53 次も来たいわね
「あれ、エレナ?」
そう言われてみんなで振り返る。
そこには、美晴さんとは違ったタイプの清楚な女の子がいた。
◯ケモンカードなら高値がつきそうな見た目と格好をしている。
しかし、よくエレナって分かったな。
「まさか、エレナがコミケにいるなんてびっくりだよ」
「成り行きで」
エレナはその言い回し気に入ったんか?
ずっとそれしか言ってないけど。
「で、こっちが彼氏さんと……娘?」
「妹のアンジュよ」
「あ、あー……そうよね。ごめんごめん。前聞いてたアンジュちゃんね。…………なんて可愛いのかしら」
「ほぅ……」と顔を朱らめ、ため息を吐くようにアンジュを見る。
誰もアンジュの魅力には抗えないのだ。
……って、待てエレナ。彼氏も否定しないと。
だが、エレナはそのままその女の子と話し始めてしまった。
「それにしても、まさかエレナがコスプレしてるなんて。それにそっくりだし」
確かに。アイリさんもエレナもアンジュもただ衣装を着ただけなのに、そっくりなんだよ。
「でも、一番すごいのはこっちよね」
俺を見る女の子。
「あ、申し遅れましたね。あーくしは冬室礼奈です」
「あ、どうも。お……わたしは宇慶亨です」
「アンジュ!」
「あらあら。挨拶できて偉いわね」
「アンジュえらい?」
「偉いぞ」
「わーい」
なぜかエレナの袖を引っ張って離れた礼奈さん。
「(ちょっと、エレナ。あれ、勝てるの?)」
「(大丈夫よ。亨はアンジュにだけは甘々だし。いつも通りよ)」
「(まぁ、あれはパパって感じがするけど……)」
だいぶ話し込んでいるな。
そうして辺りを見回す。
午後になったとはいえ、凄い人だかりだ。
なぜか『写真いいですか?』と、やたら聞かれる。
そして、撮り終えると、別のところで写真をお願いされていただろうエレナが戻ってきた。
「あれ、さっきの子は?」
「まだ、回り終えてないからって」
まぁ、コミケだしな。そっち優先なのは当然か。
そうして歩いていくと、壁側に凄い列があった。午後でもまだ並んでるなんて凄いな。
「最後尾こちらでーす」
看板を持った人がそんな掛け声をしていた。
……ん? 見たことあるな。
「あの」
「はい。こちらが最後尾です……よ……」
「ヤマなんとかさん。ヤマなんとかさんじゃないですか」
「今日はヤマザキですー」
「スタッフまでやってんの?」
「いや、友達のサークルの手伝いを」
「こんなに並ぶなんて凄いサークルなんですね」
「みたいっすね」
なんでそんな他人行儀なんだよ。
友達じゃないのか?
「まぁ、わたしはお金もらえればなんでもいいんで、内容は知らないです」
「そ、そうなんだ」
「かんばいー?」
アンジュが知ってる単語を言う。
「いっぱい刷ったらしいからそれは……」
『完売でーす』
前の方からそんな声が聞こえてきた。
「だそうです」
「いや、別に並ぶ気はなかったし」
「あ、そっすか」
今日は普通のツバ付きの帽子なんだな。
そうして、ヤマなんとかさんと別れて、アンジュがせがむ方へ行くと、アンジュの好きな作品の抱き枕カバーがあった。
「これほしい」
幸い成人向けではなさそうだ。
えっと、値段は3000円か。なら買えるな。
「すいません。一つください」
「はい。30000円です」
ん? 聞き間違いか?
よく見たら、ゼロ一つ見間違えてたか。
しかし、つっけんどんな言い方だな。
一瞥してスマホをいじり出した。
だが、アンジュが俺の顔をのぞく。
「はい」
大丈夫。大学のお昼は暫く水道水にすれば問題ない。
まさか、買うとは思わなかったのか、一瞬びっくりした後、笑顔で渡してくれた。
アンジュも嬉しそうなので、問題ない。
「亨はアンジュに甘々よね」
「まぁな。エレナは欲しいのないのか?」
「んー、特には……。あ、あのキーホルダーは欲しいかも」
「じゃあ買ってやるよ」
「いいの?」
「アンジュのばかり買ってるからな」
アンジュが指をさすもの全部買ってるからな。
エレナも遠慮しなくていいと思うんだ。
……定期券買えるかな?
そうして、しばらく三人で見て回り、みんなの元へ戻った。
まさか、ティナ、紗季、玲奈が三月精のコスプレしてるとは思わなかった。
「一体いくつ持ってきてるんですか?」
「入るだけよ」
それは答えとは言わない。
しかし、また意外なチョイスだ。
「明日香殿のコスプレ見ていたらホタテが食べたくなりましたぞ」
「あたいも買ったの見てたら、浜焼き食べたくなっちゃった」
「じゃあ、帰りはそういうとこ行く?」
「あなたたち、お姉さんが奢ってあげるわ」
「え、ホントに?」「いいんですか?」「気前が良すぎますな」「姉御肌」
「いいのよ。着てくれたしね」
天嶺さんも満更ではないようだ。
「ほら、あなたたちも行くでしょ?」
俺たちの方を向いてニコッと笑った。
それはいつものわがままさが抜け落ちていた。
「わたくしも楽しみですわぁ」
相変わらず八尺様スタイルだとビビる。
「あれ、アイリさんは?」
「あそこよ」
そこには沢山のレイヤーさんがおり、談笑していた。
あんだけ、『あつい、つらい、かえる』って言ってた人が一番楽しんでいた。
なんなら中心にいる。
やっぱコミュ力って大事なんだなって思い知らされた。
アンジュは疲れたのか、ずっと寝ているし、エレナも俺の横を離れない。
「どうした?」
「いや、こういうのもいいなって思って」
「あら、エレナちゃんハマった感じ?」
「ええ。ただ、私は悪役令嬢の方がいいな」
どんなチョイスだよ。
「あら、それはなんで?」
「あの豪華なドレスが着たいから」
「分かったわ。冬はそれにしましょう。ちゃんとアンタの分も作っておくからね」
「あ、天嶺さん。わたくしの分もお願いします」
美晴さんも会話に混ざった。
「え、なんで? 正装でいいんじゃないの?」
「寒いんです」
「あー……分かったわ。白がいいの?」
「はい」
「ふーん。……なるほどなるほどー」
天嶺さんは面白いことを思いついたといった表情をしていた。
「次も来たいわね」
そうだな。でも、受験直前でいいんだろうか?
でも、それをここで聞くのは野暮ってもんだ。
そして、初めてのコミケは意外と楽しかった。
その後の打ち上げを除けば……。
まさか、最後に俺が全員の面倒を見る羽目になるとは思わなかった。




