』と言った。


 もちろん、エレナとアンジュは大騒ぎ。

 だが、痩せたご褒美として、しぶしぶ納得していた。


 別に誰とも付き合ってないんだから、別にいいと思うんだよな。


 そして、今日は大学を休んで、アイリさんを福島まで運んでいる最中だ。

 もちろん、エレナは学校に。アンジュは保育園だ。


 なぜか、今日行こうとしきりに言ったのだ。

 なので、講義は代返を頼んでいた。

 何を要求されるか怖いところもあるが、まぁアイリさんを優先するのに変わりはない。


 そんなアイリさんはスーツ姿だ。

 いや、着替えも持ってきてはいるのだが。


 「いやぁ、今日出張なんだけど、どうせすぐ終わるから、その後ブラブラしましょ」 


 どうやら、今日は出張らしい。

 家から直行直帰で。

 だったら新幹線で行けば経費で落ちると思うんだが、アイリさん的には何か考えがあるのだろう。


 なぜか、週末は「危ないからダメ」と言っていたが、天気予報では台風が来る予定はない。

 急な大雨でもあるんだろうか?


 そうして、二回ほど休憩を挟んで、福島市内へ着いた。

 エレナと違って、アホみたいな量のお土産を買わなかった。

 ほんと、トイレ休憩程度なのだ。

 ……これが普通だよな。


 「じゃあ、一時間でまとめあげてくるから、待っててね」

 そう言って、車を降りて歩いて行った。


 俺はコインパーキングで待つことにした。

 一時間なら、そんなに待たないだろう。

 途中で寄ったサービスエリアで買ったコーヒーも残ってる。


 運転して疲れたし、少し横になって待とうと、座席を倒して、目を閉じた。


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