56 オレンジジュース、ロックで
今日も転移したアンジュを迎えに行った帰り。
アンジュを抱きかかえながら歩く。
もう少し背が伸びれば、手をつなげると思うんだけどな。
たまたまつけていたテレビの特集を見て、あっさり転移したのだ。
その帰り、駅へ向かう途中で、見覚えのある女性を見かけた。
質もセンスもいいトップスに、スキニージーンズを合わせた人だ。
見覚えはあるのに出てこない。こう、喉まで出かかっているんだ。
ここ最近会ったはずなんだ。
でもこんな飲み屋の多い場所で、こんな雅な人が歩いてるわけ……。
「あれ、亨さんじゃないですか」
向こうは俺の名前を覚えているらしい。
「ど、どうも」
「はしひめしゃん!」
「はは。結子でええですよ」
あー、はいはい。結子さん。大橋結子さん。橋姫の結子さん。
忘れてたわ。いや、あの時と雰囲気が全然違うんだもん。
もしかして、お酒入ってないからかな?
「どうしてこんなところにいるんですか?」
「そんなん決まってますやん。ここに住んでるんです」
「え、ここ?」
「そうですよ。家賃は安いし、電車は通ってる。飲み屋は多い。昼間から飲める。こないええ街そうそうありませんよ?」
「赤羽が?」
「亨さん、赤羽はいいとこですよ? ちょっと行けば公園も神社もある。まぁ、祀っているのはウチじゃないんですけどね。あはは。あ、御朱印帳はかわいいんで、是非」
「はあ」
よく分からずに、生返事をしてしまった。
まぁ、家賃に関しては、結子さん的にはって、話なんだろうけどね。
「で、亨さんとアンジュちゃんはどうしてここに?」
「まぁいろいろありまして」「ありまちてー」
「まぁ、深くは聞きませんけど……ふむ」
俺とアンジュを見て考える結子さん。
「お腹空いてます?」
「すいてるー」
「あ、アンジュ」
「あはは。うちもお昼にしよう思てたんです。一緒にどうです? おごりますよ」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
「ん。では、こっちですね」
結子さんの案内する方へ向かう。
そこは昼間から飲めるエリアのようで、真昼間だというのに、もう飲んでいる人がたくさんいた。
「あれ?」
「おー結子じゃん」
「知り合いですか?」
「ええ。うちのアパートの隣に住んでる方ですね」
結子さんアパート住まいなのか。稼いでると思うんだけどな。
「結子、そっちは?」
「友達の……えーっと」
「まぁ、居候で」
「だそうです。で、こっちは妹さん」
「アンジュー」
「おお。元気でええなー」
その人は綺麗な青寄りの緑色なんだけど、ボサボサの長い髪の毛で、Tシャツとダメージジーンズという格好だった。
そして、すでに結構飲んでいるのか、顔は赤い。
「わしは日高清麗。すみれちゃんって呼んでなー」
「あ、俺は宇慶亨です」
「そうかそうか。まぁ、座りーや。おっちゃーん。生ビール四つ」
「待て待て。俺は未成年で飲めないし、アンジュは子供だぞ?」
「え? あ、ああそうやったな。すまんすまん。おっちゃーん。追加でコーラ二つなー。あ、コークハイのが良かったか?」
あ、お酒はそのまんま二人で飲むんだ。
だけど、余計な気遣いはいらないんだけどな。
「いや、コーラでいいですよ」
「おれんじじゅーす、ろっくで」
「お、嬢ちゃん通やな。ほんなら、おっちゃーん、コーラとオレンジジュースのロックでなー」
「あいよー」
おっちゃんノリいいな。
「じゃあ、うちは焼酎ロックで……えーっと、黒霧島でいいかな」
あ、さっきのは清麗さんが全部飲むんですね。
飲み物がテーブルに置かれて、少ししてから料理が並べられた。
正直、テーブルの上、ジョッキだらけなんだが……。
「いやでも、こうして亨さんと話すのは初めてかもしれませんね」
「なんだー、結子唾つけてたんか?」
「違いますって、もう」
この二人、隣同士だけじゃない気もする。
そして、二人はものすごいペースで、ものすごい量を飲んでいく。
限界なんてない感じで飲んでいく。
まるで水のよう。いや、水もこんなには飲めない。
清麗さんは真っ赤だけど、結子さんはそんなに変わらない。強い。
気がつけば、テーブルの上にはもう置けないくらいジョッキとグラスが置かれていた。
「これは、一回片付けてもらわんと」
「せやな。おっちゃーん」
テーブルの上が片付くと、なぜか注文をしなかった。
そして、違和感を覚えて、振り返るとなぜか人が列をなしていた。
「今日は早いなあ」
「せやな」
「じゃあ、すいまへんけど、亨さん、アンジュちゃん。そこ空けてもろてもええかな?」
酔うと関西弁の割合が増えるのか。
そして、立って結子さんの横に立つ。
「おう、にいちゃん見とけー、すんごいぞー」
いつの間にかおっちゃんも俺の横に立っていた。
なぜか、周りに人だかりも増えていた。
なんだ? 腕相撲でもするんだろうか?
俺は事の成り行きをアンジュと一緒に見守った。




