59 好きよ。大好き。めっちゃ好き。
その時、チャイムが鳴ったと同時に扉が開いた音がした。
そして入ってきたのは操だった。
「おろ?」
「おや」「えっと……」
二人が戸惑うのも仕方ない。
見ず知らずの人物がいきなり入ってきたのだ。
だが、俺と操の頭頂部を見て、なぜか頷いていた。
「妹さんですかー?」
「そうですそうです。宇慶操といいますー」
巡と操が握手していた。
礼奈は操とはコミケでは会っていないのだろう。
まぁ、会っていたとしても、コスプレしていたしな。
しかし、一体何を見て兄妹だと断定したのだろうか。
「なぜか、あなたとは仲良くなれそうです」
「わたしもです」
ニッコリ笑顔で通じ合っている。
「(あなたもエレナの恋を見守る人?)」
「(はい。これ以上のエンタメは存在しませんよね)」
「(分かるわ。やっと蕾が開きかけてるんだもの)」
「(でも、そこからが長くて)」
「(ほうほう……)」
その後、操は礼奈とも小さくいくつか言葉を交わして頷いていた。
小さすぎて、全然聞き取れない。
俺とエレナは顔を見合わせて、首を傾げた。
「随分とコミュ力高いな」
「羨ましいわ」
「エレナだってそこそこあるだろう?」
「いや、あそこまでは……」
その時、俺のスマホが震えたので、通知を確認するとアンジュからだった。
どうやら、転移してしまったようだ。
チラッといたであろう場所を見るといなかった。
「すまん。ちょっと出てくるな」
財布を持ってポケットに入れる。
「あれ、買い物ですか?」
「ああ、気にしないでくれ。ちょっと用事ができちゃってな」
「そうですかー」
操は、ポカーンとした顔をしていた。
お前は状況分かってるだろうに。
「エレナ、あとは頼むな」
「ん」
「おやおやー。そんな目と目で分かりあうなんて、もしや」
「っ……」
「まぁ、な。じゃ、行ってくる」
*
亨が出かけてすぐに、他の三人は動いた。
操がエレナを席に座らせると、出口側の席に礼奈、巡、操が座った。
逃げようとしても、すぐに捕まえられる格好だ。
「なんで、座らされたの?」
「まぁまぁ。聞きたいことがあるからに決まってるでしょう?」
巡が興味津々と言った顔で、食い気味に言った。
「聞きたいことって、何よ……。宿題は殆ど終わってるけど、写させないわよ」
「待って。え、終わってる? マジで? え、じゃあ」
「巡、落ち着いて。今はそれどころじゃないでしょ?」
「そうだった」
礼奈が慌てて軌道修正すると、エレナは心の中で舌打ちした。
「エレナはさ、お兄ちゃんのことどう思ってんの?」
操が歯に衣着せずに言った。
「あ、あちきらコメダで聞いたよ。好きなんだよね」
「!? わたし、聞いてない」
「では、エレナ。もう一度」
礼奈がどうぞと手を差し出した。
「ちょ……、えー……」
「いっぱい奢ったじゃん」
「うう……」
巡の一撃が効いたようで、エレナは観念して俯きながら話した。
「好きよ。大好き。めっちゃ好き。でも、亨鈍感だから、全然伝わってなくてヤキモキする」
「「「ほほう」」」
三人は、前のめりになった。
「そ、それにライバルいっぱいいるし。勝てる気しない……」
「「「うっ!」」」
エレナの弱気な表情に胸を射抜かれる三人。
息も絶え絶えになりながら、エレナの独白を聞いていく。
エレナは目の前の三人がおかしい動きをしていることに気づかぬまま、続きを言った。
「亨は優しいし、家のこととか、勉強とか教えてくれるし、変なことしたら怒らないで、優しく窘めてくれる。でも、それじゃダメってのも分かるの。だから、まずは英愛学園に入学して、安心させてから家事とか手伝ったりしようかなって。まだわたし、お皿とか割っちゃって、心配かけまくりだし、料理は焦がしちゃうから、キッチン入らせてくれないし。でも、それはわたしを思ってだって分かるから、尚更……」
そこで、ふと顔を上げると、胸を押さえて、涎を垂らしながら、呻いているのを確認した。
「ちょ、大丈夫!? どうしたのよ!!」
「き、気にしないで。あまりにも熱くて」
「うん。あと、摂取できないくらい甘くて」
「そうそう。押しつぶされそうなくらい重くて……」
「はあ?」
エレナは何を言っているのか分からなかった。
「この鈍感さも愛おしい」
「マイナスとマイナスをかけるとプラスになるのにね」
「足しちゃってるからじゃない?」
「もしかして、宿題の話してる?」
結局、あまりの糖分摂取過多により、その日は宿題を写させてもらうどころではなく、日を改めて出直すことにした巡と礼奈。
帰る時、アンジュの姿がないことに気づいたが、亨と一緒に出かけたのだろうと、漠然と考えていた。
「心臓がいくつあっても足りない」
「あんなにピュアピュアだとは思わなかった」
「みんなの力を借りよう」
「でも、独占したい気もあるのよね」
「確かに」
結局、この日は何も答えを出すことができずに帰路についたのだった。
そして、残った操はというと──
「お兄ちゃんにもっとグイグイいくべきだと思う」
「で、でも……」
「しょうがないなぁ。じゃあお兄ちゃんの秘密を教えてしんぜよう。これを有効活用するんだよ?」
「操は神だった?」
「わたしゃただの恋愛好きの中学生だよ」
何のキャラか分からない声真似で言った操。
結局、それがツボに入り、操から教えてもらった内容を忘れてしまったのだった。




