50 逸材そうそういないでしょ
今日はコミケらしい。
昨晩、ティナ経由で美晴さんから応援要請がきたが、正直この暑い中参加するのは嫌だったので、お断りのメッセージを送った。
何回か脅しのようなメッセージが届いたが、既読スルーした。
ティナなら怒り狂って、うちまで来そうなもんだが、既に現地入りしているらしい。
ガチ勢は怖いね。
そして今日、うちのリビングにはなぜか天嶺さんがいた。
「コミケ行くわよ」
「「えぇ……」」
俺とアイリさんが、嫌という意思表示のために、わざとため息を吐いた。
「なんでそんな嫌そうな顔するのよ。せっかく衣装作ってきて……って、アンジュちゃんは?」
そういえば、さっきまでいたはずなのに。
「エレナ、アンジュは?」
「え、知らないけど……」
嫌な予感がする。
そして、いつものようにメッセージが届いた。
ビッグサイトが写っている。
マジか。
そして、そこにはティナと美晴さんがいた。
謀ったなあいつら。
アンジュがいたら、来ざるを得ないからな。
よくそんな悪知恵思いついたよ。
それと、同時に環と操がうちに来た。
「待ってたわよ、妹ちゃんたち!」
「天嶺さんの頼みなら断れませんよ」
「一生ついていきますよ」
「ありがとうー」
天嶺さんと一体いつそんなに仲良くなったのだろうか。
いくら仲よくても連帯保証人のサインだけはするなよ?
って、天嶺さんの家の方がおっきいから、それはないか。
例のおじいちゃんは市議会議員だと聞くしな。
「じゃあ、行くわよー」
「「おー」」
環と操が一緒になってはしゃぐ。
エレナは少し気圧されている。
そして、目につくやたらでかいバッグ。
嫌な予感しかしない。
そして、コミケ会場。
天嶺さんが人数分のチケットを買っていたらしい。
「ほら、アンタの分」
「あ、ありがとうございます」
だが、チケットだけではなく、カバンまで渡された。どういうことだ?
「じゃあ、三十分後、あそこのエリアで集合ね。アンタ、逃げるんじゃないわよ」
「いや、その前にアンジュを……」
「だいじょーぶ」
いつの間にかいたアンジュ。
「あ、あれ? ティナたちといたんじゃ」
「流石に成人向けのコーナーへはつれて行けませんからね」
一緒にいたのは、ティナの友人の柚木さんだった。
「あ、なんか、すいません」
「気にすることはない。われは既に買い終わっただけ故」
「は、はぁ……」
ここで気になるのが、俺の悪い癖。
「柚木さんはどんなジャンルが好きなんですか?」
「よくぞ聞いてくれた。われはBLが好きでな、男同士が汗まみれで駆け引きするのが──」
聞かなきゃよかった。
「ストップ」
「なんだ」
「子供の前なんで」
「むう。そうだな」
分かってくれて何よりだよ。
「びーえるってなーに?」
「アンジュは知らなくていいことだよー」
「えー。アンジュもしりたい! へたれそううけー、のーないへんかんふぃるたー、やまなしいみなしおちなしー」
「おい、お前」
「ま、待て! われは何も教えてないし、ここまで連れてきただけだぞ! あと、流石に『お前』はやめてくれ、明日香と呼べ」
唐突な名前呼びの強制……。
「ああすいません。柚木さん」
「ま、まぁいいか……」
では、アンジュの言葉は別の誰かが教えたな。見つけ次第、とっちめてやる。
「アンジュー、今の言葉は忘れていいんだぞー」
「うゆ?」
どうしてそこで首を傾げるんだ。
よくない言葉ばっかり覚えて……。
そういえば、他のみんなの声が聞こえないな。
周りを見回すと、誰もいなかった。
「他のお連れさん方は、先に行ってしまったぞ?」
「マジか」
「われが見ているから、ほら、それ。着替えるんだろう?」
「あ、ああ」
気乗りしないが、仕方ない。
その時、天嶺さんが、急いで戻ってきた。
まだ普通の格好だ。
「忘れてた。ほらアンジュちゃんも」
「もしかして、アンジュにも何かさせるんですか?」
「当たり前でしょ? 見なさいよ! こんな素敵な逸材そうそういないでしょ」
「ええ。全くもって同意見です」
天嶺さんは人を見る目があるな。
アンジュは何のことか分からずにキョロキョロと見回していた。
「プールの時も思ったが、親バカであるな」
そんなことを呟いてしまったがために、天嶺さんにロックオンされてしまった。
「あら、アナタ新顔ね」
「われは、柚木明日香と申す」
「へー……。あたいは高尾天嶺。アナタ、ツインテールなのね。ふーん……」
妙に仰々しい挨拶を交わす。
天嶺さんは、明日香を上から下へ、前から後ろからと、どこぞのファッションデザイナーのように眺め回す。
「用意しておいて良かったわ。アナタも一緒に来なさい」
「へ?」
キャラを忘れた素っ頓狂な声を出して引っ張られていった。
アンジュもなぜか、やれやれといった感じであとをついていった。
あれじゃ、どっちが保護者か分からないな。




