76 無いなら、作ればいい
リビングへ通されると、湯飲みに香ばしい香りの番茶を出された。
お茶請けはナスときゅうりのお漬物といかにも固そうでしょっぱそうなおせんべいだった。
「お、新鮮!」
番茶をすすり、操はナスを。アンジュはきゅうりを爪楊枝でさして口に入れる。
「お、うまい!」
「おいしい」
「そう。よかった。わたしの手作りなの」
とても漬物を作るようには見えなかった。
服装はパーカーで、インナーはネタシャツ。下はホットパンツと黒ニーソ。
表情は乏しいがかなりの美少女だ。
前髪ぱっつんのロングストレートの黒髪が神秘的だった。
「普通、こういうの出さないんだけどね」
苦笑しながら、ひょいパクと何個も頬張るのは、真っ赤な長い髪の毛をポニーテールにしている女性だ。
Tシャツにキュロットと活発な感じがする。
どこか勝気な雰囲気を感じさせた。
「あ、申し遅れました。あたしは宇慶操。中学3年です」
「あ、わたしも忘れてた。井出小夜子」
「あたいは小夜子の友人やってる明智琳香。よろしくね」
「アンジュ!」
「おー、名前言えて偉いなー」
「えへへ……」
自己紹介も終わり、小夜子は天のことについて聞かれるのだろうと、自然と身構えた。
だが、そんな話題は出なかった。
「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど」
「え、ええ。どうぞ」
「お兄ちゃんここに来たの?」
「ええ」
「アンジュと一緒に来たー」
「くっそー、報告受けてない。問い詰めないと……」
「はははっ。面白いねー、君」
何にも状況を理解していないが、操の様子を好ましく思った琳香が話を進めた。
「天ちゃんいないんならさ、あたいたちと一緒にゲームでもしない?」
一瞬キョトンとした顔になる操。
「ちょ、琳香……」
「えー、いいじゃん。あ、もしかして、ゲームしない人?」
「ゲーム? ううん。好きだよ。やる!」
「おー。アンジュちゃんは?」
「やるー」
操とアンジュの了承を得たので、二階の小夜子の部屋へと移動する。
「すっご」
小夜子の部屋には四枚のディスプレイのついたパソコン、青いゲーミングチェア、そしていろんなゲーム機と55型のテレビがあった。
ベッドもあったが、上には服やらバッグやらが無造作に置かれていた。
「すごいよねー。小夜子って、社会常識とか流行りに疎いのに、ゲームだけは上手いんだ」
「答えと過程が分かってるんだもの。それをなぞればいいだけよ」
「そう言ってるけど、FPSとかめっちゃ凄いじゃん」
「まぁ……うん」
あんまり分かってない風で言う小夜子。
「まぁ、今日はアンジュちゃんいるんだから、子供向けのやろう」
「おー」
そうして四人でゲームをすることになった。
操もこうして他の人とゲームをするのは新鮮だった。
家では環に負け、亨をフルボッコにするくらいである。
友人もソシャゲはやっても、普通のゲームはなかなかやらない。あつ森くらいだろうか。
そうして始めたレースゲーム。ヒゲオヤジや恐竜、ゴリラにキノコの擬人化などが出ている。
「操だっけ? 上手いじゃん」
「お姉に鍛えられてるからねぇ」
「アンジュちゃんは、うん。もっと頑張って」
「つぎはかちゅ!」
結果は、操一位、小夜子二位、琳香三位、アンジュ八位だった。
そして、それが静かに小夜子の心に火をつけた。
三人はそれぞれ一位を何回も競っていたが、途中でショートカットを覚えたアンジュが一位をかっさらっていった。
「「「………………」」」
「かったー」
最早三人はアンジュに勝てなくなってしまった。
「つ、次のゲームしよっか」
「何をやるの?」
「桃鉄。これなら」
「どうして友情破壊ゲーをやるの?」
「破壊しないようにやれよ」
そうして、始める。
しばらくすると、三人はパニックに陥った。
なぜならば、またぞろ理由はアンジュであった。
『ぶっとびカード』を使うと、必ず目的地に入るのだ。
夜叉姫たんが『次の目的地は仙台でーす』と言った次のターンには目的地に入り、『次の目的地は福岡でーす』と、毎月のイベントのように表示された。
「さ、さすがに今回は……」
だが、その願い虚しくアンジュは次々と『必ず目的地に入るカード』で入っていった。
連続ボーナスがすごいことになっていた。
唯一の救いは食べ物屋さんしか買わなかったことだろうか。
スリの銀次もアンジュには出なかった。
しかも、カードマスへ止まれば『ぶっとびカード』か『ぶっとび周遊カード』を引いた。
「TASさんは金髪の幼女だと聞いていたけれど、まさかアンジュちゃんがそうだとは知らなかったわ」
「あたいも実在するとは思わなかったよ」
「これ、狙って乱数調整できないでしょ」
「えへへ……」
本当に狙っているのかもしれないと、三人はその笑顔を見て思った。
「もうー、かわいいから許しちゃう」
琳香が、顔をにやけさせながらそう言ってお開きになった。
そうして、ゲームを終えると、琳香が言った。
「中学3年だっけ」
「あ、はい」
「入る高校って決まってる?」
「あ、はい。英愛に」
「そっかー。逸材だと思ったんだけどな」
「え?」
「いや、あたいら常翔高校で、ゲーム研究会やってるんだ。学校で堂々とゲームできる。最高じゃん」
小夜子も小さく頷いた。
「あ、確かに」
「もし、機会があったら対戦したいけど、英愛にゲーム研究会は……ないよなぁ」
「無いなら、作ればいい」
「「おお!」」
そうして三人は握手をしてLINE交換をした。
「また対戦しましょう」
「そうだな」
「是非! あ、でもここの場所が分からないや」
「はぁ?」
琳香だけが、意味が分からないと首を傾げるが、訳知りの小夜子が遮った。
そして、場所を伝えると、操はニカッと笑った。
「なーんだ。チャリで来れるじゃん!」
「どうやってきたんだよ」
琳香だけが、秘密を知らないのか、ツッコミを入れていた。
そして、帰り道──
「あれって、アンジュちゃんの力なの?」
「ちがうー。そらちゃんの」
「そっかー。じゃあ、お兄ちゃんに聞けばいいね」
「うん」
操とアンジュは並んで歩く。
「なんか、帰り食べてく?」
「いいのー?」
「いいよー。新しいお友達できたし。アンジュちゃんには感謝だよー」
「わーい」
そうして二人はファミレスへ行き、ドリンクバーで劇物を生成したのだった。




