86 わたしのネーミングセンスにケチつけるの?
今日は意外な訪問者が来た。
「きたー」
「おー、いらっしゃいー」
天ちゃんが来た。もちろん、貞子さんとか小夜子さんと一緒にではない。一人で来た。
それも玄関からではない。
気がつけばテレビの前にいた。
「いでそら、ぶじとーちゃっく!」
キュアキュアの決めポーズを取っている。かわいい。
対するアンジュは違う魔法少女の作品のポーズを取っていた。
最近思う。本当にアンジュはキュアキュアが好きなのかと。
あれ、魔法じゃなくて魔砲だしな。ドラゴ○ボールに近い。一時期回想シーンも長かったしな。
炎上して元に戻ったんだよなあ。そんなことをしみじみと思い出していたら、アンジュと天ちゃんが俺の足元にいた。
「どうしたの?」
「そらちゃんとあしょぶ」
「そらも」
「あれだして」
前に岡山行った時に買った積み木を出してあげた。なかなかに独創的な作品を作っている。
さて、貞子さんにLINEで天ちゃんが来ていることを知らせると、仕事中だったらしく、そのまま預かってくれと返信が来た。
家電量販店勤務だしね。休日に仕事はかき入れ時だし、仕方ないな。了解と送ると、『助かる』と絵文字で返信があった。
帰りはどうするかね。
それを考えようとしたら、後ろに気配があったので振り返ると、ティナがいた。
せめてチャイムは鳴らしてほしい。
「なんでナチュラルにいるんだよ」
「いいじゃない別に。ほら」
手にはケーキ屋さんに寄ったのだろうか小箱を持っていた。
「ありがとう。今何か作らないとって思ったから助かるよ」
「買いに行かないで作るって発想はアンタらしいわね。で、誰か他に……」
ローテーブルの方を見るティナ。
「あら天ちゃんもいるのね」
「ん? 今なんて?」
「え? だからアンジュちゃんと天ちゃんが積み木で遊んでるんでしょ?」
「いや、なんで天ちゃんの名前知ってんの?」
「いとこなんだから知ってるの当たり前でしょ」
マジか。ティナの言っていた、母方のいとこって天ちゃんだったのか。
これ、ティナも普通じゃない可能性出てきたな。
「貞子さんか小夜子ちゃんはいないの?」
「一人で来たらしい」
「あら」
その『あら』に含まれる情報を開示してくれないかな。
知ってるのか知らないのかで話変わるから。
でもティナは教えてくれずに、テーブルに小箱を置くと、アンジュと天ちゃんの方へ近づいた。
「何やってるのー」
「ちゅみき!」「しゅくらっぷあんどびるど!」
天ちゃんは可愛らしく『積み木』と言ったのに、アンジュは一体どこでそんな単語を覚えてきたのか。
「あらそうなのー」
小さい子供相手だと、人が変わるよな。
二人の相手はティナに任せて、俺は飲み物の用意をした。
天ちゃんの飲み物は、アンジュの好きな『ほぼ牛乳のコーヒー牛乳』でいいだろう。
ティナはなんでもいいな。
そうして用意すると、ティナが微笑ましく見ている前で二人の作品が完成していた。
「わーすごーい。これはなあに?」
「とちょー」「つーてんかく」
なかなかに渋い作品だ。
「こっちはー?」
「あててー」
天ちゃんが自信満々にそう言った。
なんだろうな。
「うーん。むずかしいなー」
「ひんとおてら」
「お寺? じゃーほにゃらか寺」
「せいかーい」「え?」
天ちゃんは両手を上げて喜ぶが、アンジュは真顔で驚いた。
「待て」
「何よ」
「その『ほにゃらか寺』ってなんだよ」
「フィーリング?」
何かの設定じゃないのかよ。
れからというもの、二人は面白がって作った作品を名付けさせるアンジュと天ちゃん。
「ホゲホゲタワー」「ぴゅんぴゅん丸」「じゃんがじゃんが丸」「ちょっちょっぺー号」「ばきゅんばきゅん砲」
ひどい……。
俺の主観だけど、西東京タワー、機関車、船、F1、ハンマー投げの人だと思う。確証はないけど。
これにはアンジュも苦笑い。天ちゃんは満面の笑顔。
もしかしていつもこうしているんだろうか。
天ちゃんに合わせて言っているんだろう。
まぁ、ちょうどいいのでおやつタイムだ。
「お茶の用意できたぞ」
「わーい」「ありがとー」「早いわね」
そうして四人でおやつタイムだ。
アンジュと天ちゃんが食べている間にさっきのネーミングの理由を聞いた。
「あれって天ちゃんに合わせてるの?」
「何を?」
「あの、なんだっけぱみゅぱみゅ丸みたいの」
「よくそれ噛まずに言えたわね。って、わたしのネーミングセンスにケチつけるの?」
「…………ん?」
「ティナねーちゃはねー、すごいおなまえちゅけるの。かっこいいー」
「えへへ。でしょう?」
どうやらマジらしい。壊滅的だな。
天ちゃんはいつものことらしく、なぜか誇らしげだ。
そして、アンジュも納得したのか、諦めたのかは分からないが、一緒になって「かっこいー」とどこか棒読みにも聞こえる感じで言った。
そこは素直に『変』とか『微妙』って言っていいんだぞ。
決して俺がそう思っているわけではなくて……。
そう思っていたら、ティナが手を小さく振って前に乗り出してきた。
「さっきの、なんだっけばみゅばみゅ丸だっけ? あれいいわね」
今まで見た中で一番明るい顔でサムズアップしたティナ。
やはり、ティナも普通じゃなかったな。
俺は食べていたケーキの味が分からなくなってしまった。




