07 チュートリアルは強制です
中央線を東京駅方面へ揺られること約四十分。
東京駅から新幹線のりばへ向かう。
向かうはずなのだが、エレナさんが駅弁とかお茶とか買っている。
急ぎじゃないんか?
「急いでもしょうがないでしょう?」
「いや、急いだ方がいいだろ?」
「食べないんならいいけど」
「………買うよ」
なんか調子狂うな。
そして弁当の入った紙袋を持って新幹線のりばへと急ぐ。
入った瞬間に扉が閉まった。
「危なかったわね」
「エレナさんが弁当を悩まなければもっと余裕ありましたよ」
髪をかきあげると、横目で俺を一瞥し、座席の方へと歩いて行った。
何か喋ってもいいんじゃないだろうか?
幸いにも席が空いていた。
もちろん窓側はエレナさんだ。
「そういえばなんで青森駅なんです? もう一つ先にも駅ありますよね?」
「そっちからどうやっていくの?」
「あ…」
そうか。時間によってはバスもタクシーもないか。
「そういえばあなた免許証持ってるわよね?」
「ええまぁ。教習所以外では乗ったことないですけど」
「ほらこれ」
「初心者マーク……。用意いいですね」
「レンタカーで龍飛崎まで行くわよ」
「自信ないんですが」
「これから運転する回数増えるんだから慣れてもらわないと」
「どういうことです?」
エレナさんは買ってきた弁当を広げ始めた。
「食べながら話すわ。ほら」
「あっはい」
俺も弁当の包み紙を開き、蓋を開けた瞬間に漬物とグリンピースを俺の弁当に乗せた。そして唐揚げを当然のように持っていった。
「おい」
「何よ」
「それ俺の」
「お金はうちのだから」
「アイリさんのだろ?」
「細かいことはいいじゃない」
そう言ってフライも一つかっさらっていった。
見た目と行動が一致してないんだよなぁ。
悔しいから俺もシュウマイを一個取ろうとしたら箸で塞がれた。
「何してんのよ」
「いや、俺の持ってったし」
「分かったわ。レタスでいいわね」
「いいわけないだろ? というか、そろそろ説明してくれ」
「そうね。そうだったわ」
二箱目を開けながらエレナは語り始めた。
「私たちメリーの一族はね、対象の元へ徐々に近づくために瞬間移動が出来るの」
「瞬間移動!?」
「そう。私たちはね、ある時を境にその能力に目覚めるの。ただ、それがいつかは分からなくてね」
「つまり、アンジュちゃんはその能力に目覚めた、と」
「そう。本来ならもっと後なんだけど、アンジュはメリー一族の中でも才能があると言われてたのよ」
「へぇ…」
確かにもう少し大きくなったら、世間一般で言われているメリーさん像に近くなるかもしれない。
そうなると、あのゴスロリ姿になるんだろうか。それはそれで楽しみだ。
「……ところで、エレナさんも?」
「ええ。気になったものを見たりしたら、その瞬間にはね。ホント困った能力よ」
「それは今も?」
「いいえ。だんだんと制御できるようになったわ。今では勝手に転移することはないわ」
「なるほど………………ん?」
メリーさんは目的の場所へ瞬間移動できる。じゃあ何で新幹線で移動を?
「あの…エレナさん?」
「なぁに?」
空になった弁当箱を片付け、デザートを用意し始めた。よく食うな。
「瞬間移動出来るならアンジュちゃんのところに行けたのでは?」
エレナさんは「ふふっ」とおかしそうに笑って、俺にお菓子を一つ差し出した。
「出来てたらやってるわ。呪う相手のところにしかいけないのよ。だから私の時は姉が迎えにきたわ」
「そうだったんですね」
「ええ。私を迎えにきたついでに営業していたわ」
抜け目ないな。
「まぁ、うちはメリー一族であっても分家筋だからそんなに呪う仕事もないからね。呪う対象をパスにして移動することも出来なくってね」
迎えにいくたびに殺してたら大変だよ。
その先で営業もしていたら、絶対に警察に目をつけられるだろ。
小学生探偵や高校生探偵も頭抱えるわ。
「まぁいろんなところへ迎えにいくわけだから、お金が必要なのよ」
「それは…大変ですね」
「ええ。でもこれからはあなたがいるから」
「え?」
「期待してるわよ」
待て待て待て。え? もしかしてこのために一緒に暮らそうって言われたのか?
「じゃあ、なんでエレナさんいるんですか?」
「チュートリアルって大事でしょ」
「あ、今後も俺が迎えに行く流れなんですね」
「あ、私も行ける時は行くわよ。そんな薄情な姉じゃないし」
まぁ、アイリさんは仕事で難しそうだし、エレナさんも中学生だしな。
「それに大学生って暇でしょ?」
「偏見が過ぎる」
「だって、働きたくないからモラトリアムを謳歌するのが目的だと姉が言っていたもの」
あながち間違いじゃないが、全員がそうとは限らないぞ。
いたとしてもほんの少しだと思う。……多分。




