84 本当に男なんですね
「亨さんって本当に男なんですね」
まさかそんなことを言われる日が来るなんて誰が思うだろうか。
そう言ったのは、俺と同じく巫女さんをしている近所の中学三年生の狭山悠真くん。
バイトではなくお手伝いらしく、こうしてたまに来させられている。
なんでも逢佳と同じクラスで家も隣同士で、付き合いがあるのだとか。
それで、人手が足りないからとお手伝いさせられているのだが、逃げようとすると、親御さんたちで確保して着替えてから連れてこられるのだそうだ。
大変だね。
どうして女子を誘わないのかとか、幼馴染の男子を女装させるのかと色々あるが、逢佳さん自身どこか天然であり、きっと何を言っても通じないのだろう。
現に俺がそうなのだから。
しかし、彼もなかなかに似合っている。こうして巫女装束を着て座っていると、知らなければ女性だと思う人もいるだろう。
ちなみに、現在までに気づいた人はゼロだ。
「どこからどう見ても男にしかみえないだろう?」
「それ本気で言ってます? 肌も綺麗ですし」
そうなんだよな。ここ最近、女性に間違われる確率がどんどん上がっているんだよな。
この前の休日なんて、家にいきなり天嶺さんが来て何人かの黒服によって、黒塗りのミニバンに詰め込まれた。
声を出す間もなく簀巻きにされて放り込まれた。
そして、天嶺さんのお姉さんが経営する美容クリニックへ連れられて、全身のありとあらゆる毛を絶滅されたのだ。
まぁ、ムダ毛処理するという手間からは解放されたが、あのままアンジュが助けに来てくれなかったら、きっと今頃性別変更の施術か改造人間にされていただろう。
仮面レーサーもやたら大学生が多いからな。俺も例に漏れず狙われたに違いない。
その後、アイリさんにめちゃくちゃ叱られた天嶺さんだが、最近はアイリさんより俺を構うことの方が多いんだよな。
ちなみに俺は髪の毛と睫毛と眉毛以外は生えていない。まぁ強いて言うなら鼻毛くらいだろうか?
その後、やたらとスキンケア用品も置いていったしな。
なんならエレナにスキンケアの指南をするまで詳しくなってしまった。YouTubeやTikTokでも始めようかと血迷ったくらいだ。
「まぁ、男でもケアくらいはした方がいいぞ? 若いうちからの積み重ねが……」
「はいはい。そういうところが他の巫女さんから頼られているところなんでしょうね」
そうなんだよな。
いつの間にかここのバイトが決まっており、なぜかシフト組みまでされていた。
来ないと、教えてないのに電話がかかってくるし、教えてないはずのLINEに鬼のようにメッセージが届く。
まぁ、アンジュが転移しないことが分かっている時は、エレナに任せてスキマバイトをしていたのだが、万が一ってこともある。
それにここならば、アンジュは龍姫さまのところに遊びに来るので心配はいらない。
なんなら、平日にここでバイトしていると、アンジュは保育園からそのままここへ飛んでくるくらいだ。
到着したら萌歌さんにLINEで報告すればいいので楽だ。
やたらと詮索されるが、このバイトだけはバレるわけにはいかない。
そして、なぜか掃除から始まり、在庫管理やイベントスケジュールの管理など、多岐にわたる仕事を任されている。
この前は例大祭の管理責任者になるし、龍姫さまから神楽舞のレッスンを受けさせられたり、茅の輪を作らされたり、俺をなんだと思ってるんだろうな。
他の巫女さんも俺が女だと思ってるし、スキンケアから結構エグい相談までされる。
一体どこに向かってるんだろうな。
そして、そんな原因の逢佳さんは留守にしている。理由は……謎だ。
「そういえば、亨さんは大学生でしたよね」
少しワクワクした顔で聞いてきた。
この格好だと、ドキッとしてしまうな。
だからだろうか、生返事をしてしまう。
「ん? ああ、早稲林に通ってる底辺大学生だよ」
「そ、そうなんですか」
「そう。悠真くんは、今年受験でしょ? こんなとこ居ていいの?」
「ほんとそれなんですよね。まぁ、僕はA判定なんでこのままいけば大丈夫ですね」
意外と出来るんだな。
確かに物覚えは良かったし。
「へー、どこ狙ってるの?」
「英愛か陽海ですね。滑り止めで恕創ですね」
どこも制服のデザインがいいところだな。
「恕創はお嬢様学校だろう?」
「でも、大分前に共学になったって」
あそこ、男の生徒を見た記憶が無いんだよな。
まさか、いやそんなことはないだろうが、そういう趣味ならまぁ……。
そんな話をしながら、書き置き用の御朱印を仕上げていた。
親父の趣味でもあり、俺も子供の頃習わされた習字がまさかこんなところで役に立つなんて思わなかった。
「亨さん、字上手いですね」
「まぁ慣れだな」
これも俺が任されている。
最近は御朱印にも力を入れていて、切り絵の御朱印もやっている。
それを一つ一つやっているのが龍姫さまなんだよな。あの人ホント器用だよ。
そんな龍姫さまだが、今帰ってきた。
「お手伝いさんですかね」
「いや、一番それから遠いところにいる人じゃないかな」
ワイパーの錆びたラパンから買い物袋を抱えながら降りてきたのは、この神社で祀られている龍神様である龍姫さまだ。あの人免許証持っていたんだな。
お出かけする時はツノを隠すらしいんだが、たまに忘れてるんだよな。
本人曰く、ツノを生やしたメイドがいるんだから別にいいだろうとのこと。現実と漫画を混同してやしないか?
だからなのか、割烹着姿だ。ギャグかな?
しかし、平和だ。
この平和がずっと続くといいんだけどな。
そう思っていた。
わずか十数分後にそれは呆気なく壊されるんだがな。
「すいませーん、直書きで御朱印お願いしたいんですけど」
「はい。そちらからご希望の番号をお選びください。直書き可能なものは一から六番までですね」
「では、三番でお願いします」
「はい。千円をお納めください」
そうして、御朱印帳を受け取り、仕上げていく。
それぞれ彫られたスタンプを押し、乾いたら筆で日付と神社の名前を書いていく。
『神』の『田』の上の部分は少し盛り上げるとそれらしく見える。あとは全体のバランスだな。
筆文字なんてデザインだからな。
乾いたら神社の由来や案内を記した紙を挟む。
「お待たせしました。こちらになりますね」
「ありがとうございます」
「ようこそお参りくださいました」
渡してお辞儀する。
「どこからどう見ても女性にしか見えませんでした」
「嘘だろ?」
「逆にどこに男性の要素がありました?」
「ぐぬぬ……」
そんな感じで何人も対応していく。
悠真もお守りを渡していく。
どちらも男なのにバレる気配が全然ない。
「マジでバレませんね」
「不思議だよな」
そんなことを話していたら、また御朱印希望の人から声をかけられた。
俺の平穏が崩れた瞬間だった。




