85 一体どこを見て言ってるんですかね?
「すいませーん。今月の月参りの御朱印、四番でお願いしまーす」
いつものように営業スマイルで立ち上がり、よく顔も見ずにいつものように対応する。
「はい、千円をお納めください」
「あれ?」
顔を上げてその人物を見る。そこにはめぐりんこと巡がいた。
いつものようにラフな格好だ。
パーカーにTシャツ。ショートパンツにストッキング。そしていつものバグバッグ。少し秋らしい色合いだ。
「おにーさん、何やってるんですか? 巫女服着て」
やばいやばいやばい! どうしよう。どうやって切りぬけよう。
そうだ!
「すいません。どなたかとお間違いではないでしょうか?」
「いやいや、あちきが見間違えるわけないでしょう?」
なぜか、俺の頭頂部を見る。何もないだろうに。
とりあえず、本当に分からないって表情を作り首をコテンと傾げる。
「いや、そんな仕草してもバレバレですよ」
なぜだ。鏡の前で何回も練習したんだぞ。
雪◯下雪乃っぽく、アンジュが退屈して転移しちゃうくらい完璧に作り上げたというのに。
いや、いけるところまで粘ろう。
「あの、誰かと勘違いしておりませんか?」
「え? 亨おにーさんでしょ?」
「とお……る?」
「あちきだよ? 秋山巡だよ? この前みんなで笠間に御朱印巡にいったじゃん」
うん。知ってる。だからこそなんだけどな。
「めぐりんって言ったよねー?」
覗き込むように言うめぐりん。
ぐっぐぐぐ……。退路が塞がれていく。どうすれば……。
そうだ。操とは面識があったが、環とは面識がないだろう。
環のフリをしてやり過ごそう。
「あっ! 亨は兄ですね。はいはい。わたくし、妹の環と申します。おほほほほ」
結構似てるんじゃないだろうか。
「あっ、そうなんですねー」
よっしゃ。いけた。これでなんとかなるだろう。
あとで環には口裏合わせでハーゲンダッツとレディボーデン。あとブリュレをあげればなんとかなるだろう。
「いやー、残念です」
古畑任三◯みたいなポーズと話し方をする。
「ん?」
「あちき、環さんとも面識あるんですよー。この前も会いましたし、なんならLINE交換もしてます」
「……………………」
終わった……。
「で、なんで巫女さんやってるんですか?」
「成り行きで」
「そんなエレナみたいな言い訳されても……」
呆れと好奇心半々の器用な表情をしている。
「というか、なんで悠真くんも巫女さんやってんの?」
「え?」
振り返ると、真っ赤な顔して袴を握って俯いていた。
「な、成り行きで」
「その言い訳流行ってんの?」
そして俺と立ち上がった悠真は深々と頭を下げた。
「「すいません。黙っていてもらえませんでしょうか」」
「どうしよっかなー」
今めっちゃ命綱握られてるんだが、断頭台の上ってこんな感じなんだろうな。
…………いいこと考えた。
「巡さん?」
「めぐりん。これからはめぐりんって呼んで」
どんどんと要求が増えていく。
「もう御朱印めぐりに連れて行かないぞ」
「そしたらバラします」
「どうしたらいいんだ……」
そんな時、救世主。いや女神が現れた。
「あれめぐりん」
「あ、逢佳」
「え、何? 知り合い?」
「うん。同じクラス。あちきが御朱印巡り始めたきっかけー」
「そうなんだ」
「うん」
朗らかな空気が流れているが、こっちはずっと首元に鎌を突きつけらているんだが……。
「そういえばさー、なんでおにーさんと悠真くんが巫女さんやってんの?」
「ん? 人手足りなくて」
ひどい理由だ。
「おにーさんはともかく。なんで悠真くん?」
待って。俺を当たり前に考えないで。
「幼馴染だし」
「そっかー」
「それに似合うでしょ」
あ、これ天然じゃない。分かっててやったんだ。
「じゃあおにーさんも?」
「ん? 亨さんは女性でしょ?」
「ん?」「え?」「は?」
ますますこの不知火逢佳という人物が分からなくなった。ここに来てまだ俺を女だと言う。
そして、混乱した巡は御朱印帳を受け取ると、ヨロヨロとよろめきながら帰って行った。
途中まであんなにドヤ顔だったのに。
最後はなぜか泣きそうな顔になっていた。
逢佳さんも「お仕事頑張ってください」と言って、自宅の方へと行ってしまった。
「これ、どういうことなんでしょうね」
「俺が知りたいよ」
なんで悠真くんは認識されていて、俺は認識されないんだろうな。
そうして時間になると、悠真くんは先に帰った。
アンジュを迎えに行こうと龍姫さまの部屋へ行こうとすると、逢佳さんに止められた。
「あ、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
ニコニコと俺を見る逢佳さん。その表情は読めない。
「どうかしましたか?」
「…………」
しばらく無言で見つめられた。それも鼻先が当たるか当たらないかの距離で。
「あの……」
「あ、すいません。……えっと、今度の御朱印のデザインなんですが……」
「あ、では明日までに考えてきますね」
「あ、はい」
そうして、今度こそ俺はアンジュを迎えに行こうとして、再び止められた。
今度は白衣を摘まれて。
振り返ると、少し頬が朱く、どこか落ち着かなそうにしていた。
「ゆ、悠真くんですが、どこの高校に行くか知りませんか?」
「あー、英愛か陽海。あと恕創って聞いたけど、なんで?」
「わたしが聞いても教えてくれないので」
どこか不満そうな顔をしていた。
「幼馴染なのに、教えてくれないので、こうして巫女装束着せて亨さんと一緒にいれば、そういう話になるんじゃないかと思いまして」
策士だった。
まぁ、そういうところが教えてくれない理由なんじゃないだろうか。
それに、着慣れていたから、他にもそういう格好させまくっていたんだろうな。
「でも、まぁ分かって良かったです。恕創はわたし入れませんから、英愛か陽海ですね」
むしろ逢佳さんの方が似合いそうな学校なのにな。
「制服かわいい英愛に誘導していただけませんか?」
みんな制服好きだな。まぁ、陽海は少しシンプルだしな。それでも可愛いとは思うんだよ。
英愛が頭一つ二つ抜けてるだけで。
……制服だけなら恕創も可愛いよな。ドレスっぽいワンピースだし。
もしかして、悠真も可愛い制服が好きなんだろうか。謎が増えた。
しかし、こんなことを話していると、アンジュを待たせてしまうので、話もそこそこに頭を下げてから迎えに行った。
なぜか、逢佳さんはぼーっと俺を見ていた。
「(しかし、めぐりんも悠真くんも亨さんを男だと言いますけど、一体どこを見て言ってるんですかね?)」
逢佳さんが何かを呟いていたが聞こえなかった。




