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メリーさん家の三姉妹  作者: 玉名 くじら


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88/104

88 時間が足りなくて、全部行けなかったわ


 そうして秩父駅へ着いた。

 ティナは終始車窓を見ながら楽しんでいた。意外だ。


 そして、駅舎を出るとまたぞろ、とんでも発言をした。

 「じゃあ、機関車にも乗れたし、わたしは満足だわ。帰りましょっか」

 「「いやいやいやいや」」

 俺とエレナが手を振って突っ込んだ。さすがに来てすぐ帰るなんて発想無いんだが。


 アンジュと天ちゃんに関しては、びっくりしすぎて、目を大きく見開いて絶句していた。


 「え、何よ。機関車に乗れて楽しかったでしょ?」

 「いや、普通観光に来たら、いろいろ見て回るもんだろ?」

 「え? ああ、そうね」

 もしかして、乗るだけ乗って帰るんだろうか。


 「じゃあ、ここからはわたしが案内するわ」

 エレナが一歩前に出てスマホを掲げた。

 それは水戸◯門の印籠のように。

 そのスマホにひれ伏すほどの効力はない。


 「ソースカツ丼も捨てがたいけど、やっぱりここは味噌豚丼よね。そして味噌といえば、みそポテト。あと、鮎飯にくるみそば。あと、映画でもやってたけど、ホルモンはマストよね。あーでもいもでんがくも捨てがたいわ」

 さすがエレナ。口を開けば食べ物の名前を呪詛のようにスラスラと言っていく。


 アンジュと天ちゃんが拍手すると、「どうもどうも」と嬉しそうにするエレナ。

 別に褒めてはいないんだけどな。

 満足げにこっちを見るエレナ。

 食べ物を暗唱しただけで講演会を終えるんじゃない。

 どうして、観光案内の地図レイヤーが飲食店しかないんだ。


 そして、ティナはさらに一枚上手だった。

 「なるほど。一理あるわ。でもね」

 そう言って、他のグルメもエレナにインストールしていくティナ。


 「はんばーぐおいしそう……ぴざにぱすたにおむらいす……」

 エレナが目まぐるしく目を動かしていく。


 「はいはい。そんなに食えないぞ。どれか一つにしろよ」

 「じゃ、じゃあ断腸の思いで味噌豚丼」

 断腸とかいうから、てっきりホルモンかと思ったよ。


 「じゃあそれにしましょ」

 ということで、若干気落ちしていたので、エレナの手を引いてお店へ行く。

 なぜか、お店に着く頃には顔が真っ赤になっていた。


 「どうした、風邪か?」

 「そうかも」

 「?」

 そうしてお店に入って食べたのだが、これがうまいのなんの。

 俺もペロリと平らげてしまった。


 ちょっと疲れてたのもあって、濃いめの味付けだが、米と合うのでエレナより先に食べてしまったもんな。

 肉も柔らかいし、味噌の焦げた部分なんて最高だわ。

 まぁ、エレナとティナは大盛りなんだけどな。

 ほんとによく食べるよ。

 しかも二人とも嬉しそうにしているな。

 ティナに関しては、さっき帰るとまで言ったのに。


 「そんなに急いで食べて、もっと味わったらいいのに」

 「そうよ。なかなか来れないんだもの」

 俺だって味わって食べたんだけどな。

 アンジュと天ちゃんはお子様用の量だ。二人ともペロリと平らげていた。


 「じゃあ、次の店に行きましょう」

 「そうね」

 「えっ!?」

 「何よ」「どうしたのよ」

 「いや、十分食べたろ?」

 「食べたわよ。でも、他のお店も食べたいじゃない?」

 「そうそう。食べ比べ」


 嘘だろおい。アンジュと天ちゃんも互いに顔を見合わせていた。

 さすがに付き合いきれないと二組に別れることに。

 さて、どうするか。


 「らいんくだりしたい」「そらも」

 どうして子供ってそんなに過激なものに乗りたがるんだ。

 年齢制限あるからダメだよーって言おうとした、残念なことに三歳から乗れるらしい。

 スマホから目を離し、二人を見ると、目をキラキラさせていた。


 「じゃあ、乗るか?」

 「のるー」「のりゅー」

 死刑宣告されたので、目的の長瀞駅まで電車で向かう。


 そして、三人分の料金を払い、乗船。

 比較的ゆったりとしているのだが、急なところでは、ちょっと揺れたり早くなったりする。

 某遊園地のアトラクションで苦手になってから、船が怖いんだよな。


 だがまぁ、船頭さんの案内とかあるから、比較的落ち着いて乗ることができた。

 アンジュと天ちゃんは楽しそうに景色を眺めているが、俺は二人が何かしでかさないか不安でしょうがない。


 ……というのは建前で、景色を見る余裕がない。

 岩壁とか橋梁とか景色はすごく見応えはある。

 でも水滴が当たるだけで恐怖が思い起こされるんだ。

 まぁ、最後の方になると、だいぶ恐怖も和らいだが、やっぱり慣れない。


 そうして終点に着くと、二人は興奮しっぱなしだった。

 「もーいっかい」「もーいっかい」

 二人して手を叩きながらそんなことを言うので、移動してもう一方のコースにも乗ることにした。

 楽しそうだからいっか。俺もある程度は克服したしな。


 そうしてライン下りを楽しんで、約束の時間に秩父駅へ集合すると、お腹がでっぷりと突き出した二人が待っていた。

 

 「ずいぶん……食ったんだな」

 「時間が足りなくて、全部行けなかったわ」

 「今度は泊まりで来ましょうか」

 お前ら旅の楽しみ方間違ってないか?

 その状態でまだ食べようとするなよ。


 しかし、そんなに分かるほど食べているのに苦しそうにしていないのはさすがだなと思った。

 そして、帰路につくことにしたのだが、満腹感が遅れてやってきたらしい。

 熊谷駅で二時間ほど足止めを食らってしまったのだった。


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