80 あと千年若ければ
夕食を食べたあとの龍姫は本気モードだった。
動きづらい衣装は洗濯カゴの中にある。
今日はいつもの寝間着ではない。ジャージである。
『6年2組 不知火 逢佳』と書かれている。
そう。逢佳のお下がりである。
古くなったので、代わりに龍姫がもらったのである。
そして、DIYや塗装など汚れる作業をする時にはこの格好になるのだ。
小さすぎて手首と足首が出るのはご愛嬌。
「さてやるかの」
アンジュからもらった大きな水晶。それを万力に挟む。
割れないように、下の部分は布で巻いてある。
スプレーを使用するときの塗装用マスクをつけて、ゴーグルをかける。
粉じん対策は完璧だ。
自分の部屋でやると大変なことになるので、いつもガレージキットを作る部屋で行う。
大きなヤスリで形を整えていく。
もちろんただの工具ではない。神話級である。思うままに仕上げることができるが、慢心はよくない。
割れないように細心の注意を払いながら削っていく。
龍姫は内心で独白した。
(今まで何体のフィギュアを作ってきたと思っておるのじゃ)
作業は深夜二時まで続いた。
さすがの龍姫も眠気には勝てない。
あと千年若ければ徹夜が出来たかもしれないと、瞼が落ちるのを必死に堪えながら、片付けをした。
そして、部屋から出ると、電池が切れたように突っ伏して、泥のように眠った。
翌日は少し遅めの時間に始めた。
それというのも、寝過ごしたのだ。
逢佳が叩いても起きなかったため、お昼ご飯も逃したのだ。
もっとも、テーブルの上にはラップしてあったので、急いで食べたのだが、食べた時間はもう夕方だった。
そして、昨日の続きを再開する。
おおよその形は出来たので、粗めの紙やすりから耐水ペーパーへ。そして研磨剤を使用して、表面を綺麗に磨いていく。
引っかかりの無いように、仕上げていく。
仕上げながら、龍姫自身の力も込めると、水晶の中は虹色に光っていた。
「おう……綺麗じゃのう。ここ十年の中で最高傑作じゃて」
「龍姫さま!」
「うおっ! なんじゃ!」
「夕飯食べないんですか!」
時計を見ると、十九時を回っていた。
「す、すまん。今行く」
「もう、三回呼んだんですからね!」
「申し訳ない……」
そうして、恐縮しながら夕食を終え、作業に戻ろうとしたところで、首を掴まれた。
「昨日お風呂、入ってませんよね?」
「はい……」
「服も汚れてますね。脱いでください」
残りの作業は僅かなので、鬼モードの逢佳に従いお風呂に入った。
そうして、全て終わって部屋へ戻った龍姫。
あとは穴を開けて、紐を通すだけである。
ジャージは洗濯機の中なので、体操着を着る。やはりサイズが合わず、パツパツだ。まるで水着みたいになっている。
「喜んでくれるといいんじゃがのう」
アンジュの顔を思い出しながら、残りの作業を進めていった。
この日は零時に眠ることができた。
そして、アンジュが約束通りやってきた。
「おー、どらごんしゃん、うんどうかい」
「え? あ、ああ。着替えてなかったの」
逢佳の体操服を着たまんまだった。
半袖、ハーフパンツだったので、手足は少し汚れていた。
慌ててウェットティッシュで手足を拭く龍姫。
そして、満を辞して、桐の小箱を取り出した。
赤いサテンの布に包まれたそれは綺麗に整形されており、二つ合わさるとハート型になっていた。
「こちらをアンジュちゃんに。こっちをわがはいが持っているでな。何か困ったことがあったら呼ぶんじゃぞ。マッハで駆けつけるでのー」
「まっは!」
アンジュは目を輝かせて、両手を上げて喜んだ。
そんな様子を龍姫も嬉しそうに眺めていた。
二人で石と石を合わせる。
合わせた瞬間、強い虹色の光が発生した。
「んー、さすがわがはい。完璧じゃー」
「かんぺきー」
そうして、アンジュを抱っこすると、もう一つ。エレナ用のブレスレットも取り出した。
「ほーら、おねーちゃんのぶんじゃぞー」
「ありがとー。しゅごい!」
「はっはっはー。お安い御用じゃて」
そうして、二人はしばらく話したあと、亨が迎えに来るまで、ゲームして時間を潰したのだが、アンジュの容赦ない攻めに全敗してしまった龍姫。
「アンジュちゃんはゲーム上手いんじゃの」
「おしえてもらったの」
「ほー。いつか、その子とも対戦してみたいのう」
静かなる闘志を燃やす龍姫であった。
そうして、お迎えの時間。
今日も案の定巫女装束で迎えに来た亨。
「おちゅかれしゃま」
「はは……」
心なしか疲れた顔をしていた。
「しかし、こうも巫女装束が似合うとはな。なぁ、わがはいが作った衣装があるんじゃが」
「お疲れ様でした。失礼します」
「またあちた」
亨は、すぐに頭を下げると、丁寧にアンジュを抱き抱えると、足早に去って行ってしまった。
「そんな逃げんでもええのにのぉ……」
逃げられると追う。負けると闘志を燃やす。そんな龍姫は、亨用の神楽衣装を作り始めたのだった。
明日も亨はシフトに入っている。
今夜は徹夜で仕上げよう。そう決意したのだった。




