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メリーさん家の三姉妹  作者: 玉名 くじら


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93/100

93 婚姻届は書きませんよ


 お昼ごはん。

 それは、仕事をしている時の唯一のオアシス。

 今日は何を食べようか。どこに食べに行こうか。誰と食べようか。


 そんなことを一時間前から考えている。

 しかし、この前からあたしのお昼は亨ちゃん特製のお弁当だ。


 お弁当箱を開ける。

 別の意味で茶色い。

 玄米、卯の花、きんぴらごぼう、ひじき、高野豆腐、豆腐ハンバーグ、サラダチキン。

 緑といえば、ブロッコリーといんげん。

 ここまで徹底するだろうか。


 「海道部長代理のお弁当すごいですねー」

 部下の小柴麦が、若干引きながら、苦笑いで言った。


 「そうなのよー、ダイエットしろって言われてねー」

 「へー、大変ですね」

 麦ちゃんのお弁当は肉、肉、肉。間にご飯が入って、肉、肉、肉!

 羨ましい。若いってすごいわ。後先考えずにいくとあたしのようになっちゃうわよ。


 そうして、自然と集まってきた部下と一緒に食べる。

 みんなあたしのお弁当を見て驚いていた。

 そして、よく分からないけど、一番驚いていたのは、これが大学生の手作りだってことだ。


 確かに、大学生でこの渋いラインナップや、塩分控えめで出汁の味香るおかずを作れるのはすごいと思う。

 これはもう、結婚するしかないんじゃないかと思う。


 しかし、そんなことを考える余裕はだんだんと失せていった。


 五日もすれば、だんだんと身体からアルコールが抜けていく。

 身体がアルコールを欲する。

 結子みたいに、能力でお酒を発散できればどれほど良かったか。

 あたしの場合は、このお腹に贅肉が蓄積されていくだけ。くっ……。


 そして、禁断症状。


 家に帰れば、低カロリーの料理。

 鶏胸肉、ブロッコリー、鶏胸肉、ブロッコリー、鶏胸肉、ブロッコリー……………………。

 マヨネーズもケチャップも禁止。


 こんなの発狂してしまうわ。


 でも、この五日間、何もしなかったわけではない。

 部屋に侵入を試みたけど、厳重に鍵がかかっている。

 知らない鍵がいくつもあり、侵入方法を検討せざるを得なかった。


 今では電話がないとできない転移。

 昔はそんなのなくてもできた。

 大きくなるにつれ薄れていった能力。

 アンジュは最近、意識してやっているようにも思えるのよね。


 あたしもできるはず!

 アルコールが抜けて、だんだんと冴えていくあたしの灰色の脳細胞。


 そして、あたしことアイリは五日目にして羽化する。

 いままでの『メリーさん』のイメージを破壊する。


 深夜二時──

 明日は休み。今日くらいチートデイにしてもいいだろう。

 亨ちゃんの部屋へ転移するのだ。

 こっそりお酒をとって戻ればいい。


 部屋に隠したお酒は全部回収されていたし、帰りに飲んで帰ろうとすれば、GPS管理されているのか、居酒屋に入った瞬間に電話が鳴る。

 コンビニやドラッグストア。スーパー、果てはホームセンターに入っても電話がかかってきた。


 もう恐怖でしかない。

 自販機の場所なんて分かるはずないのに、立ち止まった瞬間電話が鳴る。

 メリーさんからかかってくる電話ってこんな感じなのかしらね?


 そして、息を殺して、転移する。

 「ビービービービービービービービービービービービービービービー!!!!!」

 その瞬間、家の中にまで響くほどの警報が鳴った。


 あたしの足には赤い線が当たっていた。

 こういうのって、美術館とか博物館にあるもんなんじゃないの?


 その瞬間、部屋が明るくなった。

 亨ちゃんがベッドから起きて、警報を切った。


 「ちょっと、今の音何よ」

 「うるちゃい」

 エレナとアンジュも起きてしまったようだ。

 ドアの外からドンドン叩いている。


 「こ、これは一体……」

 「アイリさんなら、アンジュみたいに転移できそうだなと思って、仕掛けておきました」

 「そんな簡単に仕掛けるって……」

 「理系なんで、こういうの作るの得意なんです」

 『環や操の工作も自分が作って』などと、気になることを呟いている。


 それにしても、と思う。

 なんと殺風景な部屋だろうか。

 机の上の端っこには参考書と筆記用具と工具。

 収納ケースに服や下着。

 そしてベッド。


 アイアンラックだけが唯一色を放っていた。各地で買ったお土産が飾ってあった。


 しかし、殺風景な原因はこれだ。

 5ケース2列のお酒のケース。

 その上や下に、あたしが買ったお酒。

 机の上には回収されたお酒が乗っていた。


 ここだけ見たら、酒屋の倉庫に見えなくもない。

 …………こうしてみると、あたしの飲む量酷いわね。


 部屋に入ってきたエレナとアンジュも絶句していた。

 これは少し考えないといけないと思った。

 それは亨ちゃんの一言も原因だった。


 「やっぱりアイリさんにダイエットは無理ですね」

 あたしの心に火がついた。この火で脂肪燃えてくれないかしら?


 「ねぇ亨ちゃん」

 「なんです? お酒はダイエット成功するまでダメですよ」

 「ううん。違うわ」

 「じゃあ、なんですか?」

 「5キロ。いや、10キロ痩せたらあたしのお願い一つ聞いてね」

 「ちょ、お姉ちゃん」

 「アイリねーちゃ!」

 エレナとアンジュが慌てるが、今回は自粛するから大丈夫。


 そう思ったら、先に亨ちゃんが釘を刺してきた。

 「婚姻届は書きませんよ」

 「そ、そそそそそ……そ、そんなわけないじゃない。ねぇ……」

 努めて冷静に反応できたのではないだろうか。


 三人とも半眼であたしを見る。

 信じてないわね。いいわ、見せてやろうじゃない。


 …………それとも、眠いから半眼なのかしら?


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