42 そのプリンはとても甘かった
「で、アイリ、夏祭りは行くんでしょう?」
「だから、その時間まで寝てたのよ……」
そういえば、昨日の夜行くって言って、エレナがびっくりして、アンジュが両手を上げて喜んでいたな。
「まったく。普段はだらしないんだから……。でも、そういうところもまた……」
目を細めてうっとりする天嶺さん。
俺と天嶺さんは同じ人を見ているんだよな?
「で、アイリ、前に買ってあげた浴衣は?」
「さぁ」
「さぁ……って、どこやったのよ」
「うーん……」
そう言って俺を見るアイリさん。
「どこしまったか覚えてる?」
「もう使わないって言うから、奥の方に入れた記憶が……」
正直、俺も覚えてない。
あの日は片付けること優先だったからな。使わなそうなのは全部奥に入れてしまった。
今からそれを掘り起こすのは骨が折れる。
あー、でも、めちゃくちゃ皺くちゃだったから、洗ってから畳んで入れた気も……。
うーん。覚えてない。たった三ヶ月前なのにな。
「じゃあ、買いに行きましょう」
ニンマリと口角を上げて言った。
「えー、めんどくさい」
「ダメよ。アイリはどうせ、そんな格好で行くんでしょ?」
「ダメなの?」
「ダメでしょう。ねぇ?」
「はい」「もちろんです」
いつの間にか手懐けられている環と操。
「ふふん。妹ちゃんたちのもあたいが買ってあげるわよ」
「「「わーい」」」
アンジュも一緒になって喜ぶ。
「えー……行くの?」
アイリさんは昼間に外に出たくないようだ。暑いもんな。
「ただいまー」
そんな時、エレナが帰ってきた。お昼前だから、ご飯食べに帰ってきたのだろうか。
「げえっ!」
リビングに入ってきて、早々に乙女らしからぬ声を上げた。
「何であんたがいるのよ」
「あら、久しぶりねエレナちゃん」
指を動かしながら答える天嶺さん。
そして、辺りを見回す。
そして、俺の横に来て耳打ちする。
「(大丈夫なの?)」
「(何が?)」
「(その襲われたりとか)」
「(アイリさん狙いだろ?)」
「(半分はそうね)」
「(半分?)」
「何こそこそ言ってるのよ」
天嶺さんがいつの間にか立ち上がっていた。
横には環と操がぴったりくっついている。現金なやつらだよ、ホント。
「ほら、浴衣買ってあげるから」
「え、ホント?」
「おい」
すぐに靡くな。半分の理由が分からぬまま、ショッピングモールへと向かった。
向かう途中、気になったことを聞いた。
「エレナに友達っていたんだな」
「あ。それわたしも思った」
「ひっどい! わたしだっているわよ!」
俺と操が聞くと、憤慨するエレナ。
「だって、そういう話聞いたことないし、うちにも来ないだろ?」
「塾でもわたしとしか話してないしね。まぁ、人数少ないからあれだけど」
そう言うと、振り上げた拳を下ろして、ツンとした顔で教えてくれた。
「いや、前までうち汚部屋だったじゃん」
「うん」「え、そうなの?」
「そう。亨が片付けてくれてね。……だから、そんな部屋に友達呼べないじゃない?」
「「確かに」」
「ひっどーい。ねぇ環もなんか言ってあげてよ」
「お母さんにチクっとくね」
「それ効果あるの?」
「ないよ」
ズコッと見本のようにこけるエレナ。
「この兄妹ダメだわ」
「「「それほどでも」」」
「褒めてないわよ、もう……」
盛大にため息を吐くエレナ。
「じゃあ、片付けたんなら呼べたんじゃないの?」
「いや、今度は別の理由が出来て……」
「「ほほう……」」
なぜか、顔が真っ赤になるエレナ。
環と操も朱くなっている。
俺はふと空を見上げた。
「熱中症か? 何か飲み物買ってやるぞ?」
「……ばか」
「これは重症だわ」
「ホントにね」
「そこに自販機あるから、何か買うぞ、ほら」
なぜか白い目で見られた。
アイリさんと天嶺さんはなぜかニマニマしていたが、アンジュは俺を見上げ、「めっ!」と指差ししながら言った。
『めっ』から始まる飲み物あったかな?
『メッツ』があったな。これか?
ただ、アンジュは炭酸飲めなかった気がするんだよな。
買ってあげたら、大きくため息を吐かれた。
「……ありがと」
くぴくぴ飲んで、「ぷはあ」とゲップをしていた。
「エレナちゃんも大変ね」
「でも、面白いでしょう?」
「興味深いわ」
やばいな。みんなの言っていることが分からない。
これ、俺も熱中症の可能性もあるな。
ショッピングモールへ入るなり、奥にあるカフェへ向かおうとするエレナ。
手を掴んで止めると、まだ顔が赤かった。
「わたし、プリン食べたい」
「後で買ってあげるわよ」
何で来て早々に食べる方へシフトするんだか。
まぁ、エレナだしな。
でも、熱中症の疑いもあるし、一度クールダウンする必要があるんだ。
それにエレナの顔がどんどんと赤くなっていっているからな。
「ねぇ、これが天然物なの?」
「極上のね」
「貴重だわ。天然記念物級じゃない」
「まぁ、だからあたしも大変なわけで」
「今、聞き捨てならないことが聞こえたわ」
なぜか天嶺さんが俺を睨む。
まさか浴衣をスムーズに買えないから睨んでいるのだろうか?
とりあえず、カフェで涼むことにした。
「なぁエレナ」
「何よ」
「プリンだけじゃなかったのか?」
「ちょっと小腹もすいちゃって」
プリンだけでなくタマゴサンドも頼んでいた。
まぁ、エレナにしては控えている方か。やはり熱中症の可能性が……。
しかし、アンジュは炭酸平気なんだな。メロンソーダを頼んでいた。
みんなは飲み物だけなのに、エレナだけ食べ物を頼んでいる。
やはり通常運転だな。
そんなエレナを見ると、なぜかスプーンを向けてきた。
「なに?」
「ひ、一口あげるわよ」
「いいのか?」
「このわたしが特別にあげるんだから、喜びなさいよ」
「あ、ああ」
一口もらう。
そのプリンはとても甘かった。
そして、エレナの顔が真っ赤っかだった。




