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メリーさん家の三姉妹  作者: 玉名 くじら


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77/100

77 天然物のキュンキュン


 あたしの名前は鷹宮美咲。

 都内の有名私立高校で体育教師をしている。


 なぜ教師をやっているのかと言えば、高校は一番キュンキュンするイベントが多い。

 告白し、付き合い、付かず離れず、二股したり、嘘をついたり、別れたり。

 そういった恋愛イベントが非常に多いと思うの。


 それに運動部の方がそういったイベントが多いだろうと思って体育大学に行って教師の資格を取ったのだ。


 まぁ、あいにくとあたしは、自分ではそういったことは起きなかったんだけどね。

 それというのも、高校三年間でそういったイベントは見る専だったから。


 それに本当か嘘か分からないけど、あたしのお母さんもお婆ちゃんも恋妖精だと言う。

 あたしもその末裔らしいけど、別に恋のキューピッドになったことなんて一度もない。


 いや、人の恋愛感情を操作できるかと言われたら、全然できないし、恋を成就させるなんて家訓もない。

 恋のキュンキュンエネルギーがないと死ぬわけでもない。

 別に恋に関わらなくても生きていける。


 ただ、他人の初々しい恋愛が大好きなだけなのだ。

 まぁ、そのお陰で年齢イコール恋人いない歴なんだけどね。


 ちなみに今日は仕事も恋愛もお休みで、すっぴんとジャージで荻窪へラーメンを食べに来ている。

 開店まで、まだ二時間もある。でもそのくらいじゃないと食べられない。

 既にあたしの前には三十人もの人が並んでいて、後ろはどこが最後かは分からない。


 しかし、今日のあたしはいつも以上にラブコメの波動を感じてしまった。

 多分、ここ数年のうちで一番かもしれない。


 どうしよう。せっかくいい位置をキープできたのに……。

 しかし、このキュンキュン速報を逃せば、一生後悔するかもしれない。

 そう思ったら、あたしは自然と走り出していた。


 ラーメン屋さんなら、また並べばいい。

 全速力で走っていく。パルクールをしながら、障害物を避けながら一目散に走っていく。


 「はぁはぁ……んっ……がはっ……はぁはぁ……はぁー……はぁああああっ……」

 電車に乗れば良かったのかもしれない。

 まさか荻窪から吉祥寺まで、走って二十分ほどで来れるとは思わなかった。

 同じ時間なら楽な方が良かった……。

 食べる前で良かったと思う。


 さて、発信元は……。

 路上で四つん這いで荒い息を吐いているあたしは相当に不審者だろう。


 だが、顔を上げるとあたしと同じ種族(同志)がいっぱいいた。

 「あ、あなたも?」「君も?」「ユーも?」

 立ち上がると、二十人くらい集まっていた。


 多いなと思ったが、それ以上に清掃活動で集まっている人の方が多かった。

 脇目も振らずに走ったからか、そこがどこかは分からないが、少し大きめの公園だった。


 あたしたちは、その人たちの邪魔にならない場所へ移動し、発信元の男女二人を確認する。

 「あの子たちね」

 同志の中の一人が言った。


 あたしも見ると、ショートレイヤーの女の子っぽい男子と金髪のミディアムヘアの女の子だった。


 「ほほう……」「ほう……」「ほぉう……」

 それぞれが二人を見て熱いため息を吐いた。

 しばらく様子を見る。


 どうやら、男の子の方が率先して作業しているようだ。

 ご近所さんだろうか。男の子と親しく話したりしている。

 女の子の方も声をかけられるが、少し控えめだ。


 しかし、なんというか、とても初々しい。

 それはもぎたてのフルーツのような瑞々しさがあった。

 とてもいい恋の香りがした。


 どういうことかというと、女の子の方はすごく好きって気持ちがあるのに、あと一歩が踏み出せない。

 男の子の方は女の子を大切に思ってるのに、女の子の好意には少し……いや、全く気づいていない。


 初期不良返品されるレベルで恋心センサーが壊れているのに、ごくたまに接触不良が治るのか、手を引っ張って引き寄せたりしている。

 それが非常に好ましい。


 「あたし思うの、ドラマとかみたいに作られたキュンキュンより、こうして天然物のキュンキュンを見る方が好き」

 「「「「「「「「「「分かる」」」」」」」」」

 みんな同じ意見らしい。


 「女の子があんなに好きを醸し出してるのに、恥ずかしがって踏み出せないの好き」

 「「「「「「「「「「分かる」」」」」」」」」

