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メリーさん家の三姉妹  作者: 玉名 くじら


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91/104

91 ばか……違うわよ……


 「おにーちゃ、あんじゅイルカみたい!」

 俺の手を引っ張ったアンジュ。

 色々見て回って、本来の目的を思い出したのだろう。

 親父もスマホの画質に驚いたのか、魚メインで撮り始めたりしていたしな。


 「そうだな。見に行くか」

 「おー」

 アンジュが俺の手を引っ張り、反対側ではエレナまでつられるように歩き出した。


 「まったくもう、仕方ないわね……」

 エレナがそんなことを言いながら、アンジュと一緒に俺を引っ張った。


 「ちょ、待って、コケるって」

 「コケないように頑張りなさいよ」

 「ほらほらー」

 一瞬だけ振り返ると、親父と操と巡と礼奈がニヤニヤしていた。

 俺がコケるのを待っているんだな。

 そうして頑張って踏ん張りながら、イルカショーの場所へ向かった。


 「アンジュどこがいい?」

 「んー、あのへんー?」

 少し後ろの方を指した。


 「アンジュちゃん、あそこの方が間近で見られるよ?」

 「おー」

 巡がそんなことを言うと、アンジュは目をキラキラとさせた。

 間近で見られるという単語で最前列中央へ。

 しかし、その場所って水跳ねで濡れるんだよな。

 だからなのか、この辺ってあんまり人がいないか、完全防備してる人しかいない。

 でも、アンジュが嬉しそうならいいか。


 そうして始まったショー。

 もう俺もアンジュもエレナも興奮しっぱなしだった。

 親父も全身に水を被って、ご満悦だしな。良かったな。アンジュが笑ってるぞ。


 それにしても、ここはいろんなところでイルカが見られるなぁ。

 イルカショーの後もアンジュを抱っこしながら見ていく。

 シロクマやペンギンもいる。

 アンジュもいろんな動物さんを見れて大喜びだ。

 なぜか、イルカショーのあとからエレナが少し不機嫌なんだが、そんなに濡れたのだろうか。


 そして、十分楽しんだのならば、お昼ご飯だ。

 親父のおごりで海鮮バーベキューだ。

 親父、覚悟しろよ。物凄い食べるぞ。


 みんなが笑顔で食べる食べる。

 そして遠慮なくどんどん頼んでいく。

 「な、なぁ亨、あんなに食べて大丈夫なのか?」

 「いつもより少ないから大丈夫じゃないか?」

 「今なんて?」


 別に食べ放題だし、時間制限あるんだから、元を取った方がいいだろうに。

 なぜか、お店の人の方が青い顔をしていた。

 その後、エレナは甘いものがほしいとパンケーキを食べに行った。

 いつものエレナに戻ったようだ。


 「いやぁ、楽しんだな。じゃあ帰るか」

 「まだある」

 …………せっかく触れないようにしていたのに。


 アンジュが俺の袖を引っ張る。

 操と巡が乗りたそうにうずうずしていた。

 「俺は見ているだけでいいよ」

 「あ、あーくしも」

 「なんだ、情けないなぁ」

 親父、そんなことを言うと後悔するぞ?


