71 なるべく日本国内で頼むな
バスツアーと言ったら、隣で飲んでいたグループの一人がこっちを見た。
同じシャツを着ているから、同じグループなんだろうが、外国の人だよな。
綺麗な金髪と青い目。でも顔立ちは日本人って感じだからハーフかな?
そんな視線に気づいたのか、横にいたもう一人に肘打ちして、視線を逸らした。
一体何がしたいんだ?
肘打ちされた方の人が、ニマニマしながらお酒のグラスを持って、こっちへ来た。
「ねぇねぇ、君、付き合ってる人いるの?」
「ちょっと、扶佐子!」
グイグイ距離を詰めるように俺の横へ座ってきた。
美晴さんが止めたが、あんまり気にしていないようだった。
でも、アンジュが俺の服をぐいっと引っ張るのを見て、慌てて謝罪した。
「あー、ごっめーん。付き合ってる子いるじゃーん」
どうやら俺とアンジュが付き合っていると勘違いしたらしい。
いくら酔っているといっても、さすがに酷すぎる。
俺とアンジュはそんなんじゃないのにな。
そう思ってアンジュを見ると、珍しく頬を膨らませていた。
やはり不満だったようだ。
そんな様子を見て、ため息混じりに先ほどの金髪の女性が来て、扶佐子さんを小突いた。
「ごめんね。こいつ飲むとバカになるのよ」
「何よ、もう! いいじゃん。他に男の子いないんだもん!」
この人はなんというか、アイリさん以上に厄介な酔い方をするな。
美晴さんが困っているのはなんか新鮮だ。
「おー、そこまでにするっしょ!」
今度はチョップで脳天を直撃させたのは、めちゃくちゃ姉御肌のお姉さんだった。
「いったー! 花菜がやったら割れるでしょう!」
「割れるわけないっしょ」
呆れ混じりにため息を吐いて、片方の腰に手を当てるとビールを一息で飲んでしまった。
なんとも漢らしい……。
「美晴の知り合い?」
ここに来てやっと自己紹介か。長かった。
「あ、はい。宇慶亨って言います。大学1年生ですね」
「アンジュー! およめしゃん!」
アンジュもノリノリで変なことを言っている。
場酔いでもしたのだろうか。
「あらあら、まあまあ」
美晴さんがニヤニヤしながら口元を隠している。
「おー、そうかそうか。そんならおいらの番やね。おいらは樋掛花菜。家は水道会社だからね。水漏れとかあったら、是非うちを頼ってくれな。どこまでも飛んでくぜ」
そう言って名刺を渡してくれた。あ、うちの大学の工事で来たことあるとこじゃないか。
あの時は大変だったなぁ。
と、遠い目をして考えようとしたところで、背中をバンと叩かれてしまったので、忘れてしまった。
「ところで、美晴の彼氏なんか?」
「それならどれほど良かったことか。(年下ですしね)」
「そっかー。ほら二人も」
「あ、ああ。そうね。わたしは来栖御幸。これと一緒にバスガイドやってるわ」
あ、だから『バスツアー』って聞いてこっち見たのか。
「そうそうー。あなたも参加してよー。ふへへ。あたしはー久保屋敷扶佐子ー」
長い名前だなぁ。
それにしても、よく飲み会に巻き込まれるな俺。もしかして、終わった後の世話係として連れてこられた可能性あるな。
しかし、あの小夜子さんとやらは、終始黙ってるなぁ。
路上で踊ってるの見た時は、全員ちゃんと踊っていただけに意外だ。
その後、参加していた人たちがどんどん集まってきて、どんちゃん騒ぎになってしまった。
俺とアンジュは間を縫って抜け出した。
このままだと俺とアンジュまでお酒を飲まされそうだったので、早々に退避した。
「じゃあ、またの機会にね」
美晴さんもこうなるとは思わなかったのか、両手を合わせて謝ってきた。
「大丈夫ですか?」
「多分、結果発表まで起きてる人いないかもしれないわねぇ」
まぁ、そうだろうな。ほとんどの人は放送できない感じになっていたからな。
アンジュの教育上よろしくない。ここはありがたく帰らせてもらうとしよう。
美晴さんとはそこで別れた。
俺はアンジュを肩車しながら駅へと向かった。
その時、ここに来る前のことを思い出した。
「アンジュ」
「どちたの?」
「なるべく日本国内で頼むな」
「うーん」
そこは言い切ってくれないんだな。
そして、家へ帰り、夕飯の支度をした。
今日で八月も終わりか。
なんだか、今年の夏はとても慌ただしかった気がする。
それにとても濃かった。なんていうか、人間関係も広がった気がする。
そう考えを巡らせていたら、アンジュがとてとてと近づいてきた。
「ゆうはんなにー」
「今日は冷やし中華だよ」
「おー」
夕飯の冷やし中華は、なぜかサンバカーニバルみたいな見た目になってしまったことで、エレナに問い詰められた。
なぜ、連れて行かなかったのか、と。




