38 おねショタは素晴らしい
早速料理が来たのだが、俺が頼んだものはシェアしやすかったのだろう。
俺の前に来る前に殆ど取られてしまった。
モツなんてネギしか残ってないし。
ちょっとしょんぼりしてたんだろうな。
「おにーちゃ、わけっこ!」
なんと、アンジュが半分こしてくれるらしい。
もしかして、これを見越して分けやすいものを選んだんだろうか?
まぁ、事実は分からないが、アンジュのお言葉に甘えていただくことにする。
「おいしー」
「おいしいな」
「ねぇ、それ少しちょうだい?」
俺から焼き鳥と焼きモツと餃子を奪っていったアイリさんが、飲みきったレモンサワーをドンッと置いて言った。
「だめ。おにーちゃのぶんなくなりゅ」
「おー、アンジュありがとなー」
「んっ!」
「ちょっ! ねー、天嶺ー。アンジュが反抗期ー」
「取ったあんたが悪いんでしょ。ほら、あたいのあげるから」
「んむんむ……」
天嶺さんは、俺から奪った焼き鳥をアイリさんに食べさせていた。
一体どの口で言っているんだろうな。
「んー。天嶺ー、おかわりー」
「もう、しょうがないわねっ! 何? 焼き鳥? レモンサワー?」
「両方」
「はいはい。分かったわ」
そう言って、店員さんを呼ぶ天嶺さん。
どうしてそこまで甲斐甲斐しくお世話しているのかは謎だ。
別にアイリさんはそこまで何も出来ない訳ではないのだが…………。
心なしか、天嶺さんの肌がツヤツヤしている気がした。
アンジュも全部食べられるとは思っていなかったのだろう。
俺と半分こして丁度良かったようだ。
鳥つくねを崩して、卵かけご飯と混ぜて食べていて、食べ終わると、お腹をさすりながら背中を預けてうとうとし始めた。
ティナは豪快に半身揚げを頬張っていた。
前にも思ったけど、意外とワイルドだよな。
俺とアンジュのやり取りをジーッと見ながら、黙々と食べていた。
お酒飲まないとはいえ、居酒屋なんだからせめて何か言ってもいいと思うんだ。
後で言われるのも大変だし。
食べて少し落ち着いたところで、気になったことを聞いた。
ティナは小骨についたお肉を齧るので忙しいみたいだからな。
「美晴さんは、結構背が高いですけど、バレーとかバスケとかしてたんですか?」
「あらぁ。よく気づいたわねぇ。そうよ。元バレー部で全国大会準優勝だったわぁ」
「え、すっご」「マジで?」
ティナと俺が同時に驚いてしまった。
ティナが持っていた小骨を落としてしまうくらいだ。
「いや、ホント僅差でぇ、何回もデュースになってー」
当時のことを懐かしそうに語る美晴さん。
そんなにすごい人とは思わなかった。
改めて上から下を見る。
「俺のほっぺたに小骨を突き刺すのはやめてもらってもいいですかね」
「あら、ごめんなさい」
未だかつて、こんなに淡々とした謝罪があっただろうか。
だが、この後知らされる事実で、さらに驚かされることになるなんて、俺はまだ知らなかった。
「まぁ、美晴はそれでも背が低い方だけどね」
天嶺さんが頬杖をつきながら言った。
「いや、十分高いでしょうよ」
俺のほっぺたに押し付けていた小骨を皿の上に置きながら言った。
「うーん、そうね……。でも、うちの家系的には低いのよ」
ティナの呟きを丁寧に拾った美晴さんは、焼き鳥を食べながら困った顔をした。
上品なのに、どこか妖艶に見えるのは気のせいだろうか。
「まぁ、美晴のとこも分家だしねー」
分家? アイリさんがそう言うってことは、もしかして……。いや、まさかな……。
「分家って、なんか凄い家の出なんですか?」
「凄くはないわよ。ただ、八尺様の一族ってだけ」
「八尺……様って、あの240cmくらいあって、小さい男の子好きな、あれ?」
「そうよー。わたくし、年下の男の子大好きなの。亨さんもわたくしの範囲内よー。おーほっほっほっほ……おほ……おほ……おぽぽぽぽ!」
なんかのツボに入ったのか、八尺様特有の笑い方をした。
ただ、コークハイを飲みながらだから怖くない。
むしろ、わざとやってるようにも見えた。
「でも、本家じゃないからそこまで身長高くならないのよ。まぁありがたいけどね」
世の中にはそんなに背の高い女性がいるのか……。
だが、アンジュに食いついたティナだ。食いつかないわけがない。
てっきり、ドン引きするかと思ったら、尚も質問攻めし、律儀に答えてくれる美晴さん。
一族で背が高くなるのは女性だけとか、哉人という弟が今年受験だとか、毎年コミケでおねショタ本を見つけては、全部三冊ずつ買ってくるとか、後半関係ない話になり、ティナと同人誌談義に変わっていった。
なんというか、俗っぽい。
「おねショタは素晴らしい」
「女装男子や男の娘はどうですか?」
「もう最高。でも、自分でその色に染めあげる方がもっと好き」
「あ、あの今度ゆっくり話しませんか? LINE交換しません?」
「もちろんよー」
ティナの興味がそっちに向かったが、俺の興味は別のところだ。
天嶺さんはアイリさんを介抱し、結子さんはそんな様子をニコニコ見ながら焼酎をロックで飲んでいた。




