41 あれ、これってアイリでよくない?
やっと目が覚めたのだろう。
「ちょ! なんで天嶺がいるのよ!」
「おはようアイリ」
俺が環と操と他愛のない会話をしている間、ずっと天嶺さんはアイリさんとくっついて座っていた。
アンジュは暇になったのかお絵かきをしていた。
まぁ、夏だしな。保育園に飾る絵なんだろう。
一心不乱にクレヨンを握って描いている。
出来たら見せてもらおう。
今はあっちの方が大変だからな。
「ちょ、離れてよ……」
「ええ……いいじゃない。たまにはさー」
「あーっつい! 暑い! せめてその羽しまってよ」
「もう……仕方ないわねぇ」
消えるように高速で閉じた羽。
環と操を見ると、なぜか小さく拍手していた。
別にあれ、そういうギミックじゃないからな?
「これでいいでしょ?」
そういって抱きつこうとするので、アイリさんが、全力で顔を押しのけるが、天嶺さんの方が力が強いんだろう。
押し倒す形になった。
もちろん、流動性に定評のあるアイリさんだ。するりと抜ける……ソファから落ちて、素早くそこを離れ、アンジュの横に座った。
「アイリねーちゃ、だっしゅちゅ」
「そうよー。あ、アンジュ、キュアキュアの絵を描いてるのね?」
大きく頷くアンジュ。
「敵は天嶺にしなさい」
「あい」
「ちょ」「ちょっと」
なんてことを指示するんだこの人は……。
天嶺さんも立ち上がってこっちへ来る。
少しはだけているので、直して欲しい。
そして、アンジュの絵が完成したようだ。
環と操は顔を引き攣らせている。
アイリさんはアンジュの頭を撫でている。
「きゅあまーだー」
出来た絵を誇らしげに持って見せてくれた。
それは、前作のキュアキュアの主人公の一人で黒い方のキュアマーダーが描かれていて、敵の顔面にニコニコ笑顔で拳を打ち込んでいた。
敵の顔は分からない。多分、これを天嶺さんだと言っても分からないだろう。
しかし、ホント物騒なネーミングだよ。
黒い方がキュアマーダー。白い方がキュアスレイヤー。
マジで格闘してるアニメだしな。平気で舞空術使うし。
そりゃあ、海外でも人気出るわけだよ。
ちなみに今は続編で五人のキュアキュアでやっている。
確か、アンジュが買ったのは緑の衣装だったな。
……おっと。少し考え込んでしまった。
まぁ、よく描けているので、一応俺も褒めておく。
「よく描けてるなアンジュ」
「うん!」
しかし、これ情操教育に悪いよなぁ……。
天嶺さんもこれには苦笑いだ。
「まぁ、あたいって分からないからいいわ。服も違うしね」
そう言って先ほどの席に座った。
「ん」
空のグラスを持って俺に向ける。
「なんですか?」
「いや、おかわり」
「………………」
環と操も同じようにグラスを差し出した。
「あ、あたしも欲しいわ。喉カラカラで」
「はいはい……」
「はいは一回よ」
天嶺さんにだけは言われたくなかったな。
アンジュの描いた絵を壁に貼る。
中々に躍動感のある絵だ。
これがもっと増えていくんだろうな。
他の絵も見る。
『エレナがおっきなパンケーキを頬張ってる絵』、『アイリさんが馬券を握りしめてお馬さんを見ている絵』、『謎の数式』
まぁ、四歳だしな。まともな絵がないのは普通なのかな?
環と操は天嶺さんに興味があるのか、いろいろと質問攻めをしていた。
「ここまで飛んで来たんですか?」
「そうよ」
鼻高々に答える天嶺さん。
「へー。どのくらいで着くんですか?」
「十分くらいかかったわね」
高尾山からここまでそんな時間で来るってことは相当飛ばしてるな。
車なら即免停レベルだろ。
「へー。どのくらい飛ばせるんですか?」
「35のGTRと同じくらいね」
分かりにくい例えだ。それがどのくらい出るのか分からないし。
「あの速いやつ?」
アイリさんが食いついた。
「そうよ。おじいちゃんに買ってもらったの」
天嶺さんのおじいちゃん凄いな。
というか、孫にそんなの買っちゃダメですよ。この人、車でもそんなことしてないだろうな?
「車で来れば涼しかったんじゃないですか?」
「ここまでどんだけ時間かかると思ってんのよ。道はまっすぐじゃないわ、細いわ、渋滞多いわ。飛んだ方が速いのよ」
電車で来れば良かったんじゃないですかね? 四十分くらいで着くんですから。
「でも、あそこをそんな速度で飛んでたらいろいろとやばいんじゃないですか?」
「そこは、大丈夫。横田基地で何か飛ばしてるって認識になってるっぽいから」
そのうち撃墜されるんじゃないか、この人?
「で、なんで来たの?」
アイリさんが、興味なさげに聞いた。
「今日この辺で夏祭りあるでしょ? アイリの浴衣姿見たいから来たの。……ってか、今更だけど、かなり片付いてない?」
はい。本当に今更ですね。入った時に気づくべきかと。
「亨ちゃんが片付けてくれたから」
「こいつ?」
俺を指差しながら言う。なーんでそんな敵視されてるんですかね。
「指差さない。めっ」
「はぅう……」
アイリさんがらしくない怒り方をすると、恍惚の表情で従った。この人はもうダメかもしれない。
俺も気になったから、ちょっと聞いてみるか。
「なんで、天嶺さんはアイリさんにそこまで執着するんですか?」
「そうよ。あたしも気になった。だって、天嶺って合コン何回も行ってるわけでしょ」
環と操が静かに聞く態勢になった。
アンジュはあくびをしている。興味がないらしい。
「いや……その……。まぁ、あれよ。あたいの目標はアイリなのよ。めっちゃ仕事できるし。だから、相手にもそれを求めるんだけど、アイリの基準に達してる男っていないのよね。みんな口ばっかりで」
アイリさんが複雑そうな顔している。
だって、アイリさんは仕事しか出来ないし、家事は壊滅的だ。
ちなみにそれはエレナにも引き継がれている。
「で、そんな時思ったわけよ。あれ、これってアイリでよくない? って」
「いや、そこはちゃんと見つけなさいよ」
アイリさんがすかさずツッコミを入れた。