 あの、好きなのに、どうして気づいてくれないのって雰囲気はとても尊い。


 「男の子も殴りたくなっちゃうくらい鈍感なのに、たまに気づくの好き」

 「「「「「「「「「「分かる」」」」」」」」」

 なんであの子はあんなに鈍感なんだろう。


 「ラブコメってやっぱり鈍感と気づいてって気持ちのせめぎ合いが好きだなぁ」

 「「「「「「「「「「分かる」」」」」」」」」

 どっちも好きで付き合うのも好きなんだけどね。


 でもそのあと、気持ちがすれ違って喧嘩したり仲直りしたりしながら愛を育んでいくのも好き。

 逆に、好きは当たり前で、ベタベタチュッチュしてるのはあんまり好きじゃない。


 今、目の前には、本当に出来たばかりの蕾の状態という貴重な瞬間に出会えたのだ。

 できることならば、このままずっと見守っていたい。

 しかし、仕事をしていると、それも出来ない。


 「でもやっぱり主人公とずっと一緒にいるヒロインと結ばれるのがいいよね」

 あたしがそう言ったら、議論が始まった。


 「いや、幼馴染だろ?」「バカね。負けヒロインが最後にかっさらってくのがいいのよ」「なんですって? 隣の席の子でしょう?」「寡黙な文芸部員も捨てがたい」「やたらと突っかかってくる子もいいんじゃない?」「巨乳天然ドジっ子を推すわ」「年の差もありよね。女教師とか」「保健室の先生とか」「母親とか」「お前……」「逆に男の娘ポジも」「「「「それある」」」」


 しばらく誰がヒロインにいいかを談義していたら、いつの間にか清掃活動も終わったようで、あの子たちも何やら話し合っている。


 まだ幼い感じがしたから中学生だろうか。

 あたしの働く英愛学園に入ってくれないだろうか。

 あの二人が付き合う姿を、その先を見たかった。


 そして、集まったみんなで話し合った結果、みんなで見守ろうと決めたのだった。

 その時、爆弾発言をした人がいた。

 それは、あたしたちの仲間ではなく、さらっと入ってきた妖艶なお姉さんだった。


 「夢の中では、告白まであと一歩だったのにね」

 それを聞いたら、逃がせるはずがない。

 全員でがっしりと腕や足を掴むと、驚いた顔をした。

 驚いたのはこっちなのに。


 どうやら、その人は以前たまたま電車に乗っていた時に夢を覗いたら、初々しかったのでそのまま見ていたのだそう。

 今回たまたま再会できて、一緒に見ていたらしい。


 そうなれば話が早い。

 あたしたちは頷き、みんなで後をつけたのだった。


           *


 「ねぇ、亨……」

 「どうした?」

 「まだ帰りたくない」

 「エレナ……」

 清掃活動も終わり、帰ろうとすると、エレナが帰りたくないと言った。

 俺の服の袖を掴んだままだ。

 その指は少し弱々しかった。


 アンジュはどうしたのかと言うと、操に任せてきたらしい。

 アンジュから連絡もないので、多分大丈夫だろうが、少し寂しい。


 その後、エレナとゲーセンに行ったり、ボウリングに行ったりした。

 だんだんと機嫌が良くなってきたようだ。

 相変わらず顔は朱いままだが。


 UFOキャッチャーで取った、ブサ猫ぬいぐるみを愛おしく抱いていた。

 そうしてると、普通の女の子っぽく見えた。

 しかし、意外なことに、エレナはボーリングが上手かった。

 「勝ったんだから何か奢ってよ」

 やはり、いつものエレナだった。


 そして、エレナが『お腹すいた』と言うことで、ファミレスへ行くと、アンジュと操がいた。


 「あ、お兄ちゃん!」

 「なんだ。二人でファミレスに来てたのか」

 「う、うん。まぁね」

 歯切れが悪い。


 「でも良かったよ。はい、お会計」

 お前……。まぁいいけど。

 しかし、二人ともとんでもない色のドリンクを作っているな。


 「お兄ちゃん、これあげる」

 「いらないよ」

 何が入っているのか分からない。こんなの飲んだらとんでもないことになる。

 それに自分で作ったのならば、自分で処理しないとな。


 「おにーちゃ、アンジュのあげりゅ」

 「ありがとう」

 「ちょ」「と、亨!?」

 その瞬間、俺の意識は途絶えた。

 そして、辺りが騒然とした気がした。


           *


 「まさか、あの幼女が一番のライバルとはね」

 「ええ、びっくりだわ」

 彼氏の方が倒れたあと、女の子が膝枕して介抱していた。

 さすがにこれ以上は野暮だろう。

 とりあえずお腹すいたねってことで、このあとみんなでラーメンを食べにいった。

 ラーメンも食べられたし、初々しい恋愛も見れた。今日は大満足だ。


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