75 亨さんは今日は女の子の服着てるんですね
「あれ、お兄ちゃんは?」
いつものように、チャイムが鳴り終わる前にリビングへ入ってきた操。
リビングにはエレナとアンジュしかいなかった。
「あ、亨は町内会の地域清掃に参加してるわよ」
エレナがお菓子を食べながら言った。
ちなみにアンジュもエレナの横でテレビを見ながらお菓子を食べている。
テレビではキュアキュアが放映されていた。
「えー……」
操は思った。せっかく仲を深めるチャンスを自ら棒にふるなんて何を考えているのかと。
「エレナも参加すればよかったのに」
「えー、めんどくさい」
これはまだまだ時間がかかりそうだなと操は心の中でため息をついた。
「テレビ見てるんだね」
「うん。亨が、迎えに行けばいいだけだって言ってたから」
「そうなんだ」
このまま待てば、美味しいものを食べたり観光したりできるなと操とエレナは思っていた。
「立ってないで座ったら?」
「あ、そうね」
アンジュの横に座ると、アンジュがお菓子を差し出してくれた。
エレナならば、絶対にありえないであろうことだ。
「ありがとう」
「どういたちまちて」
まだまだ舌ったらずな言い方がかわいいなと操は思った。
気がつけばキュアキュアは終わっていた。
今日も中々に伝説的な回だった。
「終わっちゃったね」
「ねー」
そこで操はテレビ台の上に無造作に置かれたケースが目についた。
中には何にも書かれていないDVDが入っていた。
「ねぇ、エレナこれ……」
「あ、わたし、掃除行って亨の手伝いしてくるわ!」
急に玄関へ向けて早歩きしたエレナ。
「え、ちょ」
「アンジュのことよろしく!」
玄関で一回転倒した音がした。
「まぁ、お兄ちゃんと一緒ならいっか。アンジュちゃん、これ見てもいい?」
「いいよー」
アンジュが目を少しだけキラキラさせた。
きっと面白いアニメか何かをダビングしたものだろう。そう判断した。
DVDを入れて、再生ボタンを押して、アンジュの横に座った操。
だが、再生から数分、画面は真っ黒のまま。
「あれー、再生押したよねー」
そう言った直後に画面にはうっすらと『井戸』が映った。
「え……」
慌てて止めようと、ボタンを押すが、映像は止まらない。
だんだんと『井戸』へと近づいていく。
「ちょ、ちょ!」
本体から電源を落とそうと、腰を上げた瞬間、操の視界が暗転した。
「みさおねーちゃ」
アンジュの引っ張る感覚で我に返った操。どうやら立っていることにすら気づいていなかった。
ゆっくりと辺りを見回す。
後ろには、先ほどの映像と同じ井戸があるが、周りは普通の住宅街だった。
それに、靴も履いてるし、ポケットにはスマホも財布も入ってる。
「え、あたしも転移したの?」
アンジュを見ると、「そらちゃんちー」と言っていた。
「うわー、やったー。あたしも転移してるー、フゥー!」
興奮して、少し大声を出してしまったのだろう。
その家の住人だろうか、二階の窓が開き、二人の少女が顔を出して覗き込んでいた。
そして、目が合うと気まずそうに頭を下げた。
「あ、ごめんなさい。呼ばれちゃったのね。えっと……玄関開いてるから……」
淡々とした言い方だが、ほんの少し気まずそうにしていた。
その少女が言うので、アンジュと一緒に入ることにした。
玄関横の車庫には車高の低い車が止まっており、その隣は空いていた。
多分出かけているのだろう。
「お邪魔しまーす」「ちまーす」
「ごめんなさいね。天はパパとママとお出かけしてるの」
「ざんねんー」
その少女は明らかにアンジュへ向かって言っていた。
そして『天』という名前を言っていた。
以前、夏祭りで聞いた名前だ。ということは、ここはアンジュの友達の家ということになる。
どうして自分も転移できたのかは分からないが、エレナが『面倒見てね』と言っていたのを思い出した。
だが、そんなことどうでもよくなるようなことを目の前の少女に言われた。
「亨さんは今日は女の子の服着てるんですね」
「待った」
「え?」
「あたしは妹の操だよ」
「あ、そうなんですね。ごめんなさい」
なぜか頭頂部と顔を見て、首を傾げていた。
「(そっくり……)」
「ちなみにここはアンジュちゃんの友達の家なんですね」
「ええ。天が渡したDVDを見ると、ここに来ちゃうみたいなの」
「へー、便利ー」
その言葉に驚く少女。
「あなた、結構変わってるって言われない?」
名前も知らない少女に『変』と言われてしまった。
「そんなに変じゃないと思うけど」
「どしたー」
そんな話を玄関で立ち話していたら、階段をもう一人の少女が降りてきた。
「あ、琳香……」
「立ち話もなんだから、上がってもらったら?」
「あ、そうね。じゃあ、どうぞ」
どこか意志薄弱な雰囲気を感じた。
そして、案内されるままその家のリビングへ通されたのだった。




