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メリーさん家の三姉妹  作者: 玉名 くじら


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54/99

54 迎えに行くのって大変よね


 コミケの翌日、天嶺さんがまたやってきた。


 「今日はどうしたんですか? アイリさんなら、まだ寝てますよ」

 ちなみにエレナは塾に行っている。

 夏休み中でもしっかり勉強している。


 「何よ。なんも無いのに来ちゃダメなの?」

 「ダメってわけじゃないですけど」

 そこにアンジュがやってきて、天嶺さんに向かって手を突き出した。


 「ますぱー」

 アンジュは気に入ったのかミニ八卦炉を持って、言っている。

 あの日は、一体何回言ったんだろうな。


 アンジュを抱きかかえて、椅子に座らせた。

 「アンタ、結構子煩悩よね」

 「そうですか?」

 「そうよ」

 俺が出したお茶を飲みながら淡々と言う。


 「まぁでも分かるわ。迎え行くのって大変よね」

 「え?」

 なんてことはないといった感じで言う天嶺さん。


 「なんでって顔してるわね。分かるわよ。だって、アイリがエレナちゃんのこと迎えに行ってたの知ってるんだもの」

 迎えに行ってたってことは十年くらい前だよな。


 「あたいたちが高校生の時でね」

 「え、待ってください」

 「どうしたのよ」

 「え、高校? 高校の時なんですか?」

 「そうよ。アイリったらすごい成績優秀でね。学年一位だったの。特に数学なんて凄くて、数学オリンピックで三年連続優勝よ。しかもほぼ満点で。誰も成し遂げてないわ」

 あれが? とても想像できない……。


 「まぁ、そんなすごいアイリなんだけど、エレナちゃんが能力に目覚めてからはよく迎えに行ってて、成績優秀なのに、出席日数で落第しそうになったのよね。あ、これ内緒よ」

 そんなのエレナに言えるわけないんですけどね。

 しかし、アイリさんのこととなると、うっとりした表情で言うなぁ。


 「生徒会長になれば良かったのにね。まぁ、やってる余裕なんてないでしょうけどね」

 「ちなみにどこの高校なんですか?」

 「ん? 陽開学院高校よ」

 偏差値77くらいあるとこじゃん。上から数えて二、三番目くらいのところだよな。


 エレナが狙ってる英愛よりもさらに上。官僚になる人が行くような場所だ。

 あのアイリさんがそんなところに……。

 人って見かけによらないな。


 「天嶺さんも同じ学校なんですか?」

 「そうよー。みんな同期。美晴も結子もね」

 なるほど。道理で同期会をやっているのか。


 「大学とか行こうと思わなかったんですか?」

 そんなに成績優秀なら行ってもおかしくないのに。


 天嶺さんはおかしそうに笑った。

 「もう学ぶことがないのに行く必要ないでしょう? 行ってどうするの? モラトリアムを謳歌するの?」

 「あ、いや……」

 ちょっと言い返せないわ。


 「それに、アイリが生活費稼ぐために就職したんだもの。あたいたちがホゲホゲと大学行っても仕方ないでしょう?」

 おどけたように言うのに、その顔は真剣そのものだった。

 アンジュもなぜか真面目に聞いていた。


 「まぁ、そういうこともあったから、おかしなことしても許してあげてね?」

 「天嶺さんのコスプレもですか?」

 「これは元から」

 自信満々に言い切った。


 「で、今日は新しい衣装合わせをね……って、どうしたの?」

 話の落差が酷すぎて、机に突っ伏してしまった。


 「今回は原神かブルアカを……。今、ひまわり畑で撮影が……」

 カバンをゴソゴソし出す天嶺さん。正直もうやる予定ないんだが……。


 話題を変えなければ……。

 「あ、あの……」

 「どうしたの?」

 「なんで、保険会社に就職したんですか? 他にも色々あったんじゃ」

 「あぁ……」

 天嶺さんはカバンから手を出すと、放り投げるような仕草で答えてくれた。


 「アイリがファーストライフに就職したからよ」

 「はあ。一緒の会社に行こうとか思わなかったんですか?」

 あんなにアイリさん好きなら、真っ先にそうしそうなものなのにな。


 「当時は今以上にライバル視してたし。だから、今の会社に入る時に、面接で言ったもん。『あたいのライバルがファーストライフに入ったのでここを希望しました』ってね」

 その行動力と理由がすごい。

 他の二人もそうなんだろうか。


 「それが、あれよあれよと出世していくんだもん。追いかけるのがやっとよ。ほんとアイリは凄いわ」

 やっぱアイリさん凄いんだな。コミュ力高いし、天職なのでは?


 ……そこで、軽くスルーしていたことを思い出した。

 「あの……」

 「なあに?」

 「十年前に高校生って、今いくつなんですか?」

 「アンタ、女性に歳を聞くんじゃないわよ。まぁいいけど。二十五よ。あ、アイリは誕生日過ぎてるから二十六ね」

 嘘だろ。成績優秀すぎるだろ。


 俺、ずっと三十代だと思ってた。それも四十に片足突っ込んでるくらいの。

 これは、墓まで持って行こう。言ったら百パーセント殺される。


 そう思って、かぶりを振った時に気づいた。アンジュがいない。

 「あれ、転移しちゃった?」

 「みたいです」

 一体なんのトリガーがあったのだろうか……。

 アンジュからはまだ連絡がない。


 そんな時に、エレナが帰ってきた。

 「ただいまー……って、げぇ……」

 「あら、おかえりー」

 「なんでいるのよ」

 「なんでって、次回のコスプレの打ち合わせ?」

 「コスプレー」

 あまりに視野狭窄だった。アンジュは転移じゃなくて、トイレに行っていたようだ。


 アンジュはコスプレがお気に召したのか、両手を上げて飛び跳ねている。

 まぁ、小さい子ってああいう衣装着るの好きだもんな。


 そういえば、環と操も小さい頃、お姫様みたいな衣装着ていたな。

 そんなことを思い出していた。


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