79 うでにつけたらつよそう
「どらごんしゃん、あげりゅ」
いつものように不知火神社の奥にある部屋にアンジュはいた。
そこは、この神社で祀られているであろう神の部屋である。
しかし、部屋の中には大きなテレビ、ゲーム機、フィギュア、タペストリーと神性は皆無である。
かろうじてあるとすれば、着ている服くらいだが、誰が見てもコスプレ衣装にしか見えなかった。
不知火龍姫。
この世で過ごすための仮の名前である。
仮と言いつつ、ずっと使っているし、子孫も同じ苗字を名乗っているので、『仮』は外していいのかもしれない。
そんな龍姫は愛おしそうにアンジュを抱っこしていた。
「おお! ありがとのう。……ほう、これはこれは、かなりのもんじゃな。かなり霊力が含まれておる」
アンジュが持っている石は表面がザラザラしており、白く濁っているが、内部が僅かに光っていた。
「アンジュ、みつけるのとくい! どらごんしゃんにプレゼント」
「な、ななな……なんということを。なんというものをくれたのじゃ! 嬉しすぎるぞい!」
あまりの喜びにアンジュに頬ずりする龍姫。
「もう一個あったのはえれなねーちゃが取った」
「そうかそうか。よかったのー」
「うん」
元気に返事したアンジュ。
だが、アンジュの目的は龍姫へのプレゼントだけではない。
「じつはね、きょーは、どらごんしゃんにそうだん」
「お、なんじゃ、聞くぞ。聞かせてくれ」
アンジュは持ってきた袋を取り出して、机の上に広げた。
「ほほう。これはこれはなかなかのもんじゃの」
アンジュの持ってきた石は色とりどりの石であるが、そのどれにも、異なった力が備わっていた。
一つ一つは弱くても組み合わせることによって、強力な力を発揮するのだ。
「これをどうするんじゃ?」
「おにーちゃ、たんじょうび。これでぷれぜんとちゅくっておくりたい!」
「なるほどのう」
龍姫はその石を見ていく。
そして、それぞれ最良の組み合わせを構築していくが、どうしてもいくつか足りなかった。
「ふむ」
膝の上のアンジュを一旦、丁寧に下ろすと、箪笥へ向かった。
中にはそれぞれの石が大きさや色で綺麗に分けられていた。
その中から、目当てのサイズの合ったものを取り出した。
「これならいいじゃろ」
遠慮なくアンジュにあげた龍姫。
明らかに光沢が違う。
「これ、いいの?」
「いいんじゃよ。どうせ、集めても使わんし、すぐに溜まるでの」
「ありがとうー」
「ええんじゃよ。えへへ……」
これ以上ないくらい破顔させる龍姫。
なんなら持っている在庫を全部あげてしまいそうな勢いだ。
「して、これをどうするんじゃ?」
「うでにつけたらつよそう」
「あい分かった!」
龍姫は膝を叩いて頷いた。
立ち上がった龍姫は、別の箪笥の上の方から工具を取り出した。
「では、わがはいが手伝ってやろう」
「いいの?」
「おう。ただ、キリは危ないから、わがはいがやるでな」
そうして、石に細い穴を開けていく。
わざわざ新聞紙を敷いて、その上にゴミ箱を置いて作業した。
研磨が必要なものは、研磨剤で磨き上げていく。
瞬く間に光を放つ。
アンジュはその間、テレビを見て待っていた。
安心して作業できるなと、龍姫は思った。
最後に、龍姫は箪笥を開けた。
「ふむ……。切れないくらい熟成したいいものがあったはず……。これでええの」
百年間乾燥させた龍の髭を取り出し、作業を再開する。
開けた穴にそれを通して、謎の言葉を発すると、接合部が消えた。
そして、強度を確認して頷いた。
「アンジュちゃんできたぞい」
強めに引っ張っても千切れることはなく、適度な弾力性があった。
多少太っても痕はつかないだろう。
「お、おおー! しゅごい! どらごんしゃんしゅごい!」
「はっはっは。そうじゃろうそうじゃろう。ガレージキットで鍛えた腕は伊達じゃないぞい」
目をキラキラとさせて、口を開いたまま、アンジュは興奮していた。
「これ、もういっこつくれる?」
「ふむ。なんでじゃ?」
淡い期待をする龍姫。
「えれなねーちゃも誕生日。あげたい」
「そ、そっかそっか。いいぞ」
二つ返事ですぐ作業に取り掛かろうとしたが、逢佳が部屋をノックした。
「なんじゃ」
「保護者の方がお迎えです」
「はぁ……。仕方ないのう。では、アンジュちゃんよ、次までに作っておくからの」
「いつできる?」
「明日には…………いや、三日くれんか?」
「? いいよ」
「では、またの」
「バイバイ」
手を振って部屋を出ていくアンジュ。
その様子を、逢佳は目を細めて見ていた。
「ホント、龍姫様は子供に甘いですね」
「当たり前じゃろう。子供は宝じゃぞ?」
「まぁ、そうですけど、あの子には特に執着しますね」
「直接会いに来るんじゃぞ、かわいいじゃろ」
なんの疑問も持たずにそう言い切った。
「まぁ、逢佳の小さい頃は可愛かったのにのう」
「今も可愛いですよ」
自画自賛する逢佳。確かに巫女装束を身にまとったその姿はとても美しく可憐だった。
ただ、その様子に龍姫は少し呆れ混じりに言った。
「昔はわがはいが逢佳のおしめを変えたのにのう」
「今、龍姫様のパンツを洗濯しているのはわたしですよ?」
「す、すまん」
口論では逢佳に勝てないのだ。素直に負けを認めるに限る。
「それで、その大きな石どうするんです?」
「ふふ。わがはいに考えがあっての」
「そうですか」
「なんじゃ冷たいの」
「ええ。お母さんが夕飯が出来たから呼んでこいって」
「それを先に言わんか」
作業を中断して、母屋へと向かったのだった。




