48 まだ、花火はあがっていない
今日はアイリさんが会社でもらってきた有料席のチケットで花火を見てきた。
「あんな間近で見ると、流石に感動するわね」
「ホントね。お姉ちゃんには感謝だわ」
「ふふん。まぁ、たまには家族サービスしないとね」
「おねーちゃ、ありがと」
「どういたしまして。で、どうだった?」
「さんこーになった」
「あらー、良かったわねー」
参考になるとは一体……。もしかして、絵を描く題材ってことかな?
「亨ちゃんも、いつもありがとうね」
「いえいえ。俺もお世話になってますし」
「あら、そう? 気にしなくていいのにー」
実際学費とか出してもらってるからな。
まぁ、どうしてもヒモ感が抜けないが。
花火を見終えて、家に帰る途中で、アンジュとエレナが興奮しっぱなしだった。
まぁ、ずっと語っていたくなるのは分かるが……。
「花火やりたい」
「アンジュもー」
うーん。見るだけでなく、体験してみたいと。
しかし、コンビニで花火買うと高いんだよな。
「帰りに駅前のドンキ寄って買っていきましょ」
さすが、普段ドンキにいてもおかしくない風貌のアイリさんだ。
すんなりとその答えが出るとは。
「あら、どうかしたの?」
「いえ、なんでも」
「どんきー」
アンジュは初めてなんだな。迷子にならなければいいけど。
そうして速攻で迷子になったのは俺だ。
いや、全員と言った方がいいだろうか。みんなでLINEで場所をすり合わせながら集合した。
花火だけと言ったのに、どうして関係ないものをそんなに買っているんですかね。
「お菓子は必要でしょ?」
「ビールは必需品だし?」
「アンジュのそれはなんなの?」
「ばーべきゅー」
この時間帯にBBQは迷惑だわ。
とりあえず、不要なものは戻し、最低限のものだけ買うことにした。
「あたしのお金なのに、うちの金庫番は硬いわねぇ」
「もう少し節約することを覚えましょう」
そうして、公園へ向かった。
バケツに水を汲んで、準備万端だ。
そうしたら、見知らぬ女子に声をかけられた。
「あれ、エレナじゃん」
その女子はエレナを認めると、ニマニマしながらやって来た。
「家族で花火?」
「そうよ」
速攻で肯定したエレナ。
「ふーん……。あ、あちきはエレナの友人やってる秋山巡。めぐりんって呼んでくださいな」
「は、はあ」
俺とアイリさんは面食らってしまった。
だって、エレナの友達が実在したからだ。
しかし、随分とフランクだな。いや、どっちかというと江戸っ子かな? 『あちき』って言ってたし。
「どうも宇慶亨です」
「エレナの彼氏さんですねー。聞いてますよー。むっふっふふー」
「いや、別に彼氏じゃ……」
「あれ、そうなんですか?」
俺とめぐりんはエレナを見る。
「な、何よ」
「べーつにー」
後で聞いてみるか。
そんなめぐりんはスマホで何かをしていた。
「おっし。……じゃあ、どうぞ家族団欒を」
「巡もやってく?」
「いいの?」
本人もそのつもりだったのか、大きく頷いて一本取って火を付けた。
「おー」「うおー」「きゃー」「あははははは」
なんで、みんな花火を振り回しながら走るんだよ。危ないな。
そんなことを三回程繰り返したところで、人が集まって来た。
やばいな。流石に騒ぎすぎたか?
だが、どうやら違ったようだ。
「あ、ほんとだー」「どれどれ? あ、あの人?」「エレナやるじゃん」「へー。夏休みデビューかー」「エレナの趣味ってああいうのなんだー」「でも結構カッコよくない?」「女装したら似合いそう」「あ、分かるー」
どうやら友達を呼んだらしい。
そして、全員で俺とエレナを見てサムズアップした。
「お幸せにねエレナ」
「うん」
エレナの顔はとても幸せそうで、なぜかアイリさんとアンジュも拍手していた。
参ったな……。
まさか、外堀から埋められるなんてな……。
「ねぇ」
「どうした?」
「わたしね、亨のことが好きよ」
俺の目を見て、堂々と言うエレナ。
「亨の気持ち、聞かせてよ」
「あ、ああ」
マジか。まさか、こんなことになるなんて思わなかった。
周りではエレナの友人たちが取り囲んでラブソングを歌っていた。
アイリさんとアンジュも拍手していた。
これは逃げられない。でも、ちゃんと気持ちを伝えないと……。
「え、エレナ」
「うん」
「俺は─────」
「あがっ……」
「あ、起きた?」
「あ、ああ」
一瞬何が起きたか分からなかった。
辺りを見回す。
そこは電車の中で、まだ明るい時間だった。
窓の外はまだ太陽が真横に見えていた。
あ、そうか。これからアイリさんがもらったというチケットで花火を特等席から見るんだった。
しかし、やたらとリアルな夢だった。
アンジュも俺に寄りかかって……、いや、服をぎゅっと握っていた。
「なぁエレナ」
「ん、どうしたの?」
口を開いたはいいが、何を聞くべきだろうか?
「その、さ……、エレナの友達にめぐりんっている?」
「いるけど、そんな呼ばれ方はしてないわよ。てか、めぐりんって何よ。会ったことあるの?」
「いや、ない……」
「なにそれ」
クスクスと笑うエレナ。
夢の影響なのか、とても可愛く見えた。
本当に好意がありそうな目で俺を見てくる。
もしかしたら、これも夢なんじゃないだろうか?
そう思ったところで、アンジュの俺を握る手に力が入った。
エレナへ聞くのは、またの機会にするか。
そう思ったところで、目的の駅に着いた。
「じゃあ、花火楽しみますか」
「ええ」
「……帰りに花火って買った方がいいか?」
「うーん。見た後にやるのは違くない?」
「そうか……」
「アンジュは……」
アンジュは俺の背中でまだ眠ったままだった。
花火大会が始まるまではこのままにしておくことにした。
その時、エレナが俺の服をちょんと摘んだ。
「ひ、人が多いから離れないようにするためよ」
「そうか」
「そうよ。別に他意はないんだからね」
夕焼けのせいでエレナの表情はよく分からなかった。