 「じーちゃ、いっしょにのる」

 「よし、じーちゃんも乗るぞー」

 「ほらほらおにーさんも」

 「そうよ。お兄ちゃん。みんなで楽しまないと、ほら礼奈も」

 「いや、俺は……」「いや、あーくしは……」

 逃げようとしたが、がっしり掴まれて逃げられない。

 アンジュの不思議そうな感じで見上げる顔を見たら、逃げられない。


 そういえば、エレナがいない。

 「「エレナは?」」

 俺と礼奈の声がかぶる。

 エレナは昭和のアニメキャラクターのように足音を隠してゆっくりとその場を離れようとしていた。

 「わ、わたしは、まだ食べ足りてないから」

 自分から食いしん坊キャラを演じるんじゃない。

 死なば諸共……。俺と礼奈は目が合うと、エレナの二の腕をがっちり掴んで絶叫マシンへと誘った。

 一人だけ助かろうなんてよくないもんな。


 「はーい。列こちらでーす」

 聞き覚えのある声の方を見ると、汀がバイトしていた。

 あいついろんなところでバイトしているな。

 「あれ、亨じゃん。なに? 家族で来たの?」

 それを聞いたエレナの表情が変わった。

 操もなぜか表情が険しくなった。別に汀と会ったことは……どうなんだろうか。

 親父と巡と礼奈はワクワクした表情で見ていた。

 だが、次の言葉を聞いて固まった。

 アンジュもじーっと見ていた。


 「なんでLINE返してくれないの?」

 「いやお前送りすぎ」

 そんなことを話していたからだろうか。

 「亨、たくさん乗りましょう」

 「おにーさん、いっぱい乗ろうねー」

 「おにーちゃ、いっぱいのりゅ」

 「あ、あーくしは遠慮したい」

 「待て、一人だけ逃げようなんて……」

 逃げようとした礼奈を掴み、俺はみんなに拷問器具へと連行された。

 なぜか、汀は嬉しそうにしていた。


 ─────しかし、アンジュはすごいな。

 いや、操と巡もだろうか。

 なんで、あんなに絶叫マシン乗って楽しそうな顔してるんだろうな。

 そして意外なのが親父だ。アンジュと一緒に楽しそうにずっと乗っている。どこかヤケになっているようにも見える。


 そして。俺は今ベンチにぐったりと座っている。

 横では礼奈が俯き加減で座っている。

 「おつかれ……」

 「うっす……」

 普段のお嬢様キャラが消えている。

 俺のスマホはずっと振動しっぱなしだ。

 さっき見た時、環と汀からの通知がずっと届いている。


 そして、アンジュは満足したのか、俺の前に座ってジュースを飲んでいる。

 「と、亨大丈夫?」

 「無理」

 「ちょ……」

 俺の横でエレナが心配そうに声をかけているが、反応する余裕すらない。


 「もう、そんな体勢じゃ辛いでしょ、ほら」

 目だけ動かすと、なぜか太ももを叩いていた。

 「ま、ままま、枕! そう膝枕してあげる」

 「ん」

 本当に限界だった。そのままだと頭が痛いので我慢していたが、膝枕してくれると言うのなら、好意に甘えよう。


 「ありがと」

 言うと同時に体を傾けた。

 「わひゃっ!」

 そのまましばらく眠ってしまった。

 どれくらい寝ていただろうか。

 目を覚まして顔を上げると、すぐ上にエレナの顔があった。

 夕日かと思うくらい赤かった。紅みたいな色になっていたのは、逆光だからだろうか。

 エレナの表情もよく見えない。


 上体を起こすと、操、巡がニマニマしていた。

 礼奈も俺の横で口角を上げていた。

 アンジュはどこ行ったのだろうかと思ったら、親父と一緒に立って俺の方を見ていた。

 その表情はどこか、複雑そうだった。

 アンジュは頬を少し膨らませ、親父は何とも言えない顔をしていた。


 そしてエレナは放心状態で座っていた。

 「すまんな。俺のせいで足、痺れたんだろ?」

 しばらく痺れが取れるまでそのままにしておこうかと思ったら、顔をプイッと背けてしまった。

 「(ばか……違うわよ……)」

 しばらく海風に当たりながら、そのまま過ごした。

 エレナの顔はずっと赤いままだった。


 「帰りはわたしが運転するよ」

 どうやら帰りは親父が運転してくれるらしい。

 そしてなぜか俺は、三列目でエレナと一緒に座っていた。

 まだ、ぼーっとしているが、俺の左手はなぜかエレナがずっと握っていた。

 その感触だけはずっと感じていた。


           *      


 後日、宇慶家──

 「じーちゃきたー」

 「おーいらっしゃーい」

 しかしアンジュちゃん。家が近いからとよく来るけど、どうしていつも一人なんだろうか。

 そして、どうしていつも、わたしのいるこの部屋へ直接来るのだろうか。

 ……そんなにお魚さんが好きなのかな。

 「実はねー、アンジュちゃんのために新しいお魚さん呼んだんだよー」

 「わーい」

 その笑顔を見たら些細なことなどどうでもよくなってしまった。


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