44 ねぇ、手
やばい。寝てしまった。
アンジュが寝ているから大丈夫だろうと思っていた。
スマホの振動で目が覚めた。
そのくらい熟睡していた。
アンジュは既にお祭り会場であるお寺へ行っており、LINEには友達だろうか、一緒に写っている。
この右端の一番距離が近い子が大地くんだろうか?
モテそうな顔をしている。
そう思っていたら、萌歌さんからもLINEが届いた。
「お寺で待ってます」
アンジュと一緒にピースサインで写っていた。
さっきの写真は萌歌さんが撮っていたようだ。
いや、それよりも早く行かなければ。
…………そういえば、やたらと静かだな。
「起きた?」
振り返ると、エレナがいた。
エレナは、白地に黄色いかすれストライプに青と黄色の百合が重ねてある浴衣を着ていた。
クリーム色と黄色の浴衣帯にしわ兵児帯とレースの帯を重ねていた。
「それ、めっちゃ可愛くて似合ってるな」
「!? (………………ばか)」
一瞬で顔が真っ赤になってしまった。
だって、似合っているんだから、褒めるのは当然だろう。
「いつもは鈍いのに」
「? いや、似合ってたから似合ってるって言っただけで」
「ばか」
なんでそんな言われなきゃいけないんだ。
そういえば、他のみんなはどうしたんだろうか。
「なぁ、みんなはどうしたんだ?」
「先に行ったけど」
「え? いつ?」
「一時間くらい前」
「起こしてくれてもいいのに」
「いや、ぐっすり寝てたし」
「そ、そうか」
早くいかないといけないな。
「じゃあ行くか」
「いや、浴衣」
「あ、ああ……」
忘れてたわ。ということで、浴衣に着替える。
まぁ、男の方は別に着るのに難しいことはない。
ささっと着て準備する。
「じゃあ行くか」
「ええ」
鍵を閉めて、エレベーターに乗る。
エレベーターの中では、エレナはずっと黙って俯いていた。
もしかして、帯が苦しいのだろうか?
でも、それならもっと前に直しているはず。うーむ。
マンションを出て、空を見上げる。
空は、群青色が黄昏色を、少しずつ塗りつぶしていくようだった。
ここからはそんなに距離はないしな。
「ねぇ、手」
「手?」
「うん。手、繋がない?」
「いいぞ、ほら」
エレナは別に方向音痴じゃないと思うんだけどな。
少し歩き慣れていない草履で、夏祭りが開かれているお寺へ向かう。
近づくにつれて、人が多くなってきた。
なるほど。これは手を繋いでいた方がいいな。
境内を入ると、入ってすぐのところに、既に出来上がったアイリさんと天嶺さん。環と操がいた。
「おにい遅いよー」
「お兄ちゃんやっと来たわね」
なぜかニマニマとしているのは、お祭りが楽しみだからだろうか?
環と操はエレナを連れて何やら話し始めた。
アイリさんと天嶺さんは俺を見ると、何やら頷いてた。
「ちゃんと着てきて偉いわよ」
「着て来なかったら鼻に洗濯バサミ付けて、杉の木の上に吊るしてたわ」
なにそれこわい。
「よくそんな酷いこと思いつきますね」
「軽い方よね?」
「知らないわよ」
酔っ払ってる時のアイリさんに聞いたところで、まともな答えは返って来ないだろうに。
「あ、そういえば、アンジュは?」
「お友達といるわよ」
そう言われたので、奥へと進んだ。
*
「折角二人きりにしたのにダメだったかー」
「エレナももうちょっとグイグイいかないとダメだよー」
「そ、そうなんだけど……、手を繋げただけで満足というか……」
「ウブだなー」
「そこはスタート地点なのにね」
環と操はそんなエレナの様子を見て満足げだ。
「だって、しょうがないじゃない。……あ」
エレナが何かを思い出したのか、小さく声を出して俯いた。
すかさず二人は色めきだって問いただした。
「なになにどうしたの?」
「白状しなさい」
「ほ、褒めてくれたの」
「ほほう」「ほうほう」
頷きながら、続きを促す。
「かわいい。似合ってるって」
「「きゃー」」
「でも……」
少し愁いを帯びた表情になるエレナ。
「「ああー」」
察した二人はエレナの肩をポンポンと叩いた。
「もっとガツガツいきましょう。ね?」
「うん」
「作戦会議しましょう」
「うん」
三人は顔を突き合わせて会議を始めた。
まだ亨がアイリたちのところにいると思い込んだまま。
そんな様子を見ていたアイリと天嶺。
「これは恋なんてまだまだじゃないかしら?」
「そうねぇ……」
「で、ずっと気になってたんだけど、何であの子と暮らしてんの?」
どう言ったものかと逡巡するアイリ。
「何よ。そんな隠すようなことなの?」
「いやー……」
すっかり酔いの覚めてしまったアイリ。
アンジュの方に逃げようとしたところで、手を掴まれた。
「もしかして、本当は対象だったのに情がうつったの?」
「違う」
速攻で否定するアイリ。
「じゃあ、何で……」
目を泳がせて気まずそうにしたアイリは意を決して言った。
「誤射なの」
「は?」
「だから、間違い。しかも酔っててゲロかけちゃったし」
予想外の答えで、少し引いている天嶺。
「アイリ……」
「そ、そうよね。最低よね」
「まあ……うん。でも、それで効かなかったんなら」
「そうなのよ」
アイリは、酔いではない理由で、顔を真っ赤にしたのだった。




