39 ……待て、今カッパって言った?
あんなに飲んで酔わないなんて、凄いと思いながらも、どうしても気になったことが頭を離れない。
ティナが聞かないのならば、俺が聞いた方がいいのだろうか?
それに、この場でしか聞けない気がする。
「あ、あの……」
「なぁに? 焼き鳥とか餃子取っちゃったこと? また頼むわよ」
「違います。そっちじゃないです」
「えー、なによー」
「美晴さんが八尺様の一族ってことは、天嶺さんも結子さんもそっち側なんですか?」
一瞬音が消えた。
全ての動きが止まって見えた。
そんな気がしたのはほんの一瞬。
結子さんが先に口を開いた。
「そうですねぇ。うちは橋姫の家系ですねぇ。うふふ」
やっぱり。
「ほら、天嶺も」
「えー、めんどくさい」
「じゃあいいわよ。うちはメリーの一族で、分家の楽な立場よー」
前、シラフの時聞いた時は、結構大変だって聞いたぞ?
「あ、アイリがそう言うなら……。あ、あー……あたいは天狗。以上!」
衝撃の事実が露わになった。
「天狗だからね、どこかしら長いのよね?」
「そ、そんなことないわよ」
顔を真っ赤にさせて俯くが、アイリさんをチラチラ見ている。
そして、一番食いついたのはティナだ。
「は、羽は? 羽はどうしてるんです?」
「仕事に邪魔だから隠してるわよ!」
「でも、たまに電車乗り遅れて飛んでるわよね」
「あ、あれは仕方なくよ、仕方なく。虫は当たるわ、風で息苦しいわ、目は乾くわ、汗かくわで、いいことないわよ」
「飛ばし過ぎなのよ」
「あの……、うちへの質問はありませんかー?」
結子さんがそう言うと、アイリさんが口を開いた。
「結子は、最近なんのドラマ見てるの?」
「え、ドラマ? うーん最近はネトフリのを……」
まぁ、そこは普通の趣味なんだな。
隣の人が異常なだけで。
あ、いや、アイリさんもか。
「あ、ドラマが好きなんですね」
「違うわよー。結子はドラマ見てツッコミ入れるのが好きなのよ。ねー」
「そ、そんななんでもかんでもツッコミ入れてませんよ」
「関西人のサガだもんねー。前は韓国ドラマ見てツッコミ入れてたでしょ? 『そんな簡単に付き合わへんやろー』って」
「うちは、関西でも京都です。というか、いくら関西でも、そんなベタなツッコミ入れませんて」
ゲラゲラ笑いながらアイリさんが言うと、結子さんが、不満そうな顔で否定した。
「で、今は何にツッコミ入れてんの?」
「言わへんよ」
焼酎をゴクゴク飲んで、ダンッとグラスを置いた。
全然顔色変わらないなこの人。
もしかして、怪異より神寄りだと酔わないのかな?
しかし、ティナもいろいろ知りたかったはずなのに、ずっと美晴さんと同人誌の話してるし。
怪異より性癖が上回るらしい。
ティナのあんな顔初めて見たわ。
そうして、連絡先を強制的に交換させられたあとに店を出た。
「では、わたくしはこっちですので」
「あたいは、折角だから飛んで帰るわ」
「それ、飲酒運転になりませんかー?」
「電車で帰るわ……。どうせ終点だし」
「それがいいですね。では、うちもこっちなので。ほな」
そうして残った俺たちも、ぐでんぐでんに酔っ払ったアイリさんを連れながら電車に乗るのは難易度が高いと判断してタクシーを呼んだ。
「栗栖は行き先一緒なのか?」
「三鷹だから一緒よ」
「そうなんだ」
タクシーの中では、意外にも何も話しかけてこなかったティナ。
いや、ずっと鼻息荒くLINEしてた。
趣味が合ったようでなによりで。
そして、この日忘れていたことが大きな怒りとなって帰ってきた。
「ただいまー」「ただまー」「ぐぅ」
ドアを開けると、そこにはひどく不機嫌なエレナが仁王立ちしていた。
「わたしのごはんは?」
「あ……」
忘れていた。エレナのご飯の用意をすることを。
そう思い出したことが顔に出ていたのだろうか、エレナはどんどんと不機嫌になる。
やばいやばいやばい。
お腹を空かせたエレナは猛禽類より怖い。
全身を容赦なく突っつかれる。
そう思ったところで、アイリさんが起きて、持っていたビニール袋を持ち上げた。
お店出る時から持っていたから、なんだろうとは思っていたのだが……。
「おみやげー」
すかさず奪い取ったエレナは、目を輝かせてリビングへ戻っていった。
「まぁ、エレナの分用意してないと思って、テイクアウト頼んどいたの。ホントはやってないんだけど、無理言ってカッパちゃんに」
凄い。やっぱ、上に行く人は先も読めるんだな。
…………待て、今カッパって言った?
だが、それを聞こうとしたが、アイリさんは電池切れのおもちゃのように、再び寝落ちしてしまっていた。
アンジュも満面の笑顔でぐっすりだ。
エレナは、こんな時間にも関わらず、豪快に肉にかぶりついていた。
翌日、カッパの件を聞こうと思ったら、アイリさんは全く覚えていなかった。




